オリエント急行殺人事件?BYまゆねこ

注;尚この小説はアガサ=クリスティー作「オリエント急行殺人事件」とは何の関係も
  ありません。悪しからず(^^;)

前章   出発の朝
第1章  急行内部にて
第2章  珍客万歳
第3章  招かれざる客
第4章  オリエント急行の熱い夜
第5章  対決!エジプト国境
第6章  続・熟女対決
第7章  一路エジプトへ
終章   決戦!ラムセス城


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                     〜出発の朝〜

 ハットゥサの冬の朝である。王宮の眼下に広がる新しいプラットホームをながめながら
カイルは支度に余念がなかった。
「陛下、お時間でございます。」側近イル=バーニが声をかける。
「開通記念式典は9時よりハットゥサ中央駅にて始まります。」
そう、今日は記念すべきオリエント急行、ハットゥサーメンフィス間の開通式であった。
「うむ、記念すべき日に皇帝が遅れるわけにはいかないからな!」
と言いつつカイルはそわそわしている。鼻歌なんか歌いながらその鼻の下は長い(-_-;)
「どうせユーリ様の今夜のパーティのドレスのことでも考えているに違いない!全く
これだから陛下は・・・」
イル=バーニの悩みはつきない。
「陛下、お言葉ではございますが、あのナキア皇太后が式典のテープカットだけで満足
するとは思えません。きっと何かしかけてくるに違いないのですが。」
そう、ナキアはテープカットの大役は務めるものの列車の賓客となる栄誉は与えられなかった。あえてカイルがそうしたのだが、(黒い水を入れられると困るもんで)
宴会好きの彼女がこれを恨まないわけがない・・・
「そう言えば、この頃ウルヒも姿が見えないようだな?まあイル一応注意はしてくれ!
キックリ!今夜のタキシードの用意だ!胸ポケットに百合を忘れないようにな!あと私の
選んだユーリのドレスを忘れないようにとハディに伝えろ!」
やっぱり思った通りだ!いくらユーリ様が服装に関心がないからと言って!
しかしオリエント急行!これは殺人事件の臭いがする。
ここはひとつヒッタイトの「イルキュール=ポアロ」と言われた灰色の脳細胞を駆使して・・
そう思いながら、すっかり口ひげまで用意して探偵気取りのイル=バーニであった。

 ハットゥサ中央駅に列車がすべりこんできた。車体は金の縁取りのあるマホガニー製!
車輪は特注の鋼鉄製の皇帝専用列車であった。
 紅白のくす玉のわれる中、テープカットが行われた。ハサミを持つのは見事な白塗り!
鈴木その子真っ青の厚化粧・・いや着飾ったナキア皇太后であった。心なしか顔が青ざめているようであったが、その後ろにユーリと並んでご機嫌なムルシリ2世の姿があった。
「皇帝陛下、イシュタル様!開通おめでとうございます。」
「うむ、ヒッタイトとエジプトから同時に列車が出発するのだ。その第1号に乗るのが私、
いや私達と」いうわけだ。」
 皇帝専用列車に乗るそうそうたるメンバーとは?ムルシリ2世、ユーリ=イシュタル
ザナンザ皇子、側近はイル=バーニはじめキックリ、ハッティ3姉妹、カッシュ、ルサファ
ミッタンナムワの3隊長などだ。

 カイルの横で笑顔で民衆に応えるユーリ!しかし・・
「おい!ハディ。ユーリのあの姿は何だ!私の選んだとっときのドレスじゃないじゃないか」と小声で囁くカイル!確かにユーリはいつもの短い上着にマントだった。
「でも陛下!ユーリ様が式典はぜひイシュタルのお姿でと!」
「私の用意したカクテルドレスかイブニングドレスは入れたのだろうな!胸の谷間が見えるセクシーでいて清楚な服!もちろんずり落ちるといけないから肩紐もついた奴だ!」
「御意にございます。陛下」全くうるさいんだから!と密かに考えるハディ!
「兄上、そんなにあわてなくても、ユーリのドレス姿は今夜見られますよ!きっときれいだろうなあ!エスコートはぜひ私にさせてください」とザナンザ。
「いや、それは私だ。それよりザナンザ!まさかとは思うが、皇太后の所からばら色の水
なんか持ってきてないだろうなあ。」
「いやだなあ兄上!そんなことあるはずないじゃないですか。」
と言いつつ、ちょっとぎくりとするザナンザ!まさかね(^^;)?

全く!これで大ヒッタイト帝国の皇帝と言えるのだろうか!せめてエジプト国境までは無事行けるといいが・・
一人灰色の脳細胞を悩ますイル=バーニの姿があった。

こうして人々の様々な思惑を乗せてオリエント急行は出発した。

 

 

                            <第1章>

                    〜急行内部にて〜

「まあ!なんて素敵なの。カイル!」ユーリは思わず叫び声をあげた。
「皇帝専用の特別室だ!もちろん私とお前専用のな!すごいだろう」
特別室の内装はもちろんマホガニーに漆!ベッドは金の縁飾りのついた天蓋つきである
「こんなに立派な部屋なんてバチがあたりそう。私にはもったいないよ!」
そう言いながら、コースター、便せん、洗面キットなどオリエント急行のマークのついた物
をいそいそと鞄に入れるユーリ!
(オイオイ、イシュタルが誰かみたいなせこいまねしないでよ(^_^;)

