天河版したきりすずめ


 むかしむかしあるところに、おぢいさんとおばあさんが住んでいました。
おぢいさんの名前はカイル、おばあさんの名前はナキアといいました。
ナキアは気が強く、カイルよりも年上の姉さん女房だったので、
尻に引かれて頭が上がりませんでした。
 ある日、おぢいさんはおばあさんが作ったお弁当を持って芝刈りに行きました。
お昼になりお弁当を食べようと思い風呂敷を解くと……なんと、風呂敷の中に
そばかすのあるすずめが一羽、気絶しているではありませんか!
 お弁当がなくなっていたので、すずめが食べてしまったものと思われます。
「う……お弁当の中に毒が……」
 すずめが苦しそうに言いました。
 それは大変だ! とやさしいおぢいさんは思い、川の水を汲んできて
そばかすのあるすずめに飲ませました。たくさん、たくさん、吐くまで飲ませました。
「うげっー!」
 水を飲みすぎてすずめがお弁当を吐きました。どうやらナキアおばあさんの
作ったお弁当には毒が入っていたようです。カイルおじいさんには
高い保険金がかかっているため、保険金殺人を犯そうと思っていたのです。
「大丈夫ですか? すずめさん」
「大丈夫です。助けてくれてありがとうございます。僕はすずめのキックリです」
 その後、カイルおぢいさんとすずめのキックリは意気投合しました。
キックリはいつもカイルの肩に乗り、側近のようにぴったりとくっついていました。

 すっかり家族の一員となったキックリ。ある日、ナキアおばあさんの
研究室に入りました。ナキアおばあさんは妖しげな水の研究をしていたのです。
何もわからないキックリはナキアの新作の薔薇色の水を飲んでしまいました。
 しばらくしてナキアおばあさんが戻ってくると……。
「誰だね! 私の新作の薔薇色の水を飲んだのは! おまえだね!」
 すずめキックリの口の中を覗くと真っ赤でした。薔薇色の水の色です。
「な、なんと言うことを……ええい! お前の舌をちょんぎってやる!」
 ナキアはキックリの口を無理やり開け、チョン! と舌を切ってしまいました。
キックリな泣きながら家から飛んで出て行ってしまいました。
 芝刈りに行ったカイルが帰ると……、
 キックリがいません。
 キックリはどうしたのかとカイルはおばあさんに聞きました。
「私の新作の水を勝手に飲んだから舌をちょん切ってやった!
そういたら出て行ったのさ!」
 ナキアはまだプリプリ怒っています。
「な、何と言うことを……、キックリを探しに行かねば!」
 カイルはキックリを探す旅に出ました。

 以前キックリからすずめの世界の「すずめのお宿」に住んでいるということを
思い出しました。カイルはキックリから聞いたうろ覚えの言葉を便りに
すずめのお宿を目指しました。
 一日半かかって……すずめのお宿は見つかりました。
「キックリやーい、ナキアばあさんが悪かったよ。出てきておくれやー」
 カイルは大きな声で叫びました。
「カイルさま!」
 キックリは嬉しそうにカイルを迎えました。このときのキックリの姿は
カイルの肩に乗る小さなすずめではなく、人間と同じ大きさの直立二足歩行する
進化したすずめでした。
 カイルはいっぱいご馳走になり、楽しくたくさんお話をしました。
「ナキアばあさんが心配しているから帰るよ。キックリ、戻ってきては
くれないかね?」
 不安そうに尋ねました。しかしキックリの答えはNOでした。
 カイルはキックリの気持ちも分かるので一人で帰ることにしました。
「カイルさま、お帰りにお土産を持っていってください。ここに大きなつづらと
小さなつづらがあります。どちらかお選びください」
 大きなつづらはカイルが両手で抱えきれないほどの大きさ、小さなつづらは
少コミ4冊分くらいの大きさでした。
「ありがとう、私はもうろくしてるから小さい方でいいよ」
 カイルは小さいつづらを持ち帰りました。

 カイルがまた一日半かけてナキアの待つ家に帰りました。
 家に帰ってつづらを開けるとどうでしょう!
 小判がたくさん入っていたのです!
「おまえさん! 何で小さいつづらなんて選んだんだい! 私がもう一度行って
大きいつづらをもらってくる!」
 ナキアはキックリのすずめのお宿の場所を聞いてつづらをもらいに行く旅に
でました。
 ナキアはつづらがほしくて、カイルが一日半かけた道のりを一日でいきました。
「キックリ、キックリ、訪ねてきたよ。さあご馳走してお土産をおくれ!」
 キックリなナキアのことが嫌でしたが、しぶしぶご馳走をして、
帰りにおみやげを選ばせました。
「大きいつづらに決まってるだろ!」
 ナキアは背中にかついで大きいつづらを持って帰りました。
 家に帰るまでつづらは開けてはいけないと言われましたが、ナキアはどうしても
我慢できなくなり、途中でつづらの箱を開けてみました。
 なんと! つづらの中からは小判ではなく、へびやムカデや怪獣などの化け物が
わんさか出てきたのです。
「なんじゃこりゃぁ!」
 ナキアはとっても驚きました。
 ――しかし! こんなことで腰を抜かすナキアではありません!
「何じゃお前たちは! 皆、気味悪く不気味な者どもじゃ!
よぉ〜し! お主ら今からワタクシの家来になれ!」
 大きなつづらからでてきた化け物たちはナキアの家来になってしまいました。
 
 教訓――何でも悪用しないと悪役は勤まりません!


♪おわり


 

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