赤髪の白雪姫2次小説
ゼンとオビの勝負!

オビ編



「ううっ、負けた……」
 オセロはオビの勝ちであった。黒が優勢なオセロのボードを見てゼンは泣きそうな顔になる。
「ふふん、俺の実力はこんなもんですよ!」
 オビは得意げであった。負けたゼンは鋭い目つきでオビを睨む。
「でもオビ、お前白雪のことデートに誘えるか?」
 ゼンは白雪をデートに誘うことにいつも一苦労なので、オビも同じだと考えた。
「誘えますよ」
 オビはサラリと答える。
そこへ都合よく白雪が部屋に入ってきた。
「あ、お嬢さん。今度の休みに一緒に城下へ行きませんか? 買い物があったら付き合いますよ」
「ホント? オビ。助かる!」
 白雪は即座にOKの返事をする。
 いともあっさり白雪をデートに誘うことができたオビ。
 ゼンは目の前の状況にショックを覚え、口を開けてパクパクとさせている。
「オビ……勝負の結果だから仕方がないから白雪と一日デートは許す。ただし、白雪に触るなよ!」
「はい?」
「白雪に絶対に触るな、触れるな! わかったな!」
 ゼンは鬼のような形相でオビの目の前まで迫る。その迫力にオビは殺気すら感じた。
「わ、わかりましたよ、主。デートでお嬢さんには触りません!」
 オビは鬼の主に誓った。

***

 オビと白雪のデート当日。
 二人は城下にいた。白雪の買い出しに付き合うため、色々なお店を回っていた。
「オビ、せっかくのお休みにごめんね。買い物に付き合ってもらっちゃって」
「いえいえ、お嬢さん。気にしないでください」
 オビはにこやかに答える。
 勝負に勝ってのデートなのだから、思う存分二人きりを楽しめばいいと思ったのだが……。
 オビは白雪に気づかれないようチラリと後ろを振り返る。
 クラリネスの紋章の付いた服がサッと路地の裏に隠れた。
 ――やっぱり。主につけられている。
 今、オビが振り返ったことでゼンは急いで路地に姿を隠した。
城下に着いてから妙な視線を感じると思ったら、尾行されていたのだ。
数メートル後ろをゼンとその従順な側近、木々とミツヒデがつけているのである。
 主公認でお嬢さんとデート。
 尾行されてのデートは確かに公認のデートではあるが、これじゃあ落ち着かない。
オビはふうっと大きな溜息をついた。
「あれ? オビ、疲れちゃった?」
 オビの溜息に気づいた白雪が顔を覗き込む。思いもかけず白雪の顔が目の前に迫り、オビは驚く。
監視の目もあるので思わず後ずさりする。
「だ、大丈夫ですよ。お嬢さん。それより荷物持ちますね」
「ありがとう、オビ。今日はたくさん買い物するから、予備の袋を持って来たんだ」
 白雪の鞄から折りたたんだ袋を出す。広げると大容量の袋になった。
持ち手も突いている手提げの袋だ。白雪はお店で買ったものを次々にその袋に詰める。
「持ちますよ、お嬢さん」
「ありがとう、オビ。あともう少し買い物に付き合ってもらってもいい?」
「もちろんです」
 白雪がオビの前を進む。白雪が振り返らないことを確認して、オビはそうっと後ろを見た。
 数メートル後ろの路地からこちらを見つめている主と視線が合う。
 主はこちらを睨みつける。不機嫌のあまり目も据わっているように見えた。
オセロに勝ったが、これじゃあ気が休まらない。勝った気がしないと思い、白雪に気づかれないよう今度は小さく溜息をついた。