「ユーリ様お召し替えのお支度ができました。」続き部屋からハディが声をかける。
それを合図にユーリは隣の部屋へ、だがその時・・
「きゃああ」とシャラの声!
「何事だ!」とカイルも声のする方へと来た。
「ユーリ様のお召し物が、お召し物が!」
何と!カイルが見立てたユーリのドレスはひとつ残らずなくなっていた。その代わりに
全て薔薇模様のありとあらゆるドレスが入っていたのだ!
「皇帝陛下!どうかなさいましたか?」騒ぎを聞いてイル=バーニも駆けつけた。
「こ、これは!陛下、やっぱりあの男が!」
「うむ、認めたくはないが、やはりそのようだな!」とカイルもうなずく。
イル=バーニの灰色の脳細胞はすぐさま働きを始めた。
「3姉妹列車内で怪しい人影を見なかったか?」
「そういえば、さっき洗面所で真っ赤なキモノのようなガウンを着た人物とすれ違いました」
「その人物の顔は?」
「いいえ!見ませんでしたが、そのキモノは薔薇模様だったのを覚えてます!」
「それだ!」カイルとイル=バーニは同時に声をあげた。
やはり薔薇男ラムセスがこの列車内に!
「許せん!ラムセス!私の楽しみを粉々にしおって」
カイルの怒りとともに事件の予感のするオリエント急行であった。

 

                            <第2章>

                      〜珍客万歳〜

 何時間か後オリエント急行は自由交易都市マラティアに到着した。
交易都市だけあって、開通間近にも関わらず、乗客やポーターの往来でごった返して
いた。

 その様子を見ながらカイルとイル=バーニは相談をしていた。
「さすがは自由交易都市だけあってマラティアは栄えてますな。しかし陛下、急行と
名がつくにしては、いやに停車駅が多くないですか?」
さすがはイル=バーニ!チェックが厳しい!
「コホン!いや各地の知事の陳情合戦が激しくてな。まあ皇帝専用車に金がかかった
ことだし・・・」やや言葉を濁すカイルであった(まさか袖の下??)

 しかし人混みの中、黒いマントに身を隠した人物が密かに列車に乗り込んだことに
カイルはもちろん、イル=バーニさえも気がつかなかったのである。

 やがて日が落ちて、列車内にてヒッタイト帝国主催の開通記念パーティーが行われる
時刻となった。すでに正装に身を包んだ紳士淑女が食堂車に集まっていた。
「ヒッタイト帝国皇帝ムルシリ2世陛下及びイシュタル様のおなりにございます。」
タキシード姿のカイルと腕を組みイブニングドレスに身を包んだユーリが現れた。
会場は、われんばかりの拍手!だがしかし・・

「イシュタル様のドレスと陛下のタキシードが不釣り合いではないですか?」
「そう言えば、確かに・・・」
「イシュタル様のドレスは陛下の好みと違うようですな。」
「最近お2人は仲がお悪いのでは・・・」
会場から洩れるささやき声!
ユーリの赤と黒のレースの派手な薔薇模様のカクテルドレスに対し、シックなカイルの
タキシードはいかにもしっくりとこない。胸に一応薔薇をさしているのだが、色は白なのでユーリのドレスと合わないのだ。不仲説まで流れる2人(^_^;)

「カイル!あたしこんな下品で趣味の悪いドレスやだよ」とユーリ
「仕方ないんだ!ドレスは全部すり替わってたんだから!それでも一番ましな奴を
 選ばせたんだがな!私だって胸元の薔薇は不本意なんだぞ!」
 本当は豪華なカサブランカのブトニアをつけるつもりだったカイル・・・
 ちなみに間に合わせに選んだ薔薇は食堂車の花瓶から失敬したものであった。
「兄上!いったいどうしたんです?趣味のよい兄上が選んだとは思えないドレスですね!
 ユーリにはもっと清楚な服を着せるつみりだったんじゃないですか?」
兄と同じくタキシードのよく似合うザナンザ皇子が言った。
「ちょっとしたゴタゴタがあったものでな!お前だって白のカトレアを胸につけるつもりだったんじゃあ?どっちにしろ今夜のユーリには合わないぞ!」
ムッとするカイル!

 その時キックリが今夜の招待客を読み上げ始めた。
「アルザワ女王陛下ならびにアレキサンドラ王女殿下」
女王の威厳のあるドレスを着た女王とキャミソールドレスに底の厚いサンダルをはいた
コギャル風の王女がカイルとユーリのそばへ近づいた。
「お姉さま!お久しぶり〜会いたかった」王女がユーリにとびついた。
「アレキサンドラ王女!あなたも来たんだね!でもずいぶん・・・」
茶髪(もともとそうか(^^;)の髪にペチャパイの彼女にはキャミソールドレスはたしかに
よく似合っていた!(でもちょっとガングロかも!)ユーリは思った。
「ほほほ!まだこの子には正式なドレスは早いと思って」
心なしか女王の笑いはひきつっていた。

「カタパ市長クルク殿、ならびにカタパ駐在隊長、医師殿」
「わあ!クルク!久しぶり。元気だった?それにあの時のお医者さんとヒゲの兵隊さんも」にせイシュタルの正体を暴きにカタパへ行った時、ユーリを助けてくれたクルクは父のあとをついで市長となっていた。3人ともスーツがまだしっくりせず七五三のようであった。

「ハッティ族族長タロス殿」
「父さん!」はずんだ3姉妹の声があがった。
「お招きありがとうぞざいます。皇帝陛下、イシュタル様!」
「カイル!タロスも招待してくれたんだね!」ユーリも嬉しそうだ!
「タロスの今までの働きをねぎらおうと思ってな!3姉妹も喜ぶだろう」とカイル。
パーティが初めてのタロスは山高帽をかぶり、ステッキを持っていた。慣れないせいか、ドタ靴をはいている。(チャップリンじゃないつーの!)

