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ベル薔薇4

ホレムヘブ・ローアン大司教
首飾り事件
裁判
ジャンヌ・ウルスラの本



ホレムヘブ・ローアン大司教

「ええ、ホレムヘブ・ローアン大司教さま。宮殿へ行って王妃さまと
親しくお話をしてきましたのよ」
「おお! ジャンヌ・ウルスラ殿が、王妃さまと親しいという噂は本当で
ござったか」
 僧侶のくせに女好きでどうしようもないエロジジイと言われるホレムヘブ・
ローアン大司教。肌は蜂蜜色、小太りで品がなく、人の手柄を横取りして
しまうような図々しい態度ホレムヘブは、王妃であるラムセスとは馬が合わなかった。
大司教という地位と莫大な財産だけがホレムヘブを支えていたのだ。
「わたしがよくローアンさまについてお話しましたところ、
ローアンさまを嫌っていたのは誤解だったとお分かりになりましたのよ。
でも、外部の目を気にすることもあって、ローアンさまと謁見はできないけれど、
お手紙をくださるなら、こっそりとお返事を書いてもいいとおっしゃっておりましたのよ」
「おお! なんという感激! さっそくお手紙を書かなくては!
ジャンヌ・ウルスラ殿、お手紙を王妃さまにお渡しして頂けるか?
もちろんお礼はしますぞ!」
「ええ、もちろんですわ。王妃さまとわたしは親しい間柄ですから……オホホホホ」
 ブラックホールのような黒い瞳を輝かせてウルスラは軽快に笑った。
 ウルスラと王妃であるラムセスが親しい間柄……。もちろんそんなことは
悪女ウルスラのでまかせである。美貌を武器にして、今度は女好きの
ホレムヘブローアン大司教を使って富を増やそうと企んでいるのだった。
 何も知らないホレムヘブは王妃宛てに心のこもった手紙を
必死に書いていたのである。

「ホレムヘブ・ローアンさま。お約束の王妃さまからのお返事ですわ」
 ウルスラは王妃の名前を騙った薔薇の紋章入りの手紙をホレムヘブに渡した。
「おお、これはまさしく王妃さまからの手紙! 王家の薔薇の紋章に
薔薇ムセスとのサインもついている! 内容は……、おお! 王妃さまは
実は私を慕ってくれていたのか!」
 偽造した手紙にはホレムヘブの足を宙に浮かせるような文章が連ねられていた。
「ローアンさま。実は忠誠の証として5万リーブルほど寄付をなさる気は
ないかとおしゃっておいでです」
「お安い御用です! 是非ご寄付したしますと伝えておくれ、ウルスラどの!」
 もちろん寄付のお金はウルスラの懐に入るのである。ホレムヘブはすっかり
ウルスラを王妃の親友だと信じ、何度も手紙を王妃に書いた。
 何回か偽手紙の交換をした後、ホレムヘブは王妃に会ってみたいと言い出した。
「ええ、いいですわ。わたくしから王妃さまに頼んでみましょう!」
 ウルスラは笑顔で返事を返した。
「おい、ウルスラ。あんなこと言っていいのかよ。王妃に会わせるだなんて!」
 夫のカッシュが妻を心配した。
「大丈夫よ。こういうときのためにちゃんと用意してあるんだから、こっちに来て!」
 ウルスラは隣の部屋のドアをあけた。部屋には二人のみすぼらしい女が立っていた。
「ニコル・ド・ねねババとねね専属絵描き女よ。このねねババをねね専属絵描き女の
化粧で王妃に変身させるのよ。さあ、ねね専属絵描き女、とりかかりなさい!」
 ヤッターマンのドロンジョさま(でよかったかな?)のようにウルスラは命令した。
「アイアイサー!」
 ねね専属絵描き女の腕前で、ねねババは王妃であるラムセスに瓜二つになった(ほんとか?笑)。
「いいかい、ねねババ。ある偉いお坊さんがうらの木陰にくるから、
この薔薇の花を渡すんだよ。そして『わたくしのお気持ちはお分かりですね』って
言うんだ。他のことは喋っちゃいけないよ」
「わたくしの気持ちはおわかりですね……、そういえば私にHPスペース100MBくれるんだね」
「ああ、ねね専属絵描き女にも成功すればスクリーントーン100枚あげよう!」
「本当かい? トーン100枚? ねね、絶対に失敗するんじゃないよ!」
 ねねもねね専属絵描き女もかなり乗り気であった。

