もしも赤髪の白雪姫が学園モノだったら?
クラリネス学園
by nene's world

アニメイトオンラインショップ


4.水族館デート


「白雪、今度の土日はどちらか暇か?」
 ゼンが真剣なというより少々強ばった表情で白雪にたずねる。
「土日?」
「どちらか空いている日はなのか?」
 ゼンはまっすぐに白雪を見つめる。
 土曜日は同人誌のイベントがあるから無理でしょ。
日曜は店頭予約したアニメのグッズを取りに行くだけだから日曜日なら大丈夫かな? 
白雪は心の中で土日の予定を確認する。
「うーん、日曜の……午後なら暇かな? どうして?」
 午後と言ったのは、前日のイベントで疲れているから午前中は家でゆっくり本でも
読んでいたいという気持ちがあったからだ。
「本当か! 日曜の午後なら時間あるんだな!」
「うん、大丈夫だけど……」
 白雪は不思議そうな表情でゼンを見つめる。
「じゃ、じゃあ、水族館へ行かないか?」
「水族館?」
 思いもかけない場所に白雪は目を丸くする。
「ああ、白雪がよかったら水族館へ行かないかな…と思って……」
 ゼンは顔を赤らめる。
「いいよ」
 白雪はさらりと答える。
「本当に? いいのか!」
「うん。みんなで水族館なんて楽しそうだね」
「あ……みんなでじゃなくて、二人きりなんだが……」
 ゼンの表情が固まる。
「二人?」
「ああ、二人じゃだめか?」
 ゼンはおそるおそる訊ねる。白雪はそんなゼンを見つめて少々考える。
「うん、いいよ。水族館行こう」
「本当に!? いいのか?」
 白雪は頷く。ゼンは拳を握り元気な笑顔になる。
「どこの水族館に行くの?」
「あ…それはまだ考えてないんだが、近くて考えると、品川か池袋かスカイツリーか……」
 白雪は池袋という言葉に反応する。
「池袋がいい!」
 早口に白雪が答える。
「池袋だと、サンシャイン水族館だな」
「うん。サンシャイン水族館がいい。楽しみだね」
 白雪はゼンに笑顔を向ける。
「ああ、楽しみだ」
 ゼンはほっとしたように答える。
 白雪が池袋を選んだ理由――。
 それは日曜日までの店頭受け取りのお店が池袋のアニメイトだったからである。
待ち合わせは午後からなので、少し前にアニメイトに行ってグッズを受け取ればいいと考えた。
アニメグッズも受け取れて、ついでにゼンと一緒に水族館にも行って、いっぺんに用事を済ますことができる。
一石二鳥である。オタク白雪はラッキーだと思い、ゼンに笑顔で手を振って別れた。


***

「やばい、遅刻しちゃう!」
 約束の日曜日。
 白雪は自分の部屋を慌ただしく行ったり来たりする。
 昨日、同人誌のイベントから帰ってきて、夜遅くまでネットをしてしまった。
そのためか寝坊してしまった。ゼンとの待ち合わせの時間には間に合いそうである。
しかし、待ち合わせ前にアニメイトへ予約していたグッズを取りに行きたい。
白雪は鏡を前にして真剣に身なりを整える。

「なんでこんな時に限って電車が遅れてるの!」
 白雪は最寄りの駅について泣きそうになる。
 大急ぎで支度をしてなんとかアニメイトに行っても大丈夫な時間に家を出たのに、
駅に着いたら、電車が遅れていたのである。白雪はゼンに電車が遅れているので
少し遅刻するかもしれないとLINEした。ゼンからはすぐに返信があった。
もうすぐ池袋に着くので待っているから大丈夫だという返事である。
 電車はゆっくり動いているので、この調子なら待ち合わせを少し過ぎた時間には
池袋に着くかもしれない。だが、アニメイトに寄る時間はない。
電車が遅れたことにしてアニメイトへ寄ってしまおうかとも考えたが、
もう池袋で待っているゼンにいくらなんでも失礼だ。アニメイトは帰りにこっそり寄ればいいのである。
白雪はそう思い、池袋駅からまっすぐにゼンの元へ向かった。