「やれやれ、ずっとむくれていたがこれでユーリもやっと機嫌を直してくれたようだな」
久しぶりに懐かしい顔に会えてはしゃぐユーリにカイルはほっと胸をなでおろした。 

 その時であった。
「ムルシリ2世、ユーリ久しぶりだな」
背後で聞き覚えのある声がした。         

                            <第3章>

                 〜招かれざる客〜

 カイルとユーリが振り向くとそこには一人の男が立っていた。
長身で黒髪を後ろに束ね顔の真ん中に傷のあるその男は大きな襟のついた黒いマント
をはおっていた。
「黒太子・・・・!」思わずカイルはつぶやいた。
「お前いつの間に吸血鬼に転職したんだ?」(ズコッ;黒太子のコケル音)
まあ確かに黒マントに黒い燕尾服は吸血鬼に見えないこともない!?(^^;)
「相変わらずだな!カイル=ムルシリ!ミタンニ滅亡の折は世話になったな!」
「ナディア妃の故国バビロニアへ亡命したと聞いていたが・・・婿入りして尻にしかれて
いるんじゃないのか?」
「よけいなお世話だ!お前なんかどうでもいい!それよりユーリ!しばらく見ない間に
きれいになったものだ。私の額飾りをチョーカーにしてくれているとは嬉しいぞ!
そのドレスによく似合っているな!」
 黒太子の言うとおり、ユーリのチョーカーは黒い宝石なので黒と赤の薔薇ドレスに合わないこともないが・・・・

「黒太子、あの時は助けてくれてありがとう。元気そうでよかった。」
黒太子に会えてユーリもまんざらでなさそうである。そこに割って入るカイル!
「気安く話しかけるな!ユーリはわたしのものだ!それより黒太子、私はオリエント急行
の客にお前を招待した覚えはないのだが、いったいどうやって潜り込んだのだ?」
「私は今はバビロニアにいるのだから、王の名代としてに決まっているだろう!
 うるさいぞ!」ちょっとあわてる黒太子!
「そうか?それにしてはナディア妃がいないのはどうしてだ?キックリ!招待客のリスト
 をもう一回調べてみろ!」
キックリは急いで名簿を確認する。そして
「バビロニアの名代は今回は参加していませんが・・・」
「全く!呼ばれもしないのに来るとは図々しい奴だな!さっそく次の停車駅で降りて
 もらおう!」

「お言葉ですが、陛下。この列車は明日の朝のカルケミシュまでとまりませんが」
イル=バーニが口をはさんだ。
「黒太子、ちょっとお伺いしますが、ユーリ様のお衣装のすり替え、または洗面所で赤い
キモノ姿で通ったのは、あなたですか?」
「いや私はちょっと前にマラティアで乗ったのだ!そんなことをする暇はない!それに
 ユーリのドレスなら、もうちょっとマシな物を選ぶぞ!」と黒太子。
「念のためです。失礼しました。黒太子、あなた様のコンパートメントは一等車になりますが、それでもよろしいでしょうか?」イル=バーニが聞いた。
「こんな奴のために部屋なんか用意することはない!荷物室でもほうりこんでおけ!」
「カイル!黒太子は私を助けてくれたんだよ!それに滅んだとはいえ一国の王子だったん
だからそれなりの待遇をしなきゃ!」とユーリ。
「相変わらずユーリは優しいな。忍び込んでまで会いに来ただけのことはある。」と黒太子

「犯人は黒太子でないとすると、やはりそうか!取りあえず特別室には厳重な警戒がしいてあるが・・・」なぜか?口ひげをつけて灰色の脳細胞を働かせるイル=バーニ。

 その時、なぜか食堂車の天井にあるミラーボールがくるくる回りだした!
「おい!キックリ!私は食堂車の内装にミラーボールをつけろと言った覚えはないぞ!」
とカイルが言ったとたん!

 薔薇がからまったゴンドラがするすると降りてきた!
(狭い列車内でどうやって?とは聞かないでね!)
「ユーリ会いたかったぜ!ベイビー!俺のために薔薇のドレスで装ってくれるなんて
 嬉しいぜ!」
ついに現れたラムセス!おまけにド派手な薔薇模様のタキシードなんか着てる(^_^;)
「やっぱり、ユーリの衣装をすり替えた犯人はお前か!どこまでも私の邪魔をしおって!
相変わらず許せない奴だ!」黒太子のこともあって怒り心頭のカイルであった。
「何だかんだ言って今日のユーリの衣装に一番合ってるのは俺様だね!ユーリやっと
 未来のファラオの后になる決心がついたようだな!」
 図々しくもユーリのそばにやって来て肩まで抱くラムセス!
 手にはたくさんの薔薇の花束をかかえている。どよめく乗客達!
「まさかイシュタル様は陛下からこの男に乗り換えられたのか?」
「新しい間男の一種であろうか?」思わず洩れるひそひそ声!
さすがにユーリも堪忍袋の緒が切れた!
「ちょっと!気安くさわらないでよ!こんなドレスにすり替えて!あたし怒ってんだからね」
バッチーン!平手一発!ラムセスのほおにユーリの手のあとがついた。
「相変わらずのじゃじゃ馬だぜ!そんなとこが気に入ってんだけどね!」
チュッとラムセスはユーリにキスした!相変わらず手の早い奴!

