令和改元記念
赤髪の白雪姫二次小説
ゼン、福袋を買いに行く
【前編】 【中編】 【後編】
【前編】
「なんでそんなものが欲しいんだ、ゼン。わざわざ買いに行かなくてもいいだろう」
「そうだよ。ゼンには必要ないでしょう。城下まで行って買いに行くことなんてないよ」
ゼンは側近のミツヒデと木々にたしなめられていた。二人の口調は穏やかではあったが、あきれた様子でもある。
「いやだ。王宮の近衛兵たちが言っていた『福袋』というものを購入してみたい。
どうやら、金額以上の品物が入っていて、大変得をする袋だというではないか。中身が見えなくて、袋を選ぶこともできると聞いたぞ。俺も城下に行って福袋が欲しい!」
ゼンは木々とミツヒデに懇願する。
今日の昼休み、王宮の近衛兵たちが、奥さんと子供と買いに行った福袋の話をしていた。
クラリネスで福袋は通常、年始に売りに出されるものだが、城下の市場のある一画では通年売っている店があるのだ。
『福袋』という言葉も初耳なゼン。近衛兵たちに福袋について詳しく教えてもらい、すっかり興味を持ってしまったのだ。
木々とミツヒデは困り果てていた。そこへ白雪とオビがやってきた。
「どうしたんですか、木々さん、ミツヒデさん」
「どうしたんです、主? なんだかワガママを言ってそうな雰囲気……」
オビは状況を察したのかニヤニヤしていた。
「ゼンってば、福袋が欲しいなんで言い出すの。ゼンには必要ないって言っているんだけど……」
「まったく、ゼンに余計なこと言わないで欲しい……近衛兵たちめ……」
木々とミツヒデがため息をついていた。
「ゼン、福袋が欲しいの? 庶民的なものだし、ゼンが欲しいようなものは入ってないと思うけど……」
「そうですよ、福袋って当たりはずれが大きいし、ガラクタばかりのこともありますよ」
白雪とオビもゼンには福袋は必要ないことを伝えた。
「白雪、オビ! 二人は福袋を買ったことあるのか?」
ゼンは瞳をキラキラさせながら言った。
「あるけど……」
「ありますよ」
白雪とオビは嘘をつくわけにもいかず、素直に答える。
「そうか、福袋の中身はどうだった? 何が入っていた」
ゼンは身を乗り出すように聞く。
「うーん、最近買ってないからなぁ~。私は洋服やアクセサリーの福袋を買ったけど、
好みじゃない色もあったし、サイズも合わない服もあったなぁ~。あ、でも可愛い帽子が入っていたことがあったな。それは気に入って今も使ってる」
「そうか、中身が見えないから、すべてが気に入るものではないんだな。オビはどうだ?」
「俺は買ってもらったのは子供の頃です。もう何が入っていたかなんて忘れました!」
「そうか、オビは覚えてないないのか……それはつまらん……」
「そうだ! 主。そんなに福袋が欲しいのなら、城下に行って買って来てあげますよ。どんな種類の福袋が欲しいんですか?」
「オビ、それ名案! そうだよ、オビに買ってきてもらえばいいんだよ」
「そうだな、オビ。頼まれてくれ……」
木々とミツヒデはオビの提案に安堵し、乗り気であった。
「いいですよ……」
「ダメだ!」
オビの返事を遮るようにゼンが言った。
「福袋というのは中身が見えなくて、袋を持って重さを確かめてみたり、
袋の外観からどんなものかを想像するのが楽しいと聞いたぞ。自分で城下に行って福袋を選びたい!」
王子様は一度言い出したら聞かない性格のようである。
木々とミツヒデは、過密な王子様のスケジュール調整にしぶしぶと入る。
白雪とオビも福袋を一緒に選ぶ役割を任ぜられた。
4人は王子様の興味と我儘に付き合うことになった。
【中編】
王宮の裏門には、ゼン、木々、ミツヒデ、白雪、オビの5人が揃っていた。
本日は身元がわからないように、ゼンをはじめ皆、庶民的な服装をしている。
「さあ、城下のバザールへ行くぞ!」
先頭を行くゼンだけが、ご機嫌である。
福袋はたいてい年始やイベントがあるときに販売されるものだが、一年中、福袋が売っている店をオビが調べておいてくれた。
城下のバザールの一角に子供から大人まで、様々な年齢を対象とした福袋が売っているお店が、あるのだ。
