赤髪の白雪姫2次小説
絶対泣かない


今回、リリアスで遠距離恋愛の別れのシーンみたいな場面を書いてみたいと思いました。
私も頭の中の妄想シーンが伝われば嬉しいです(笑)。珍しくR18はなしです。





 クラリネスの北の要所、リリアスにリュウと共に赴任した白雪。
リリアスの生活にも慣れた頃、嬉しい一報が入った。ウィスタルの王宮にいるゼン達が、
リリアスの近くまで視察で来ているというのである。時間が取れたのでリリアスに3日ほど滞在できるというのだ。
 最初は3日もゼンと一緒にいることができると思ったが、過ごしてみるとあっという間で、すぐに別れの日となってしまった。

***

 朝食を済ませ、出発の準備の整ったゼンは、白雪と一緒に外へ出た。
 ウィスタルにはない一面の雪景色を満喫したかったのである。今日は天気が良く、旅立ちには大変良い日であった。
「まだ出発までに時間あるな」
「そうだね」
 白雪は時計を見る。確かにまだ見送りの人も外にいない。
 真っ白な雪が太陽に照らされて眩しい。ゼンと白雪はその眩しさに目を少し細くする。
 たったの3日だったが、やはりゼンと一緒にいられたのは嬉しかった。気持ちが弾んだ。
嬉しかった分、やはり別れがつらい。やっぱり好きな人とはずっと一緒にいたい。
そばにいたいという気持ちがまったくないと言ったら嘘である。
「よし、白雪。リリアスに来た記念に二人で雪だるま作ろう。王宮では作れないからな」
「うん」
 ゼンは手で雪玉を作りコロコロと転がしてゆく。童心に返ったようでゼンは嬉しそうであった。
白雪も雪玉を作っていたが、ゼンは白雪が手袋をしていないことに気づく。
「白雪、素手は冷たいぞ。手袋はどうした?」
「あ、ちょっと置いてきちゃった。でも大丈夫、寒さにはだいぶ慣れたし、
そんなに大きな雪だるまつくるわけじゃないし」
 白雪は素手で雪を転がす。ゼンが作った雪玉と、それより少し小さな白雪の雪玉を合わせて、
膝より少し大きい雪だるまができた。近くに落ちている木の枝と葉っぱを合わせて目と鼻と口を作る。
白雪は口用にまっすぐな短い枝を付けようとした。
「白雪、そのまっすぐの枝だと、この雪だるまは不機嫌そうに見える。こっちの枝にしよう」
 ゼンが持っているのは、同じような枝であったが、少し弧を描いた枝であった。
雪だるまの口の部分にはめるとにっこりと笑ったような顔になった。
「ほら、このほうが楽しそうだ」
「そうだね!」
 笑顔の雪だるまが出来上がる。ゼンは満足そうであった。そんなゼンを見て、白雪も嬉しかった。
 すると、白雪ははぁ〜と自分の指に息を吹きかける。
「やっぱり素手で作ったから手が冷たいや!」
 白雪は笑う。雪を素手で触っていたので、赤い髪と同じくらい白雪の指は真っ赤であった。
「どれ、手かしてみろ…」
 ゼンは手袋を脱ぎ白雪の両手を包む。
「え、ちょっといいよ…」
 そろそろリリアスのみんなもゼン達の見送りに出てきた。木々もミツヒデも準備ができて近くにいる。オビもいる。
二人きりならともかく、みんなの前で手を握られるのはちょっと恥ずかしい。
「うわっ。白雪の手、氷みたいに冷たいぞ…と言っても、俺の手もそんなに温かくないな……」
 ゼンが苦笑いする。手袋をしていたとはいえ、雪をいじっていたのだ。ゼンの手も白雪ほどではないが冷たかった。
 ゼンは白雪の手を握ったまま考え込む。
「温めてやれなくて……あんまり力になれなくてごめんな」
 ゼンは優しく手を包み、白雪の瞳をまっすぐに見つめる。
「えっ……」
 白雪はゼンを見つめて固まる。
 ――思ってもみなかったゼンからの言葉だった。
 会いに来てくれただけで嬉しいのに、顔が見れただけで充分だと思っていたのに、そんな言葉をかけられたら胸が苦しくなる。
 白雪はゼンの瞳から視線を外せなかった。ゼンもまっすぐにこちらを見つめている。
 頬にリリアスの冷たい風が触れる。空気は冷たいのに、喉の奥がジーンと熱くなるのを感じた。
「じゃあ、白雪! またな!」
 最後にギュッと白雪の手を握り、ゼンは笑顔を向ける。
「……う、うん、またね!」
 白雪はなんとか言葉を絞り出した。喉の奥が熱い。ゼンに必死に笑顔で答えた。
「じゃあ、行こうか。ミツヒデ、木々」
 ゼンは馬に乗り、待っていた木々とミツヒデに声をかける。
「白雪、またな。風邪ひくなよ」
「また来るからね、白雪」
 ミツヒデと木々が白雪に別れを告げる。
「はい……」
 白雪は短く返事をした。
 本当は、帰り道気を付けて、私も会いに行きます。と二人に声をかけたかった。
 だけどできなかった。これ以上喋ると涙がこぼれてしまう。
「オビ! 白雪の事よろしく頼むぞ!」
 ゼンが馬上から大きな声で叫ぶ。
「主、木々嬢、ミツヒデの旦那! 帰り道お気をつけて! また会いに行きますよ!」
 白雪の心の内を察しているのだろうか? オビが白雪の言いたかったことを代弁してくれた。
 ゼンと木々とミツヒデは馬に乗ったまま振り返り、大きくこちらに向かって手を振る。
その手に応えようと白雪はぐっと涙を堪え、笑顔を作って必死に手を振った。しばらく馬を歩かせたところで、
もう一度ゼンはこちらを振り返り、手を振っている。白雪も手を振り続けた。喉の奥が熱くなり、ゴクリと唾を飲み込むと少ししょっぱかった。
 リリアスの雪景色にゼンの姿がだんだん小さくなり遠くなる。真っ白な雪が太陽に反射してキラキラして眩しい。
眩しさに視界がぼやけているのだろうか。いいや、そうではない。これは雪のせいではない。
ゼンの乗った白馬はやがてリリアスの雪の中へ吸い込まれるように消えてゆき、見えなくなった。