「そいつを逃がすな!つかまえろ!」カイルの命令がとび、兵士達が右往左往している。
だがラムセスは
「へっへーんだ!ユーリ今度はお前を丸ごといただきに来るからな!楽しみにしてろよ!」
さすがに逃げ足だけは超一流である。

「いったい今のは何だったんだ!」あっけにとられる乗客達!
それをじっと見ていた黒太子!
「うーん私よりできる奴!ラムセスか!」妙に感心している様子であった。

こんなことではオリエントの、いやオリエント急行の未来は暗い(^^;)

 

                      <第4章>

              〜オリエント急行の熱い夜〜

 お騒がせ男ラムセスが退場した後、列車内ではあわただしく携帯で連絡をとるカイルの
姿があった。
「もしもし、こちらはオリエント急行のムルシリ2世だ!至急電話をカルケミシュのマリにつないでくれ!」
電話の相手は明日の朝着く予定のカルケミシュにいる弟のマリ殿下であった。
「もしもし兄上、明日お着きの予定ですね。どうなさいましたか?」
「マリ、急ですまないが、ユーリに似合うドレスを10着ほど用意してくれないか?
できれば清楚な百合のイメージでしかもセクシーな服を!」
「そんな!兄上、急に言われても難しいですよ!いったい何があったんです?」
相変わらず注文の多いカイルである。
「まあ、いろいろトラブルがあってな!できるだけ注文に近い物を頼む!じゃあ」
そう言って電話を切ったカイルの後ろでザナンザがつぶやいた。
「ああ見えて兄上は人使いが荒いからな!そのおかげで一緒に育った私はどんなに
苦労したことか!今回はマリがパシリか!気の毒に」

 夜が更けて来た頃、イル=バーニがカイルに声をかけた。
「陛下、そろそろお部屋の準備ができました。先ほどのこともありますので、ユーリ様を
お一人になさいませぬよう!またラムセスが現れる恐れもありますので!」
「そうだな!ユーリ、ではそう言うわけで一緒に風呂に入ろうか?」
「ちょっと!何言ってんのよカイル」
「何を今さら恥ずかしがってるんだ!私がすみずみまで洗ってあげようか!」
「バカ!カイルのエッチ!」バシッとユーリの平手がカイルのほおにとんだ!
「おい!お前最近性格きつくなったって言われないか!」
真っ赤になったほおをさすりながらカイルが言った。
「デリカシーないんだから!お風呂はハディ達に見ててもらうからいいの!」
そう言いながらユーリは怒って3姉妹達と先に部屋へ行ってしまった。

「兄上!女性はムードが大切ですよ!後で風呂上がりのユーリを連れて展望車のバー
へでも行かれたらどうですか?」とザナンザ。
「ありがとうザナンザ!そうするよ。ユーリのドレスが気にいらないけどな!」
残りのドレスもラムセスのせいで全て薔薇模様であったのだ。

 だが、ザナンザの一言でカイルは気を取り直し、お風呂から出たユーリを誘って展望車へと向かった。
 オリエント急行の展望車は一番後ろの客車にありバーを併設したぜいたくな造りとなっていた。天井はガラス張りでオリエントの満天の星空が見えるしかけとなっている。
「ワー、カイル何てすてきなの!ロマンチックだね!」
天井に広がる星空を見ながらユーリがつぶやいた。
「この天井の星空は全てお前のものだ!そしてお前は私のものだ!」
さすがにプレイボーイでならしただけあってカイルはくどくのがウマイ!
ユーリはすっかり機嫌を直してカイルにもたれかかっていた。

さらに酒の勢いも手伝っているようで、
「カイルあたし酔ったみたい」ユーリはもう立っていられないようであった。
「私もお前に酔っている。更に酔わせてくれ」
そう言ってカイルはユーリを抱き上げて部屋に連れていった。
「この薔薇のドレスは私が脱がせてやろう」相変わらず脱がせ上手なカイル!
そしてその後は(^^;)・・・
(想像通りです!もちろん)

オリエント急行の熱い夜は静かに更けていくのであった。
(今度こそは何ごともなければいいが;カイル談)  

 

                            <第5章>

                      〜対決!エジプト国境〜

 朝靄の中をひたすら南に向かって走るオリエント急行はやがて、大河ユーフラテス河岸
の城塞都市カルケミシュに着いた。

 カルケミシュ駅構内にて目の下にくまをつくって列車を出迎えるマリ=ピアシュシュリ皇子の姿があった。
「殿下、朝早くからお出迎えありがとうございます。」イル=バーニが深々と頭を下げた。
「兄上、いや陛下の頼みとなれば仕方ない。注文通りイシュタル様のご衣装をそろえて
みたのですが、陛下はどちらでしょうか?」疲れた様子でマリが答えた。
「いや陛下はまだお休みなので、殿下はしばらく列車内でおくつろぎください。
さぞお疲れでしょうから!次のハレブでテリピヌ殿下もお乗りになりますし」そう言ってイル=バーニはキックリと目配せをして、深いため息をついた。

 その頃カイルは特別室でユーリとともに、ようやく夢心地から目覚めつつあった。心地よい疲れと満足感に浸って!
「カイル、もうそろそろ朝じゃないのかな?起きなくちゃ!」ユーリが腕の中で言った。
「まだいいだろう。もう少しこのままでいても!」そう言ってカイルが起きようとするユーリを
もう1回押し倒してキスしようとした時であった。
「陛下!そろそろお目覚めの時間です。もう小一時間でエジプト国境ですので、そろそろ
お支度をしませんと!」
「キックリか!無粋な奴め!」カイルはそう言ってしぶしぶ起き始めた。
列車はシリア砂漠の中を国境の街エネサに向かってひた走っていた。

 それからしばらくたって、オリエント急行はヒッタイト、エジプト国境の街、エネサに到着
した。エネサ駅はオリエント急行開通の祝賀ムードで沸き返っていた。
 やがてエジプトからの特別列車も到着してエジプト王ホレムヘブが降り立った。

「ムルシリ2世、久しいな!」ホレムヘブが口を開いた。
「ホレムヘブ王か。夕べはお前の部下のラムセスが思い切りお騒がせしてくれて」とカイル。
「そんな奴に忍び込まれる方もほうだぞ!」と、2人とも民衆の前ではにこやかに握手を
かわしているように見えたが、実は背中をつねり合っていた。
(何てことしてんの?)


