赤髪の白雪姫〜nene's world
みんなの血液型

注;クラリネスの時代に詳しい血液型や輸血の知識はないだろうというツッコミはなしでお読みください。



「白雪さん、出血している女官は何型?」
「O型です。リュウ!」
 輸血を急ぐため、部屋に緊張が走る。
「O型ですか、そうすると適合者は……」
 リュウが血液型検査の結果が書いた用紙に目を落とす。
「ゼンとミツヒデさんがO型です!」
 白雪は素早く答えた。
「えっ!」
「ええっ!」
 ゼンとミツヒデは同時に声をあげる。
「じゃあ早く輸血の準備をしなくっちゃ。ゼンとミツヒデさん、どちらから血液を採取しましょうか?」
 白雪は二人を見つめる。
「……」
「……」
 ゼンとミツヒデはお互い顔を見合わせていた。表情は硬い。
こころなしか、少し二人とも顔が青いような気もがする。
「じゃ、じゃあ、俺が……」
 ゼンが先に腕を差し出した。
「い、いや。ちょっと待てゼン。主人にそんなことさせられない。
お・お・お、俺の……血液を使ってくれ。ゼンに……痛い思いさせるなんて…ダメだ……」
 ミツヒデがどもりながらゼンの前に出る。
「さすがはミツヒデの旦那! 男ですね!」
「確かに、出血している女官も第二王子から輸血されたなんて知ったら驚くものね」
 オビと木々が頷く。
「確かに、ミツヒデさんの方が体も大きいし、同じO型ならゼンよりいいかもしれませんね。
採血の針より、輸血用の針はちょっと太いけど少し我慢してくださいね」
 白雪は輸血用の針を片手に微笑む。太めの針がキラリと光る。
「は、針……太いのか……」
 ミツヒデの顔が青ざめてゆく。
「うん、少しだけね。たくさん血液採らないといけないですから」
 白雪は笑顔で答える。
「た、たくさん……採るのか……」
 ミツヒデは震える。
「うん、とりあえず400ml。牛乳瓶二本分ね!」
 笑顔の白雪は大きく頷く。
「に、二本分……」
 ミツヒデは小刻みに震えていた。
 リュウと白雪は輸血を行うための準備に取り掛かかっていた。


「じゃあ、ミツヒデさん。こちらの椅子に座って、腕を出してください」
「ハ、ハイッ!」
 白雪から背もたれのしっかりした頑丈な椅子に案内する。ミツヒデは右手と右足を同時に出しながら椅子まで歩いていった。
「じゃあ、ミツヒデさん。腕を見せてください。ちょっとチクッとしますよ」
 白雪はミツヒデの腕をとり、輸血用の針を血管めがけて刺す。
「うっ!」
 ミツヒデは短く声を漏らす。目をギュッと瞑り苦しそうな表情になる。
「あれ? 針が血管に入らない。ミツヒデさん、体が大きい割に血管が細いんですよね。うーむ、あれれ?」
 白雪はミツヒデの腕の皮下でグリグリ針を動かして血管を探る。
血管に針が入らないので輸血パックに血液が入ってこないのである。
「うっ! し、しらゆき……は、早く終わらせてくれっ!」
 ミツヒデは空いている方の手を額に当てる。徐々に顔が青くなってゆく。
「あっ! 血管に入った。はい、ミツヒデさん。血液入ってきましたよ〜。少し力抜いて下さいね〜」
 悪戦苦闘の末、針が血管に入り輸血パックに血液が入ってきた。あとは血液が400ml溜まるのを待つばかりである。
「そ、そうか……入ったか……」
 ミツヒデは、額に当てていた手を離し、血液が流れ込んでくる輸血パックに視線を移した。
「!」
 ミツヒデは目を見開いた。
 目の前で自分の血液が針からチューブを通して輸血パックに流れてゆく様子が見られた。
赤黒い血液が自分の腕から流れ出し、輸血パックに吸い込まれてゆく。
 その様子をじっと見ていると、なんだかどこか遠くへ行くような気がしてきた。
「あれ? ミツヒデさん。寒いんですか? 腕、震えてますよ」
 ミツヒデの腕が小刻みに震え始めた。おかしいと思い白雪はミツヒデの顔を見上げた。
「えっ! ミツヒデさん?」
 ミツヒデの顔が真っ青であった。目は白目をむいて意識を失う寸前であったのだ。
 次の瞬間、バターンとミツヒデの大きな体が椅子から転げ落ちた。
「きゃああ! ミツヒデさん!」
「ミツヒデ!」
「旦那!」
 部屋にいるみんながミツヒデの名を呼んだ。
 ミツヒデのO型の輸血はそこで中止となった。


