***薔薇しべ長者***

                      ねね&まゆねこ

 むかしむかし ある貧しい村に一人の若者がおったそうな。若者の名はラムセス。
彼は 貧しい村の中でも 特に貧しい小作人だ。今年も天候が悪く不作。
ラムセスは年貢を納めることができず困っていた。
「ああ、どうしよう。今年もホレムヘブ地主様に年貢を納められない。
どうすりゃいいんだ・・・。」
ラムセスが頭を抱えながら歩いていると 足元から あま〜い花の香りが漂ってきた。
香りのするほうを見ると赤い花が落ちていた。その赤い花は 一輪のトゲのある薔薇の花。
彼は 何気なく薔薇の花を拾った。
「いつもの俺ならこの薔薇の花が似合うんだがな。
今回は貧しい村の小作人の役だから 俺には似合わんな。」
ラムセスはそう思いつつも薔薇の花を手放すことは出来なかった。

 しばらく とぼとぼと当てもなく歩いていると大名行列に ぶつかった。
「下にィ〜、下にィ〜」
大名行列は 1歩1歩ゆっくりとラムセスの前を通りすぎようとしていた。
大名行列の中心部に差し掛かると 一人の男の子が 籠の中からちょこんと顔を
出しており ラムセスはその男の子と目が合った。
「かあさま、デイルはあの赤いお花がほしい。」
大名の息子であろうまだ小さな男の子が ラムセスの拾った薔薇の花を欲しいと言い出した。
「ダメです。人様の物をむやみに欲しがってはいけません。」
デイルという小さな男の子の母であろう身分の高そうな着物を着た女が言った。
「ヤダヤダヤダ、ほしいィィィ〜。」
今はそれほどまでに薔薇には 興味はないラムセス。彼は 薔薇の花をデイルに
快くあげた。
「まあ、親切なお方。ありがとうございます。お礼に・・・
この剣をさしあげます。この剣は鉄剣です。わが領土独自の製法で作られた剣でございます。どうぞお役に立ててください。」
ラムセスは薔薇の花の変わりに 鉄剣を貰った。

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 鉄剣をもらったラムセスはさっそく切れ味を試してみた。
「こりゃあすごいぞ!」
 その剣は彼が今まで知っている中では最高だった。

ラムセスは地主主催の村の舞踏会いや武闘会に参加して優勝することができた。
 ところが欲深い地主ホレムヘブは彼の剣を見ると
「これはいい!おいラムセス年貢の代わりにもらっていくぞ!」
と言って、褒美ともどもラムセスの剣を取り上げてしまった。

「せっかく俺にも運が向いて来たと思ったのにまた一文なしだ。」
 ラムセスがしょんぼりしていると・・
「もし!あなたはラムセス様ですか?わたくしの主人がお礼をと申しております。」
 見ると侍女らしき女が声をかけた。双子なのだろうか?よく似ている。
そばには笠をかぶった女主人らしき女性が立っていた。
「いつぞやは私の息子のために薔薇をありがとうございました。実はまたお願い
があります。あの時もらった薔薇がうまく育たないのです。苗はあるので、
そなた、もう一度薔薇を育ててもらえぬか?」
 ラムセスはびっくりした。
「薔薇ですか?俺にうまく育てられるでしょうか?」
「そなたならできるでしょう。ではお願いします。」
 去って行こうとする女達にラムセスは声をかけた。
「あの・・もしせめてお名前を・・」
「名は明かせません。実はわたくしの主人はお忍びでいらしています。さるご領
主の奥方なのですがこの国の方ではないのです。」
一番えらい侍女らしい女が言った。

 その日から来る日も来る日もラムセスは薔薇を育て始めた。
西によい土があると聞くと出かけ 東によい肥料があると聞いてはもらいに行くといった
具合であった。
 しかしラムセスの地主であるホレムヘブは
「薔薇なんか育てるより年貢を納めんか!」
と口癖のように言っていた。