 やがて記念式典が始まり、いよいよエネサ駅におけるテープカットが始まろうとした
その時、
「このような晴れがましい日にわたくしをさしおいて式典を始めようとは」
ヒッタイト、エジプト両方の代表の後方から声がした。

「ひえ〜出たあ!」思わずカイルとホレムヘブが同時に声をあげた。

 何とヒッタイト代表の後方にはナキアが!エジプト代表の後方にはネフェルティティ王太后が立っていた。
「ホッホッホ!ネフェルティティ王太后一度あなたにはお会いしたいと思っていました。
でもあまりにも名前が長いからネッチーとでもお呼びしようか?それならさしずめわたくしはナッキーとでも言おうか?」とナキア!
「何を言うか!いい年こいてナッキーとはさわやかすぎないか?(まるで生徒諸君!の
主人公古ーい!)わたくしがネッチーならそなたはナッチーではないか!」とたんに激しいバトルが始まった!しかしナッチーとネッチーなんて一度恨みを買ったら
七代たたられそう(^_^;)

 突然始まった熟女対決にまわりは圧倒されそう!おまけに砂漠だというのに空には暗雲にわかにかきくもり・・・・
「エジプト王、ヒッタイト皇帝両陛下、どうかこの場をお収めください!」
あまりのすさまじさに回りの人々はカイルとホレムヘブに懇願した。
「いかにオリエント広しと言え、あの女達2人に勝てる者がいると思うか?」とカイル。
「その点では珍しく意見が一致したな!ムルシリ2世!」とホレムヘブ。
なんて言ってる場合か!
 
そうしてる間にどんどん熟女2人のバトルは白熱!
「ヒッタイトの皇太后はまるで鈴木その子ばりの厚化粧ではないか!その点わたくしは
死海の泥エステでお肌の手入れをしているのじゃ!」とネッチーが言えば
「死海は何も住まぬ海ゆえ何もかも死滅するのじゃな!わたくしは特製の水を調合した化粧水を使ってるのでそんなことはないぞ!」とナッチー!でも黒い水や白い水の元だから
ろくな物じゃないって!

 2人で思う様悪口をいや論議をしたあと、最強熟女達のほこ先はカイル達に向けられた。
「ヒッタイト皇帝ならびにエジプト王陛下、もちろん今夜の合同パーティには、わたくし達
も招かれるのであろう?」
「い、いやそのう・・・」男2人はしどろもどろで、もちろん2人の参加をいやおうなく認めさせられてしまったのであった。(んもう!情けない奴!)

 さて宵闇がせまり、ヒッタイト、エジプトの開通記念合同パーティの時間が迫っていた。
心ならずも参加を認めてそまったが、ここは国のメンツをたてて・・・とカイルは準備に余念
がなかった。
「まあ、今夜は久々にユーリの着飾った姿が見られるからいいとするか・・・」
と、カイルは自分で自分を慰めていた時、部屋をノックする音がした。ユーリであった。

「あの〜カイル。言いにくいんだけどさ、あたし今夜のパーティ欠席してもいいかな?」
あまりの突然の言葉にびっくりするカイル。
「何だって!私の未来の正妃たるイシュタルが出ないなんて!そんなこと許されるはず
 がないだろ。」
「だってカイル!今夜の主役はナキア皇太后とネフェルティティ王太后の2人だよ!
 それにあたしはもうエジプト王妃と相談して決めたんだから!」

 その晩、そのかたわら愛するユーリの姿もなく、パーティの席で思いっきり
仏頂面をしながら、グラスを飲みほすタキシード姿のカイルがあった。
 対照的にこれでもか!とばかりに着飾って、ひびのいりそうな厚化粧をほどこし、
年に似合わず露出度の高い、ド派手なイブニングドレスを着る熟女2人!
まるで小林幸子と美川憲一の衣装比べのようであった。
「よく電飾をつけなかったもんだ!」とは周りの密かな声である!でも近寄ると恐いから
半径5メートルは立ち入り禁止!(^^;)

「陛下!ナキア皇太后にお気をつけください。」となぜかつけひげをつけたイル=バーニ
がささやいた。
「ネフェルティティ王太后に例の水を一服盛るかもしれません!」

果たして、ネフェルティティ王太后の顔色がみるみる変わりだした。
やはりこれもナッチーことナキアの陰謀なのだろうか?

 

                           <第6章>

                        〜続・熟女対決〜

 「ううっ、ナッチーめ」と苦しそうに王太后が言った。
「例のわけのわからぬ水とやらを入れおったな。」
「ふっふっふ!オリエントの女王は私1人でよいのじゃ。」
と、勝ち誇ったようにナキア。

「大変です。陛下!王!医者を呼ばねば」イル=バーニがあわてて叫んだ。
「いや、待てイル。王太后の様子をよく見てみろ!」とカイル。

見ると、王太后はかすかに薄笑いを浮かべていた。
「何と!これがそなたの水か!たわいのないものよ!」
「何!なんだと」これにはナキアもびっくりした。
「エジプトがどこにあると思うか?アフリカ大陸じゃ!梅毒スピロヘータをはじめ、エイズや
エボラ出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱の本場でもある。それらに免疫のあるわたくしに、
そなたのただの水ごときが通じると思うてか!」
と高笑いをする王太后!そんなにいばれることじゃないのに!
「この〜、どこぞのやくざな臨床検査技師の受け売りみたいなことを言いおって!」
お株を取られて悔しそうなナキア!

