ケーキ☆ケーキ
BY金


吹きすさぶ吹雪の夜が嘘のように、きょうは青空がひろがっていた。
大神殿の広場には、巨大な天幕が雪の壁に囲まれるように建っており、
天幕の入り口には、人々の長い行列が続いていた。
みんな食べ物や布地、砂金の袋などを持っている。
 ヒッタイト史上初めての、ユーリ発案のケーキ即売会が天幕の中で行なわれるのである。
ケーキの収益金は、貧しい者や病人に送られることになるのだ。
 1歩中に入ると、そこは甘い香りがたちこめ、誰もがケーキに手を伸ばしたくなるだろう。
 リンゴのパイ・シュークリームのツリー・シナモンのシフォンケーキ・
生クリームのクレープ・くるみ、なつめやし、干しブドウにワイン入りのケーキ・
ブドウのタルト・チーズケーキ。
 そして、それらケーキが置かれている中心部には、巨大なケーキが置かれていた。
王宮の料理人や女官たちに手伝ってもらって、ユーリたちが作りあげた
特製デコレーションケーキだ。
スポンジケーキのなかは、メロン・野イチゴのジャム・生クリームがたっぷり挟まれ、
上の飾りは、野イチゴ・栗・リンゴのハチミツ漬けが、白い生クリームと共に飾られていた。
そのケーキの前では、料理人たちがケーキを切りながら、人々に手渡している。
 「大盛況で、良かったですわ、ユーリさま」
 「ほんとうに! みんな、これでケーキの味を覚えてしまいますね」
 「いい香り〜」
 我が事のように喜ぶ三姉妹を見て、ユーリは満面の笑顔を浮かべていた。
 ヒッタイトにはケーキを食べる習慣はないのだが、今夜だけは
家族そろって食べている光景が見られるだろう。みんなの喜ぶ顔が、眼に浮かぶ。
 「あの〜、ユーリさま。料理人が騒いでいます。ケーキのなかから、
変な音が聞こえてくると……」
 ルサファの報告に、ユーリたちはケーキに耳をあてた。
 『ガサ ゴソゴソ』
 「虫が入ったのかなー?」
 そんなユーリの声に、変な音が止まったかと思うと、上の飾りが吹き飛んだ。
 「よお〜、ユーリ・イシュタル。会いたかったぜ!」
 生クリームだらけの身体に、生クリームだらけの仮面とネネスを被った男が
ケーキの上に立っていた。
 「おまえ、ラムセス!」
 カイルが、ユーリの前に立ちふさがった。
 「どうやら、エジプト戦でも、懲りてないようだな! 」
 「ちっ、こんな所にも、くっついているのか? ユーリ会いたさに知恵を
振り絞って待ちかまえていたのにさっ。惜しいなぁ〜」
 ユーリは、カイルの前に出た。
 「冗談言わないでよ! ラムセス、あんた、ケーキを食べたわね。
みんなが楽しみにしていたケーキを! 」
 巨大なケーキの真中は、縦長にきれいに食べられていたのだ。
 「いやぁ〜、旨かったよ。おかげで、体力モリモリ、愛情タップリになっちゃってさっ」
 「んもう〜、降りてこ〜い!」
 怒り心頭するユーリに苦笑を浮かべたカイルの側に、キックリが何事かを囁いた。
 カイルが、驚きの表情を現した。
 「どうかしたの? カイル」
 異変に気づいたユーリに、カイルが囁いた。
 「いま、ナキア皇太后の使いが来ているんだ。黄金の水と交換に、特大のケーキを
もらいたいとの事だ。おまえなら、どうする?」
 「そ、その黄金の水って、飲んだらどうなるの?」
 「水を飲んだら、その者は黄金になるそうだ」
 「ふぅ〜ん」
 ユーリの脳裏に、考えが閃いた。
 「ねえー、ラムセス。もーう、いいわ。そこから降りてくれるなら、ケーキの事は
許してあげる。その代わり、この水を飲んでよ。この水の実験体になってくれるなら、
客人として歓迎してあげるわ」
 「…………!」
 ユーリの大胆なことばに、カイルも側近たちも固唾を飲んで動けなかった。
さて、ラムセスは、どうするでしょうか?
 甘い香りがたちこめる巨大な天幕のなかは、人々のざわめきと熱気で
辺りの雪を溶かしていった。
  
        <完>




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