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ベル薔薇6

三部会召集
肖像画
テニスコートの誓い
ユーリとルサファ
ラムトワネットとユーリ
出動命令


三部会召集

「このままでは王室は破産します! バラトワネットであるワタクシが
薔薇に囲まれて暮らすのは当然ですわ! 国民から税をもっと取り立てるのです!」
「しかし王妃さま。新しく税を増やすには高等法院の許可が必要ですし、
第一これ以上税を増やしたら国民が黙っているかどうか……」
 長い間の王室の浪費は莫大な額に膨れ上がり、国庫はもちろん空っぽ。
予算も使い果たし、銀行や外国からの借金も信じられないほどの額に達していた。
王室の財政危機を救うため、王族、重臣、法官などを集めて開かれた御前会議では、
税をめぐっての激しい論争が繰り広げられていた。
「税金を納めるのは国民の義務ですわ!」
 ラムセスは薔薇を振り乱し、オッドアイを光らせて、きつく言った。
「では王妃様! どうしても税を増やすとおっしゃるのなら、三部会を
お開きください。第一身分(僧侶)、第二身分(貴族)、第三身分(平民)
すべての身分の代表者からなる三部会を開き、平民を納得させて下さい!」
 今までの政治や法律はすべて貴族や僧侶によって決められ、平民は議会への
参加は許されていなかった。過去200年間開かれていなかった三部会。
国王独裁体制をくつがえす第一歩となる重要な議会である。重い税を課せられている
平民たちが三部会を望むのはもちろん、貴族の中にも国王の権力を弱めて自分たちが
のしあがろうとする者が平民に味方し、三部会召集を推しているのであった。


肖像画

「肖像画ですか!? ユーリさま!」
「ああ、一枚くらいちゃんとした肖像画があってもいいと思ってね。
腕のいい画家はきちんとみつけてある。入って来い、ねね専属絵描き女!」
 名前を呼ばれた女は「へへへ」ときたならしい笑い方をしながら
部屋に入ってきた。
「ねね専属絵描き女。またの名を泉圭と申す者だ」
「うしししし、どうぞヨロシク……」
 ベルバラには似合わぬ女がユーリとルサファにむかってお辞儀をした。
「ユーリさま! このような妖しい女をお側に置くわけにいきません!
もっと見目も性格もよい画家ならいっぱいいるはずです! こんな妖しい女お止めください!」
「わたしはこの女で満足だ。腕だけは確かだからな!」
「うるさいぞ! ルサファのくせに! ねね's ぼーど用のアイコンの顔に
ヒゲ書くぞ。うりゃ!」
 


 ねね専属絵描き女はルサファにヒゲを書くと、そさくさと逃げていった。
「それにしてもユーリさま。どうして急に肖像画のモデルなど……
前はあんなに嫌がっていらしゃったのに……」
 ルサファはねね専属絵描き女に書かれたヒゲを落としながらユーリに問う。
今まで嫌がっていたのに、急に肖像画など不吉な予感を覚えたからである。
 問い掛けられたユーリは、部屋にある一番やわらかいソファアに腰掛けた。
そしてその隣に座るように指で合図をした。
「なんとなく……なんとなく気が向いてね……。私にも一枚くらいちゃんとした
肖像画があってもいいでしょう」
「え、ええ」
 黒い瞳にじっと見つめられたルサファは自分の顔が赤くなっているのでは
ないかと心配した。
 ユーリは深いため息をついた。
「ああ、なんか疲れたよ……」
 ユーリはルサファの方へ重心を傾け、彼の肩にもたれかかった。
ドキリとしたルサファ。耳まで真っ赤であることが自分でもわかった。
ユーリはしばらくそのままの姿勢でいたと思うと、少し首を動かし、
ユデダコのようなルサファの顔を見つめた。十数センチという距離から
見つめられたルサファは心臓の刺激伝道系が活発に動いているのを感じた。
「私は……誰とも結婚しないよ」
 口の端を歪ませ、黒い瞳はニコリと笑いかけた。
「えっ?」
 ユデダコは一瞬にして冷やされた。ユーリの発した言葉がどういう意味なのか戸惑った。
 ――誰とも結婚しない。
 誰とも結婚せずに、ラムトワネットさまを一生お守りするということだろうか?
それとも……貴族の誰とも結婚しないという意味なのだろうか? 私のために?
まさかそんなことは……自分の都合のいい解釈だ!
ユーリは貴族の伯爵令嬢。ルサファはただの平民。身分を越えた婚姻は、
この時代禁止されている。ルサファの心がユーリに通じたとしても、
結婚など不可能な話である。そんなことはユーリも勿論分かっているはずだ。
 ルサファはそう思い、ユーリの言葉は忘れることにした。


