オリエント兄弟 〜ゴージャス望郷編
BYえーげる

「オリエント兄弟の次のスケジュールが決まりました。屋外イベントです」
 敏腕マネージャー、イル・バーニが言った。
「どこだ?」
 俺はちゃちいところではやらんぞ、とラムセスが言う。
背中に赤い薔薇、金のビキニパンツだけを身につける鍛えられた肉体がまぶしい。
「ペトロパブロフスクです」
「…シベリアか!!」
 物知りのカイルが即座に反応する。背中には白い百合。
銀色のビキニパンツひとつで、やっぱり肉体美を誇示する。
ゴージャスな花、ゴージャスなパンツ(笑)、ゴージャスな身体、
研ぎ澄まされた美貌とノーブルな出自を持つ彼らは、「流し目をくれるだけで
奥様方を失禁させる」という人気ユニット、「オリエント兄弟」である。
「ええ、シベリアのオムスク郊外、ペトロパブロフスクのペトロバル村の
スーパー中村屋の大駐車場特設ステージです。300台は入るそうですよ。
スーパーの10周年イベントのメインゲストとしてです」
「300台……不足はないな」
 ラムセスがにやりと笑う。
「シベリアって、冬はマイナス50°にはなるんだよな」
 ヘアメイクのミッタンナムワが言う。
「今は冬だから、ビキニパンツは遠赤外線効果のある物にしましょう」
 衣装のキックリが言う。(やっぱり、パンツ一丁なのか?)
「ついでに、裏起毛にしてくれ」
 ガイドブック「シベリアぶらり旅」をひろげながらラムセスが
注文を出す横で、カイルは思考を巡らせた。
(シベリアか。ユーリと離れてしまうな…何か土産を買ってやろう)


 さて、ペトロパブロフスク。着いてすぐにカイルは駅前で発見した土産物屋に来ていた。
ファンに気付かれないように、サングラスをかけて。顔を隠せばたとえ
パンツ一に百合の花を背負っていたところでカイルだとはバレないはずである。
「若い娘の好みそうなものは・・・・・・」
 視線がとまったのは「シベリア饅頭」。
 粒あんがはいって、個別包装10個入り。
「よし、これだな。個別包装だと職場でも配りやすいし」
 饅頭を渡したときのユーリの喜んだ顔が目に浮かぶ。
(え? これをあたしに? …うれしい! お仕事で行ったのに
気にかけていてくれたんだね)
(わたしがおまえのことを思わない日はない)
(・・・・・・カイル・・・・・・)
 うっとりとユーリは瞳を閉じる。その頬に指をかけ、カイルの顔が近づいて・・・・・・
「ふははは! きさまの考えていることなどお見通しだ!!」
 饅頭の箱を胸に抱きしめ妄想に浸っていたカイルに哄笑が投げかけられる。
 狭い土産物屋の店内に迷惑にも薔薇の花びらが乱舞する、これは?
「ラムセス!」
「いかーにもおお!!」
 陳列台の上に仁王立ちになったラムセスが叫んだ。
「甘いな、ムルシリ。今時のナウでヤングなギャルが(死語)
饅頭ごときで喜ぶと思っているのか!?」
 ぐい、と何ものかをつかんだ腕を突き出す。
「俺様の選んだ、これを見ろ!」
 ・・・・・・「シベリアに行って来ました」
「サブレ2枚のあいだにクリームをはさんだお洒落な銘菓。
おまけに個別包装24枚入りで大人数の職場にも対応できる。
お茶の時間にユーリがこれを配るとすると……、
「あら、ユーリ先生シベリアに行って来たの?」
「いえ、ちがいます知人が……」
「えー、知人って誰? あやしいなあ。もしかして、カレシ?」
「カレシなんて、そんな…」
 そういいながらも、ラムセスの精悍な顔を思い浮かべ、
ユーリは自分の頬が赤くなるのを抑えられなかった。」
「…なんで、地文までしゃべるんだ!」
 カイルがまだ代金を払っていないはずの饅頭の箱を投げつけると、
ラムセスは片手ではっしとそれを受け止めた。
「おまえに勝ち目はないってことよ!」
「なにい」
 互いにファイティングポーズをとる。このまま店内で乱闘か?
「お二人とも、甘いですね」
 静かに声がした。今まで熊の置物だと思っていた物がうっそりと立ち上がった。
「イル・バーニ!?」
 そう、オリエント兄弟にパンツ一丁だけの衣装を与えて、
自分はしっかり毛皮で完全防備した敏腕マネージャーであった。
もっとも二人は寒いことに気が付いていないようではあるが。
「…なにが甘いんだ?」
「お前のことだ、考えあっての発言だろうな」
 すっとイルの指がのびた。ラムセスの持つ二つの箱を示す。
「お二人はユーリ様にシベリアのお土産をさしあげるおつもりでしょう。
しかし、その箱をよくご覧下さい」
 ラムセスは慌てて箱を裏返す。
「なっ!! こいつは……」
「いったい、どうしたんだ!」
 驚愕して凍りつくラムセスの手元から、二つをむしり取る。
「…………!!」
「…お気づきですか?」
 イルは口元をかすかにゆがめた。
「そう『シベリア』を名乗りながら、その二つの製造地は……山口県なのです」
「そんな、バカな!」
 手近の土産を取り上げる。
「このせんべいも、山口県産だ」
「このきなこもちは……くそう、山口県!!」
 がっくりと膝をついた二人の上に非情なイルの声。
「しかも、みんな大島郡で作られています。いったい、このような土産をお渡しすると
ユーリ様はどう思われるでしょうね」
 仕事でシベリアに行ったと思っていたのに、二人して山口なんかでなにをしていたの!
あたし、だまされないからね!!
 ユーリの言葉が脳裏に響く。
「どうやらムルシリ、勝負はおあづけのようだな」
「ああ、今は本当のシベリア土産をさがす時だな」
「及ばずながら、私も協力させていただきましょう」
 手をとりあった男たちの外、街路ではブリザードが吹き荒れていた。


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