 ラムセスの努力の甲斐があったのか薔薇は見事に花開いた。
やがてラムセスの薔薇園は国中に噂が広がりその国の領主の奥方の耳にも入った
「何?ラムセスという薔薇作りの名人がおると?」
 奥方アンケセナーメの方がさっそくラムセスの薔薇園にやってきた。
地主のホレムヘブはにこにこしながら奥方を出迎えた。
「これはこれはむさくるしい所へようこそ!」
「薔薇作りのラムセスと言うのはお前の部下か?先のお館様亡きあと跡目をつが
れた我が殿ツタンカーメン様はお体が弱い!殿がお好きな薔薇を庭に植えてお慰
めしたいのだが・・そなた庭師としてわらわに仕えてみる気はないか?」

 奥方の言葉にラムセスはびっくりした。
「これは身に余る光栄で!」
 こうしてホレムヘブとラムセスの主従はこの国の領主の館に行くことになった。

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 さすがは 領主の館。建物も荘厳、絢爛。広大な庭には 池があり、そこには
ピラニアが泳いでいた。ラムセスはその庭の一部で 薔薇の栽培をするように
奥方アンケセナーメから命じられた。
ラムセスは一生懸命、薔薇の栽培に励み 1年もたつと領主の館は ラムセスの育てた
薔薇でいっぱいになった。
 ラムセスは薔薇を育てる事の他にも 軍事にも協力した。
ラムセスは 薔薇をそだてる才能だけではなく 軍事的才能もすばらしかった。
 やがて ホレムヘブは 領主の治める軍隊の将軍に、ラムセスはその下の隊長となった。
この時代 近隣の諸国との小競り合いが 絶えなかった。 近隣の諸国と戦うために
ホレムヘブを隊長とする軍隊は 戦場へと向かうこととなった。

 戦わなければならない国は 近江のほとりを中心に栄える ヒッタイト。
情報によると ヒッタイトの軍隊の将軍は 女だそうだ。
女などには負けるまい。ラムセスはそう思いヒッタイトを侮っていた。
しかし 本当にこのヒッタイトの軍を治めるのは女なのだろうか?
と思わせるくらい均整のとれた 素晴らしい軍隊だった。
 ラムセスは ヒッタイトと戦闘を繰り返しているうちに
ヒッタイト軍隊の中枢部である陣営まで辿りついた。ヒッタイトには
我々が 陣営を見つけたとは気づいてはいない。ここは闇討ちだ!
敵に気づかれまいと 数人で陣営まで近づいた。
「この戦争!我らの国が勝利を貰った!!!」
ラムセスは 鉄剣を片手に ヒッタイトの陣営に乗り込んだ。
「きゃああああ。」
悲鳴が響いた。な、なんとヒッタイト陣営にいたのは 年貢も納められず途方にくれていた
小作人だった頃 拾った薔薇の花を上げた男の子の 母親らしき女だった。
「そ、そなたは あのときの薔薇男では・・・。」
女は言った。

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ラムセスはびっくりしてしばらく顔をあげることができなかった。
「そうですか!その名も高きユーリ御前とは、あなたのことだったのですね」

 ユーリ御前、それは隣国ヒッタイトの領主の側室で寵姫にして武勇にも優れ
その為領主カイルは彼女に鎧を着せ一軍を任せているという。その姿から味方
の兵士から戦神として崇められ、敵は恐れおののくということだった。
 しかし彼の目の前にいる彼女は小柄で黒く長い髪を後ろで束ね涼やかな目を
した少女のようであった。そして紅い鎧がよく似合っていた。

 ユーリ御前は鈴を振るような声で話し始めた。
「そなたはデイルに薔薇をくれた方なのですね!それではこの戦いはそなたに
 免じて和睦を結ぶとしよう。もとはと言えばつまらない小競り合いから始まっ
 たこと!殿も許してくれるでしょう。」
「それは、ありがとうございます。」
 そう言ってラムセスは顔を上げたがもともと女好きの彼のこと!勢い余って?
いや、ついついユーリ御前の胸に手をのばしてしまった。
「そなた、何をする?」
 ユーリ御前の手が素早くラムセスの頬をはたいた。ラムセスの頬にはもみじ
の形の手のあとが残ると同時にユーリの侍女達に槍を突きつけられた。
「こいつ油断も隙もない奴だな!ユーリ様に手を出すとは!殿がいらしたら
 間違いなく手討ちにされるぞ!」天然パーマの双子の侍女が言った。