「遅れてごめんね、ゼン」
「いいや、大丈夫だ。じゃあ、行こうか」
「うん」
 白雪は待ち合わせ時間の10分遅れで到着した。もしもアニメイトに寄っていたら
10〜15分はゼンを待たせたことになるだろう。わかっていて待たせるのはやはり気が引ける。
それに、なんだか今日のゼンは学校にいるときよりもすごく楽しそうで嬉しそうだ。
アニメイトに寄らずにまっすぐゼンの元に来て良かったと思った。
 サンシャイン水族館の入口でチケットを買って中に入る。
水族館内は親子連れやカップルで溢れていて、身動きが取れないほどではないが、混んでいた。
「水族館なんて久しぶり……」
 白雪は薄暗い水族館内へ入り呟く。
「あんまり来ないのか?」
「うん、小学生の時にお父さんと来たのが最後かな。ゼンは?」
「俺も久しぶりだな。最後に行ったのはやっぱり家族で……。兄上と一緒に行ったんだけど……
兄上はやたら魚に詳しいんだ。色々解説を始めてあまりゆっくり見ることはできなかったなぁ〜」
 ゼンは苦笑いする。
「イ、 イザナ生徒会長の解説つき水族館なんて……」
 白雪は目を輝かせる。なんて贅沢な。イザナ生徒会長。
あのカヲル君の声で水族館の解説をしてくれるなんて夢のようだ白雪はそう思った。
「あっ! チンアナゴだ!」
 白雪は水槽の前で叫ぶ。白雪の視線の先には砂から白いミミズのような生物が頭を出していた。
チンアナゴはウナギ目アナゴ科の海水魚の1種で灰色の体に多数の斑点を持つ。
下部は常に砂にもぐっており、頭部を外に出してプランクトンを食べるのだ。
「わあ、チンアナゴ! 本物初めて見た。どうぶつの森と一緒だ!」
「どうぶつの森?」
 ゼンは不思議そうに白雪の顔を見る。
「うん、任天堂のDSのゲームだよ。どうぶつの森って知らない?」
「ああ、聞いたことはあるな……。白雪は好きなのか? どうぶつの森」
「うん。面白いよ。プレーヤーはどうぶつの森に住んで虫をとったり、
海に潜って魚や貝を採ったりするの。色々な種類の虫や魚をとるから詳しくなるんだ」
 白雪はチンアナゴを見つめながら答える。
「ふーん、面白そうだな」
「面白いよ! ゼンも一緒にやろうよ。通信機能もあるからお互いの家にも行けるんだよ」
 白雪は優しくゼンに説明する。
「し、白雪の家に行けるのか?」
 白雪の表情が固まる。冷たい目でゼンを見る。
「うちじゃないよ。DSのどうぶつの森の中のお互いの家に行けるの。私の家じゃないよ…」
「そうか、そうだよな。どうぶつの森、面白そうだな。やってみようかな?」
「うん。ゼンはDS持ってるの?」
「ああ、持ってる」
「じゃあソフトがそろえば大丈夫だね」
 白雪はニッコリとゼンに微笑んだ。

 魚のコーナーが終わってクラゲのコーナーに来た。ドーム状になっている水槽に
たくさんのクラゲが泳いでいる、『ふわりうむ』というクラゲのトンネルである。
淡く青い光に照らされたクラゲたちがゆらゆらと舞う幻想的な空間である。





「うわぁ〜きれい……」
 白雪はクラゲのトンネルで足を止める。
「クラゲって綺麗だよね。このゆっくりフワフワと揺れる感じが癒されるね……」
「そうだな」
 青白い光が透明なクラゲを照らしていて確かに美しい。
ゼンはクラゲと一緒にチラリと白雪の横顔も見つめた。
クラゲを見ているふりをして白雪を見つめると、学校にいるときと目元が少し違うような気がする。
「あれ? 白雪お化粧してる?」
「えっ!」
 白雪は驚いてクラゲから目を離しゼンのほうを向く。
「なんか学校のときと違う……」
「す、少しだけお化粧してるけど、変かな?」
 白雪は両頬に手を当ててムンクの叫びのようなポーズになる。
 ――コスプレの時に比べたら、ものすごく薄くしてきたつもりだったけど、化粧濃かったかな? 
どうしようコスプレメイクみたいだって思われてたら……。
「ううん、変じゃない。じっくり見つめないと分からなかったから……」
 いつも白雪は可愛いが、今日は化粧をしてもっと可愛くて綺麗だと思ったが口には出せなかった。
「そう……。それならよかった」
 白雪はほっとする。今まで気づかなかったくらいだからコスプレメイクのように
キツイメイクではないということだろう。
「あっ、白雪。こっちには白雪と同じクラゲがいるぞ!」
 ゼンがクラゲトンネルを越えた筒状の水槽の前で手招きする。
「わっ! 赤いクラゲだ!」
 筒状の水槽には、小さいが色とりどりのクラゲが舞っていた。
白に水色に薄いピンクのクラゲ。その中に、ひときわ目立つ真っ赤なクラゲがいたのだ。
白雪の赤い髪と同じ色であった。