「ミツヒデさんの様子はどうですか?」
 リュウが心配そうにたずねる。
「今、薬室の仮眠室で休んでもらってます。木々さんがついてくれています」
「そうですか」
「私、もう少し採血の腕をあげなくちゃいけませんね。ミツヒデさん、気分悪くなっちゃったし」
 白雪が落ち込みながら溜息をつく。
「白雪さん上手ですよ。たまたま採れなかっただけですよ」
「そうかなぁ〜」
 リュウが笑顔で慰めてくれたが、白雪の気は晴れない。
「それよりも、早く輸血の準備をしないと!」
 リュウが焦る。
「俺の血液じゃダメなんですか?」
 オビが腕まくりをして力こぶを作る。
「オビはAB型でしょ。O型とまったく反対の血液型だもの。輸血はできないの!」
 白雪が首を横に振る。
「まったく反対?」
 オビは首をかしげる。
「そう、反対。O型の人は抗A抗体と抗B抗体を持っているから、
それがAB型のA型物質とB型物質と反応して輸血副作用が起こってしまうからダメなの」
「うーん、なんか難しいけどダメなものはダメなんですね」
 オビが納得する。
「そうすると、残るO型の人は……」
 リュウと白雪の視線がゼンに移る。
「わ、わかった。俺が腕を貸す!」
 ゼンは覚悟を決めて強く頷いた。
「じゃあ、ゼン殿下。こちらへ」
 リュウは先ほど、ミツヒデが座っていた頑丈な椅子にゼンを案内する。
「じゃあ、ゼン。もし具合が悪くなるようなことがあったら、我慢しないですぐに言ってね」
「わ、わかった!」
 ゼンは緊張した面持ちで頷く。
 ミツヒデの時とは違い、針は一回で血管に入った。輸血パックに血液が流れ込む。
ゼンは血液を採取している間、ずっと緊張して目を見開いていたが、倒れることも気分が悪くなることもなかった。
無事に輸血パックに血液が溜まった。
「はい。終わり。ゼン、お疲れ様。気分はどう? 痛みはない?」
 針を抜き止血をする。ゼンは緊張の糸がほぐれ、大きく息をつく。
「はぁ〜終わった。よかった……。大丈夫だ、痛くない」
「本当に大丈夫? 気分悪くない? 倒れたりしない?」
 白雪はゼンの顔を覗き込む。またミツヒデのように倒れたら困ると思ったからだ。
「うーん、気分がいいって言ったら嘘になるが、とりあえず大丈夫だ」
 心配させないようゼンは笑顔で頷く。
「でも、少し顔色悪いですよ、ゼン殿下。休んでいかれますか?」
「うん、ゼン。無理しないで……」
 リュウと白雪が心配そうにゼンを見つめる。
「大丈夫だ。休むなら自分の部屋で休むよ」
 ゼンが椅子から立ち上がる。ふらついた様子はなくしっかりとした足取りだった。
「じゃあ、白雪さん。あとはこちらでやりますから、ゼン殿下についてあげてください」
「はい、リュウ。わかりました!」