 こうしてラムセスのよけいな手出し?があったにも関わらずエジプトと
ヒッタイトの和睦が無事結ばれ束の間の平和が訪れた。
 
 しかし平和は長く続かなかった。ある日領主のツタンカーメンは奥方アンケセナーメと
ともにラムセスの育てた薔薇の庭を歩いていたが突然・・
「あっ」と叫んで足を踏み外しそばにあったピラニアの池に落ちてしまった。
「殿!殿!きゃあああ誰か来てー!」
 奥方の叫び声でラムセスが駆けつけた時には領主はあわれピラニアの餌食と
なってしまっていた。池は一面血の海で目もあてられないほどであった。
 奥方の嘆きは深くいつまでも涙にくれていた。

 その晩、ラムセスは城の僧アイと将軍ホレムヘブに呼ばれた。
「ふふふ、ラムセスお前が疑われたくなかったらこの件は事故ということで
 処理するのじゃ!」
 怪僧アイの目がキラリと光った。
「ええっ!すると薔薇のとげに毒をしこんだのはあなた方ですか?」
「しいっ!声が高いぞ、ラムセス!まさかピラニアの池にまで落ちると思わなか
 ったがな。これで実権は我らのものじゃ!のうアイ殿!」
 ずるがしこいホレムヘブが言った。
「お主も悪じゃの!越後屋じゃなかったホレムヘブ殿!これで我らの息のかかっ
 た幼君でも婿にたてるとするか!」

 しかし、そうはいかなかった。奥方が領主を暗殺したかもしれない身内の者
と結婚するのを拒んだからだ。あまつさえ奥方は隣国ヒッタイトから婿を迎える
と言い出した。
「長年敵国だったヒッタイトと婚姻関係を結べば我が国は安泰ではないか!」
 奥方の言葉に反論できる者はいなかった。こうして隣国に使いが出されヒッタ
イトの領主の弟君がエジプトに婿入りすることになった。そしてその迎えの使者
に選ばれたのはラムセスであった。

「もしかしたらユーリ御前に再会できるかもしれない!」
 自分の役目は二の次でユーリに会えることだけでラムセスはぼうっとなって
しまった。彼は人妻であるにも関わらずユーリに心奪われてしまったのだ。

 こうしていそいそとラムセスはヒッタイトに出発した。

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 ヒッタイト帝国第4皇子のザナンザが エジプトに婿入りすることとなった。
噂によれば エジプト入りの皇子の一行を先導するのは 
ヒッタイトの愛と豊穣、そして戦争の女神と称される 異種樽とも呼ばれる女だそうだ。
 異種樽・・・どんな女だろうか?愛と豊穣の女神と言うのだからきっと
ナイスバディの女に決まっている。上手く行けば ユーリ御前と異種樽が我がものに・・・
そう考えるとラムセスの目じりは下がり 頬の筋肉は緩まずにはいられなかった。
 
 ヒッタイトの皇子を迎えに行く日が来た。ラムセスは 皇子の迎えなどそっちのけで
異種樽と もしかしたら会えるかもしれないユーリ御前への贈り物を考えていた。
「やっぱり贈り物には ボンデスハム・・・じゃなかった。薔薇だよな。
俺が丹精こめて育てた薔薇を 荷駄に積んで一緒に持っていくか。」
 だが 異種樽の分の薔薇とユーリ御前への薔薇を合わせると 相当な量の薔薇になってしまった。
迎えに行くのに こんなに薔薇は必要ないとホレムヘブに言われ 
薔薇を半分に減らし 持っていけない分は 荷物にならないように
小さな小さな薔薇の苗を持って行くことにした。
 薔薇の用意も出来た。皇子を迎える準備も万全だ!だが、待てども待てども
ヒッタイト皇子の一行も 異種樽の姿も見えない。ラムセスは待ちくたびれて
荷駄に積んであった薔薇を一輪ずつ取り出し イシュタルが「来る〜、来ない〜」
と一枚、一枚、薔薇の花びら契りながら 辺りを歩き回っていた。