「やっぱり赤っていいな……」
 ゼンは真っ赤なクラゲをまっすぐに見つめていた。
 白雪はその言葉にドキッとし、ゼンの顔を見た。優しく笑いながら赤いクラゲをまっすぐに見つめていた。
まるで自分のことを褒められたようで……白雪の心臓は早鐘を打つ。
二人でしばらく赤いクラゲを見つめていた。

 クラゲのコーナーを見終わった二人は、アフリカの川に住む魚や生物、
カリブ海の魚を見て最後にミュージアムショップに寄った。
「わあ、チンアナゴだ!」
 入口に近くに、チンアナゴの巨大なぬいぐるみがあった。白雪はぬいぐるみを持ち上げる。
「おっきいね。チンアナゴ……」
 白雪はチンアナゴのぬいぐるみを見つめ呟く。値札には1万円と書いてある。
「そ、それが欲しいのか?」
 ゼンは恐る恐る聞く。
「ううん。持ってみただけ。欲しくない」
 白雪はぬいぐるみを元に戻す。
「子供向けのお土産が多いね」
 店内には様々なお土産があったが、白雪の言うとおり、
やはり子供向けのものが多いような気がした。二人はゆっくり店内を見て回る。
「わっ! クラゲのノートだ! 綺麗!」
 白雪は文房具のコーナーにあったノートに声を上げる。表紙が3Dの青いクラゲが浮き上がるノートであった。
白雪は迷わず2冊手に取り、腕に抱える。




「2冊買うのか? 友達への土産か?」
「うん、自分用とタンバルンにいたときの後輩に…」
 ゼンは一瞬自分も同じノートを買おうかと思ったが、
それでは白雪の後輩ともお揃いになってしまう。
ゼンはクラゲのノートを一度手にしたが、元に戻した。
「ちょっと会計してくるね」
 白雪は会計の列に並んだ。
 ゼンは白雪の後姿を見ながら思う。
 ――せっかくの機会なんだから、白雪に何か贈りたい。できれば自分も同じものを持ちたかった。
ゼンは白雪が会計をしている間、何かいいお土産になるようなものはないか店内を見て回った。

 白雪はクラゲノートの会計を終えゼンの姿を探す。会計の付近にいてくれるかな?
と思ったが、彼の姿はなかった。ゼンの姿を探しながらゆっくりと歩く。
すると、キーホルダーやストラップのある売り場の前でじっと商品を見つめるゼンがいた。
「ゼン、ここにいたの? 探しちゃった」
「ああ、白雪」
 ゼンは白雪の顔をチラリと見て再びストラップをじっと見つめる。
「白雪はさ、もしこの中のストラップで一つ選ぶとしたらどれがいい?」
 ゼンは目の前のストラップを指さす。
 白雪はゼンが指をさしたストラップを見つめる。サンシャイン水族館オリジナルのストラップが並んでいた。
エンゼルフィッシュなど魚や、クラゲ、クリオネ、チンアナゴ、エイなど10種類近くあった。
ステンレス製のストラップで2つセットになっていた。魚のストラップだったら、
魚本体とそれをくり抜いたプレート状のものが2つセットになっている。
「うーん、クリオネもかわいいけど、やっぱりクラゲかな? いいね、このストラップ」
 白雪はクラゲのストラップを手にして微笑む。



「本当か? 気に入ったか、白雪? じゃあプレゼントする。
それで……もしよかったら、一つずつ持たないか……?」
 ゼンは顔を赤らめ恥ずかしそうにする。
「ひとつずつ?」」
「ああ、白雪の好きな方とっていいから……」
 ゼンは、二つセットのストラップを、クラゲ本体とクラゲをくり抜いた
プレート状のものとお互い1個ずつ持とうと提案したのである。
「いいよ、ゼンとお揃いだね!」
 白雪は無邪気に笑う。ゼンは顔を真っ赤にしてクラゲのストラップを持ち会計へ向かった。


