***薔薇まつり***

「3月3日と言えば!?」
「ひなまつり!」
 ネフェルトの質問にユーリが即答した。
「は? ヒナマツリ? 3月3日は薔薇まつりでしょ? どうしちゃったのユーリ様?」
「薔薇まつり?」
 ユーリは嫌な予感がした。
「そう、薔薇まつり。ラムセス家の一代イベントの一つよ。またの名を『薔薇の節句』。女の子お祝いの日よ」
「ふーん。で、どんなことするの?」
「それはもちろん! 薔薇あられや薔薇もち食べたり、薔薇で炊き込んだお赤飯食べたりするのよ。」
「ば、薔薇で炊き込んだお赤飯?!」
 薔薇もちや、薔薇あられならともかく、薔薇赤飯にユーリは驚いたようである。
「あら? 薔薇赤飯食べたことないの? そういえばユーリ様は平民のご出身とか…。薔薇赤飯のように
高貴な食べ物、口には出来なかったのね…。ゴメンナサイ…。そうとわかれば!」
 ネフェルトがチリンと鈴をならし、侍女を呼んだ。
「ユーリ様に薔薇赤飯を持ってきて!」
 しばらくすると、侍女が薔薇赤飯を持ってきた。
 小豆の代わりに薔薇で炊き込んだお赤飯だ。日本で見る赤飯よりずっと赤く、真紅の薔薇の花びらが数枚散りばめられている。
 またの名を『ちらし薔薇すし』とも言うそうだ。
「すごーい。真っ赤だわ…」
 薔薇赤飯は夕焼けよりも、野に咲くチューリップよりも赤かった。赤いポスターカラーを入れて炊き込んだのかと
思わせるくらいだ。
「めでたい色だといえばめでたいけど…。食べたくないわ…」
 ユーリがボソッと呟いた。
「何か言った? ユーリ様?」
「ううん。なんでもない。ラムセス家は薔薇の節句の用意で大忙しね」
「そうよ。それに、ユーリ様にもやってもらうことがあるのよ。お兄様と一緒に薔薇十二単着て、宮中の
宴に参加してもらわなきゃ! 今年はパートナーがいるから、お兄様も喜ぶわ!」
「ええっ、なんであたしが薔薇十二単なんか着なくちゃいけないのよ! 第一、十二単が何でエジプトにあんの?」
「そりゃもちろん、輸入したに決まってるじゃない! シルクロードを渡って、日本って言う国から輸入したのよ」
「……日本を知ってるの?」
 ユーリはネフェルトの口から…、いいや、古代の人間から『日本』と言う単語を聞いて驚いた。
「日本と言う国に腕のいい染物職人がいて、その職人に薔薇染めしてもらったのよ」
「ふーん」
「薔薇十二単もいいが、ユーリには宮中で踊ってもらうことにしよう!」
 背後から、お決まりの声がした。
 ラムセスである。
「せっかくの薔薇まつりだ。ユーリのダンスで祭りを盛り上げようじゃないか! 真っ赤な薔薇染めのスカートに
薔薇を一輪くわえて、カルメンのごとく踊ってもらおう! 音楽はこれだ! ファラオも王太后も喜ぶぞ」

ひなまつりの音楽で

 あかりを つけましょ たいまつにィ〜♪
 おはなを あげましょ 薔薇の花ぁ〜♪
 エジプト よい国 薔薇の国ィ〜♪
 今日は楽しい 薔薇まつり♪

「ユーリ! この音楽で素敵な薔薇ダンスを踊ってくれ!」
 薔薇の花を一輪持ったラムセスと、その後ろで薔薇十二単の用意をしているネフェルトに、
カルチャーショックを受けるユーリであった。

♪おわり