「ゼン、お気に入りの物が入った福袋見つかるといいね」
白雪が笑顔で声をかける。
後に続く木々、ミツヒデ、オビの3人はしぶしぶと主人の後へついていった。
城下のバザールに到着すると、そこは活気であふれていた。
「主、こっちですよ。はぐれないようにしてくださいね」
オビは福袋が売っている店へと案内をする。
平日の昼であったが、バザールは混みあっていた。
お互いを見失ってしまうほどの人込みではないが、夕刻から会議の予定が入っている。
限られた時間での城下への買い物である。迷ったりはぐれたりしている時間はない。
「ここですよ、主。さっさと福袋を選んでください!」
投げやり口調でオビが言った。必要なものは何でも揃う身分のはずなのに、なぜ福袋が欲しいのか、オビには少々理解不能である。
「ゼン、早く決めてね。夕方の会議までには必ず戻らないといけないから」
「帰りの時間を考えると……ゼン、20分以内に決めてくれ!」
木々とミツヒデが時計を気にしながら言った。
「おおおおお! これが福袋か! 素晴らしい!」
ゼンは店先に並んでいる福袋を見て興奮していた。
「本当だ。すごいね。こんなに福袋が並んでいるのは私も初めて見た!」
ゼンと白雪が驚くのも無理はなかった。
バザールの一角にある店は、一年中福袋が売っている専門店で、店先には数メートルにわたり福袋がズラリと並んでいた。その光景は圧巻であった。
「20分か……。さて、どの福袋にしようかな」
ゼンは一つ一つ福袋を見てゆく。子供向けのおもちゃの入った福袋が多かったが、衣料品、キッチン雑貨、小物、アクセサリーなど様々な福袋があった。
「わあ! 薬膳茶の福袋がある。私はこれ買おうかな……」
白雪は幾種類ものお茶が入った福袋を手に取る。
「こ、これは俺がコレクションしている懐中時計じゃないか。城下にはこんな福袋があるのか!?」
ミツヒデは懐中時計の福袋に目が釘付けになっている。
「これ、かわいいな。私はこの雑貨の福袋を……」
木々とミツヒデも福袋を手にしていた。
「ちょ、ちょっと、あんなに文句言っときながら、何、福袋買おうとしているんですか! じゃあ、俺も買おうかな……」
オビも福袋を選び始めた。
ゼンを除く4人は、思い思いの福袋を購入した。
まだ福袋を決めていないのはゼンだけであった。ズラリと福袋の前で腕を組んで立ちはだかる。
「ゼン、あと5分以内に決めてね。もう時間がないから……」
木々が時計を見ながら心配そうに言った。
「わかっている!」
クラリネス王国の第二王子は、福袋を見つめながら強く頷く。
「ゼン、どの福袋にするの?」
白雪がゼンの隣に来た。
「俺はこの中のどれかにしようと思うんだ」
ゼンが指さした先には、大・中・小の紙袋が3つ並んでいた。
『おたのしみ袋』と書いてあって、何が入っているかは全くの秘密の福袋らしい。
「……なんか、怪しげな袋ですね」
「うん……お楽しみ袋って……」
白雪とオビが顔を見合わせる。
「おにーさん、この福袋に目を付けたのかい。大・中・小、どの袋でも値段は一緒だよ。よぉ~く選んで買っていきな、イヒヒヒヒ」
日焼けした男性店員がゼンに笑いかける。前歯が一本かけており、ヨレヨレのシャツを着ていた。いかにも怪しそうな店員である。
「あ、主……。この福袋はちょっとやめましょうよ……」
オビが小さく耳打ちしたが、ゼンに聴いていなかった。
「大・中・小どの袋でも同じ値段なのか。うーむ、それは悩むな。中身は確認できないし、どれにしようかな……」
「どうぞじっくり選んでください。ヒヒヒ」
日焼けした男性店員がニヤリと笑う。
その笑顔にオビと白雪は背筋がゾッとしたが、福袋を選ぶのに夢中なゼンは全く気付いていないようであった。
「うーん、大・中・小どれにしようか? うーん、大きい袋はちょっと重いな……」
ゼンは福袋を一つずつ持って重さを確かめている。一番大きな袋は、かなりの重さがあった。片手で持っているには少々辛い重さである。
「主、とりあえず小さい紙袋にしたらどうです? 舌切り雀の昔話、知りませんか?