 バラサイユ宮殿から少し離れた森の中。王妃に化けたねねババは薔薇ドレスを
身に付け、手には薔薇の花を一輪持っていた。
 そこへカッシュに案内されたホレムヘブが姿を現す。偽王妃だとわからず、
ホレムヘブは目の前の人物を王妃だと信じきってしまった。
「あの……、わたくしのきもちはお分かりですね……」
 ねねババはすっと手に持っていた薔薇をホレムヘブに差し出した。
「おお! 王妃さから薔薇の花! なんという幸せ!」
 愚かなホレムヘブはまだまだウルスラに騙され続けるのであった。


首飾り事件


「ラムトワネットさま。宝石商キックリが是非ラムトワネットさまにお見せ
したいという宝石を持って来ていますが……」
 召使の一人がラムセスとナキアがいる部屋の前で声をかけた。
「宝石商キックリ? ああ、あのそばかすの冴えない男だな。
ああ、とりあえず入っていいぞ」
「失礼致します。バラトワネットさま」
 キックリはそばかすのついている頬を歪ませてにこやかな表情を作り
ラムセスに深々とお辞儀をした。
「ラムトワネットさまに折り入ってお話が……、素晴らしいダイヤモンドの
首飾りをご覧になって頂きたいのです」
 キックリは手に持っている豪華な宝石箱から何十個もきらびやかなダイヤの
ついた首飾りを出した。天井のシャンデリアをダイヤが反射して
まばゆい光を放ち、ラムセスは一瞬めくばせしてしまったほどのである。
「まあ、なんと素晴らしい……」
 ラムセスはダイヤの首飾りを手にしてため息をついた。
「実は前王のシュッピルリウマ・ルイ14世が愛妾のデュ・バリー・ウルスラ夫人に
贈るためにご注文なさった品物なのですが、七日熱で急にお亡くなりに
なったもので、引き取り手がなくて……。あまりにお値段が高いもので
どの国にも引き取り手がないんです」
「いくらなんだ?」
「160万リーブル(約192億円)もしますので……」
「160万リーブル!?」
 薔薇づくしの贅沢をしほうだいのラムセスもさすがにこの値段には
オッドアイを点にした。
「いかがでしょう? ラムトワネットさま。分割払いでも結構ですので……」
「いや、ちょっとこの値段では……」
 ラムセスがここまで言うと、一緒に話を聞いたナキアが口を挟んだ。
「確かに豪華なことは豪華な首飾りだが、ラムトワネットさまの
トレードマークの『薔薇』がどこにもついていないではないか!
こんな首飾りラムトワネットさまには似合いませぬぞ!」
 ナキアはキックリに怒鳴った。
「それもそうだな。キックリ、この薔薇の王妃、ラムセス・バラトワネットが
薔薇のない首飾りを買うと思うか? おとといきやがれ!」
「はいー! 失礼致しました!」
 キックリはすばやくラムセスの部屋を出て宮殿を去った。

 首飾りを断られたがキックリは諦めきれなかった。こんな高価な首飾りが
手元にあったのでは、税金がかかって仕方ない。なんとしてでもラムセスに
首飾りを売りさばきたかった。
 キックリはローアン・ホレムヘブからでジャンヌ・ウルスラが
王妃と親しいことを聞いた。キックリはさっそくウルスラにラムセスが
首飾りを買ってくれるよう頼みに行った。
「お美しいウルスラ様。ウルスラ様は王妃さまと大変親しい間柄と
聞いております。一度王妃さまに断られたのですが、ウルスラ様の
ほうからこの首飾りについてもう一度お話していただけないでしょうか?」
 ウルスラはダイヤの輝きに目を奪われた。
 なんとすばらしい輝き! 薔薇色も虹色のくらむようなこの輝き! 
この首飾りをすべて自分のものにできたら……。私は一生遊んで暮らせるわ。
なんとしてでも自分のものに……、自分のものにしたいわ!
 ウルスラは決心をした。必ずやこのダイヤを自分のものにしてやろうと。
「わかりました。キックリさん。わたしから王妃さまにお話してみましょう」
 そう言っても、王妃であるラムセスになど一度も会ったことがない。
なのにラムセスに首飾りを買うようになどと頼めるわけがなかった。
 ここはあの、ホレムヘブ・ローアン大司教を使おう。すっかり自分を
王妃の親友だと思い込んでいるホレムヘブを騙し、王妃の首飾りの保証人にさせて
ダイヤをいただいてやる!
 ウルスラは口元を歪ませ首飾りのための計画を念入りに練った。