 休憩を兼ねて昼食を取り、午後も白雪の買い物に付き合った。大容量の手提げ袋もいっぱいになった。
「もう一つ袋を持って来たんだ。もうオビの持っている袋には入らないから、今買った分はこっちに入れるね」
 白雪は鞄の中からもう一つ折りたたんだ袋を出す。オビの持っている袋より一回りほど小さい袋を広げる。
「こっちの袋は私が持つね」
「いいえ、お嬢さん。両方持ちますよ、貸してください」
「ううん、オビにはいっぱい持ってもらってるから、これは私が持つ」
「いいえ、俺が!」
「ううん、私が!」
 袋を取り合いしているうちに白雪と手が重なりそうになった。
 ゼンと『お嬢さんには触らない、触れない』という約束をしたことを思い出し、咄嗟に袋から手を離す。
「あっ!」
 袋が二人の手から落ちる。中に入っていた物も飛び出した。
「す、すみません、お嬢さん。突然手を離して」
「ううん、大丈夫。じゃあ、こうしようか……」
 白雪は袋に荷物を詰めて、持ち手を右手と左手に持つ。
「はい、オビこっち持って」
 持ち手の片方をオビに渡す。もう片方は白雪が握る。
「二人で持とう!」
 白雪はニッコリと微笑んだ。
白雪の優しい笑顔にオビの心臓はドキンと一回大きく鳴った。
心拍数がやや早くなり、顔面の温度が上昇した気がする。顔が赤くなってしまったのではないかと思い、
オビは心を落ち着かせるために大きく深呼吸をした。
 肩越しにそうっと後ろを振り返る。
 主がこちらを凝視していた。隠れることも忘れて呆然と道の真ん中に立ち尽くし、こちらを指さしている。
多分、一緒に持っている袋を指さしているのであろう。道のど真ん中で立ち尽くす主に気づき、
二人の側近が手を引いて路地に引き込んでゆく姿を確認した。
 ――お嬢さんに触ってません。触れてもいません。約束は守っていますよ、主。
 オビは白雪と仲良く荷物を持ちながら、心の中で誓った。

***

「な、何なんだ! オビ! あれは!」
 王宮に戻り、白雪と別れると、すぐにゼンに呼び出された。
「何って……約束どおりお嬢さんに触っても触れてもいませんよ」
「それはそうだが、二人で荷物を持つあれは何なんだ! 仲良さそうに……まるで新婚さんみたいだったぞ!」
 ゼンはオビに詰め寄る。ゼンは真剣な表情であったが、オビは余裕のニヤニヤ顔である。
「羨ましいんですか? 主?」
「うっ!」
「どうもすみませんねぇ〜主。お嬢さんをお借りしちゃって……それじゃあ、まだ仕事がありますんで、失礼します」
 オビは一礼してゼンの元を去ってゆく。
「ううっ……羨ましいぞ……俺も白雪と一緒に荷物を持ちたい……」
 オビが出て行った扉に向かって、クラリネスの王子様は淋しく呟いた。

 オビはそのまま薬室へ向かった。今日は休みであるが、仕事熱心なリュウあたりは薬室にいるのではないかと思った。
その考えは的中した。リュウは薬室で書物を広げていたのである。
「よう! リュウ坊!」
「オビさん、どうしたんですか?」
 オビはリュウに白雪の買い物に付き合いデートしたという報告をしてみた。
今はなんとなく白雪と一緒に過ごしたことを誰かに言いたい気分だった。
「ふうん、それっていつもの城下への買い出しですね」
「は?」
 リュウは表情を変えず単調に言う。
「薬草買って、仕事に使う備品や日用品買って、いつもの買い出しと何が違うんですか?」
「いや、お嬢さんと食事もした。お昼も一緒に食べたぞ」
「いつも城下に買い出しに行ったときは、白雪さんとお茶とか食事してませんでした?」
 リュウの言葉の意味を飲み込み固まる。
「確かにそうだな……。いつも俺はお嬢さんとデートしてたってことか? あれ? 
オセロで勝ったのに俺は一体今日一日、何をしていたんだ?」
 オビの頭の中は?マークでいっぱいになった。

 オビのいつもと変わらない一日が、夕暮れと共に終わりを告げた。

♪終わり


ゼンが勝ったバージョンも読んでみる→【ゼン編】







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