お帰りなさい』
BY金こすも


     ピュ―――ィ
 久しぶりの遠出に出られたわたしは、嬉しくってハットウサの青空のなかにいた。
つばさを広げ、上昇気流に乗ったわたしは、歓声をあげながら上空を駆けまわった。

    ピィ〜〜
 心行くまで滑空をすませたわたしは、羽根をはばたかせると地表へと向かって
その身を下降させた。強い気圧のなかで、豆粒しか見えなかったハットゥサが見えだした。
 だが、これは違う光景だ。
 乾いた風が舞い、黄土色の大地が広がった緑の少ないそこは、
いままで見てきた住居も王宮もなかったのだ。
 あるのは、崩れかけた城壁と神殿の跡・・・・・。
真昼の灼熱と夜の寒冷で風化していく遺跡があるだけ・・・・。
ヒッタイト人の姿も見えやしない。

   キュ―――ィ!
 不安になったわたしは、城壁に止まった。
 「きゃぁ〜、ライオンの門よ! 」
 「あ〜、あそこが住居跡なのか。なにもないんだよね」
 「でも、下を掘ってみたら出てくるんじゃないの? カイルのお墓なんかないかな〜」
 人間がいた。
しかも、わたしの御主人さまと同じ香りがする三十数人の人間たちだ。
色鮮やかなスカーフや帽子に珍しい衣装を着こんだ彼らは、黒い髪と黒い瞳をしていた。
その眼に黒いガラス(サングラス)をかけた一人が、風化していくライオンたちに
一つ目の箱(カメラ)を向けてボタンを押していた。
 わたしは不思議に思い、小首を傾げた。
「みなさ〜ん。バスに乗ってください。ヤズルカヤ神殿へ行きますよ! 」
 案内人らしい人間の声で、散り散りになっていた彼らが集まってきた。

   フフフユ〜〜ィィ〜〜〜!
 御主人さまの指笛だ。
不安になっていたわたしは、力強く羽根を動かし舞い上がった。
御主人さまの懐かしい腕のなかへ、これで帰れる。
 「お帰りなさい! シムシエック。みんなに会えたでしょう? 」
 わたしは、また小首を傾げた。
 「あのね、あたしも見ていたんだよ。あの人たちは、あたしと同じ日本人。
みんな、はるか東の国から来てくれた友だちなんだよ」
 ユーリさまの前には、王宮内の泉が広がっていた。
そして、そこには・・・・?
 薔薇の花を一輪胸にさした、美女の笑顔があふれていた。


   『お帰りなさい、ねねさん。トルコ部隊のみなさま。そして、お疲れさまでした』

         <完>




こちらの作品は、ツアーから帰ってきた日にメールで金さんから頂いた
作品なんです。まるで、金さんがシムシェックになって私たちの行動をご覧に
なっていたかのよう……(笑)。ハットゥサの光景が浮かんできます。
ありがとうございます。金さん!



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