赤髪の白雪姫2次小説
ゼンとオビの勝負!

【ゼン編】



 ゼンは緊張していた。
 今日は、白雪と城下デートの日であった。
買い物をする白雪に付き合い、色々な店を見て回ることになった。
 楽しいはずのデートであったが、ゼンは朝からずっとそわそわしていた。
 オビとの勝負の結果、、白雪の目を見つめて『かわいい』といわなければならないのだ。
 どのタイミングで言ったらいいのか頭がいっぱいになり、白雪と二人きりの楽しさなど、どこかへ吹き飛んでいた。
「し、白雪……」
「なに?」
 白雪は振り返る。何も知らない白雪はまっすぐにゼンを見つめる。
白雪のまっすぐな瞳を見つめていると、胸がいっぱいになり言葉が出ない。
「あ、あの……白雪は……その……か、かわっ……うっ、ごほっごほっ!」
 緊張のあまり喉がカラカラになりゼンは咳き込む。
「大丈夫? ゼン?」
 突然咳き込みだしたゼンの背中を白雪は優しくさする。
「それで何? ゼン?」
 咳が落ち着いたところで、白雪はゼンに問いかける。再びまっすぐに見つめられたゼンは言葉に詰まる。
「いや……なんでもない」
 ゼンは軽く首を振った。
 ――やはり見つめて『かわいい』と告げることは難しかった。
白雪に見つめられるとどうしても言葉が喉から出てこなくなる。オビと約束したのに、これじゃあ約束を果たせないと思った。
 お昼になり、昼食をとった後も買い物を続けた。
そろそろ王宮に帰らなければならない時間が迫ってきた。
今日一日、自分達を照らしてくれた太陽が西に傾きつつある。やはり白雪に『かわいい』とは言えていないなかった。
ゼンは最後の想いと決心を兼ねて、もう一度白雪の名を読んでみた。
「白雪、ちょっとこっちへ」
 ゼンは人目につかない路地に白雪を引き込む。
「なに? どうしたの?」
 名前を呼ぶと白雪はこちらをまっすぐに見つめる。一点の曇りもない純粋なまなざしだ。
「あ、あの……えっと、白雪は……」
 照れくさくなり自分でも顔が赤くなってきていることはわかった。余計に焦り言葉が出てこない。
「どうしたのゼン? 顔が赤いよ。具合でも悪いの? そうだ! 薬持ってるよ。ちょっと待っててね」
 白雪は鞄を開け、中から薬を探す。薬は鞄の奥のほうに入っているらしく、なかなか取り出せない。
「い、いや。違うんだ。具合が悪いわけではない。俺はええと、白雪のことを……」
 薬を探す手を止めて白雪は視線をゼンに移す。不思議そうにこちらを見つめている。
「どうしたの?」
 白雪は軽く首をかしげる。赤い髪がわずかに揺れる。その表情がなんともかわいく、こちらを見つめる大きな瞳に吸い込まれそうだった。
「白雪は……か、かっ…かわ……っ」
 ゼンは息を飲み込む。額には汗がうっすらと浮かび、緊張で心臓も喉元で鳴っているようだった。
「ゼン?」
 白雪が心配そうにゼンの顔を覗き込む。もう限界であった。
「やっぱりダメだ!」
「きゃっ!」
 ゼンは白雪に抱きつく。白雪の肩を両腕で包み、赤い髪に顔を埋める。
「ダメだ。やっぱり顔を見てなんて言えない」
 赤い髪の中で軽く溜息をつく。
「どうしたの? ゼン?」
 ゼンは数十秒赤い髪に顔を埋めたままでいる。
「……オビから言われたんだ」
「何を?」
「いつも俺が頭の中で思っていることをちゃんと伝えるって……」
「何を思っているの?」
 何も知らない白雪はさらりと聞く。思わず肩を抱きしめる手に力が入る。
「し、白雪は……かっかか……かわいいなって思ってること、
ちゃんと目を見て伝えようとしたけど、やっぱりお前の顔を見ると言えない……」
「ええっ? 何それ?」
 オビとオセロで賭けをしたということは伏せておいた。そのまま話し続ける。
「たまには思っていることを言葉にして伝えないと白雪に嫌われるってオビから脅された……」
「何言ってるの? 嫌わないよ。無理に言わなくてもいいし、そんなこと言われると恥ずかしい……」
 白雪の声が小さくなる。同じ位置にあった白雪の頭が自分の腕の中に沈んでいく。
恥ずかしさで隠れたつもりなのだろうか? その行動もまたかわいく思えてギュッと抱きしめる。
「そうか、恥ずかしいか……」
「うん……」
 腕の中から小さな声がする。
「でも……ちょっと嬉しいかな」
 白雪はゼンの胸に手を置き、腕の中から顔をあげる。目の前でニコリと笑ったと思うと、
唇に一瞬、柔らかいものは触れた。白雪の唇だった。唇が触れたのはほんの一秒ほどであったがキスしてくれたのである。
「ありがとう、ゼン」
 唇を離した白雪が微笑む。ゼンは突然の出来事に目を開けたまま呆然とする。
天にも昇る気持ちとはこういうことを言うのではないか。この瞬間が夢のようだと思った。
「あれ? ゼン、大丈夫? 固まっちゃった?」
 肩をトントンと叩かれる。ゼンは我に返りハッとする。
「あ、ああ。大丈夫だ」
 ゼンは大きく頷く。
「本当? よかった」
 白雪は目を細くして笑う。心が安らぐその笑顔に吸い込まれるようにゼンは顔を近づける。
先ほど一瞬だけキスしてくれた唇にもう一度触れたかった。そのまま行動に移す。
ふわりとした唇の感触が愛おしかった。誰にも渡したくない気持ちでいっぱいになり、先ほどよりもずっとずっと長く唇を重ねていた。
 お互い体を離した時には、もう日が暮れ始めていた。
遠くに見える山に視線を移すと、オレンジ色の太陽が山の稜線を照らしていた。
 オビの言った通り、いつも心で思っていることを伝えると白雪は嬉しそうだった。
今日は白雪からのキスを含めて、二回もキスしてしまった。満足できるデートだ。
白雪の顔を見て『かわいい』と言わなかったので、オビとの約束は守っていないかもしれないが……。
 ん? ちょっと待てよ。俺はオセロに勝ったのに、どうしてオビの言う事を聞かなきゃいけないんだ? 
今日一日、白雪に伝えなければならないと思い、朝から必死だった。
俺はオセロに勝ったのに、どうして楽しいはずのデートでこんなに悩まなければいけなかったんだ?
 ゼンの頭の中は?マークでいっぱいになる。
 そしてハッとする。
「オ、オビの奴め図ったな!」
 白雪の横で突然叫びだす。
「な、何? どうしたのゼン?」
「急いで城まで帰るぞ。今すぐ急ぐんだ!」
「え? 何? ゼン? オビがどうかした?」
「いいから早く、帰るぞ!」
「ええっ?!」
 白雪の腕を引っ張り、クラリネスの王宮を目指しゼンは帰路を急いだ。