中から妖怪が出てくるかもしれませんよ。欲張って大きい袋は選ばない方がいいですよ」
「そうだよ、ゼン。小さい袋の中にもそれなりにいいものが入っていると思うよ」
白雪も小さな紙袋を買うように勧めた。
「うーん、でも大・中・小すべて同じ値段なんだぞ。
やはり大きい袋が気になるが、オビの言うとおり、舌切り雀の大きなつづらの例もある。ここはやはり考えて……」
ゼンが小さな紙袋を手に取った。
オビや白雪のアドバイスを聴いてくれたようである。
「よし、大と小の福袋を二つ購入する。店主、この2つの福袋をもらおう!」
「毎度あり! ヒヒヒヒヒ!」
日焼けした男性店員の不気味な笑い声が響いた。
オビと白雪は呆れたため息をついた。
ゼンをはじめとする5人は駆け足で王宮に戻ってきた。
「ゼン早く、着替えて! 会議に行くよ!」
木々に着替えを渡されて急かされる。
「福袋開けたい……」
ゼンが小さな声で呟く。
「そんな暇あるわけないだろう。ほら、さっさと着替えをして身なりを整えてくれ、ゼン」
「白雪、オビ。ゼンが買ってきた福袋預かってもらえる? それとこれも……」
白雪とオビはゼンが購入した大と小の福袋と、木々、ミツヒデが各々購入した福袋を渡される。
「わかりました。預かっておきますね。会議行ってらっしゃい」
「主、しっかり会議やってきてくださいよ!」
白雪とオビは3人に手を振った。
いくつもの袋を抱える白雪とオビ。
その中でもゼンの購入した大きい福袋がやたらと重く、かさ張った。
「それにしても、主が買ったこの大きい方の福袋何が入っているんでしょうね。やたらと重い……」
「どれくらい重いの? ちょっと持ってみてもいいオビ……うわっ、重っ!」
白雪は紙袋の重さに驚く。
「ちょっと開けてみます? 主の福袋」
オビはゼンの福袋に手をかける。
「だめだよ、オビ。きっとゼンは福袋を開けるのを楽しみにしているはずだもの。会議が終わるまで取っておかないと!」
白雪が必死で止める。
「まあ……、そうですね。自分たちの福袋開けますか……」
「うん、そうしよう!」
***
「福袋! 福袋はどこだ? まさか勝手にあけていないだろうな、オビ!」
会議が終わったゼンは、自分の部屋に走って戻ってきた。
「あまりに重いので開けようかと思いましたが、お嬢さんに止められました」
「何っ?」
ゼンは一瞬、オビをにらんだが、心は福袋にあった。念願の福袋を前にしたゼンの顔は満面の笑みであった。
「よし、開けるぞ! 小さいほうと大きいほう、どちらから開けようかな……」
ゼンは購入した二つの福袋を前に迷っていた。
「主、どうします? 大きい方の福袋を開けたら、舌切り雀の大つづらみたいに妖怪が出てくるかもしれませんよ……」
オビが意地悪くゼンの耳元で囁く。
「そんなことがあるものか! でも……小さいほうの袋から開ける……」
ゼンは小さい福袋に手をかける。殆ど重さがないと言ってもいいくらいの軽い袋で、袋を振るとカサカサと音がした。
ゼンはゆっくりと袋を開けて、中身をテーブルの上へ出した。
「わあ! かわいい!」
小さいほうの福袋の中身を見て、声をあげたのは白雪であった。
中からは女性用の薔薇のブローチとネックレスと指輪が出てきた。お揃いの3点セットで、新品である。
「これは真鍮かな? アンティークなデザインでかわいいね」
木々が薔薇のブローチを手に取りじっくりと見つめる。
「うん、すごくかわいい」
白雪は目を輝かせて薔薇のブローチ三点セットを見つめる。
ゼンは無言であった。そんな主人の様子を見てオビが口を挟む。
「主、この福袋の中身、お嬢さんにプレゼントしたらどうです? 主には可愛すぎます」
「えっ!? 私、そんなつもりで言ったんじゃ……」
白雪は驚いて首を振る。
「そうだよ、白雪、貰っちゃいなよ。ゼンには必要ないし」
「うん、白雪に似合ってる」
木々とミツヒデもオビの意見に同意のようである。
「ああ、うん。そうだな。小さいほうの福袋の中身は白雪にプレゼントする」
「えっ! 本当にいいよ。ゼンが楽しみにしていた福袋なんだし……」
白雪は精一杯に遠慮をした。赤い髪を左右にぶんぶんと振っていた。
「いや、いいんだ。福袋というのは中身が分からないところが良いところだと聞いた。
自分に合うものばかりが入っているわけではない。福袋の中身を喜んでくれる人がいるだけでいい。だから白雪にプレゼントだ」
ゼンは白雪に薔薇のネックレスとブローチをつけた。その後、指輪を渡した。
指輪を受け取った白雪は、赤い髪と同じくらいに顔を真っ赤にして固まっていた。
「ど、どの指につければ……」
「えっ、入る指ならどこでも……」
つられてゼンの顔も林檎のように赤くなる。
「…………」
「…………」
見つめ合う二人、数十秒の沈黙が流れる。
「主。こっちも恥ずかしくなってきました。この場を何とかしてください……」
「うん、オビに同意」
「ああ、なんとかしてくれ、ゼン」
オビ、木々、ミツヒデが軽くため息をつく。
「あ、ああ。すまなかった。指輪は好きに使ってくれ、白雪!
