『蜜柑の花咲く丘』
BY金
さわやかな潮風が、陽だまりで暖かくなった丘に流れていった。
その風で、甘い香りが漂ってくる。
丘は、いま白く細い蜜柑の花が満開だった。
ブゥ〜ン
金色のミツバチたちが、大忙しに花々に口づけしながら蜜を集めている。
その間に、おれさまラムセス・モンキアゲハはずうずうしくも
優雅に芳醇な蜜を味わっていた。
おれさまがここへやってきた訳は、ただひとつ! 未来の花嫁候補を狙うためだった。
おれさまのように、みごとな漆黒の羽に白いふたつの紋がある美しいチョウが
望みなのだが、そうたやすくは見つけられそうにもないようだ。
「オホン! そこの真っ黒けのモンキー。わたしなんかどうだい?
見よ! この豊潤な肉体美を……。この次にはさなぎになる予定で羽化が
できそうだから、おまえの花嫁になってもよいぞ! 」
丸々と太った青いチョウの幼虫が、おれさまの姿を見てそう告げてきた。
敵を驚かせるために彼女の上半身にはにせの鳥の眼がふたつ付いているのだが、
ナキアの本当の複眼の眼はその上にあった。
その眼がギラギラと輝いて、おれさまに狙いを付けているようだ。
彼女は、ここら辺りで強い勢力を持っているナキアだった。
<今回も悪役〜、ナッキ〜(^_^;)>
「いやぁ〜、それは残念だな〜。聞くところによると、ウルヒっていう奴が
あんたを探していたぜ。おれさまには、太刀打ちできないハンサムさん
だったんだがな〜」
「なに〜! ハンサムか! そうか、それはよく知らせてくれた。
そのウルヒとは、どこにいるのじゃ? 」
おれさまはニンマリと笑って、奴と出逢った場所を教えてやった。
「なんだ、近いではないか! それでは行ってくるぞよ〜。未来の婿と会ってくる」
「いってらっしゃ〜い。あとは、おれさま知らねぇぜ〜」
<悪魔ラムセス、何か企んでいるぞ〜(^_-)>
いそいそと去ってゆくナキアに小声で告げたおれさまは、気分を変えて飛びまわった。
「さ〜てと……、おれさまの麗しき花嫁候補たちはどこにいるんだ? 」
おれさまは、蜜柑の葉の裏を眺めまわった。
お目当ての美幼虫たちが、ナキアから隠れて潜んでいるはずだった。
「まぁー嬉しい、ラムセスさま。あのナキアを追っ払ってくれたんですね。
みなさま、良いお知らせよ! これで、安心してたくさん美味しい蜜柑の
若葉が食べられますわ! 」
ギュゼルを見つけて先ほどの顛末を知らせたおれさまの周囲には、
いつのまにか美幼虫たちが集まっていた。
おれさまは得意げになって、みんなに花嫁にならないかと誘ってみた。
「きゃぁー! さすがラムセスさま。だけど、残念だわ〜。
あたし、あなたの花嫁にはなれないの。カッシュと約束してるのよ〜。
共に大人のチョウになったら結婚しようって! 」
<さて、だれでしょうか? (^○^)>
「あたしたちもなの。ちょっと頼りがいがなさそうなキックリだけど……、
あたしたちチョウになったら、双子の子供たちができる卵を産むつもりなの」
<大変だね! キックリ(^○^)>
「私は、違う蜜柑の園へ向かうつもりだ。セルト、イシン・サウラ、
おまえたちはどうする? 」
<イルに良く似たお姫さま>^_^<>
「わたくしは、ここでひっそりと暮したいですわ」
<おとなしくなったセルトさま(^_-)>
「わたしは・・・・あなたの花嫁になってもいいわね〜」
<やはりナッキーの一族だね〜(^_^;)>
「あら、わたしこそ、花嫁にして〜! 」
「わたしがなるのよ! あなた、邪魔! 」
「なんですって! キィ〜」
<変わってないね、このおふたり・・・・(^_^;)>
「あたしは、ここでたくさん食べられるなら、それでいいわ」
<金と同じ食いしん坊、ウーレさま(^○^)>
ふたりの激しい喧嘩を横目に、おれさまはある娘を探していた。
たしか、もう青い芋虫になっているはずなのだが……?