***

「オビ! オビはいるか?」
 城についてすぐに白雪と別れてオビを探す。ゼンの問いに衛兵は『オビ様は部屋で待機しいます』と答えた。
「オビ! どうして俺はオセロに勝ったのに、お前の言う事を聞かなきゃいけなんだ?」
部屋に行くと、オビは木々と向かい合わせに座りオセロをしていた。
すぐ隣には『オセロ強くなる本』を抱えているミツヒデが立っていた。
「おや、主。やっと気づきましたか」
 オビはニヤニヤしながら答える。
「俺が勝ったのに、どうして一日中悩まなきゃいけなんだ! 白雪になかなか伝えられなくて大変だったんだぞ!」
 部屋まで走ってきたゼンは息を切らせる。オビは余裕の笑顔で主人を見つめ、目の前のオセロをパチンと打つ。
「でも、お嬢さんに伝えたら喜んだでしょ?」
「うっ!」
 ゼンは先ほどのキスを思い出す。
「ならいいんじゃないですか? お嬢さんを喜ばすことができたんだから」
「いや、でも……俺が勝ったのに……」
 ゼンは不満そうにその先の言葉を濁す。勝ったのにオビの言う事を聞く羽目になり、一日中悩んだのだ。
でもそのおかげで白雪を喜ばすことができた。認めたいようで認めたくない気持ちが頭の中でぐるぐる回る。
 パチン。オセロを打った音が響いた。
「やった! 勝った! 木々嬢に勝った!」
 オビは椅子から立ち上がり、両手を上げて喜ぶ。
「すごいな、オビ。木々に勝つなんて!」
「オセロの本のおかげですよ、旦那!」
「俺はこの本読んでも木々に勝てなかったぞ……」
 ミツヒデは手に持っている『オセロが強くなる本』を見つめる。
「木々嬢! 勝ったご褒美に俺と一日デートなんてどうです?」
 ガタン!
 木々は勢いよく椅子から立ち上がる。
 その勢いに、ゼン、オビ、ミツヒデは固まる。部屋の空気が一瞬にして凍り付く。
 木々は無表情でチラリとオビに視線を移した後、出口に向かって歩いて行く。振り返ることはなく、扉を開けて出て行ってしまった。
「デートが嫌なんだな。木々は……」
「嫌われたな、オビ……」
 ゼンとミツヒデは顔を見合わす。
「き、木々嬢っーーーー!」
 オビは絶対に戻ってくることはない扉に向かって、木々の名を叫んだ。


♪おわり



オビが勝ったバージョンも読んでみる→【オビ編】






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