***天国からの戴冠式***



「ごめんくださあ〜い」
 恐る恐る天国の扉を叩いたのは、本編にて最後の最後で命を落としたルサファであった。
天国は、花の咲き乱れる気持ちの良い場所であったが、初めて訪れる地に
大人しいルサファは少し動揺していた。
「まあああああ、ルサファじゃない! いらっしゃい! 死んでしまったのは
残念だけど。よく来たわね。さあ、入って入って、みんな待ってたのよ!」
 ウルスラは強くルサファの腕を引っ張った。久しぶりに見るウルスラの顔。
美人なのは生前の頃と全く変わっていなかった。
「ルサファさん、こんにちは」
 そう言ったのは、最初に天国に召されたティト。
「よく来たな、ルサファ」
 皇帝陛下にそっくりの声をかけたのは、第四皇子のザナンザ。
「お前がルサファか。よく我がヒッタイトのために尽くしてくれたな」
 威厳を持った声色で声をかけたのは、カイルとザナンザの父に
あたるシュッピルリウマ1世。
「これはシュッピルリウマさま、とんでもございません」
 礼儀正しい近衛副長官は、先々帝を前にひざまずく。
「ばぶー、ばぶばぶばぶ」
「ほらぁ〜、タイル君も喜んでますよ〜」
 ウルスラが赤ん坊を抱いていた。タイル君と呼ばれる赤ちゃんは機嫌が良く、
ルサファの顔を見てニコニコ笑っていた。
「赤ちゃん? まさかウルスラとザナンザ殿下のお子か……?」
 赤ん坊の髪の色がザナンザ皇子に似ていたので、ルサファは父親が
ザナンザだと勘違いした。
「違うわよっ! そんなことあるわけないでしょっ! この赤ちゃんは
ユーリさまが初めて懐妊なさったときのお子、タイル君よ。名前は私達でつけたの」
 ウルスラがタイル君をルサファに紹介した。タイル君の髪の色は
ザナンザ皇子に似ていたのではなく、カイル陛下に似ていたのだ。
「おおおおおお! タイル君とはエジプト編で海に投げ出されたときに
流産なさったお子! タイルさま、あのときはお守りできなくて
本当に申し訳ありません!」
 タイル君の素性を聞いたルサファは、その場にひれ伏し、何度も何度も
頭を下げた。
「まあまあ、ルサファ。顔を上げなさい。仕方ないのだから……」
 近衛副長官に頭を上げるように促したのは、ザナンザ皇子であった。
「そうよ、ルサファがナキア皇太后から、カイル陛下とユーリさまを守ったおかげで、
お二人は晴れて結婚。ユーリさまも立后できたんだから……あなたのおかげよっ!」
 美しい顔でにっこりと微笑んで、ウルスラはルサファを元気づける。
「いや……ティトやウルスラ、他のみんなだって、陛下とユーリさまのために
命を落としたんじゃないか。私だけじゃないよ……」
 謙虚なルサファは哀しそうな瞳で首を横にふった。
「まあ……それもそうだけど……。それより皆さん、これからユーリさまの
戴冠式が始まりますよ。我がヒッタイトの女神の姿をみんなで見に行きましょう!」
 ティトが下界を見下ろせる場所まで誘導した。
「そうよね、そうよね。今日はユーリさまの戴冠式なのよねっ!」
 ウルスラはるんるんで下界を見下ろせる天国の縁にかけていった。
「ユーリさまの戴冠式をこの目で見られるのか!」
 タワナアンナの位につくユーリを見ることは諦めていたルサファは、
天国から見届けられると分かり、かなり興奮状態であった。
「どぉ〜れ、我が息子の妃の姿をちゃんと見ておこうではないか……」 
 シュッピルリウマ1世は高性能のオペラグラスで下界を覗いた。
「ちょっとシュッピルリルマ陛下! なんでオペラグラスなんて持ってるの?!」
 ウルスラは鋭く質問する。
「下界の若いギャルの着替えを覗くためじゃよ。ふっふっふ」
「まあ! ふしだらねっ!」
 ウルスラはゲテモノを見るような目で先々帝を見る。ユーリの戴冠式に
夢中のルサファは、そんな会話にお構いなく……
「シュッピルリウマ陛下! ちょっとそのオペラグラスお借しください!」
 シュッピルリウマからオペラグラスを奪い取って、天国の縁から食い入るように
下界を見つめた。
「正装したユーリさまはなんとお綺麗なんだろう……。冠も良く似合う。
イル=バーニさま、ハディ、リュイ、シャラ、カッシュ、ミッタンナムワたちも
嬉しそうだ。ヒッタイトの民に祝福されて……、カイルさまに愛されて……
なんと幸せそうなんだろう。ああ……ユーリさま……」
 ルサファはオペラグラスを覗いたまま、どんどん天国の縁から乗り出していった。
「ちょっと、ルサファ、そんなに乗り出したら下界に落ちるわよっ!」
 ウルスラが注意したのも束の間、オペラグラスに釘付けだったルサファは
天国の縁から足を滑らしてしまった!
「うわあああ! ルサファ!」
 一緒に戴冠式を見ていたティトやザナンザが急いでルサファの服をつかんだ。
「ああ……ユーリさま……」
 ユーリの戴冠式に気を取られているルサファは、今ある自分の状況を全く
理解していないようであった。
「ルサファ、落ちるわよっ!」
 ウルスラがルサファのウエストに巻いてあった布をつかんだ。
強く引っ張ったせいか、ビリっと音を立てて衣服が破れ、腰からお尻にかけての
肌があらわになってしまった。
「きゃあああ、ルサファが半ケツー!」
 服が破れて、半ケツになっても、まだルサファはユーリに気を取られたままである。
 近衛副長官ルサファは、天国に行ってもイシュタルに忠誠を誓っているのであった(笑)。



♪おわり