きかんしゃラムセス
きかんしゃトーマス天河パロ


キャスト紹介
(カッコ内)はモデルの機関車


機関車

カイル(トーマス) 性格のよい人気者の機関車。ヒッタイト機関車のリーダー的存在
イル(エドワード) 物知りな機関車
ミッタンナムワ(ゴートン) 一番大きく力持ちな機関車
ルサファ(ヘンリー) 穏やかなやさしい機関車
ラムセス(ジェームズ) 真っ赤なボディの元気な機関車。
車体にはトレードマークの薔薇の花がついている。
ヒッタイトーエジプト間を結ぶ国際線
ナキア(スマージャ) すぐに脱線する機関車



客車・貨車

ユーリ ヒッタイト機関車たちのマドンナ的存在。
みんな客車ユーリを引きたいと思っている
リュイ・シャラ(アニー・クララベル) 双子の客車
ウルヒ 税関でひっかかりそうなものばかりを運ぶ貨車



 アナトリア鉄道、ハットゥサ中央駅。
ヒッタイト帝国の中で一番大きく、交通の原点となるこの駅には、たくさんの
機関車や客車たちがいる。
 まずは主なる汽車たちの自己紹介をしよう。
 1番目はヒッタイト機関車の皇帝の名を持つカイル機関車。
ハットゥサ中央駅の機関車たちの中で一番身分が高く、有能で美しい車体を
もつ人気者の機関車である。
 次に知力のトレインと異名をとるイル=バーニ機関車。
機関車が動く物理学的な知識が豊富で優れているが、生真面目すぎて
少々融通のきかないところが欠点である。
 機関車三隊長と呼ばれるカッシュ、ルサファ、ミッタンナムワたちも忘れてはならない。
車体が戦車に変化するカッシュ機関車、やさしいけどちょっとナルシストなところの
あるルサファ機関車、遠距離に強い力持ちのミッタンナムワ機関車。
彼ら有能三隊長もハットゥサ中央駅には欠かせない存在である。
 他にも車体にそばかすのあるおだやかなキックリ機関車、性格が曲がっているため
すぐに脱線してしまうナキア機関車など、ハットゥサ中央駅には個性豊かな機関車が
常駐し、広大なオリエントの台地をかけめぐっているのである。