 


テニスコートの誓い

 ○月×日。選挙によって選ばれた各身分たちの代表議員が集まる三部会が
いよいよ開かれることとなった。200年ぶりの記念すべき日である。
 平民議員の中には未来の支配者と言われるイル=バーニ・ロベスピエールや
貴族なのに平民として当選したアイギル・ミラボー伯などもいた。
 身分を問わず選ばれた議員たちの警護をするのが、ユーリ・オスカル率いるテーベ衛兵隊。
会議の開かれる教会へ向かう行列を、ユーリに心を開いた皇族の姫君たちが
守る役目を預かっていた。
「おどきなさい! ワタクシを誰だとおもっているの?」
「邪魔ですわ! 道をおあけなさい! ワタクシは皇族の姫ですのよ!」
「無礼者! そこをどけい!」
 少々高飛車な警護であったが、衛兵隊たちのおかげで? 議員たちは無事に
教会までたどりつくことができた。
 しかし、三部会を開いたところで、平民が新しい税に納得するわけがなく、
平民・貴族の間で激しい論争が繰り広げられていた。また、国王の権力を弱め、
のし上がろうとする貴族たちが平民議員に味方して、王室の立場が危うくなっていた。
 国王の重臣たちはそんな危機を察知し、国王や王妃に三部会を
解散させるように煽った。世間知らずのミッタン国王やラムトワネットは
そのまま臣下たちの意見をうのみにし、軍隊に三部会を解散させるよう命令を下した。


「な、なんですって、ネフェルティティ将軍……三部会の会場の入り口を
閉鎖しろと……? それでは議員が中に入れないではありませんか」
「そうです。ユーリ・オスカル准将。国王陛下からの命令です」
 ネフェルティティはユーリを見下ろしながら淡々と表情を変えずに言う。
言葉を受けたユーリは青ざめた顔でネフェルティティを見つめていた。
「わたしには……わたしにはそんなことはできません! 議員たちは正当な選挙で
選ばれた国民の代表です。我がテーベ衛兵隊は身分を問わずして議員を守ること。
そのような侮辱は、我が隊ではできません……」
「ユーリ・オスカル准将! 自分の身分を忘れたわけではなかろう……。
平民をこれ以上好き勝手にさせてよいはずがないぞ!国王陛下からの勅命じゃ!」
 ネフェルティティはそうユーリに強く命令した。
確かにユーリの身分は(ここでは)貴族。だが、兵たちに「身分に関係なく心は自由だ」と
告げたばかりである。国王陛下から下された命令に従えば、平民の心を
踏みにじることとなる。果たして気難しい皇族の姫君の兵たちが命令に従うかどうか……。
「いやですわ!」
 ユーリに思ったとおり、テーベ衛兵隊の皇族の姫君たちは議会の会場を
ふさぐという命令に従おうとしなかった。
「三部会の会場の入り口をふさぐなんて……、トンカチと釘を持ってトンテントンテンと
大工や土方のような仕事、ワタクシにはできませんわ!」
 とアクシャム姫。
「は?」
「そうですわ! どうして高貴な身分のワタクシたちがそのような仕事を
しなければなりませんの?」
 とイシン=サウラ王女。
「わたくしトンカチなど手にしたことありませんですわよ!」
 とウーレ姫。
 入り口をふさぐという問題はさておき、その作業に納得をしない姫君たちであった。
ユーリはあっけとられたが、姫君たちはネフェルティティ将軍からの命令と分かり、
ブツブツ文句を言いながら議会の入り口を封鎖した。