***

「はい、ゼン。早くベッドに横になって!」
 部屋についたゼンは、早速ベッドに寝かされる。
「大丈夫だぞ、白雪。気分は悪くない」
「嘘! 顔色少し悪いよ。お願いだから横になって! 眠らなくてもいいから……」
「はいはい」
 ゼンは仕方なくベッドに入った。
「具合どう? 気持ち悪くなったりしない?」
 白雪は寝台の隣にある椅子に腰かけて、横になっているゼンの様子を伺う。
「大丈夫だ」
 ゼンは笑顔で頷く。
「本当に? 脈は大丈夫? 熱は?」
 白雪はゼンの腕を握って脈をとり、額に手を当てて熱を測る。
「なんか……白雪、優しいなぁ〜」
 ぐふふと笑いながら掛け布団を口まで持ってくる。
「そう?」
「ああ。そうだ、出血している女官は、俺の血液で足りたのか? 状態はどうだ?」
「女官さん、容態落ち着いてきたみたい。あとは輸血すれば大丈夫なはずだから、ゼンのおかげだね」
 白雪はニッコリと笑う。
「そうか。それならよかった」
 ゼンも安心して頷いた。
「白雪、ちょっとこっちへ」
 ゼンが顔を上げ、手招きする。
「え? 何? 具合悪いの?」
 白雪は椅子から腰をあげる。
「ここに座って」
 ゼンは枕元に腰かけるよう、ベッドをポンポンと叩く。
「こう?」
 白雪はゼンの枕元に腰かける。すぐ隣にゼンの顔があった。
 ゼンは白雪を見上げ、上体を起こす。頭を上げて白雪の膝に乗っかった。
「ひざまくら!」
 白雪の太ももに頭を乗せて、腰にしっかりと抱きついた。
「きゃあ! 何するの! ゼンっ」
 白雪は驚いて声をあげる。
「気分は悪くないが、こうしていると気分がいい。だから少しの間このままで……」
 ゼンは白雪の膝に擦り寄る。指を絡ませ手を握ると、白雪も握り返してくれた。触れる指がいつもより優しく感じた。
 しばらく何も喋らず、お互いの体温を感じる。
「しかし、ミツヒデが倒れるとは思わなかったなぁ〜。血がダメなのかなぁ〜?」
 ゼンが白雪の顔を見上げる。
「私の採血がダメだったのかも……」
 白雪は再び落ち込む。
「そんなことないと思うぞ。俺もそうだけど、ミツヒデの奴、すごく緊張していたからな。
こういう場合、男より女の人のほうがしっかりしているのかもしれないな。男は痛みに弱いって言うし……」
「そうだね。男の人のほうが採血や治療で倒れやすいっていうものね」
 白雪も納得する。
「女性は出産するから痛みに強いって言うな。白雪も血を見ても全然平気そうだし……」
「血を見ても大丈夫なのは慣れかな……それに私は出産してないけどね」
「そうか、慣れか……」
 ゼンは白雪の指をいじりながら納得する。
 白雪も何か考えているのか、ゼンの指をずっといじり弄んでいた。
「でも、もしも……」
 白雪はそこで言葉を止める。
「もしも何だ?」
 ゼンは言葉を止めた白雪の顔を見上げる。
「もしも出産するなら……赤ちゃん産むなら、ゼンの赤ちゃんが生みたいな……」
 白雪は指を絡めたまま恥ずかしそうに言う。
「えっ!」
 ゼンは目を見開く。
 痛みの例えで『出産』という言葉を出しただけなのに、そんなことを言われると思っていなかったからだ。
「極端な話、通りすがりの人でも子供はできるかもしれないけど……、やっぱり好きな人の子供が生みたいかな」
 白雪は恥ずかしそうにする。
「そ、そうなのか……」
 逆プロポーズと告白を一度にされてゼンは何と答えたらいいか困惑する。
「うん。ゼンに似た男の子がいい……」
「生んでくれるのか……」
 白雪は笑顔でゆっくりと首を縦に振った。
「あ……でも、こんなこと言ってすごく恥ずかしくなってきたかも。
ゼンの赤ちゃんが欲しいなんて、色々な意味で少し大胆だったね」
 白雪は頬に両手を当てる。頬が赤い髪と同じくらい真っ赤だった。
「いや、嬉しいぞ。すごく嬉しい」
 王子という身分のおかげで、自分と婚姻関係を結びたい者は何人も名乗り出るだろう。
だが、それは身分や権力についてくるものであって、気持ちがついてきているわけではない。
身分が邪魔をしてお互いに心から想ってくれる相手に出会えるのか――。
 心の奥底でいつも不安を抱えていた。その不安を、今、白雪がすべて拭い去ってくれたのだ。
「じゃあ、白雪。約束だ!」
「約束? 指切り?」
 お互いに手を絡ませていたので白雪は小指を立てた。
「うん、指切りもいいが、もっと強い約束がいいかな……。白雪、ちょっとこっちへ」
 膝枕のまま、白雪に顔を近づけるよう手招きする。
「何?」
 白雪の顔が迫る。
「もう少しこっち」
 更に手招きをする。
「どうしたの? どこか具合でも悪いの?」
 白雪は首をかしげながら何の不安もなしに顔を近づける。
 次の瞬間、ゼンは白雪の後頭部にてのひらを添え、白雪を引き寄せた。熱く唇を重ねる。
「んんっ!」
 後頭部を抱えられたまま、白雪はもがく。
「な、何するの! ゼン!」
 白雪は顔を赤らめ口を拭いながら声をあげる。
「約束のキスと血液を採られた栄養補給だ!」
 ゼンはニヤリと笑う。
「え、栄養なんてこんなところから取れないよっ!」
「いや、取れたぞ。もう元気だ。起き上がっても大丈夫だ。ほら!」
 ゼンは起き上がり、大きく背伸びをする。
「……」
 白雪は呆れ無言になる。
「じゃあ、ぶっ倒れたミツヒデの様子でも見に行くか」
「うん」
 ベッドから起き上がったゼンは部屋を出る。
 白雪もゼンの隣に並び、ミツヒデの休んでいる薬室へ向かった。
「今日、血液型検査した中で、AB型率高かったね。7人中3人も! オビとリュウとイザナ陛下がAB型だったね」
 白雪が薬室へ向かう途中、血液型検査の結果について話し始めた。
「そうだな、7人中3人って確率的に高いよな」
 ゼンも笑って納得する。
「イザナ陛下がAB型でゼンがO型ってことは、……ゼンの両親はA型とB型ってことだね」
 白雪は頭の中で考えながら言った。
「すごいな……当たってる。母上がB型だ」
「やっぱり!」
 白雪はにっこりと微笑んだ。
 ゼンの頭にある疑問が浮かんだ。もしものことで白雪にたずねるのは少しためらわれたが、ついでなので聞いてみた。
「もし、もしもだぞ。その……俺と白雪の間に子供ができたら、その子供は何型になるんだ?」
「うーんと、私がA型でゼンがO型でしょ。だからA型かO型の子供だね。
もし私がオビと結婚したら、オビはAB型だから、子供はA型かB型かAB型になるね」
「むむっ! オビの例えはいらないぞ」
 ゼンが口を尖らず。
「ご、ごめん。でも、みんなの血液型がわかってよかったね」
 白雪は誤魔化しも兼ねてにっこりと微笑む。
「そうだな」
 二人は血液型の話をしながら、薬室までの廊下を歩いて行った。
 

