***怪傑ラムセス2〜ミイラを盗め!〜***BYまゆねこ



 エジプトのとある砂漠の中にあるラムセスの薔薇館。
 ラムセス将軍とは世を忍ぶ仮の姿! 実の名を怪傑ラムセスという。
 ラムセスの恐怖の薔薇館では、今日も事件が起ころうとしていた。
「大変です!将軍一大事です。」
 ラムセスの側近ワセトが息せき切って駆け込んできた。
「何だワセト!騒々しいぞ!何事だ?」
 ラムセスが聞くとワセトが答えた。
「実は今月も大赤字なのです。ユーリ様もいらっしゃって経費がかさんでかさんで…。
このままではラムセス家は火の車です」
「えっ? ラムセスってエジプトの将軍じゃなかったっけ? 何で貧乏なのよ?」
 ユーリが聞くとラムセスは
「ホレムヘブ王はしみったれで安月給でこき使うんだ。それに内実は、エジプト高官はワイロでの収入が
ほとんどなんだ。その点俺はクリーンラムセスで売ってるからな!」
 と、胸をはって答えた。
「全く兄様ってばユーリ様の前だとカッコつけちゃってさ」
 横からネフェルトが口をはさんだ。
「何言ってんだ。経費の大半はお前の衣装代だぞ。」
「何よ!ユーリ様に結構つぎこんでるくせにさ!兄様の薔薇にもお金かかってるくせに〜きぃぃぃ」
「まあまあお二人とも兄弟ゲンカはおやめください。それより今月の経費を何とかせねば…」
 ワセトが慌てて言うとユーリは言った。
「ラムセス別にあたし贅沢しなくったっていいから。あんなにアクセサリーや衣装くれなくたっていいのに…」
「何を言うんだ。ユーリ男が好きな女のために金かけられなくてどうする!
それはネフェルトの分を削ればすむことだ!」
 ラムセスが言うとまたまたネフェルトが怒り出した。
「何ですって! 一番お金かかってんのは砂漠の中なのに薔薇を植えてる兄様の庭園じゃない。あれが1番の金食い虫よ!」
「何を!あれは俺様の命とユーリの次に大切な物だ!」
 薔薇のこととなるとやけにムキになるラムセスだった。

 そこでラムセスはしばらく考えたあげくいいことを思いついた。
「そうだ!手っ取り早く大金を手に入れると言ったらミイラだ!
 ミイラを盗みに行こう!」
 ここで読者の皆様は「なぜラムセスはミイラを…?」と思うかもしれない。
だが多少エジプト通の者なら、三千年の昔からミイラは借金の担保になるなど高値で取引されていたことを
ご存じのことだろう。それに身分の高い者の墓となると副葬品も豪華なのだ。
「しかし将軍! 仮にもエジプト王国の臣下がミイラ泥棒など、ちょっとまずいのでは?」
 ワセトが聞くとラムセスはすかさず答えた。
「ふっふっふ! 俺を誰だと思っている?将軍ラムセスとは世を忍ぶ仮の姿、しかしてその実体は…
泣く子も黙る怪傑ラムセス様だ。ホレムヘブなんかクソ食らえ!だ。どうせなら一番でっかいピラミッドのミイラを盗んでやる。」
(前置きが長いよ…ラムってば(^^;)
「何? 兄様、ミイラですって? おもしろそう。盗むならトトメス三世あたりが豪華な物持ってるかもよ!」
「バカ! トトメス三世は今の18王朝でやっぱまずい! 古王国のクフ王がもう時効で狙い目だと俺は踏んでるんだ」
「何だかんだ言っても兄様って気が小さいのね!男ならどんと大きなことやりなさいよ」
 ネフェルトがけしかけるとラムセスは
「だから一番大きなピラミッドに侵入して…怪傑ラムセス参上! と大きく書いてこようと思ってるんだ。」
 と言った。
 ユーリは二人のやりとりを聞いていてエジプトに残った自分が情けなく思えてきた。
「ラムセスのことちょっとは見直した!と思ったのに…やっぱりこいつは変態で薔薇フェチだわ!
おまけに犯罪者なんて神奈川県警の上をいく奴ね」
 そんなユーリにラムセスが声をかけた。
「おいユーリ! ギザのピラミッドに侵入するけどお前も行くか?」
「え? ピラミッド? やっぱり中見た〜い!」
 思わずそう答えてしまうユーリは自分が情けなかった。