「ふぅ〜、ハディ。まだ食べなきゃだめなの? 」
「はい、そうですわ。たくさん食べて、早く青い姿におなりください。
そうしなければ蛹(さなぎ)になれず、りっぱなチョウにはなれませんわよ」
ハディとあの娘の声だった。
娘は、まだ地味な茶と白のまだらな姿のままだった。
これは、敵に鳥の糞だと錯覚させるために良く似せた姿なのだが、
彼女には似合いはしないものだった。
「ユーリ、おれは待ってるんだがな〜。早くチョウになれよ。
そうすれば、おれさまの花嫁にしてやるぜ〜」
「べぇ〜だ。だれがプレイボーイのあなたなんかの花嫁になるもんですか。
あたしにも、理想ってものがあるんですからね」
いま、おれさまが一番に眼をつけているのは、このユーリだった。
小柄でお転婆だが、知恵もあり躍動的な彼女がなぜか気にいっているのだ。
「ぎぇ〜〜、助けてくれ〜!! 」
ナキアのけたたましい声がした。
「始まったなぁー」
「えっ? なにが始まったの? 」
おれさまの声に、ユーリは驚いて悲鳴と音がする方を覗いてみた。
ドテッ!
太った青いナキアの身体が、地表に落ちた。
その上では、金と黒のすらりとした美バチがひとり下を見下ろしていた。
それは世にも恐ろしい、チョウの幼虫だけを狩る狩人バチの男だった。
だが狩りをするのは、女だけのはずなのだが・・・・。
「どうです? 気にいられましたか? ネフェルティティさま」
「そうね〜。こんなに栄養豊かだったら、子供はぜったい飢えないわね〜。
ありがとうよ、ウルヒ」
<あのウルヒが・・・・! (-_-;)>
ユーリは青くなって、身を隠した。
落ちたナキアの上には、女の狩人バチがいたのだ。
ネフェルティティは暴れまわるナキアを押さえると、素早く身体のツボ数ヶ所に
長い麻酔針を差しこんだ。こうすれば仮死状態になって、
将来の子供たちに美味しく食べてもらえるのだ。
「あぁ〜ん。怨むぞよ〜! 金め! 」
<ひぇ〜〜、隠れなきゃ〜(>_<)>
そう断末魔を残したナキアは、長い眠りについていった。
「さっ、よいしょ。ウルヒよ、手伝ってちょうだいな。重すぎて、
巣穴に運びきれないわよ」
爽やかな潮風が、何事もなかったかのように通りすぎていった。
あれから十日がたった。
丘では蜜柑の花が散り、若葉が青く大きく繁っていた。
今朝あたり、美幼虫たちは蛹(さなぎ)の眠りから覚めて華麗なチョウの姿に
なっていることだろう。おれさまは、どんなことばを囁いて落とそうかと思案しながら、
彼女たちを探しまわった。
「あらっ、ラムセス。遅いご出陣で……」
美しくなったハディ・アゲハチョウに出逢った。
「しまった! 遅かったか〜! 薔薇園で遊びすぎたか〜……。
ユーリはどうした? みんなは、行ってしまったのか〜? 」
「そうね〜。アクシャムをのぞいては、みんな無事にきれいに羽化して
旅立っていったわよ。ユーリさまの件は、お気の毒さま〜。
そこの百合の花を覗いてみなさいよ。とてもすばらしい御方とご結婚されたのよ〜」
おれさまは、慌てて白い百合の花へと行ってみた。
そこには、エナメル質の緑の鱗粉を散りばめた漆黒の羽を持った
カラスアゲハのふたりが、仲良く抱きあっていた。
「こ、こいつ〜! ユーリはおれさまの花嫁だ〜! 」
「なんだと、無礼な! ユーリは、もう私の正妃なんだからなっ! 」
「ふん、おれさまは認めちゃいないぜ。よし、いいだろう。カイル、決闘だ〜!! 」
戸惑うユーリとハディの前で、終わりのない闘いがはじまろうとしていた。
ラムセス〜金へ・・・・
「どうして、今回はおれさまが貧乏くじ引かなければいけないんだよ!
見つけたら覚悟しておけよな、金! 」
金・・・
「ひぇ〜〜ねねさん、どうかかくまって下さいませ〜(>_<)」
<完>
***
ねねはデカイので、金さんはすっぽり隠れてしまうかも(笑)。
ほのぼのとしたお話をありがとうヽ(^。^)ノ
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