***

「ホレムヘブ・ローアンさま。今日は王妃さまからお願いごとを
預かって参りました。今、王妃さまは大変欲しい首飾りがあるのです。
けれど王さまがお許しにならないため、その首飾りを自分のものに
できないとたいそう嘆いております。それで王さまには内緒でお買いになって
ご自分の手元から分割払いでお支払いしたいとお考えなのです。
……でも、それには人柄も身分も財産も立派な方を保証人に立てなければ
いけません……そこでです!」
「そこで……、もしかして!」
 ホレムヘブは期待に胸が膨らんだ。
「そうです。王妃さまは大変ホレムヘブさまを大変信頼なさっておいでなのです。
ホレムヘブさまに是非保証人になっていただきたいとおしゃっています。
こんな名誉なことはありませんわよ!」
 ウルスラは軽くホレムヘブにウインクをした。
「よろしいでしょう。このホレムヘブが王妃さまの保証人となりましょう!」
 単純なホレムヘブは王妃が自分を信頼してくれたと信じきって、
保証人となる約束をしてしまった。
 ――やった! とうとうやったわ! 160万リーブルのダイヤが
アタシのものに! 夢と野望のすべてが自分のものになったんだ!
 ウルスラは歓喜で胸がいっぱいになった。
 宝石商キックリを呼び、さっそく首飾り購入の手続きをした。
ホレムヘブは契約書にサインをし、首飾りはウルスラの手に渡った。
「やったわ! カッシュ! さあ、この首飾りを持ってすぐに外国で売りさばいて
くるのよ! アタシはホレムヘブに怪しまれないようにしばらくここに残るわ!」

***

 しばらくして、何も知らない王妃ラムセスのもとに宝石商キックリからの
第一回目の支払い40リーブルの請求書が来た。
「なんだこれ? 意味がわからねーぞ。おーい、ハディ! この請求書知ってるか?」
 侍女のハディを呼んだ。
「何でしょう? ラムトワネットさま。ん? 首飾りの代金? なんでしょう?
存じませんわ」
「ワタクシも知らぬぞ」
 ナキアも首をかしげた。
「さては、宝石が売れなくてキックリめ、気が狂ったな。こんな覚えのない請求書、
わざわざとっておく必要もないでしょう。燃やしてしまおう!」
 ラムセスは側にあった薔薇入りのろうそくで請求書を燃やしてしまった。
 ――このあまりに不注意に燃やされた請求書のために、やがて恐ろしい事件に
巻き込まれるとはこのとき想像もしなかった。
 請求しても何の返事も支払いもない王妃に、しまいにキックリはしびれを
きかせて王宮に出向いた。
「王妃さま、ラムトワネットさまはおられますか! もうこれ以上は我慢できません!
いいかげん首飾りの……第一回目の40万リーブルをお支払いください!」
 キックリは契約書を持ってハディのもとに怒鳴りこんだ。
「首飾りって……、何のことでしょう? 王妃さまはそのようなものは
お買いになっておりませんわ」
「いいえ、王妃さまは確かにご購入くださいました。ホレムヘブ・ローアン大司教を
保証人として!」
 キックリは契約書をハディに見せた。一瞬にしてハディの顔は真っ青になった。