 さていよいよピラミッドに潜入することになった4人はカイル直伝? の潜入服忍者スタイルに身を包んだ。
「将軍お気をつけください。古来よりピラミッドは侵入者に対して色々な仕掛けがあると聞いています。
それに王家の呪いも…」
 ワセトが言ったがラムセスは平気だった。
「呪いが怖くて怪傑ラムセスがやってられるか! それにそんな者に出会ったって俺には強い味方がついているのさ。」
 そう言ってラムセスは先頭に立ってずんずん歩き出した。
 その時である。いきなり見えない所から無数の矢が飛んできた。ラムセスは慌てずに叫んだ。
「出よ塗り壁! 盾になれ。」
 たちまち巨大な壁が出現して矢を防いだ。
「ねえラムセスって妖怪の友達がいるの?」
 ユーリが聞くとネフェルトが答えた。
「そんなことでいちいち驚いてちゃ身が持たないわよ。兄様が特異体質の変態だってのはもう知ってるでしょう?」
 そうこうしているうちに一行は棺が収めてあるピラミッドの玄室へとたどり着いた。
「ニヒニヒようやくたどり着いたぜ。ミイラと財宝は俺のものさ!」
 しかし壁を壊して中に入ると玄室の中は空っぽだった。
「ムムム俺の前にもう財宝を盗んでしまった奴がいるのか? それとも元々なかったのか?
仕方ない、ミイラだけでもいただいていくか!」
 ところがラムセスが棺のそばへ近づこうとすると不気味な笑い声が響いた。
「王家の墓を荒らす不届き者よ!王家の呪いを受けてみよ!」
 その声とともにミイラ男が出現した。包帯ぐるぐるでいかにも気味が悪い。
その気持ち悪い顔がラムセス達に迫ってきた。
「おうミイラ男なんか怖くないぜ! ふぶきその子頼んだぜ!」
ラムセスがそう叫ぶと、突然雪よりも白い白塗りの雪女妖怪が出てきた。
「は〜い!呼んだあ?」
 妖怪ふぶきその子の吐く息でさすがのミイラ男も凍り付いてしまった。
なにせエジプトは暑い国で雪を知らないのだから無理もない。
「それっ今のうちに運び出すんだ。ワセト! ピラミッドの中とはいえ長くは持たないぞ!」
 そうしてラムセス達は戦利品のミイラをかついでピラミッドを出て行こうとした。
しかし途中でまだ体調の悪いユーリが倒れ込んでしまった。
「ユーリ、まだ体調が良くないのか? よし俺が抱いて運んでやろう」
 いつものユーリならさすがに抵抗するのだが、この時ばかりは無理だったようだ。
 こうして怪傑ラムセス一行はまんまと? 王のミイラをせしめてしまったのだった。

 所は変わって、ヒッタイトとエジプトの間にある中立国カナアン。
ここに最近新しく骨董その他を扱う店屋ができた。
 店の主人は顔にキズのある何やらいわくありげな? 男であった。長い黒髪を束ねているが、
その顔つきは商人にしてはどことなく品がある。一緒に働く妻は3人の子持ちでもうすぐ4人目が生まれそうだった。
彼女も商人の妻にしては上品な物腰。だが子ども達はみんな彼女と同じ目をしていた。
「ねえ、あんた! もうすぐ4人目が生まれるんだから、しっかりかせいでくれないと!」
「すまないな。ナディア、私に甲斐性がないばかりに…」
「何言ってるの! 私の故郷のバビロニアだって火の車で私達を受け入れる余裕はなかったし…仕方ないわ!
それより今のほうが気楽で幸せかもしれないわ! 黒太子様!」
 どうやら会話を聞いた様子ではミタンニ王国の黒太子夫婦のようだ。彼らは国が滅びた後カナアンで店を開いたらしい。
 そこへ、えっちらおっちらミイラをかついでラムセスとワセトの主従がやって来た。
「将軍! 何だって私達はこんな遠くまでミイラを売りに来なくちゃいけないんですか?」
 ワセトが聞くとラムセスは答えた。
「バカ! エジプトやその領土のビブロスではアシがつくんだよ!かと言ってウガリットはムルシリの支配下だし…
このカナアンあたりで売っぱらうのがちょうどいいのさ!」
「なあるほど! さすがはお頭。あったまいい!」
 ワセトの手下ぶりも板についてきたようである。
「いらっしゃい。お客さんは品物をお売りになる予定で?」
 店の主人黒太子が言った。もちろん彼はラムセスとは面識がない。
「これはちょっとそこいらにはないミイラだぜ!何せピラミッドから盗ん…おっと手がかかっているもんでね」
「お客さん。ミイラなら昨今高い値で売れますよ」
 さっそくラムセスと黒太子は値段の交渉を始めた。