 水族館を出た後、少々疲れたのでサンシャイン内でお茶をすることにした。
「はい、白雪開けていいよ」
 ケーキセットを注文した後、ゼンは水族館で買ったストラップの包みを白雪に渡す。
「ありがとう」
 白雪は笑顔で受け取り、袋を開ける。
クラゲとクラゲをくり抜いたステンレス製のプレートの2つのストラップをテーブルの上に並べる。
「ゼン、どっちがいい?」
 白雪はクラゲのストラップを見つめる。
「白雪の好きな方選んでいいよ」
「じゃあ、ゼンはこっち。男の人にはこっちのプレート状の方が似合うよね」
 白雪はクラゲをくり抜いたプレート状のほうをゼンに渡す。
「私のほうは早速付けちゃおう」
 白雪はスマホを出す。スマホはピンクの手帳型のケースに包まれている。
スマホケースの側面の上部にストラップ用の穴があり、白雪はそこに括り付けた。
「俺も付ける!」
 ゼンは鍵をポケットから出し、クラゲのプレートを鍵に括り付けた。
「お揃いだね」
 白雪はスマホケースをゼンの前に持ってくる。
「ああ」
 ゼンも嬉しそうにする。
「これってさ、プレートのほうにぴったりクラゲはまるのかな? ちょっと貸して」
 白雪はゼンから鍵の付いたクラゲのプレートを受け取り、テーブルの上へ置く。
白雪もスマホを置き、ゼンのプレートの上に自分のクラゲのストラップを重ねる。
「わっ! ぴったりはまった!」



 プレートにぴったりとはまったクラゲに白雪は感動する。
「本当だな。よくできてるな」
 ゼンも感心する。
「ありがとう、ゼン。大切にするね」
 白雪はニッコリと微笑む。そんな白雪にゼンは顔を赤らめる。
「あ、あの! 白雪。実は話が……」
 ゼンは顔を更に赤らめ、白雪を見つめ言葉を詰まらす。
「なに?」
 白雪が不思議そうな顔をしたところで、店員がケーキセットを運んできた。
「お待たせしました」
 テーブルの上にケーキとお茶が並ぶ。
「なに? 話って?」
 店員が去ったところで白雪はたずねた。
「あ……、えっと……」
 ゼンは顔を赤らめながら、あたりを見回してキョロキョロする。
「いや、何でもない……」
 ゼンは何も言わず視線をケーキセットに落とす。
「そう……」
 白雪はそんなゼンを少し変に思ったが、心の中では別の事を考えていた。
この後、ゼンと別れてアニメイトに向かうにはどうしたらいいかということだ。
ゼンと一緒にアニメイトに行くわけにいかない。できればサンシャインで別れたいが、
それが無理なら駅まで行って見送るふりをして改札を通らずアニメイトへ引き返すしかない。
白雪は策を練っていた。
 お茶が終わって店を出た。お茶の間中、ゼンはそわそわした態度で、
少しおかしいなと思ったが、白雪の頭の中はアニメイトへどうやって帰りに寄ろうかということでいっぱいであった。
「そろそろ帰る?」
 白雪はゼンに向かって言った。外はまだ明るいが、日が落ち始めている。
水族館に行ってお茶もしたし、そろそろアニメイトへ寄るために帰りたいなと思った。
「えっ!」
 ゼンは驚いた表情で白雪を見つめる。
 白雪はショックを受けたようなゼンの表情に驚く。ゼンから誘ってくれた水族館。
こういう場合は自分から帰ると言ってはいけないのだろうか? 
ゼンは何も言わず辺りを見回してキョロキョロしている。どうしたらいいか、白雪はその場に立ち尽くす。
「展望台……」
 ゼンが天井からぶら下がっている掲示板を見て呟く。
「え?」
「白雪、あと30分だけ時間は大丈夫か? 展望台に行こう!」
 ゼンは真剣な表情で白雪を見つめる。
「あ……うん、30分だけなら……」
 30分くらいなら、まだアニメイトがやっている時間だ。問題はない。
「よし、行こう!」
 ゼンは白雪の手をしっかり握る。突然、手を握られた白雪は驚き、一瞬、手を引いてしまった。
だが、ゼンは白雪の手をしっかりと握り離そうとしない。ゼンに握られた手が熱い気がする……。
白雪はゼンの手を握り返すわけにもいかず、そのまま展望台まで連れていかれた。
「結構高いね。1800円か……」
 白雪は展望台のチケット売り場の入場料を見て呟く。
「学生は1500円だぞ」
「うん、でも300円しか違わないし……」
 白雪は展望台へ昇ることを少々ためらう。これからアニメグッズを引き取りに行くから、
ここで1500円払うとギリギリの金額しかお財布に残らない。どうしようか迷う。
「いや、白雪。俺が誘ったんだ。ここは俺が払う!」
「えっ! いいよ。お茶も奢ってもらったし、そんなの悪いよ!」
 白雪が止めるのも聞かずに、ゼンは窓口で二人分のチケットを買った。
「ありがとう。さすがは王子だね…」