「姉上!ミタンニを出て以来何というお変わりよう!わたしは恥ずかしいです!そんなこと
を思いっきり言うなんて!」涙を流しながら黒太子が言った。
「ええい黙れ!ドラキュラを弟に持った覚えはないわ!そなたにはこの時代、まだ辺境の
トランシルバニアでも行ってこうもりと暮らすのが似合いよ!」
「ひどい。あんまりです!姉上」黒太子は泣かんばかり!
「う〜ん。それはあまりにも合ってるかもしれないな!おい、黒太子!帰りはイスタンブールあたりまで送ってやるから安心しろ!」とカイル。

そう言っている間にもまたまた熟女2人の対決は激しくなり、
「おっと!ここでナッチーは蛇に変身した。おおネッチーはと言えばむかでに変身して対抗
する気だ!さしずめ妖怪蛇女とむかで女郎と言うところか!これはスゴイ」
と司会者の口調も古館一郎調になる始末!

「おっと!これはいかん!収拾がつかなくなってしまうぞ!」とホレムヘブ。
「王、いったいどうする気ですか?」とカイル。
「ここは年の功でわしに任せろ!おい、2人ともよく聞け!明日自分の国へ帰る時には
我らが使ったオリエント急行の特別室を使うがよい!」

「えっ!それは本当か?」たちまち激しいバトルがやんだ!
「オリエント急行の特別室を私達が使えると?」途端に2人は仲良くなって
「やっぱり金持ちけんかせずよね!」と喜び合っていた。

「おい!ホレムヘブ王。何てこと言うんだ!」カイルは怒っていた。
「あのまま続いたら、ハルマゲドンになるところだ!ムルシリ2世!これもオリエントの平和のためだ!お互い我慢しよう!それに明日からは列車を乗り換えてお互いの首都まで
行ってくるんじゃないか。」さすがにだてに年はとっていない!

「そうか!明日からはエジプトか!平和のためとは言え、変なことを約束したものだ!
エジプトとヒッタイトの王と皇帝が相手の国へ旅行するなんて!」明日からのエジプト行き
を考えると頭がくらくらするカイルであった。

 次の朝エネサは雲ひとつなく晴れ渡っていた。
この国境でお互いの国の電車を乗り換え、ヒッタイト皇帝はエジプトへ、エジプト王は
ヒッタイトへと国賓として招かれる予定であった。

「では、ザナンザ!ホレムヘブ王とナキア皇太后のお世話をよろしく頼むぞ!」
とエジプト行き列車に乗り換えるカイルが言った。
「えっ兄上!そんなあ!私が接待役なんですか?私もエジプトへ行きたかったです。」
「黙れ!本当はお前はもう死んでいるんだからな!まあせいぜい機嫌をとってくれ。
ユーリ、では行こうか。」とカイルがユーリと列車に乗ろうとすると、

「俺がエジプト側の接待役だ!よろしく!皇帝陛下!」と声がした。
「ええっ何だって!」カイルとユーリが同時に声をあげた。

 

                           <第7章>

                      〜一路エジプトへ〜

 なんと!そこには派手派手しく薔薇をしょったラムセスが立っていた。
「エジプトに着くまで俺様が接待の責任役だ!よろしくな!ユーリ」
「ぬわに〜!私は聞いていない!聞いてないぞ!」
頭にきたカイルは思わずホレムヘブの胸ぐらをつかんだ。

「一応エジプトの将軍だから地位には不足あるまい!何、単なるわしの嫌がらせさ!
 まあ気にするな」
ホレムヘブ王は涼しい顔をしてカイルには気をとめず、嫌そうなザナンザを連れて
ヒッタイト行きの列車に乗り込んだ。ルンルン気分のナキアも連れて!

「まあ!そゆことでムルシリ2世よろしくな!ユーリは俺が身も心も優しく接待してやるから別にあんたは好きにしてていいぜ!」とラムセス!
「うるさい!私達に構うな!全くこんなことじゃお前なんか接待係じゃなくおせっかい係だ」
カイルはぷんぷんしながらユーリとエジプト行き列車に乗り込んだ。もちろんラムセスも
おまけについて!

「ゲエッ!何だこの内装は!」思わずカイルは叫んだ!
何と、エジプト行き列車の内部はきんきらきんの金箔張り、ヒエログリフのあのエジプト模様でいっぱいだった。
「本当!何かツタンカーメン王の墓の中みたい!」ユーリが言った。
(よくエジプトの紹介で見られるツタンカーメンの墓の内部を思い出してもらいたい!)
「ふん!単なる成金趣味さ!ホレムヘブは成り上がりだからな!」
ラムセスが言った。
「あーあ!せっかくの特注のマホガニー製の列車に乗ってこれないなんて!」
カイル思わずため息!ヒッタイトの列車はエジプト領を走れないのだった。
「まあ、この列車内には俺特製のラムセスの部屋もあるので楽しみにしてろよ!そこで
薔薇の衣装ってのはどうだ?」とラムセス。
「よけいなお世話!どうせ薔薇だらけの部屋でしょ?それにあんたのドレスにはこりごり
なんだから!」ユーリは本当に嫌そうである。
「なんなら、エジプトの衣装だっていいぜ!」
「断る!ユーリはヒッタイトのタワナアンナになる女だ!それにあんな露出度の高い服
着せられるか!」カイルがたまらず口を出した。
「ふん、自分だってユーリの胸の谷間が見えるドレスを楽しみにしていたくせに!
 いいじゃんか!減るモンじゃなし!」とラムセス。「なにを!」とカイル。
「ちょっとちょっと、着るほうの身にもなってよ!あたしはもうドレスはこりごりなんだから!」とユーリは怒っていた。


