***ピカピカの1年生***

     〜番外編〜家庭訪問〜

カイルの家
ラムセスの家
ユーリの家

 

<カイルの家>


 今日は家庭訪問の日だ。カイルは学校が終わると真っ直ぐ家へ急いだ。
キックリ始め仲のいい友達が
「ねえ今日遊ばない?」
と誘ってもカイルは脇目も振らず走って行った。

「ただいま! 先生まだ?」
「まだですよ。そんなにあわてなくてもいいのに。おやつがありますよ。食べるの?」
「ううん、後でいい」
 カイルは緊張しているのか何も喉を通らないようだ。
間もなく玄関のチャイムが鳴って先生がやってきた。

「こんにちは。カイル君のお母さんですか?よろしくお願いします」
「まあ先生こちらこそ!カイルがお世話になっています」
 さっそく先生は部屋に上がってヒンティママと話を始めた。
何を話しているのか? さすがのカイルも気になった。
 そこでママが用意していたケーキとコーヒーを持って中に入った。
「先生、コーヒーとケーキをどうぞ」
「これカイル! 先生はお話の途中なのよ」
 と、ママがたしなめたが先生は言った。
「ありがとう。今、お母さんと話をしていたところなのよ。カイル君は勉強も
運動もよくがんばってるわね。仲間の面倒見もいいしクラスのリーダーになれそうよ。
ただちょっと…」
「先生! ただ…何ですか?」
 カイルは気になって途中で口をはさんだ。
「カイル! 口出しをするものではありません!」
「いいのよ! これはあなたにも聞きたいことだから。ただ他の友達とは仲良くできるのに
どうしてラムセス君とはケンカばかりするの? この前もドッヂボールで2人ともむきになって
投げてたから少し気になるんだけど…」
「まあカイル! お友達とは仲良くって言ってるでしょう?」
 ヒンティママがびっくりしたように叫んだ。
カイルは自分の一番気にしてることを言われたので真っ赤になってしまった。
「でも先生!僕はどうしてもあんな奴と仲良くすることはできません!」

 その時カイルの弟のザナンザが顔を出して言った。
「僕知ってるよ! 兄上ってね大好きな女の子をラムセスと争ってるんだって、だから仲が悪いんだよ」
「バカ!やめろザナンザ!」
「だってキックリやイルが言ってたもん〜、兄上はユーリちゃんが好きでラムセスと張り合ってるって…」
 カイルはザナンザに図星をさされたので、思わずザナンザをひっぱたくと外へ駆けだしてしまった。
「まあカイル! 何てことでしょう」
 
 しかしその時にはもう既にカイルの姿はなかった。
      
        

<ラムセスの家>

 その日、学校が終わるとラムセスはダッシュで走って帰った。
家庭訪問で先生が来ることになっている。だがそのこととラムセスが
急いでいることとは何の関係もないようだった。

 さてこちらはラムセス家。先生が来るとあってラムママはお茶の準備と
お掃除に余念がなかった。その時カタン! と玄関の方で音がした。
「ラムセス? もう帰ったの?」
 ラムママが聞くと妹のネフェルトが出てきて言った。
「お兄ちゃん? もうランドセルほっぽり出して遊びに行っちゃったわよ!」
「何てことでしょう! 今日は先生がお見えになるって言うのに!」
 ラムママは嘆いたが時は既に遅かった。
「それよりママ! 先生見えたみたいよ?」
「まあまあ大変大変!」
 ラムママは慌てて玄関に駆けだして行った。

「ええ…そう言うわけでしてね! お母さん、確かに同じ幼稚園から来た子はいませんが、
もうすっかりクラスに慣れましてねえ、今じゃお友達もたくさん出来て1番大きな顔して…
いやみんなの人気者ですよ」
 と先生は言った。確かに物は言い様だ! 後から来た? くせに1番大きな顔をしてるラムセス
(本編でも・笑)
「でもあの子は昔からイタズラだったから…先生!お友達とかに怪我を
させたりしてませんでしょうか?」
 ラムママは心配そうに聞いた。
「そんなことはありませんよ。確かにイタズラはしますけど…、
弱いお友達をかばってくれる優しいところはあるんですよ」
(う〜ん! 先生そこまでズケズケ言わなくてもいいだろう(^^;)
 だがラムの場合は本当だろうなあ?・爆)
「そうですか? うちの場合主人が単身赴任で家にいないもので
すごく気になってはいるんですけど」
 そう言ってラムママは涙を流した。この人結構涙もろいようだ。
「ただお母さん、ちょっと気になると言うか…むきになって競争するお友達がいるんです!
カイル君と言っていい子なんですけどラムセス君と合わないのかしら?」
「まあそれは大変! どうしましょう主人に何て言ったらいいのかしら!」
 ラムママはもうしゃくり上げていた。やっぱりラムセス心配かけているのだろうか?
先生もその様子を見てさすがになだめるように言った。
「でもお母さん、きっとあの2人はいいライバルになってクラス
を盛り上げてくれると期待していますから…」
そう言って先生もそそくさと帰って行った。

 先生を見送ってからラムママはネフェルトに言った。
「先生はああ言ってくださったけど、ラムセスが帰ってきたらママがお話があるから!
と言っておいてちょうだい!」
「はあいママ!」
 たぶんラムママは怒っているのだろう…ネフェルトは
「さてはお兄ちゃん怒られると知っていたな?」
 と考えた。足下にはラムセスの大きな耳のたれた愛犬が寝そべっていた。

 それにしてもラムセスはどこへ行ったのだろうか?