よし、大きい方の紙袋開けるぞ! どんな妖怪が出てくるかな!」
照れ隠しなのか、ゼンのテンションが高くなる。
一同、大きな福袋に視線が集まった。
【後編】
白雪、オビ、木々、ミツヒデが見守る中、ゼンは大きな福袋を開ける。
「……妖怪は入っていないな」
袋の中をゼンが覗き込みポソリと呟く。
「入っているわけないでしょ、主」
「何が入っていたのゼン? 袋の中身、見せて」
「妖怪は入っていないけど……クマが入っている……」
袋の中に首を突っ込んだまま、ゼンが呟く。
「はぁ? クマ!?」
ゼンを除く一同が目を見開く。
「ゼン! 福袋から離れろ! 危ないものじゃないだろうな!」
ミツヒデはゼンを押しのける。実は福袋は罠で、王子を危険にあわせるものかもしれないと考えたのだ。
「いや、そういう危険性はない。本物じゃないクマだ……」
ゼンは静かに答える。
「本物じゃないとしたら、ぬいぐるみ? テディベアとか?」
白雪がたずねた。
「いや、そういう可愛らしいものではない……」
ゼンは両手で重そうに『クマ』を取り出した。机の上に置くと、ドスリと鈍い音がした。
机に上のクマは、天井を向いて鮭をくわえていた。真っ黒な木彫りのクマである。土台はずっしりと重たい粘土で固められている。
クマも鮭も表情はリアルで、今にも動き出しそうである。
机の上のクマの置物を見た一同はしばらく無言になる。
「……民芸品ですかね」
オビがポソリと呟く。
「ま、まあ、こういうクマもあるよね」
白雪はテディベアと言った自分を後悔する。
「どこに飾る? このクマ?」
「どこか……目立たない場所にでも置こうか……」
木々の問いに無理やりミツヒデが答えていた。
「じゃあ、次を出すぞ。これは……花瓶かな?」
ゼンが袋の中から次の品物を出した。クマの置物と同じくらいの大きさと重さがある。
「主、これ花瓶じゃないですね。壺みたいですよ……」
花瓶だと思って出したものは、壺であった。
「壺? 花瓶じゃないのか?」
福袋から出したものは陶器製の細長い容器で、花を生けるのにちょうどいい花瓶のような形をしていたのだ。
「はい。『願いが叶う壺』って書いてあります」
オビは花瓶の細長い首の部分にあたる場所をゼンに向けて見せた。
堂々と『願いが叶う壺』と書いてあったのだ。
「やっぱり……あの福袋の店の店員、怪しかったな」
「うんうん、怪しい」
オビと白雪が二人こそこそと話していた。
「…………」
ゼン、木々、ミツヒデは無表情で願いが叶う壺を見つめる。
今のところ、ガラクタばかり出てきている福袋に何もコメントができない状態であった。
「他には何が入っているの? 次の品物見せて、ゼン!」
気を取り直して白雪が元気にたずねた。
「あ、ああ……次に行こう! これは何だ? 何の箱だろう?」
ゼンは袋の中から、20cm四方の箱を取り出した。
箱にはほぼ装飾はなかったが、一言だけ文字が書いてあった。『ビックリ箱』と書いてある。
「ビックリ箱……」
白雪が小さな声で呟く。
「開けてみるか……」
ゼンがビックリ箱に手をかけようとしたその時である。
「待て、ゼン! 王子であるゼンが開けるのは危険だ。少し下がっていてくれ、俺が開ける!」
優秀な側近であるミツヒデが、ゼンの前に立つ。ミツヒデは、そうっとビックリ箱の蓋を開けた。
「わあああ!」
ミツヒデが箱の中から出てきたものに驚き、その場でしりもちをついた。
箱の中からヘビが飛び出したのだ。ヘビと言っても本物ではない。紙で作ったヘビである。
箱の蓋を開けると、紙で出来たヘビが飛び出す仕組みになっているのだ。子供用のおもちゃである。
「ミツヒデさん!」
「ミツヒデ!」
「旦那!」
木々、白雪、オビがミツヒデを起こす。
「おお! ミツヒデが驚いて俺もびっくりしたけど、このビックリ箱とやらは面白いな。箱を開けるとヘビが飛び出す仕組みになっているのか」