***

「すごい、ホレムヘブのオヤジに薔薇の花を渡しただけで、HPスペース100MBなんて!」
「わーい、トーンが100枚〜♪」
 何も知らないねねババとねね専属絵描き女は無邪気に喜んでいた。
 ねねババとねね専属絵描き女、こいつらもそろそろ片付けないとな……。
王妃の身代わりをしたことがバレたら大変なことになる!
 ウルスラは隠し持っていたナイフをねねババとねね専属絵描き女に向かって
振り下ろした。
「うぎゃあ! ウルスラ、何をする!」
「うわああああ!」
 ねねは腰を抜かし、ねね専属絵描き女は驚きにトーンをぶちまけて後ずさりした。
「フフフ。あんたたちの役目はもう終わったのさ! 死んでもらうわよ!」
 ウルスラの黒い瞳が怪しく光り、ねねにナイフをむけた。
「いやー! 私を殺したらベル薔薇の続きはおろか、続きパロをはじめ、
ねね'S わーるどの更新が止まるわよー。やーめーてぇ!」
「そんなのアタシの知ったことじゃないわよ!」
 ねねにナイフが振り下ろされた。グザリ。ナイフがねねの右手をかすった。
「きゃあああ、薔薇色の血! パロ打つ黄金の右手がぁぁぁ!」
 ねねは血を見て泣き出した。
「うわあああ! 天河の最終回をはじめ、ラストを読んでいないまんがや
小説がいっぱいあるんだよー。カイルとラムセスのラブラブイラストもまだ書いてない! 
殺さないでくれー!」
 溺れる者は薔薇…いや、ワラをもつかむ。ねね専属絵描き女はトーンをウルスラに投げつけて抵抗した。
「そんなことアタシには関係ないさ!」
「うぎゃあああああ!」
 二人の醜い悲鳴が響き渡る。
 ――バン!
 激しくドアが開いた。ウルスラのナイフがねね専属絵描き女を刺す寸前で止まった。
 ドアには逮捕状を持ったユーリ・オスカルとルサファ・アンドレが立っていた。
「ジャンヌ・ウルスラ、それにカッシュ・ラ・モット大尉。文書偽造、窃盗、詐欺の疑いで逮捕する!」
 ウルスラの顔前に逮捕状が突きつけられた。
 ねねとねね専属絵描き女は間一髪で助かった。HPの更新が止まってしまう状況は
ユーリとルサファによって防がれた(笑)。