 数日後 砂埃だらけの女が ラムセスのエジプト陣営に迷い込んできた。
女はヒッタイト一行の共として来た者だと言う。ヒッタイト一行は 
途中で落とし穴にはまってしまったという。落とし穴の中のナキア蟻地獄に 
ザナンザ皇子も供の兵も餌食になってしまったという。
ナキアの餌食にはならなかったのは 天河本編一、幸運の強いこの砂埃だらけの女だけだった。
女は砂漠で迷いながらようやくラムセスの陣営に辿り着いたと言う。
「よくこの砂漠から抜け出す事ができましたな。運がいいですな。」
「あ、それは・・・途中で薔薇の花びらが落ちていたんです。
その花びらを辿って行ったらここに・・・。」
「その花びらは もしかしたら私の落としたものかもしれません。」
女は 声のしたほうを向いた 
「あ、あなたはあのときの薔薇男では・・・。私の名は ユーリ。
ザナンザ皇子の一行を先導する異種樽として参った者でございます。
皇子は 殺されてしまいましたが どうか、どうか、ヒッタイトーエジプト間に
和平を・・・。戦いはもう しとうございません。お願いでございます。」
ユーリは 両手をついて懇願した。
 ラムセスにとっては 戦いなど どうでもよいことだった。
まさかユーリ御前と異種樽が 同一人物とは・・・。ナイスバディではなかったが
ますますユーりを我がものとしたくなってしまったラムセスであった。
「分かりました。ユーリ御前。私のほうから ファラオにとりなしてみましょう。
但し、条件があります。条件は・・・。」
ラムセスはニヤリと笑い ユーリの方を見た。

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「条件とはいったい何でしょう?」
ユーリ御前がおそるおそる聞くとラムセスはすかさず答えた。
「恩人のあなたにこんなことを言うのは失礼だが、男が女に出す条件と
言ったら1つしかないでしょう?俺は初めてあなたに会った時からずっと
恋いこがれていたのです。人妻だろうが子どもがいようがそんなことは関係ない。
俺の女に・・いや妻になってくれ。俺にはあなたが必要だ。」
ユーリは首を振った。
「私が愛するのは、ヒッタイトの領主カイル1人だけです。」
「今あなたは俺の手の内だ。拒む理由はない。それにヒッタイトーエジプト間の和平
が成り立つなら、あなたの殿のためにもなるんだが・・」
ラムセスはユーリ御前を手に入れるためならどんな手でも使うつもりであった。
「確かに私は殿のためならこの身を売っても構わないが・・」
 ユーリはしばらく考えていたが、やがて言った。
「では、これだけはお許しください。私の鷹を呼び寄せて・・せめて殿には
無事を知らせたい。」
「いいだろう。」

 するとユーリは指笛を使って自分の鷹を呼び寄せた。見事な若鷹は
ユーリから手紙と薔薇を足に結んでもらうと飛び立った。
「では俺と一緒にエジプトに来てもらおう。」
 ラムセスはユーリ御前を連れて意気揚々とエジプトへ帰っていった。

「さあ、ここが俺の家だ。薔薇屋敷とでも呼ぼうか?この薔薇は全て
あなたのためのもの。家中薔薇だらけだ。」
 確かにラムセスの家は薔薇だらけだった。屋根も壁も薔薇色、庭は
薔薇で咲き誇り壁にもつる薔薇がはっていた。
 そしてラムセスはユーリを薔薇風呂で湯浴みさせ薔薇模様の着物を
着せた。埃を落とし薔薇を髪につけ薔薇の着物を着たユーリは異種樽
と呼ばれる女神の名の通り美しかった。
「それでは俺と薔薇の花びらを散らしたベッドに来てもらおうか?」
 ラムセスはふるえるユーリを抱き上げベッドルームに行こうとした。