 国民に選ばれた議員たちが会場に到着したとき――
 入り口は姫君たちの下手な日曜大工の結果、しっかりとふさがれていた。
「な、なんと! これでは入れないではないか!」
 貧しいが有能弁護士であるイル=バーニ・ロベスピエールは呆然とした。
「貴族たちからの追放だな。こんなことでまけてたまるものか!」
 貴族だが平民として議会に参加しているアイギル・ミラボー伯がぐっと拳を握った。
「そうだ! 私たち平民はこの程度の妨害ではひるまないことをみせてやるんだ!
ポーム球戯場に集まろう! あそこなら充分に広いし我々だけでも話し合いができる!」
「ポーム球戯場、テニス場じゃな! よし、そうしよう!」
 平民議員たちはポーム球戯場と呼ばれるテニスコートに集まった。
 平民議員たちが集まったポーム球戯場では、貴族の妨害や嫌がらせにも負けず、
新しい憲法が制定されるまで決して諦めないとということを誓った。
 ジュード・ポームの誓い(テニスコートの誓いである)。



ユーリとルサファ

 平民に味方する貴族も出てきたこともあり、国王の重臣たちは国王に三部会を
解散させるように更に強く薦めた。もともと決断力のない国王ミッタンナムワは
しどろもどろしながら、平民議員たちに議会を解散するように命令を下した。
 だが、平民議員の決意は固く解散する気もないし、会議場から一歩も動こうとする気配を
見せなかったのだ。
「ユーリ・オスカル准将。国王陛下から会議場に居座っている議員を力ずくで
追い出すように……というご命令です」
 上司にあたるネフェルティティがぶっきらぼうにユーリに伝える。
「えっ?!」
「陛下からのご命令です。聞こえませんでしたか? 武器でも何でも使って
平民議員たちを追い出すのです!」
「そ、そんなこと……できません! 軍隊とは、少なくとも私たちのテーベ衛兵隊とは
国民を守るためにあるのです。民に銃を向けるためにあるのではありません! 
軍隊とは……」
「ええい! ワタクシの言うことにいちいち逆らいやがって! 謀反人じゃ!
ユーリ・オスカルをひっとらえぃ! お前の軍務証書も取り上げてくれるわ!」」
 ユーリは国王に欺く謀反人として捕らえられ、しばらく今いる部屋に監禁
されることとなってしまった。軍務証書を取り上げられては、軍人としての
行動はできなくなる。ユーリはさすがにしまった! と思ったが
ここまで来ては後の祭りであった。
 代わりにネフェルティティ将軍が衛兵隊の兵たちに出動を直接言い渡した。
「いやですわ! どうしてワタクシたちがそのような面倒くさいことしなければ
なりませんの!」
 とアクシャム姫。
「ワタクシは皇族の姫ですのよ。平民と関わるなんてまっぴらごめんですわ」
 とサバーハ姫。
「聞いてのとおりですわ。第一班班長セルトをはじめと高貴な姫君軍隊は
ネフェルティティ将軍の命令に従うことを拒否しますわ!」
 高貴な身分の姫君たちは、ネフェルティティの命令を断固として拒否した。
一体ユーリはこの気位だけは異常に高い姫君軍隊をどのようにして
まとめてきたのだろう? そう不思議に思ったネフェルティティであった。
「な、なんということ! ユーリ・オスカルがユーリ・オスカルなら、
その部下もひどいものだ! 逆らった者をすべて逮捕せよ! 見せしめに
銃殺刑にしてやる! それまでアベイ牢獄に閉じ込めておけ!」
 怒ったネフェルティティは逆らった姫君たちを逮捕してしまった。
「まあ、ワタクシに縄をかけるなど! 無礼者!」
「何をする! 縄をほどけ!」
「ワタクシは皇族の姫ですのよっ!」
 姫君たちは必死に抵抗したが、捕らえられてアベイ牢獄に送られることとなってしまった。
 