裁判

「この首飾り事件はすべてスケベで有名なホレムヘブ・ローアン大司教さまが
仕組んだものです! わたくしは騙されたのですわ!」
 ジャンヌ・ウルスラは、首飾り事件の裁判の法廷で大きな声をあげた。
「そ、そんな。ジャンヌ・ウルスラ殿、それはひどい!」
 王妃の名を騙り、ホレムヘブを保証人として160万リーブル(192億円)の首飾りを
騙し取ったウルスラの悪行がとうとう明るみにでてしまった。
ウルスラは裁判にかけられ、ホレムヘブも法廷へ出頭していた。
「ジャンヌ・ウルスラ。見え透いた嘘をついても時間の無駄ですぞ」
 裁判官が厳しい表情でウルスラに言った。
「嘘ですって? じゃあ、盗まれた首飾りはどこに? どこもないではありませんか!
もしわたくしが犯人だったら、今ごろとっくに逃げているはずですわ!」
 ウルスラは裁判官をはじめ、法廷中の傍聴者に演説するように言った。
「そうだよな。もし犯人だったら、今ごろ逃げてるよな」
「ひょっとしたら首飾りは王妃の手元にあるんじゃないか? 薔薇ずくしで
贅沢な王妃のことだ」
「王妃が色仕掛けでスケベホレムヘブを騙して……」
 人々はウルスラの発言を聞き、ぼそぼそと呟いた。
「静粛に! ではジャンヌ・ウルスラ。この女の説明はどうする気ですかな?
証人、ニコル・ド・ねねババ、ねね専属絵描き女、入れ」
 真っ青な顔をした二人は恐る恐る法廷に入ってきた。
「おお! 王妃に! ラムトワネットさまにそっくりだ!」
 ねね専属絵描き女によってラムメイク(ラムセスメイクの略)をしたねねババを
見て、皆は驚きの声をあげた。
「くっ!」
 ウルスラは苦虫をかみつぶす。
 ――落ち着け。落ち着くのよ、ウルスラ。証拠の首飾りはとっくにカッシュが
海外に持って逃げてるんだから! 決定的な証拠はないんだから……。
 しばらくの沈黙のあと、静かにウルスラは話し始めた。
「わかりましたわ。本当のことを言います。実はこの事件、ある高貴なお方に
頼まれてやったことなのです。その高貴な方とは……」
 法廷中の視線が美しいウルスラの顔に集まる。新しい展開に皆ゴクリと唾を飲む。
「その高貴なお方とは! 王妃さま……ラムトワネットさまです!」
「おおおおおおお!」
 ざわざわとどよめきが法廷中を支配した。「静粛に、静粛に」と裁判官が
しきりに言う。
「ほほう、それで王妃さまとあなたはどのような関係にあったのですか?」
「えっと……、それは……ですね。実は王妃さま、ラムトワネットさまは
ホモの趣味がおありなんです。国王陛下のミッタンナムワさまといい、
ヒッタイトの伯爵のカイル・フェルゼンといい、薔薇王妃、ラムトワネットさまは
ホモなのですわ!」
「おおおおおおおおおお!」
 先ほどよりももっと大きなどよめきが走った。
「ちょっとお待ちを、ジャンヌ・ウルスラ。王妃であられるラムトワネットさまは
今回の役柄では女性なのだから、ミッタンナムワ国王やカイル伯爵と
できていても、ホモにはならないと思うのだが……」
 何事にも冷静を保たなければいけない裁判官は、ウルスラの矛盾に気がついた。
「はっ! 間違えましたわ! 言い直します。実は王妃さまはレズの趣味が
おありなんです! わたくしは……王妃さまの恋人の一人で……。
王妃さまのレズのお相手だったのです!」
「おおおおおおおおおおお!」
 先ほどとまったく同じどよめきが起こった。
「ジャンヌ・ウルスラ姉さん! なんてことを! ウルスラ姉さんってば
台詞間違えるんですもの。やっと言えたわ!」
 傍聴席でユーリ・オスカルと一緒にいたウルスラの妹、ロザリー・アレキサンドラが
叫んだ。懐かしい声にウルスラはアレキサンドラに目をやる。
「あ、あんたは! なんでここに。それに隣にいるのは……」
「静粛に! ジャンヌ・ウルスラ。王妃さまがレズの趣味があったなど
初めて耳にしましたな。何か根拠でもおありですか?」
 ニヤリ。ブラックホールのような黒い瞳を輝かせてウルスラは笑った。
「王妃さまのお気に入りのナキア・ポリニャック夫人のことは有名ですわよね。
あの方もレズのお相手なのです! それに……」
 ウルスラはロザリー・アレキサンドラのほうへ向きを変えた。
「それにあそこにいる近衛隊長! あの人が何よりの証拠ですわ!」
 ウルスラはアレキサンドラの隣にいるユーリオスカルを指差した。
法廷中の視線がウルスラからユーリに集中する。
「あの人は男装をしていてもれっきとした女性。ラムトワネットさまは
お気に入りの女性にあのように男装をさせてレズの相手をさせていたのです!
これこそ何よりの証拠ではありませんか!」
「何だと! この私がレズだなんて! 月に変わってお仕置きしてやる!」
「ユーリさま、怒りのあまり発言がおかしいです。どうか気をしずめて!」
 ルサファ・アンドレが沸騰したユーリを必死で止めた。
「静粛に! しかし、ジャンヌ・ウルスラ。あなたは王妃の恋人だとはいっても、
当の王妃はあなたのことも、首飾りのことも全く知らないといっていますぞ」
「それは裁判官さま。すべての罪をわたくしになすりつけるために
知らないと言っているのですわ。聞くところによれば、王妃さまは
宝石商キックリの請求書を燃やしてしまったと言われるではありませんか!
それは証拠を消すため意外に何が考えられるでしょう!」