 ある月曜日の早朝。
 通勤ラッシュに備えて、ハットゥサ中央駅の駅長ねねは、機関車たちが
休んでいる車庫に行った。
「さあ、今日はどの機関車に働いてもらおうかな。立候補者はいるかな〜?」
 ねねは車庫の入り口で仁王立ちになって機関車たちを見回した。
 機関車たちはねねの方を見ないでうっとおしそうな顔をしていた。
月曜日の朝は乗客や荷物の量が多く仕事がきついのでみんな働きたくないのだ。
「私は疲れている! イル、今日はお前が働け!」
 命令口調でいったのは皇帝の名をとるカイル機関車であった。
「いいえ、陛下。今日は月曜日なので大変な混雑と労力が予想されます。
慣性の法則と質量保存の法則とボイル・シャルルの法則から考えて、
知力のイル=バーニの適する日でないと思われます」
 イルは難しい法則名を羅列して皇帝の命令を断った。
「じゃあキックリ、お前が行け!」
「だめですよ。私は今日、双子の客車リュイとシャラをひっぱる約束を
しているのです。どなたか他を……」
「じゃあ今日もやっぱり一番の力持ちのミッタンナムワしかいないな!」
「またですか? そんな……たまには陛下やイル=バーニさまも働いてくださいよ。
いくら私が体格がいいからといって、いつも働いてばかりじゃないですか……」
 ミッタンナムワは寂しそうにいった。
 が、上下関係の厳しい機関車の世界。皇帝の名を持つカイルや、貴族出身の
イルには、逆らえないらしい……
 ――シュポポポポ===3
 そこへ、エジプトからの長旅を終えた機関車ラムセスと客車ネフェルトが
みんなが集まる車庫に入ってきた。
「もう、兄さまったら走るの遅いわよ。これでよくエジプト屈指の有能機関車だって
言えるわねっ!」
「なんだとネフェルト。これでも真っ赤なボディが眩しいクールな機関車だと呼ばれて
評判いいんだぞ」
「ふん」
「何がふんだ。客車の分際で! お前なんて引っ張ってもらっているだけじゃないか!」
「あたしは客車なのよ。レディなのよ。ひっぱってもらって当然。
客車を引っ張るのが機関車の仕事でしょ。ぐちぐち言わないの!」
 兄妹喧嘩をしながら、車庫の前で止まった。ラムセスもネフェルトも一応、
ヒッタイト―エジプト間を結ぶ国際機関車である。エジプトからの乗客や荷物を降ろして、
ラムセスもネフェルトも長旅からの休憩に入る予定であった。
「砂漠をいくつも超えてきたから、俺様のトレードマーク、車体の真っ赤な薔薇が
はげちまったじゃないか! おい、ねね。薔薇をきれいに描き直せ!」
「はいはい、薔薇はラムセスの命ですからね……」
 駅長ねねは、駅員のねね専属絵描き女を呼んできて、ラムセスの薔薇を描き直させた。
「さあ、それよりも今日は誰が働いてくれるの?」
 ねねが機関車たちに話し掛けた。働きたくない機関車たちはお互い沈黙を
保ち続けている。
「仕方ないな……、じゃあ最後の手段! 今日の客車はユーリちゃんなんだけどなぁ〜。
誰も仕事したくないなら、隣駅の黒太子、マッテイワザ機関車にでも出張を
お願いしようかなぁ」
 駅長の言葉に、皇帝をはじめ側近たちは目の色を変えた。ハットゥサ中央駅のマドンナ、
客車ユーリと一緒に仕事ができるとあっては、話は別である。
「なにィ! ユーリ? ユーリとなれば話は別だ。今日は私が引く。
ユーリに見合うのは私しかいない!」
「いいえ、皇帝陛下のお手を煩わすわけにはいきません。今日はわたくしルサファが
陛下の代わりを……」
「今日の湿度、気温からすると、私の体力でも客車ユーリさまなら充分に
引けると思いますね。私がやりますよ」
 カイルはもちろんのこと、ルサファやイルまでもが客車ユーリを引きたいと言い出した。
「いいや、ここはオリエント一逞しい俺様が! 真っ赤な薔薇が美しいラムセスさまが
ユーリを引くぞ!」
 エジプトからの長旅で疲れていたはずのラムセスもいきなり元気に
なって立候補した。
「ちょっと待って、カイルやルサファはともかく、ラムセス、あんたは国際機関車
でしょう。国内線のユーリを引くのはダメよ……」
 ねねはラムセスを止めた。だがラムセスは駅長室でこっそりパロディを
書いているようなヲタク駅長の話などは聞いてはいない。
 ラムセスは客車ユーリのところに走っていって、ユーリを奪おうとしていた。
「兄さまがユーリをとるなら、あたしはルサファがいいな♪
ルサファ! あたしの機関車になってェ〜」
 エジプトからラムセスに引かれてきたネフェルトは、シャギーの入ったルサファに
駆け寄った。
「ちょ、ちょっと待ってください。ネフェルト姫。私はヒッタイトの国内機関車
ですし、それにラムセス機関車のように早く走れませんよ……」
 客車ネフェルトに寄り添われたルサファ機関車は困ったようにいいわけをした。
「ルサファなら遅くてもゆるすわ〜」
 ネフェルトは幸せそうにルサファに寄り添っていた。

「私がユーリを引く!」
「いいや、俺だ!」
「いいえ、わたくしが知力の限りを尽くします」
「ここは力持ちのミッタンナムワにお任せを!」
「戦車隊長のカッシュにお任せを!」
 ユーリをめぐって機関車たちは小さな言い争いをしていた。そこへ一台の機関車が
近寄ってきた。いつも脱線ばかりする性格の悪いナキア機関車である。
今日も客車ウルヒに黒い水を積んでいるようだ。
「皆の者、何をもめておるのじゃ? ん? ユーリを誰が引くのかで争っているのか。
喧嘩するでない。ワタクシが前タワナアンナとしてお主たちの代わりに
ユーリをひいてやろう」
 ナキアは客車ウルヒを切り離して、ユーリを接続した。
「黒髪の小娘よ。前タワナアンナであるワタクシが、良きタワナアンナとしての
道を教えてやろう。悪のレールに乗ってな。おーほほほほ」
「いやー!」
 ナキアは蒸気をたてて嫌がるユーリを引っ張ってレールの上を走り出した。
タワナアンナへの道はあらゆる意味で長く険しいようである……。
 

 アナトリアの大地をつなぐ細く長いレールの上を走る機関車たちは、
人を乗せ、積荷を乗せみんなの想いを乗せて、今日も大地を
かけめぐっているのであった……(笑)。

おわり♪




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