                 

<ユーリの家>

 ユーリの家庭訪問の日、やはりユーリのママも先生を迎える準備に余念がなかった。
応接間に花を飾りお茶の用意をする。
 その時ピンポン♪と玄関のチャイムが鳴った。
「まあ! 先生かしら? 早いわねえ」
 ユーリのママは慌てて玄関に走って行った。
 ところが顔を出したのは2人の男の子であった。それはカイルとラムセスであった。
「こんにちは! あの〜ユーリちゃんのお母さんですか?」
「そうですよ。あなた達は誰ですか?」
 ユーリママが聞くと2人はおずおずと答えた。
「あ…あの〜ぼく達ユーリちゃんの友達なんですけど…」
「あっ! ではあなた達が…じゃあ髪の長い子がカイル君で
色の黒い方がラムセス君ね! ユーリから話は聞いているわ」
 さすがはカイルとラムセス(爆)ユーリの家でもすでに有名人だったのだろうか?
「どうぞユーリは家にいるからお入りなさい」
 そう言われて借りてきた猫? のようだった2人もようやく安心したようだった。

「あれ? あなた達どうしたの?」
 中に入るとユーリが声をかけた。さすがに2人はちょっと決まり
が悪そうであったが…。
「えへへ、僕たち遊びに来ちゃったんだ!」
「2人で相談して? 珍しいわね」
 いつもは仲の悪い2人なのに…ユーリはちょっと不思議そうで
あったが2人は顔を見合わせて目配せした。
「まあまあユーリ、いいじゃないの。せっかく遊びに来てくれたんだから。
ところであなた達何か飲む?」
 ユーリママが2人に聞いた。
「じゃあ俺ビール!」
「ずうずうしいぞラムセスいきなりなんて! あのユーリちゃんの母上、
僕はワインを少々いただきたいのですが」
 子どものくせにビールとワイン?ユーリママはびっくりしたが
さすがにユーリの母である。
「そうなの? でもうちはね子どもはこういうのを飲むことになっているのよ」
 そう言ってユーリママはカイルとラムセスの前にそれぞれライオン
と猫の絵のついたマグカップを置くと温めたミルクを注いだ。
「さあどうぞ2人とも! あっお砂糖入れるわよね?」
「はいお願いします」
 ユーリママの前ではさすがの2人も言うことを聞くしかなかった。
「では私はちょっと用事があるけど、ゆっくり遊んで行ってね」
そう言ってユーリママは部屋を出ていった。

「あのさあ、ママにはああ言ったけど本当はどうなの?」
 ユーリママが出て行くとさっそくユーリは2人に聞いた。
「どうなのって? お前ん家遊びに来たことないからこうやって来たんじゃないか!」
 ずうずうしいラムセスがいけしゃあしゃあと言った。
「そうだよ。ユーリちゃん家って1度来てみたかったんだ。だからだよ」
 カイルがラムセスに話を合わせるように言った。
それでもユーリは疑ってるみたいだった。
「ふうん、あなた達なら来るとしても別々かと思ったけ…
それに今日家庭訪問のはずじゃ?」
 ユーリがそう言いかけた途端玄関のチャイムが鳴った。

 ユーリママの足音がして応対の声がする。
「まあ先生ようこそいらっしゃいました。どうぞお上がりください」
 その声を聞いてカイルとラムセスの2人はびくっとした。さすがに
ユーリはそれを見逃さなかった。
「ははあ…あなた達家庭訪問で先生に怒られたか何かまずいこと
あったんじゃないの?」
 図星を指されてカイルもラムセスも作り笑いをするしかなかった。
これだけはこいつの前では言われたくなかったのに! しかも大好きな
ユーリに知られてしまうなんて!
 2人がその場でしばらく凍っているとユーリママと先生のお話が終わ
ったらしい声がした。

「ユーリちゃん先生が帰られるわよ。挨拶なさい」
 ユーリママがふいに部屋のドアを開けるとママと一緒に先生が立っていた。
「ユーリちゃん、先生がほめてらしたわよ。お友達もたくさんできて
よくがんばってるって」
「ありがとうございます。先生」
 ユーリが挨拶すると先生が言った。
「いいえ同じ幼稚園から来た子は他にいなくて大変だったのにえらいわね。
あらお友達が来ているの?」
 先生はカイルとラムセスにも気がついたようだった。
「あらカイル君とラムセス君じゃないの! 2人で遊びに来たの? よかった!
すっかり仲よくなったのね?」
 先生にそう言われて2人はもじもじした。
 元はと言えばお互いが理由で家を飛び出して来てしまったのだから。
「ではこれで失礼します」
 そう言って先生は帰って行った。

「ユーリ〜このミルクおいしいよなあ!」
 ラムセスはさっきの事など全く気にしないようで猫のマグカップで
ミルクを飲んでいた。
「あのさあユーリちゃん、今度は弟も一緒に連れて遊びに来ていい?
あ、もちろんラムセスの妹も一緒にさ!」
 カイルがちょっぴり決まり悪そうに、だけど照れくさそうに言った。
「もちろんよ!今度はみんなで一緒に遊ぼうね」
 ユーリが最高の笑顔でそう言ったのでカイルとラムセスはポーッとなってしまった。
「やっぱりユーリちゃんはこいつには渡さない!」
 改めてそう思う2人であった。

          〜終わり〜