 ウルスラの巧みな嘘に踊らされた法廷であったが、下った判決は
カッシュは捕まり次第、終身漕役刑、ウルスラはムチウチの刑のあと、
V(泥棒を意味する)の焼きごてを押して終身禁固の刑。
ニコル・ド・ねねババとねね専属絵描き女は無罪。そして王妃が大嫌いな
ホレムヘブ・ローアン大司教は、首飾り事件についても、王妃侮辱についても無罪となった。
 ウルスラに刑は下ったが、ホレムヘブは無罪となった。
ラムセスにとってウルスラが許せないのはもちろんであったが、それよりも
大嫌いなホレムヘブが保証人になどならなければ、この事件は起こらなかったのだ。
ラムセスはホレムヘブが無罪であったことに無性に腹が立った。自分を侮辱した
ホレムヘブが無罪。事実上の王妃ラムセスの敗北である。ラムセスの薔薇色の血は沸騰していたが、
それとは逆に、国民たちは贅沢し放題の王妃の敗北を手をあげて喜んでいたのだ。


ジャンヌの本

 ウルスラは刑に処せられた後、サルペトリエールの牢獄に入れられた。
 王妃への反感と、ウルスラの上手な嘘を信じてしまった民衆は、
ウルスラに同情し、彼女の入れられている牢獄に差し入れを持って
訊ねているという噂が王妃の耳にも入った。
 ウルスラが捕らえられて事件は終わると誰もが思ったが、ここでピリオドは
打たれなかった。
「ジャンヌ・ウルスラが脱走した?!」
 厳重きわまりないサルペトリエールの牢獄から、なんとウルスラが脱走したのだ。
ウルスラの脱走の影には権力のある貴族がついているとの噂もあったが、
しばらくするとウルスラは本を出版した。首飾り事件の真相、ラムセス・バラトワネット醜聞伝。
ラムセスを侮辱する内容が書き綴られていた。
「ほーほほほ。書くわよ、書くわよ。いくらでも書いてやるわ!
今や国民はみーんなあたしの味方よ! 書けば書くほどガバガバ儲かるんですもの!」
 ウルスラの書いた本はベストセラーとなり、国民は本の内容をそのまま信じ込んでいた。
「そうそう、HPも立ち上げようかしら。ここはパソコンオタクのニコル・ド・ねねババを
使いましょう! HPスペースもう50MBあげるから、ねねババ、HPを作りなさい!
ねね専属絵描き女にもトーンナイフを上げるから手伝いなさい!」
「よしきた! HP作りなら私たちの得意とするとことさ!」
 裁判で無罪になったねねババとねね専属絵描き女であったが、HPスペース50MBと
トーンナイフににつられてまたウルスラに協力しているのであった。
「ウルスラのやつよくも! この薔薇ムセスをこのように侮辱するとは! 許せん。
国民に私は無罪だと証明しなければ! ユーリ・オスカル。テーベに行くから共を!」
 怒りに沸騰したラムセスは国民に真実を教えるためにテーベに赴く決心をした。
「なりませぬ、ラムトワネットさま。王妃さまの身の安全を保障いたしかねます」
 ユーリは沸騰したラムセスを止めた。
「何故です? 国民が私に暴行するとでも言いたいのですか!」
「そうです。今は残念ながら国民はラムトワネットさまのことをよく思って
いません。テーベへ行っては危険です!」
「ええい、国民が向かってきたら、背中の薔薇吹雪をみせて黙らせるわ!」
 ラムセスは薔薇ドレスを肩から脱いで背中の豪華な薔薇吹雪を見せた。
「近山の金さんじゃないんですから国民はそんなことじゃ驚きません。
第一、時代も場所も違います!」
「じゃあ、薔薇印籠を見せて『ひかえおろー、この薔薇の紋所が目に入らぬか!』は
どうだ?」
 ラムセスは胸ポケットから薔薇の紋章のついた印籠をだした。
「だめです。この時代に水戸黄門は通用しません!」
 ラムセスはがっくりとうなだれた。これほど国民が自分のことを恨んでいるとは……。
一国の王妃が街に出ることもできないとは……。
 やっとラムセスは目が覚め始めた。


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