 そこへネフェルティティ王太后がやって来た。特別室をせしめただけあって、すこぶる機嫌がよろしい。
「まあまあ、皆の者。そろそろ夕刻も近いことだし、食堂車へでもどうじゃ!」
「そこは少しはこの内装よりマシでしょうか?」とカイル。
「まあまあじゃな。」と言って王太后は言葉を濁した。
「陛下、とりあえず一等コンパートメントへどうぞ、とのことです。」とハディが言った。

 カイルとユーリはやっとのことで、ラムセスから逃れ自分達の部屋へ入った。相変わらず
ヒエログリフの字模様はついていたが、さすがに金箔張りではなかった。しかし、部屋の中は真っ赤な薔薇であふれている。
「おーい!ハディ。このいまいましい薔薇を何とかしてくれ!それから念のため、隠しカメラ
がないかチェックしとくんだぞ!」とカイル。
「ねえ、カイルやっぱりエジプト側との夕食会出なくちゃダメだよね?」とユーリ。
「どうせ相手はラムセスと王太后だし、私はこのままお前と一緒に・・・」
「あん、ダメだってば!カイル」
カイルがそう言ってユーリを抱き上げてベッドに行こうとした瞬間、

「ピンポンパンポーン♪ムルシリ2世陛下、ユーリ=イシュタル様、食堂車にてお食事の用意ができております。」突然けたたましい車内放送が聞こえた。
それと同時に電話のベルも鳴った。ラムセスの二重妨害らしい。
「あ、あんの野郎!」ムードをぶちこわされてカイルは怒っていた。
「しようがないよ。カイル行こう!それにあたしは王太后と話はしたかったから。ねえハディ
ちょっと着替えを手伝ってくれる?」ユーリが続き部屋へ行くとカイルはしぶしぶタキシード
に着替えだした。(ここでもタキシードなの!)

 そこへ着替えを済ませたユーリが入って来た。どうやらハディに説得されてしぶしぶマリ
殿下の用意したドレスを着たようだ。清楚な白のドレスで後頭部に白百合を飾っている。
「マリに用意させたものだが、なかなかだな!露出度も高くないし」と、カイルはまあ満足
したようだった。(花嫁さんみたいなユーリを想像してね!)

 何とか、食堂車にてエジプト=ヒッタイト間の食事会が始まった。エジプトの食堂車は
ヒッタイトの列車のような重厚な?マホガニーとはいかず、ヒエログリフ模様のきんきらきんでおまけに薔薇だらけであった。(-_-;)
「やっぱり落ち着かんな!」そう思ったカイルであったが、やたらとラムセスがユーリにちょっかいを出すので、おちおち食事もできず、口出しをするはめになった。そのせいかどうか?ユーリも2人がうるさいと思ったらしく、カイルとラムセスを無視して王太后とばかり
話をしていた。
(まあ、黒太子のこともあるし、一応ナキアより性格は多少マシなもんで?)

「おい、ムルシリ2世ユーリはなんだか俺達を無視しているようだぞ!」とラムセス。
「うるさい!もともとお前が口出しするせいじゃないか!畜生め!」とカイル。
「おもしろい!やる気か!」「望むところだ!」

 しばらくしてユーリがハッと気づいた頃にはテーブルでべろんべろんになったカイルとラムセスがいた。(どうやら飲み比べをしたらしい!)
「ちょっとカイル!しっかりしてよ。どうしちゃったの?」
「うるさあい!ユーリお前はわたしのものだ。ヒック〜」とカイルが言えば
「なにを!お前なんかに負けてたまるか〜い」とラムセス。
「ちょっとちょっと、ねえキックリ、ハディ、陛下を部屋に運んでよ」
ユーリはキックリとハディ達の力を借りて何とかカイルを部屋のベッドに運んだ。すると、
「ユーリ、離さないぞ〜ヒック!」とカイルが酔っぱらってるのに襲おうとするので、
バキッ!と鈍い音!「カイルったら酔っぱらってお酒臭いくせに!許さない」
ユーリは今度はゲンコツでカイルを殴ったのだ!(^^;)

「ユーリ様、何とか陛下はお休みになったようでございますわ」ハディが言った。
「でも明日目が覚めたら何て思うでしょうか?」ちょっと心配そうなキックリ。
「ではお休みなさいませ」
こうしてオリエント急行は眠りについた。珍しくカイルはユーリに何もせずに・・いやさせて
もらえなかったのだった。

 列車はひたすら砂漠をエジプトに向かって走る!深夜起きているのは口ひげをはやした
イル=バーニだけ!「きっと何か起こるに違いない!この灰色の脳細胞が言っている」
 ご苦労様!イル=バーニ



                         
  <終章>

                     〜決戦!ラムセス城〜

 地平線に陽が上る。砂漠の朝日を眺めてユーリがカイルを起こした。
「ねえ、カイル。とってもきれいな夜明けだよ。見て見て!」
「う〜ん、いったい私は昨夜どうしたんだ?あっ、いてて」
と言ってほおをおさえた。ユーリが殴ったところが思い切り腫れていたのだ。
「カイル、全然覚えてないの?」
「うん、ラムセスと深酒したところまでしか・・・おい、頭も痛いぞ。」
「二日酔いだよ!もう飲み過ぎなんだから!でもこの分じゃたぶんラムセスも二日酔い
だね!」そう言ってユーリがカイルに水を渡そうとした時、
「おい、窓の向こうに変な物が見えてくるぞ!」とカイルが叫んだ。