 ユーリは、閉じ込められた部屋で、部下である姫君兵士たちがネフェルティティに
対してどういう行動をとったかを大変心配していた。案の定、姫君たちはネフェルティティの
命令に従うことはなく、アベイの牢獄に送られたということを聞いてショックを受けていた。
 それから数時間後、勢いよくドアが開いた。
「階級章と勲章をはずしてそこに直れ!」
「父上!」
 ユーリの父(←誰だ?笑)が怒りに満ちた表情で叫んだ。
「嫌です……。国王陛下から正式な処分があるまで外しません……」
「処分など待つ必要はない! このジャルジャ家だけは最後まで王家をお守りしようと
心に決めていたのに……。裏切り者をジャルジャ家から出すわけにはいかん! 
今、私がこの手で成敗してくれるわ!」
 ユーリの父は剣を抜いた。さすがのユーリも父親の怒りに背筋が凍って動くことが
できなかった。
 そのとき後ろからユーリの父の剣を止める者がいた。
「ルサファ・アンドレ。放せ!」
「嫌です」
「放せと言っておるのだ! 放さんとお前も斬るぞ!」
「結構です。ですがその前にだんなさまを刺し、ユーリさまを連れて逃げます」
 ルサファはユーリの父の手を握ったまま、もう片方の手で短剣を突きつけた。
ルサファのユーリの父を押さえる力は強く、また瞳も真剣であった。
「それが……お前の気持ちか?」
「…………はい」
「ばかめ……身分を越えての恋愛が……結婚が叶うとと思うか?」
「結婚など望んでおりません。ただ……、わたくしの命など10あっても
ユーリさまの命には足りません。どうかユーリさまの命と引き換えにわたくしを……」
 ルサファは静かに言った。ユーリ父も深いため息をつき、剣を持つ手を緩めた。
「ユーリ! ラムトワネットさまからのお達しだ。軍務証書を至急王宮に
とりにくるように。お咎めはなしだそうだ!」
 バタンと強くドアを閉めてユーリ父は去った。
「よ、よかったですね、ユーリさま。処分がなくて……」
 しばらくの沈黙のあと、いつもユーリに話し掛けるのと同じように話しかけた。
「ありがとう。ルサファ。私は……、私はなんて無力なんだろう……。
気位だけは高い部下である皇族の姫君はアベイの牢獄の中……守ってやれなかった。
ラムトワネットさまのお情けで処分を免れ、父上の剣もルサファのおかげで逃れた……」
 ユーリは深いため息をついてうつむいた。
「そんなことはありません! な、何か温かい飲み物でもご用意を……、
そうすれば心も落ち着きます」
 ルサファはミルクティーでも用意しようとドアの方へ向きを変えようとしたとき、
彼の腕をユーリは止めた。
「ユ、ユーリさま?」
 引き止められたルサファはどうしたのかと思い、瞳を泳がせた。
「ルサファ、私は無力で一人では何もできない……。いつも誰かに支えられ
頼らないと生きていけない」
「ユーリさま……」
 ユーリは一歩前に出てルサファの両腕をしっかりとつかんだ。
「私の一番必要としている誰かが、いつも支えてくれていた誰かが、いまやっとわかったよ……
側にいすぎて、いつも一緒にいすぎて、どんなに大事な存在か分からなかった。
私には……私にはあなたが必要だよ。あなたのこと、愛してたって今やっとわかったよ!」
 ユーリはルサファの胸に飛びこんだ。ユーリの心の中に自分がいるなど想像も
していなかったルサファは呆然とした。
「ユ、ユーリさま。カイル・フェルゼンのことをお慕いしていたのでは……」
「他の男のことなんて微塵も心にはないよ。近すぎて、温かすぎて今まで気づかなかったの。
ルサファ……愛してる」
「ユーリさま!」
 ルサファは本当にユーリの心が自分にあると分かり、胸がいっぱいになった。
小柄なユーリをギュッと抱きしめて、その温もりを確かめ合った。

 よかったねェルサファ。パロの世界でもユーリと両思いになれて。
ねねは泣けてくるよ。え? 私の感想はいいから早く先に進めって?(笑)



「ルサファ、タハルカに連絡とってもらえる?」
「黒薔薇の騎士のタハルカですか? 一体どうして……」
「牢獄に閉じ込められている姫君たちを救出しなくては! このままでは銃殺だ!
タハルカに協力してもらって、平民を集めて姫君たちを救い出すの!」
 ルサファとユーリは愛を確かめ合った後、早速姫君たしを救出する手段に乗り出した。
 ユーリに借りのあるタハルカは、平民たちを集めてアベイ牢獄に入れられている
姫君たちをなんとか救いだした。それも一滴の血も流さずに無条件での釈放だったのである。
 狭い牢獄に閉じ込められてたいそうご立腹な姫君たちであったが、
とりあえず釈放されてユーリの言うことだけには従うようになっていた。