 展望台専用のエレベータに乗り、一気に最上階まで行った。
 時刻はちょうど夕暮れ時。展望台の大きな窓の外を見ると、
赤とオレンジの混ざった美しい夕焼けがビルの立ち並ぶ都会の風景を照らしていた。
「水族館よりも空いてるね」
「そうだな……」
 ゼンは相変わらずそわそわしている。おかしいと思いながらも、
白雪自身もこれからどうやってアニメイトへ行こうかという思いで頭がいっぱいだった。
「サンシャインくらいの高さが一番展望台らしくっていいかもな。
地上にある車や建物がしっかりわかる。スカイツリーは高すぎて、豆粒みたいだもんな……」
「ゼン、スカイツリーに登ったことあるの?」
「ああ、できたばかりの時に兄上たちと一緒に……」
「すごい、イザナ生徒会長と一緒にスカイツリーなんて……」
 白雪は感心する。
「白雪はないのか?」
「うん、いつか行たいなと思ってるんだけど」
「そうか、じゃあ今度一緒に行こうか……」
 ゼンが静かに白雪の顔を見つめて言う。
「うん……」
 窓の外を見ながら静かに頷いた。
 白雪はふと思う――。二次元の世界も十分に心を満たしてくれるけど、
こうやって同じ年頃の男の子と一緒にでかけるのも楽しいと思った。
……いや、楽しいよりも嬉しいという気持ちのほうが大きいかもしれない。
鹿月と一緒にコミケやイベントに行く楽しさとは違う。この気持ちは一体どういうものなのだろう。
ゼンと一緒にいられて、同じ時を過ごせて心から嬉しいと感じた。
 でも今日はとりあえず帰りにアニメイトへ行かなければならない。
この後、どうやってアニメイトへ行こうか。ゼンには何と言って別れよう……。
もしサンシャイン前で別れてたとしても、アニメイトは駅の方向と一緒である。
やはり駅まで行ってゼンを見送ってからアニメイトへ引き返すしかないかな……。
「し、白雪……」
 そんな時、ゼンが声を震わせて白雪の名前を呼んだ。明らかに声色がおかしい。
「何? どうしたの?」
 白雪はまっすぐにゼンを見つめる。
「あの、あのな、白雪……」
 顔を真っ赤にしているゼンは何か言いたそうである。
だけどなかなか次の言葉を発しようとしない。しばらく二人の間に沈黙が続く。
最初はお互い顔を見合わせていたが、真っ赤な顔をしたゼンが窓の外の夜景に先に視線を移した。
白雪もゼンに習って外を見る。たまたま見た方角が、池袋駅方面、アニメイトの方向であった。
アニメイトの建物はもちろん見えないが、これから行かなければならない場所である。
白雪はアニメイトのある辺りをじっくりと覗き込む。
すると、隣で大きな深呼吸が聞こえた。ゼンが白雪の名前を再び呼ぶ。
「あのな、白雪」
 今日は何度同じような感じで名前を呼ばれたのであろう。振り向くとゼンは黙ってしまうので、
何か喋り始めるまで振り向かなくてもいいかなと思った。
白雪は窓の外、アニメイトの方角を見つめたまま返事をした。
「なに?」
「じ、実は白雪のこと……転校してきたときからずっと……ずっと好きだったんだ。
誰も付き合っている奴がいなかったら、俺と付き合ってほしい」
 白雪は鼓膜に流れてきた言葉に硬直する。
「ええっ!?」
 思いもかけない、まったく予想もしなかった言葉に驚き、ゼンを凝視する。
ゼンの顔は真っ赤であった。だが真剣な表情である。
「あ……、ご、ごめん急に。今日はこれを伝えたくて……。
別に返事は今じゃなくていいんだ。次に会った時でも、その後でもいいから……」
 真っ赤な顔をしたゼンは窓の外の夜景へ視線を移した。そして俯く。
 白雪は頭の中が真っ白になった。まさかゼンからこんなことを言われるとは……
告白されるとは、思ってもみなかった。
アニメイトへ行くことで頭がいっぱいだった白雪には想像もできなかったことである。
 だが、ゼンと一緒にいたい。一緒にいると楽しいし嬉しいと思ったことは事実だ。
この気持ちがまだどういうものか自分でもわからないが、これからも一緒にいたい。そう素直に思った。
「次に会った時じゃなくていい……」
「え?」
 白雪の言葉にゼンは振り向く。
「もう答えは決まってる。私も……ゼンと一緒にいたい。付き合いたい……です」
 白雪は赤い髪と同じくらい真っ赤な顔をしてゼンに告げる。
最後の言葉は恥ずかしさのあまり掠れてしまった。
「本当に?」
 ゼンが信じられないという表情でたずねる。
「うん」
「ま、まさか白雪から今日返事が聞けるなんて思わなかった。それもいい返事が……」
 ゼンは嬉しさに目を閉じ、深呼吸する。一気に今までの緊張が解けたのだ。
「そっか、それで今までゼンの態度がおかしかったんだ」
 白雪はクスリと笑う。
「白雪は……俺が告白したいって気づかなかったのか?」
「うん、全然。まったく」
 白雪は即答する。ゼンは少々がっかりする。
「そうか、気づかなかったのか……」
「うん、ごめんね」
 白雪はゼンの瞳を見つめて謝る。ゼンもこちらを見つめている。
すると、ゼンの顔が近づいてきた。気づいた時には自分の唇にゼンの唇が重なっていた。
白雪は驚きのあまり目を見開いたまま呆然とする。
「あ、ごめん……。白雪の顔見てたら嬉しくて……」
 ゼンは唇を離す。白雪は再び赤い髪と同じくらい真っ赤な顔になる。
「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど……」
 白雪は一歩、後ずさる。その拍子にバランスを崩してよろめく。
「おっと、危ない」
 ゼンは白雪の手を取り支える。そのまま白雪の手をギュッと握る。
「あ、ありがとう。ゼン……」
「じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「うん」
 白雪もゼンの手を強く握り返す。
 二人は手を繋いだまま、無言で帰りのエレベーターを待った。
 ――この展望台に来たときも、白雪の手を引いて半ば無理やり連れてきた。
今も同じく白雪の手を引いている。だが、行きとは違う。白雪はしっかりと自分の手を握り返してくれている。
あたたかさが、ぬくもりが感じられる。
 ゼンはチラリと白雪の顔を見た。まだ頬が赤く俯き加減であった。
ゼンは白雪の手を少し強く握り、自分の方へ引き寄せてみた。
白雪は一瞬こちらを向いたがすぐに俯いてしまう。俯きながらもゆっくりとゼンの肩に顔埋めて寄り添ってきた。