 そう、列車はもうエジプトのデルタ地帯に入ってきているのだが、ナイル川のそばに
こんもりとした森のようなものに囲まれた城のような物が見えてきた。
「げえっ!東京ディズニーランドのシンデレラ城がイバラに囲まれている。」
と、ユーリが叫んだとたん、
「え〜次は停車駅〜、停車駅〜!」と聞き慣れた声がドアの外でした。
「もう!朝からうるさいわね!いったい何なのよ!」
怒ったユーリがドアを開けると、そこにはラムセスが立っていた。
手にはハンディカラオケマイクを持ち、ミッキーマウスのナイトキャップをかぶり、やはりミッキーマウスのパジャマを着ている。
「やあ、ユーリ!いい朝だな!次の停車駅はペル=ラムセス別名ラムセス城さ!」
(注;ペル=ラムセスはエジプトの実在の街ですが、ここでのラムセス城とは何の関係も
ありません。エジプトファンのみなさまごめんなさいm(_ _)m)
「わかった!ラムセスあんた、ディズニーファンでしょう!あんなシンデレラ城まで作って!」ユーリは今朝のラムセスの格好を見てほとほとあきれていた。
「ピンポン!だけど、シンデレラ城ははずれ!せめて眠れる森の美女の城と言ってくれ!
ユーリ、おそろいのミニーのパジャマでも着てあの城の女主人にならないか?」
「冗談!針に刺されて百年眠るなんてまっぴらよ!それにそんなパジャマ、あたしの妹
だってもう着る年じゃないわよ!」
「おい、本当にあんな趣味の悪い城に止まるのか?」横から具合悪そうにカイルが言った。
「やあ、ムルシリ2世、具合悪そうだな!あれ?そのほっぺたどうした?おおかたスケベ心出してユーリに殴られたってとこか?」
「うるさい!お前に言われたくないぞ!それよりあんな城に行きたくなんかない。進路
を真っ直ぐメンフィスに向けろ!」
「へへーん!もう遅い!オリエント急行は俺様の城に向かってまっしぐらさ!」

 ラムセスがそう言ったとたん、列車はイバラの中をくぐり抜けた。と思う間にカクン、カクン
と坂を登り始め、ゴオーと下っていくような感じがした。
「きゃあ、何よこれ!ジェットコースターみたい!」とユーリが言うと、
「気持ち悪くて吐きそうだ!」とカイル。ひとりラムセスだけが、
「俺様の趣味もまんざらでもないな。」と満足していた。

 やがて何回かぐるぐる回った後、列車はようやく城の入り口で止まった。
不気味に光る城の入り口で腹の底に響くような声がした。
「諸君、ラムセス城へようこそ!」キーキーとこうもりの鳴くような声がした。
「ちょっと不気味じゃない?」とユーリが言うと、
「変だなあ!俺様がいないうちに何者かに占領されてしまったのかなあ?」とラムセス。
その時、「ここは我らにお任せを」と言って3隊長が先に立った。
 みんなは真っ暗な廊下を進んで行った。やがて、魔物が目をぎらぎらさせて、部屋の入り口に立っていた。
「危ない、陛下、ユーリ様」ルサファが弓矢をつがえて叫んだ!

 するとラムセスが、突然言った。
「あそこに立っている魔物を殺せば、この城は明るくなる。さあ、ムルシリ2世!このファイバーソード!光の剣を持って魔物を倒すのだ」そう言ってラムセスはカイルに蛍光色に輝く光の剣を渡した。カイルは思い切り魔物に剣を突き刺した!その瞬間、

「おめでとう!あなたはこのラムセス城の1人目の入場者です。」そう言って扉が開いた。
あっけにとられる一同を前にラムセスが言った。
「どうだ?俺様の趣向もなかなかのものだろ?」
「いいかげんにしろ!このドアホ!」とカイルはつかみかからんばかりだった。
「まあまあ、中でお茶でもどうぞ!」とラムセス、中は空が丸見えの薔薇庭園だった。
「あれ?今の今まであったお城はどうしたの?」とユーリ。
「実はバラ園とジェットコースターに金かけちまったもんで、映画のセットと同じような
安普請なのさ!」とラムセス。
「なあるほど」「秀吉の一夜城みたいなもんよ!」とリュイとシャラが後ろでしゃべっていた。
「せめて、カリブの海賊とか、インディー=ジョーンズもあればいいのに」とユーリが言った。
「そう言うお前もかなり俗っぽいぞ!」とカイルが言った。
「うーん、今度は忍者屋敷でも付け足すか?」懲りないラムセスであった。

 やがて列車は毒茸城いやもとい、ラムセス城を後にして、終点のメンフィス駅をめざしていた。
「やれやれ、やっとオリエント急行の旅も終わりだな!」とほっとしたようにカイルが言った
「おい、せっかくだから、このまま船旅で首都のテーベまでどうだ?」とラムセス。
「断る!ヒッタイトから帰りの船を頼んであるので、それで帰るつもりだ。」とカイル。
もうトラブル続きの列車の旅はこりごりという感じだ。
「お前もそう思うだろ、イル?」カイルが同意を求めたにも関わらずイル=バーニは口ひげ
をはやしてずっと考えこんでいる様子だった。
「陛下、絶対殺人は起こりますぞ、この灰色の脳細胞が・・・」
「結局一番楽しんだのはイル=バーニじゃないの?探偵ごっこもできたしさ。」
「ユーリ様、甘いですな。今度はナイル川ですよ。」
「わかった、わかったってば!イル=バーニ」

 夕暮れのナイルのほとりでオリエント急行を降りたカイル達ヒッタイト一行は船に乗り換えてヒッタイトに帰ることになった。
 ここにオリエント急行の旅は幕を閉じることになったのだ。

〜しかし、陸の勇者ヒッタイト一行も帰りの船旅に苦戦を強いられることになろうとは!
 誰が予測したであろうか?(しないってば)チャンチャン!


                        
続編 ナイルに死すに続く

ねねより