 ちょうどその時、黒太子の店の前を通りかかった2人連れがいた。
お忍びでウガリットから戦線の合間に息抜きに来ていたカイルとキックリの主従である。
「おいキックリ! こんな所に骨董屋があるぞ。おもしろそうだからちょっとのぞいてみないか?」
 カイルとキックリはその店に入ってびっくりしたことは言うまでもなかった。
「な、何で黒太子がこんな所にいるんだ! お前は確かバビロニアに亡命したはずじゃあなかったのか?」
 カイルが叫ぶと黒太子は答えた。
「最近はそこの国でも不景気でね。お陰で元王子の私までこうしてかせがなければならないわけだ。
ムルシリお前はお忍びか? ところでユーリは元気…」
 黒太子が言いかけて突然カイルははっとした。
「ユーリ…そうだ畜生! ラムセスお前がどうしてこんな所に?また何かたくらんでいるに決まっている。
ラムセス! 私のユーリをユーリを返せえぇぇ! この野郎!」
 カイルはそう言うと腰の鉄剣を抜いてラムセスに斬りかかった。
「ユーリは今体調を崩してエジプトの俺の屋敷にいる。」
 だがカイルはラムセスの言葉にいっそう激怒した。
「何だと! お前ユーリに何をしたんだ?絶対ころしてやる〜」
「だからピラミッドに潜入した時体をこわしたんだって…」
 その時黒太子が横から口をはさんだ。
「おいムルシリ、一応私のお客さんなのだが…それにお前はまたユーリに逃げられてるのか?
いいかげんに正妃にしてやらないと愛想つかされるぞ!」
「何を言うか黒太子! ユーリはラムセスが無理矢理さらっていったんだ!
それに正妃のことはお前に言われる筋合いはない!」
「まあまあムルシリ! 確かにここは人の店の中だ。それに俺は今日はミイラを売りに来たのでね…」
 ラムセスは思い出したようにミイラの棺を取り出した。
「いいでしょう。ラムセスさん、ただし中身を調べて売り物になるとわかってからですよ!」
「お前の国では死体も商品なのか?全く死者に対する冒涜だな!」
 そう言いながらもカイルも怖い者見たさなのか興味津々の様子である。
「では蓋を開けて包帯をほどかせてもらいますよ!」

 ところが包帯の中から出てきたのはわけのわからない仕掛けの人形であった。
鉄でできているようであってそうでなく何か得体の知れない物体であった。
「何ですか? お客さんこれは? ミイラじゃない物は商品にはなりませんよ!」
 実はラムセスがミイラと思って持ち込んだ物は動かない機械人間?だったのだ。
現代からやってきたユーリが見ればそうと気づいたであろうが20世紀にもまだ実用化されてないので、
たぶん無理だっただろう。まさしくピラミッドはエジプト人もびっくりの超古代文明!
いや一説にはUFOに乗ってやってきた宇宙人が築いた文明? という説もあるくらいだから、
何が起こってもおかしくはないのだが…。
「何だ! ミイラじゃないのか? それじゃ金にならん! そうとわかればすぐにおさらばだ! 行くぞワセト」
「ま、待て! ラムセス! 逃げるなんて卑怯だぞ!」
 残されたカイルとキックリに黒太子は言った。
「まあ久しぶりだ! 茶でも飲んでいけ。これは今度は正式に結婚した妻のナディアだ」
「カイル皇子、いや陛下お久しぶりです。今は太子でも后でもありませんが私幸せですわ!」
 そのナディアは今は幸せそうだがナキアの妹とは思えないほどぶくぶく太って3人の子持ちであった。
そばにはマイホームパパの黒太子。ある意味で未来の自分とユーリを思うカイルであった。

 一方逃げたラムセスと言えば…
「う〜んミイラで金儲けは失敗だったか! 次の手を考えねば!」
 やはりどこまで行っても懲りない奴である。

                             〜終わり〜