***鈴木家の食卓***


これは 20世紀、ユーリが古代へ来る前のお話です。もしカイルやラムセスが
鈴木家の日用品に生まれ変わったら・・・というお話です。


「ただいまー。」
14歳の夕梨は 元気よく学校から帰ってきた。
「外は暑−い。なにか冷たいもの飲みたいな。」
夕梨は冷蔵庫ミッタンナムワを開けた。
「牛乳にウーロン茶、オレンジジュースにポカリか。何飲もうかな。」
夕梨は冷蔵庫を開けたまま 悩んでいた。
『あつーい。開けっぱなしにするなー。』
冷蔵庫ミッタンアムワが夕梨に向かって叫んだ。勿論、物体であるミッタンの声は
夕梨には聞こえない。
「ウーロン茶にしようっと。」
夕梨はウーロン茶をとり "バタン"と勢いよくドアを閉めた。
『痛い』
勿論、ミッタンの声は夕梨には聞こえてはいない。

「えーっと、グラス グラス。」
夕梨はグラスのある方へ向かった。ここで鈴木家のグラスを紹介しよう。
今、鈴木家では小樽のお土産、北一硝子のFLOWERグラスシリーズ(そんなものが本当にあるかは
知らない。)を使っている。グラスに花の絵が描かれているのだ。
薔薇グラス、ラムセス。胡蝶蘭グラス、カイル。カトレアグラス、ザナンザ。
スミレグラス、ルサファ。ザクログラス、黒太子。朝顔グラス、クルクである。
『ユーリ、俺様を使ってくれ。ユーリの唇は俺のものだ。』
薔薇グラスラムセスが言った。
『何を言う、私を使うに決まっている。』と胡蝶蘭グラスカイル。
『いいや、私だ。』とカトレアグラスザナンザ。
『私をお使い下さい。ユーリ様。』とスミレグラスルサファ。
『ユーリ様、覚えておられますか?カパタのクルクです。』と朝顔グラスクルク。
『さてさて、誰を使うかな・・・。フフフ。』とザクログラス黒太子。

夕梨は何も考えず、スッと胡蝶蘭グラスのカイルを取った。
『ちくしょー。』
選ばれなかったグラス達は 悔しがっている。
カイルは勝利の笑みを浮かべていた。
『やはり、私を選ぶに決まっているよな。私はユーリの未来の夫だからな。
いや、まてよ。未来の夫じゃなくて 過去の夫か?あれ?どっちなんだ???』
そんな独り言を言うカイルのもとへ 冷たいウーロン茶が注がれた。
『ああ、冷んやりして気持ちいい。』
カイルの言うのも無理はない。FLOWERグラスのおいてある場所は西日がジリジリと
照りつける場所だった。今の他のグラスたちは照りつけられているのだろう。

「おねーちゃん、おかえりー。」
妹の詠美が2階から降りてきた。それと同時に姉の毬絵が帰宅した。
「ケーキ買ってきたの。みんなで食べよう。」
毬絵はそう言い、ケーキを箱から出した。
「わーい、ケーキケーキ。」
夕梨と詠美は喜んだ。ケーキはショートケーキではなく デコレーションケーキだったので
毬絵はナキア包丁とまな板ウルヒを出してケーキを切っていた。
『痛い、ナキア様。でもちょっと気持ちいい。』
ちょっとマゾ傾向のある、まな板ウルヒが言った。
「私も何か飲もうっと。」
詠美は薔薇グラスラムセスを取った。ミッタン冷蔵庫を開け牛乳をラムセスに注いだ。
『チッ、ガキか。おいおい、牛乳なんて注ぐなよ。飲み終わったあと
そのまま放置しておくと牛乳がこびりつくんだぞ。』
薔薇グラスラムセスが言った。
詠美が牛乳を飲もうと 口に近づけた時、
「ねえ、このグラス変なにおいがする。なんか甘ったるい花みたいなにおい・・・。」
「えー?なにそれ?」
夕梨は詠美のグラスを取り、においを嗅いだ。
「ホントだ。これ薔薇の花のにおいに似てる。でもなんで?」
3人で薔薇グラスのにおいの嗅ぎあいっこをしていると 夕梨の母が来た。
「どうしたの?あなたたち?」
「なんか、このグラス、薔薇くさいの。」
「ああ、さっきお隣のおばさんから薔薇の花を貰ってね。さっきまで花瓶代わりに
そのグラスを使ってたの。よく考えたら洗ってなかったわ。」(そんなことあるんかい!)
「なにそれー。」3姉妹は驚きの悲鳴をあげた。
「じゃあ、この牛乳飲めないや。」
詠美は牛乳を流しに捨てようとした...その瞬間、ツルッと詠美の手がすべり、
"ガッシャン"グラスが割れた。・・・ラムセス死亡。

「さあ、みんな。ケーキを食べましょ。」
夕梨は胡蝶蘭グラスカイル、詠美はスミレグラスルサファ、毬絵はカトレアグラスザナンザを
使い3人で話ながら ケーキを食べた。忘れてはならない。胡蝶蘭カイルのグラスの下には
コースターキックリがひかれている。

「今日ね。氷室がね.....。」
夕梨が氷室の話を始めた。その時であった。胡蝶蘭カイルのグラスがカタカタと
揺れた。どうやらカイルは氷室に嫉妬しているようだ。
「えっ!何?今、このグラス揺れなかった?」
夕梨はビックリしてグラスを見た。
「気のせいだよ。」と詠美は言った。
「そうだよね。でね、明日 氷室とデートなの。映画見に行くんだー。」
"ピシッ"胡蝶蘭カイルのグラスにヒビが入った。

さて、その頃夕梨の母は娘達の部屋の掃除をしていた。
自分の部屋は自分で掃除して欲しいものだが全く掃除をしようとしない娘達にしびれを切らせて 
掃除機ハディとダスキンモップ、リュイとシャラを持って夕梨の部屋に入った。
「まったくもう、全然、整理整頓しないんだから。」
掃除機ハディを使って 床のゴミを吸い取っていた。"こつん" 掃除機ハディに床に置いてあった
漢和辞典イル・バーニが当たった。夕梨の母は漢和辞典イルを拾ってパラパラとめくった。
「なんてきれいな辞典なの。あの子、全然勉強してないわね。」
夕梨の母は悲しげに言った。
『ユーリ様、お使い頂けなくて残念です。』
漢和辞典イル・バーニは涙を流した。
『ユーリ様が整理整頓しないのは ヒッタイトに来てから始まったことじゃないのね。
この時からずっとそうだったんだ。』
『そうね、姉さん。』リュイとシャラは口を合わせて言った。

ケーキを食べながら話に花を咲かせる毬絵、夕梨、詠美。
そんな傍らで 分別ゴミの中で粉々になった薔薇グラスラムセスが言った。
『こんどは、鈴木家のフロ場のあかすりに生まれ変わりたい。』
ラムセスの野望はまだまだつづくようである。(爆)



♪おわり