 オビはまっすぐにゼンの姿を追う振りをしながら、横目では白雪の様子をずっと気にしていた。
お嬢さんが涙を堪え、言葉を発することができないこと状況であることはすぐにわかった。
だから、木々嬢とミツヒデの旦那には、お嬢さんの分も挨拶したつもりだ。きっと二人もわかっていることだろう。
 主は何度も振り返ってお嬢さんに手を振っている。チラリと横目でお嬢さんの瞳を見ると、
赤い髪と同じくらい真っ赤だった。いつ、涙がこぼれてもおかしくない状態なのに、このお嬢さんはなかなか泣かない。
主たちが豆粒のように小さくなったところで、やっと真っ赤な瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
一度涙がこぼれると止まらないのであろう。鼻をすすって次々と涙が流れ、ヒックヒックと肩が上下していた。
「オビ…」
「なんですか? お嬢さん」
「ゼンには泣いてる顔見えてないよね……」
 白雪は鼻をすする。
「見えてないと思いますよ」
 オビは溜息をつき、懐に手を入れる。持っていたハンカチを白雪に差し出す。
「良かった……」
 白雪は素直にハンカチを素直に受け取り、溢れ出た涙を拭う。
「思いっきり泣いたってよかったのに……」
 オビは白雪の顔を見ないよう正面を向いたまま呟く。
「ゼンが笑って別れてくれたのに……泣けないよ……。絶対に泣かないよ」
 白雪はハンカチで口元を押さえたまましゃくりあげる。
「そうですか……」
 まったく、格好つけが標準装備なんだから……というのは心の中で言った。
「ほら、お嬢さんが素直に泣かないから、代わりに後ろでリリアスの皆さんが号泣してますよ」
 オビが振り向くと、リュウをはじめリリアスのみんなが涙を流していた。
「し、白雪さん……感情移入しちゃいました」
「ゼン殿下と白雪さんのファンになりそうです…」
「もう、もうだめです〜」
 一緒に見送りに出ていたリリアスのみんなが泣いていた。
「な、何でみんなが泣いているの!」
 白雪はぎょっとし、驚きのあまり涙が止まる。
「まあまあ、皆さん。寒いから中に入りましょう」
 オビが皆に建物の中に入るように促す。白雪も後について行くと、
先ほどゼンと作った小さな雪だるまが目についた。太陽に照らされて徐々に溶け始めていた。
「雪だるま……明日には溶けちゃうかな?」
 雪だるまの前で足を止めた白雪が呟く。
「大変だ! ゼン殿下と白雪さんの作った雪だるまが、こんな日向では溶けてしまう! 日陰に移そう」
「大切な雪だるまを救え!」
「よし、手伝うぞ」
 みんなが雪だるまを日陰に移動する。
「ええっ! いいですよ。そんなことしなくても!」
 白雪は驚いたが、雪だるまはあっさり雪の溶けにくい日陰に移されてしまった。
「す、すみません」
 白雪は申し訳なさそうにする。
 リリアスのみんなに移動させられた雪だるまを見ると、にっこりと笑っていた。
 まるでゼンが笑っているようだと思い、ほっとした気持ちになる。
 きっとこの雪だるまは、日陰に移したとしても数日で溶けてしまうであろう。
だけどリリアスのみんなの気持ちと笑って別れてくれたゼン笑顔が、これからも白雪を元気にしてくれる。
 白雪はもう一度、ゼン達が帰っていった雪景色を振り返る。もちろん姿は見えない。
 太陽に照らされてキラキラ光る一面の銀世界が広がるだけである。
「お嬢さん、中に入りますよ」
 そんな白雪にオビは声をかける。
「うん。オビ、ハンカチありがとう。ちゃんと洗って返すね」
「いいですよ、別に」
「ううん、ちゃんと返すよ」
 白雪はオビを見つめてにっこりと笑った。

♪おわり


〜エピローグ〜
「寂しいって素直に泣けばいいのに……」
 木々は馬上でこっそりすすり泣きしているゼンに言葉を向ける。
「う、うるさいぞ。木々」
「まあ、男としては、あの場は笑顔で別れるしかないよなぁ」
 ミツヒデがゼンの気持ちを代弁する。
「白雪が……泣いてないのに泣けるか!」
 袖口で涙を拭いながら言い返す。
 白雪は殆ど泣きそうだったけどな……。そう言おうと思ったが、
ミツヒデは言葉を飲み込んだ。別れ際、必死に涙を堪えている白雪の姿を思い出す。
「まったく、格好つけが標準装備なんだから……」
 木々がミツヒデと視線を合わせ苦笑いした。




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