ラムトワネットとユーリ



「まあ、ユーリ・オスカル。お久しぶりですね!」
「ごぶさたしております。ラムトワネットさま」
 ユーリが久々に王宮へ参上した。最近王宮に出てくる貴族もめっきり少なくなって
ラムセスはユーリが出てきてくれて嬉しかった。
 二人は宮殿の庭を散歩しながら久しぶりに話し合った。
「これからこの国はどうなるのでしょう……。下劣で凶暴な平民たちが国王陛下の
命令に背き、貴族までもが離れて行く……。薔薇に囲まれて幸せだった
バラサイユが音をたてて崩れて行くのです」
 ラムセスはドレスの胸にさしてある真紅の薔薇をみつめながら寂しそうに言った。
「恐れながら陛下、私には平民が陛下のようなお言葉のとおりには思いません。
我々貴族も平民の暮らしをもっと理解せねばならないと思うのですが……」
 ラムセスにとってはきつい言葉だった。ユーリは王族の……自分の味方だと
思っていたのに否定されてしまったのだ。しかしラムセスはユーリが単に平民たちに
同情しているだけだと捕らえてしまう。
「よろしいでしょう。あなたが平民たちに同情する気持ちもわかります。
平民が国に逆らい、貴族たちの信頼をなくした今、わたくしが生きているのは
女王の誇りと、まだ慕ってくれる廷臣と薔薇のためです」
 手にしている薔薇を寂しそうに見つめながら言った。
「ラムトワネットさま……どうしてカイル・フェルゼンのためと……カイル・フェルゼンの
ために生きているとおおせになりませぬか?! そのようにご自分の気持ちを
おさえて、陛下の体からは薔薇だけでなく、カイル・フェルゼンを思う辛い気持ちが滲み出ています!」
 ユーリの言葉で一気に気持ちが飽和状態となり、オッドアイからポロポロと
涙を流し始めた。泣き崩れるラムセスをユーリはしっかりと支える。
「おお! この状況でどうしてカイル・フェルゼンを愛していると言えるのでしょう。
もはやお金の権力もないわたくしに、彼が必要だと、どうして叫ぶことができるのでしょう。
おおおおおお!」
「ラムトワネットさま。カイル・フェルゼンの心はあなたの元にあります。彼は
あなたを助けるために必ず戻ってくるでしょう。そういう男です」
「ありがとう。ユーリ・オスカル。確かに今でもフェルゼンを愛している気持ちは
変わりませんが、それよりも国内を安定させなければいけません。なんとしてもです!
じきに平民の暴動に備えるために、国は軍を出さなければいけません。
武装して戦うのです。あなたの率いるテーベ衛兵隊も例外ではありません。
心して準備しておくように……」
 涙で濡れていたオッドアイはキラリと光を放った。
 ユーリはラムセスの言葉にショックを受けた。武装して戦う? あんなに一生懸命な
イル・ロベスピエールやアイギルミラボーに剣や銃を向けろというのか?
軍隊の出動……負けるのは平民なのかそれとも王族なのか……。
 ユーリはおそろしくなった。
 

 そのころヒッタイトのカイル・フェルゼンも混乱の中、愛するラムトワネットの
元へ旅立つ準備をしていた。家の者にはなぜあのように混乱している国に行くのかと
止められたが、家族を振り切って、愛するラムセスの元に向かった。


出動命令

 ラムトワネットさまの言った――出動。
 平民たちに剣や銃を向けろというのか? どうしてそんなことができようか、
確かに軍隊は宮廷をまもるために存在するが、同時にバラサイユに住むすべての
階級の平和を守る役目もあるのだ。貴族、平民関係なくみんなの平和を守るのが軍隊ではないのか?
なのにどうして武装して戦わなければいけないのであろう? 戦って何になるのだろう?
それに、あのテーベ衛兵隊のお高い皇族の姫君たちが納得するであろうか?
 ユーリは暗い自分の部屋で黙々と考えていた。
「ユーリさま! 出動です! 王宮からテーベ衛兵隊に出動命令がきました。
明日チュイルリー宮広場に向けての出動命令です!」
 ルサファが血相を変えてユーリに叫んだ。
 やはり来たか、出動……。
 ユーリは静かに立ち上がり、うろたえているルサファに静かに言った。
「ルサファ、テーベ衛兵隊のみんなを集めて。出動命令を伝えるよ……」