***

 白雪はマンションに帰ってきた。
 部屋の電気をつけてベッドにゴロンと仰向けになり、真っ白な天井を見つめる。
 ――まさか、ゼンから告白なんてされると思ってもみなかった。
そしてそれに答えてしまった自分がいるなんて信じられなかった。
白雪はそっと指で自分の唇に触れる。本当に一瞬だったけど、ゼンの唇が触れた。
こんな腐女子な、オタクな私に、3次元の世界でこんなことが起こるなんて信じられなかった。
 ……ん? オタク?
 白雪は引っかかることがあった。
「あーーーー!」
 白雪はベッドから起き上がり、誰もいな部屋で叫ぶ。
「アニメイト行くの忘れた!」


♪続く


【あとがき】
 学園モノ。デートさせるなら、クラリネスにない場所にしようと思い、水族館にしました。
ディズニーも考えたんですけど、待ち時間長そうだし書きにくそう。近くにアニメイトもないのでやめました。
サンシャイン水族館には本当に行ってきました。妙に内容が詳しいでしょ〜(そこまでするか?笑)。
ミュージアムショップの物は本当に売ってます。(2016年3月現在)。
ノートも写真よりももう少し3Dで立体的です。ネタ帳に使っています。
ちなみに私はスカイツリーの展望台よりも、サンシャインの展望台のほうが好きです。
スカイツリーだと高すぎて飛行機からの風景みたいで、しっかり車や建物が見えるサンシャイン位の高さが面白いです。
夜景も綺麗でちょうどいい高さです。今は色々な夜景スポットがあるのでサンシャインは空いているとか? 
是非一度行ってみてください。
サンシャインシティ

 


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