 白雪とゼンはミツヒデが休んでいる部屋の前まで着いた。
ドアが数センチ開いていたので、白雪はノックはせずにそっと中を覗いてみた。
 ミツヒデはベッドから起き上がっていた。意識は取り戻してくれたようだ。
自分が針を刺した人が快復してくれて白雪はホッとした。よく見ると、ミツヒデは誰かに寄りかかっているようだった。
誰だろうと思い部屋を覗き込むと、木々の後姿が見えた。
木々の手はミツヒデの背中に添えられていて、寄り添っている形であった。
 白雪は咄嗟にドアから離れて、部屋に背を向ける。
「どうした? しら……」
 ゼンの口に人差し指を素早く当てる。
「しっ!」
 唇に人差し指を当てたまま、ドアの隙間から中を覗くようにゼンを促す。
 ゼンは不思議そうな顔をしながらドアの隙間を覗いた。
 部屋の中を覗いたゼンの頬が緩む。ニヤリとした顔になる。
 二人は顔を見合わせる。声にしないで肩をすくませ笑い合った。
 そのまま、足音を立てずにそっと部屋から遠ざかった。
「木々がA型でミツヒデがO型だから、生まれてくる子供の血液型は俺たちと同じA型とO型だな」
 ゼンが考えながら言った。
「そうだね。でもさっき木々さんに聞いたら、ご両親が二人ともAB型だって言ってたから、
木々さんはA型の中でもAA型なの。だからO型の人との場合、生まれてくる子供はA型しか出ないはずだよ」
 白雪が説明する。
「なんだか難しいな。わけわからなくなってきたぞ」
 ゼンが眉間に皺を寄せ難しい顔になる。
「すべてに当てはまるわけじゃないけどね。でもみんなの血液型がわかってよかったね。
輸血が必要な女官さんもゼンのおかげで快復したらしいし」
「そうなのか。それは良かった。俺も痛い思いをした甲斐があった……」 
 ゼンは胸を撫で下ろす。
「えっ? ゼン痛かったの? 終わったばかりの時、痛くないって言ってたのに……」
 白雪が表情を曇らす。
「い、いや痛くはなかったぞ。痛くはなかったけど、ちょっと怖かったというか……」
「怖い!?」
 白雪は目を見開く。ゼンを鋭い目つきで見つめる。
 ゼンは白雪から後ずさりたじろぐ。
(今の白雪の表情の方が怖いな……)
 そう心の中で思ったが、その言葉は飲み込んだ。
 この場をどう治めたらいいか。ゼンは作り笑いしながら頭をフル回転させる。
 女性を上手くもてなすことはなかなか難しい。
 A型女子の心をもっとよく知らなければならないな……ゼンは苦笑いしながらそう思った。

♪おわり



本職が輸血検査もする仕事なので、ちょこっと詳しく書いてみました。
ABO式血液型は1900年にカール・ラントシュタイナーさんが発見したので、
クラリネスの時代には詳しい血液型の知識はなかったと思います。
安全に輸血ができるようになったのは、抗凝固剤が発見された更に後なので、
クラリネスの時代には完全に不可能です。
輸血の歴史に興味ある方は、こちらのページが面白いですよ!

輸血の歴史(日本赤十字社 大阪府赤十字血液センターさんHPより)

血液型の組み合わせのページはこちら


投票に協力して下さった方、本当にありがとうございます。
いやぁ、AB率が高くて本当にビックリですね(笑)。イザナに、オビにリュウですか! 
イザナがぶっちぎりなところがちょっと笑えました(AB型の皆さまゴメンナサイ)。
白雪がA型大多数も納得。私はリュウもA型のイメージで、A型師弟コンビを勝手に脳内で作っていました。

また機会がありましたら投票フォームも作りたいと思っていますので、ご協力ください。
一緒にねね’S わーるどを作りましょ♪ 
本当にありがとうございました。



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