 その時・・・遠くからときの声と馬のひづめの音が聞こえてきた。
部下があわてて走ってきた。
「将軍大変です。隣国ヒッタイトが攻めてきました。」
「何だと?いったい何が起こったんだ?」
 するとユーリが不敵に笑った。
「ふふふ、ラムセス罠にはまったわね?さっきの鷹でカイルは全てを察し
もうすぐ攻め上ってくるでしょう?薔薇はあなたのトレードマークだから
すぐに私があなたにさらわれたってわかったのよ!」
 そう言うとユーリは隠し持っていた鉄剣を出すとひらりと身をかわした。
「おのれ!たばかったか!」
 ラムセスはユーリを追う暇もなくすぐに戦のしたくをしなければならなかった。
何とか軍備を整えたがナイル川付近で敵軍をくいとめるのがせいいっぱいの有様だった。


 しばらくしてラムセスの軍に知らせが入った。
「大変です。新領主になられたファラオのアイ様がなくなられました。」
「なに?」
 ラムセスのもとに届いた知らせでは、ザナンザが死んだあと、
若い奥方を娶って新領主になった僧アイはヒッタイトが攻め込んだという知らせを聞いて
心臓マヒを起こして死んだということだった。
「じじいめ!くたばったか!」
続いて部下がラムセスに知らせを持ってきた。
「将軍、ヒッタイトより和睦を勧める文書が届いております。」
「何?読み上げてみろ」
「エジプト将軍閣下ラムセス殿へヒッタイト領主カイルより、

『もとよりこの戦いは我が奥方ユーリを取り戻すものであり目的が成った
現在は貴国と争う理由はない。よって停戦を進言するものとする。
ただし条件として貴国の簒奪者であるアイならびにホレムヘブ、及び貴殿の引き渡し
と裁判を要求する。これはエジプト国民の意志でもある。』」

 条件はかなり厳しいものだったが状況が不利な現在はとにかく交渉に
応じる他はなかった。

 ナイル川の川岸に交渉のための天幕が用意されていた。すでにヒッタイト側はカイ
ル、その後ろにたぶん息子であろう幼子を抱いたユーリが立っていた。
「よく来たな。ラムセス!すでにお前はエジプトの簒奪者として裁判にかけられるこ
とが決まっているのだ。たぶん死刑だ覚悟しろ。」
 その時ユーリが抱いていた幼子が口を開いた。
「待って、父しゃま!その人を殺すのは待って。」
「なぜだ?デイル!そいつは母さまを奪おうとしたのだぞ。」
「その人はぼくに薔薇をくれた優しい人なの!」
「本当か、ユーリ?」
ユーリは頷いた。
 カイルはしばらく考えていたが、やがて言った。
「デイル、かわいいお前が言うことなら運動会の席取りだろうが 空に輝く
月だろうが取ってやろう。そういうことなら・・ラムセス、命だけは助けてやる。
どこへなりと行ってしまえ。」

 こうしてヒッタイトはエジプトの敗戦処理をして撤退して行った。
死んだアイはともかくホレムヘブも裁判にかけられて死刑となった。

 ただラムセスのみが死刑を免れ追放となった。

 しかし生きていれば生命力はゴキブリなみ・・いやゴキブリ以上の
ラムセスのことである。しばらく砂漠に身を潜ませていたが領主不在の
エジプトの混乱に乗じてたちまち国を乗っ取ってしまったのである。

 やがて自分の薔薇館を再建しエジプトを治めるようになった。

「貧しい村の小作人だった俺が 一国のファラオに・・・。
今思えば 一輪の薔薇から俺の幸運は始まったのだ。一輪の薔薇が鉄剣になり、
薔薇園になり、王宮仕えの薔薇職人&軍人になった。
天は俺に味方し ファラオにまで昇りつめた。だが運だけでは 一国のファラオになんて
なれない。運が巡って来ても その運を生かせる実力がなければ 
せっかくの幸運も無駄になる。俺には実力が・・・ ファラオとなるべく器量があったのだ。
そして何よりも薔薇を欲しがったチビに感謝するべきか・・・何しろ、
あいつのおかげで今の俺があるんだからな!
(もちろんムルシリの親バカも大きいが)
しかしユーリはあきらめないぞ!」

 こうして懲りないラムセスは今日もエジプトで薔薇を育てながら
相変わらずユーリを狙っているのだった。
                                  〜終わり〜