天河外伝・上弦の続き

 ティルスがアニッティ・バーニの使用人として仕えていた。
名もなき神官から買われた時、彼は偉い人を殺して身を立てる。
芸を使って仕事をすると言っていた。
 ――まさか、アニッティ・バーニ様やザーラ様を殺したのはティルスでは?
 ルサファは心配であったが、かといって誰にも相談できず一人で
悩みを抱えていた。
 数日後、アニッティ・バーニの葬儀が行われた。葬儀の手伝いの者の中に
ティルスもいた。ルサファは彼に真偽をたしかめようと、彼に近づこうとした。
しかしルサファが近づこうとしたことに気付いたのか、ティルスはギロリと
ルサファを睨み、逃げて行ってしまった。
 ルサファは思った。
 ティルスが人殺しをしているとしても、していないとしても、これ以上人殺しが
おこらなければいいのだ。特に自分を拾ってくれたカイル殿下やザナンザ殿下には
恩が大きい。この宮で自分にできることはあまりない。
それなら殿下たちをお守りすればいいのでは?
警護の者は一人でも多いほうがいい。昼間はキックリやイル=バーニさまをはじめ
お付の者がいるからいい。狙われるとしたら夜だ。現にアニッティ・バーニ様やザーラ様が
殺されたのも夜中だったという。こっそり夜中に殿下たちのお部屋の警備をしよう。
旅芸人の軽業をつかった殺人なら、窓から、外から忍び込むはずだ。
 ルサファはそれから夜になるとこっそり、外でカイルやザナンザの寝室の警備をすることにした。
それが自分にできる恩返し、それしかできないと思ったからだ。
 あと、軽業も練習してみようとおもった。カイル殿下たちに呼び出された時にできないといったが、
ミッタンナムワだって筋肉をつけるために巻き割りをしているんだ。
犯人が軽業を使う者だったら、捕らえるために自分も軽業ができたほうがいいのではないか?
 ルサファは夜間警備と一緒に軽業の練習もやりはじめた。

 夜間自主警備をしてから1週間。夜空を見上げると今日は満月だった。
月の光がまぶしい。カイル殿下の宮を満月の光がやさしく白く照らしていた。
「今のところ1週間何もなかったし、やっぱりティルスが軽業を使って起こした殺人
じゃないのかな……」
 ルサファは満月に向かって呟いた。
 ガサッ!
 宮の茂みから音がした。
 ――猫か?
 ルサファは自分の姿が見えないよう自分も姿を隠すと、茂みから人影が見えた。
宮の周りに生い茂る木を伝ってその人影は宮の二階部分まで難なく上がっていった。
 ――旅芸人の軽業のようだった。
 ティルス。もう人殺しなんていけない。そんな思いで練習した軽業を使いつつ
人影の後を気付かれないように追った。
 ルサファは人影に静かに近づいて行った。見るからに怪しい人物。
もしティルスだったら人殺しなんてやめさせなければならない。
ルサファはゴクリと唾を飲み彼に飛び掛かった。
「ティルス、やめるんだ! 人殺しなんてやめてくれ!」
 ――ズシン!!!
 人影とともにルサファは地面に落ちた。
「ティルス、お願いだやめてくれ!」
 怪しい人影はマントを頭から被っていた。ルサファはマントをつかみ、はいだ。
 マントの下からは金髪のきれいな髪、瞳は金とセピアのオッドアイの蜂蜜色の肌をした
自分と年の変わらない少年の姿があった。それも背中にたくさんの真っ赤な薔薇をしょっている。
 ティルスではない。
「お、お前は誰だ!」
 ルサファは勇気を出していった。
「俺か? 俺はエジプトのラムセス。どうやら外伝には俺の出番はないようだから、
全国大勢の薔薇ムセスファンのために登場してやったのさ! どうだ、大量の薔薇も背負ってきたぞ」
 ラムセスと名乗る少年は自慢げに言った。
 しかしルサファには彼の言っていることの意味はわからない。だが明らかに不審者だと
いうことはわかった。
「誰か、誰か。侵入者です怪しい者がいます。宮のみなさ〜ん、おきてくださ〜い」
 ルサファは満月が照らされる夜の中、大きな声で叫んだ。宮の中に明かりがついた。

「チッ! ここでつかまってはいけない。さあ、逃げるとするか!」
 ラムセスは持ってきた薔薇を背負いなおして逃げようとする。
「逃がすものか!」
 ルサファは彼に飛び掛かったが交わされてしまい、その代わりに彼は唇を奪われた。
 お、男にキスされるのは嫌だ〜。ルサファはラムセスを突き飛ばした。
「満月、ラムセスここに参上!」
 ラムセスは背中に背負っている一輪の薔薇をルサファに向かって投げた。
呆然とするルサファ。ラムセスは茂みの奥に消えて行ってしまった。満月の光がラムセスの背負っている
薔薇を綺麗に照らしていた。
 ルサファの声を聞いてまず先にかけつけたのはカッシュとミッタンナムワだった。
それから、宮の外で不審な人物も捕まった。ラムセスかと思ったが、ティルスだった。
一緒に毒薬も持っていた。これから殿下の部屋に忍び込んで毒を盛るつもりだったらしい。
「ルサファ、やったな! 大手柄じゃないか!」
 カッシュがルサファの肩をポンと叩く。
「お前のおかげで殿下たちは救われたんだ!」
 ミッタンナムワも嬉しそうにいう。
「あ、ああ」
 ルサファは一輪の薔薇を見つめながら複雑な思いだった。



***
外伝にラムセス様は登場しないそうなので続きパロに出演してもらいました。
やっぱりラムセスですよね。ラムセスは満月ですよね(意味不明)。
続きパロでもラムセスが出れてよかったかなと思ってます(自己満足)。
今回の外伝、短かったけど面白かったですね。
続きが楽しみ。イラストギャラリーも懐かしいなぁ〜と
思いながら見てました。

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