「そんな! 納得できませんわ!」
 即効反対したのは隊の班長であるセルト姫だった。
「そうですわ! 身分に関係なくみんなを守るのがテーベ衛兵隊と言ったのは
あなたではありませんか!」
 サソリを肩に飼い始めたアクシャム姫が言った。
「せっかく身分の低い平民をワタクシたちが守ってあげようと思い始めたのに
話が違うではありませんか!」
 とイシン=サウラ王女。
 姫君たちの激しい反発を静かにユーリは聞いていた。
「出動といっても、すぐに銃を向けるというわけではない。私が総指揮をする。
一緒についてきてくれる者はいないか?」
 姫君たちは顔を見合わせた。ユーリにとて、軍の出動は辛いものなのだろうと……。
「あなたさまが直接指揮をとるのなら……わたくしはついてゆきましょう」
 やさしくユーリに言ったのは、姫君衛兵隊の中で一番おだやかなギュゼル姫であった。
「まあ、ギュゼル姫! 自分だけ出番を増やそうなんて許しませんわ!
ワタクシも出動しましょう」
「わたくしも!」
「わたくしも!」
 目立ちたがり屋の姫君たちは結局ユーリを一緒に出動することになった。
 
 
「よかったですね、ユーリさま。姫君兵たちが理由はどうあれ納得してくれて」
「うん……」
 屋敷に帰った2人はユーリの部屋でゆっくりと話した。
 そこへドアを軽くノックする音がドアの向こうから聞こえた。召使の声である。
「ユーリさま、肖像画ができたとねね専属絵描き女が言っております」
「本当に!?」
 ユーリは黒い瞳を輝かせて出来上がった肖像画の置いてある広間へ行った。
ルサファも後を追う。
「へへへ、この絵には苦労しましたぜ。ユーリの旦那!」
 ねね専属絵描き女という怪しげなみすぼらしい女はニタニタしながら
布のかかった絵の前に立っていた。
「見せて見せて!」
「男キャラなら得意だけど、女キャラはあまりかかないので何度も描きなおして
苦労したよ(←本当の話らしい・笑)。そーれ!」
 ねね専属絵描き女は布をふわりと取ると、歓声が上がった。
 背景は黄色を基調としたシンプルな絵であったが、女がてらに隊長を務める
精悍さが出ており、かつ黒い髪と黒い瞳の輝くすばらしい肖像画であった。




「おお、素晴らしい……」
 みんな肖像画に見とれていた。
「ヘヘヘ、コミケのイベントのスペースにも飾れるようにA3サイズの絵も
作りましたぜ。旦那!」
 妖しいイベント女ねね専属絵描き女はユーリのイラストを持って気味悪く笑っていた。
「ルサファ、また後で私の部屋に来てね」
 完成した肖像画を見て満足なユーリはまた後で自分の部屋に来るようルサファに言った。
「はい……」



「ユーリさま、何か御用ですか?」
 ルサファが静かに部屋に入ると、ユーリは出窓の枠に腰掛ており、涼しい夜風に
黒髪をなびかせていた。
 しばらくの沈黙の後、ユーリは軽く頬を歪ませてうっすらと笑いながらルサファの
瞳を見つめた。
「よかった……。ルサファのことが好きだって気づくのが遅すぎなくて……」
「ど、どうしたんですか? 急に。そ、そんなこと……!」
 もうユーリの気持ちは分かってはいるが、単刀直入に好きだと言われルサファは
その場で顔を真っ赤にした。真っ赤なルサファをよそに、ユーリは
窓の外に顔を傾けた。急に緊張した表情になったと思うと、窓から入る涼しい風に
乗せるように静かに話した。
「今夜……今夜一晩をルサファと……、ルサファ・アンドレの妻に……」
 ユーリは顔を赤らめながらたどたどしくルサファの顔を見つめて言う。
ルサファは思いもかけぬユーリの言葉が信じられず、パソコンの画面がフリーズするように
固まってしまった。自分の中でctrl+Alt+Direteをかけると、静かにユーリに
歩み寄り、彼女の前にひざまずいた。
「ユーリさま。私にはあなたを幸せにできる地位も身分も財産もなにもありません。
本当に……なにもありません。強いユーリさまを守るだけの武力も何も……」
 ルサファがそこまで言うと、ユーリは彼の言葉を遮った。
「私は……強くなんかないよ。ルサファ、今まであなたの助けがなかったら
ここまで生きてこられなかった。すぐ側にいて、いつでもやさしい眼差しで
支えてくれたルサファがいたから……ここまでこれたんだ」
「ユーリさま……」

 さあ! この後はあなたのご想像におまかせします。
ぐししししし(←きたない笑いだな、ねね……爆)



つづく

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