ゼンはヘビのビックリ箱を開閉して楽しんでいた。王子であるゼンは、庶民的なおもちゃとは今まで無縁だったのである。
「ミツヒデの驚く姿も見られたし、これは面白い!」
クラリネスの第二王子はヘビのビックリ箱にご満悦のようであった。
「他には何が入っているの? 出して見て、ゼン」
「ああ」
白雪に言われ、次々に品物を出していった。
次に平たい大きな箱を取り出す。
「人生ゲームって書いてある……」
「庶民的でいいですね。今度みんなであつまって人生ゲームやってみましょう! 色々な職業の人生が楽しめるゲームですよ!」
「そうか、それは面白そうだな!」
オビの説明にゼンは目を輝かせる。
ゼンは袋の中から次々と品物を取り出す。
「真っ赤な靴下とオレンジのシャツ」
「目立っていいな、それを着ていればゼンがどこにいるかすぐにわかる」
しりもちをついたお尻をさすりながらミツヒデが言った。
「自分で買う気はしないですねぇ……。この色は……」
オビがポソリと呟いた。
「このブタは何だ? 置物か?」
ゼンの手には陶器でできた無愛想な表情のブタが乗っていた。お世辞にもかわいいとはいえないブタであった。
「背中にコインの投入口があるから、貯金箱じゃない?」
白雪が答える。
「ゼンには必要ないかな……」
ミツヒデが苦笑いする。
「そんなことはない。個性的なブタだから、執務室のデスクにでも飾っておくよ。じゃあ、次……これは時計か?」
袋の中から、ベルが二個ついた時計が出てきた。目覚まし時計である。
「これは使えるね! この目覚まし時計をゼンが使ってくれれば、寝起きの悪いゼンを起こしに行く手間が省けるもの!」
木々が歓喜の声をあげる。
「俺はいつもちゃんと起きているぞ! 目覚まし時計など必要ない!」
「そうかなぁ……」
ミツヒデが小さく呟いた。
「これが最後の品物だ。これは何だ? マフラーかな……でもそれにしては長すぎるような……」
ゼンは袋の中から、ピンク色の毛糸で編んである細長いマフラーのようなものを取り出した。
「随分長いマフラーだな、マフラーじゃないのかな?」
マフラーの長さはゼンが両手を広げたよりもずっと長かった。2メートル以上の長さがある。
「でも、マフラーみたいだよ。両方の裾にフリンジもついているし……ハートマークの刺繍もあるよ」
白雪がマフラーを手に取り言った。
「わかった! ちょっとゼン、白雪。ここに並んでみて」
「え? どうしたんですか? 木々さん」
「どうした木々?」
木々に促され、ゼンと白雪はすぐそばのソファに並んで座らされた。
「このマフラーをこうやって、巻いて……」
木々はゼンと白雪の首にマフラーを巻き付ける。
「ほら、このマフラー。二人用のマフラーなんだよ。長さがぴったり!」
木々が二人にニコリと笑いかける。
「えっ!」
2人同時に声をあげる。
マフラーでぐるぐる巻きにされたゼンと白雪は、至近距離で顔を見合わせることになる。林檎のような真っ赤な顔になった。
「なんだかこんなガラクタばかりの福袋なのに、主にとっては幸せ袋じゃないですか! あー! なんだか面白くない……」
オビが口を膨らませる。
「あれ? まだ袋の中に入ってるよ、何だろう?」
何気なく福袋を覗き込んだ木々が言った。封筒よりも二回りくらい大きな白い長方形の袋を取り出す。厚みは5mmほどである。
「え? このマフラーが最後じゃなかったのか?」
真っ赤な顔のゼンがマフラーを外す。白雪も恥ずかしかったのか、さっとゼンの横から離れた。
「袋の底に貼りついてたよ。はい、ゼン」
「なんだこれ? 封筒にしては大きすぎるな……何かの書類か?」
白い封筒のような袋を振ると、カサカサと音がした。
「袋の底じきですかね? クマの置物とかインチキ壺とか色々入っていましたし……」
「インチキ言うな! オビ! 底じきじゃないみたいだぞ。開け口がある……」
白い封筒のような袋には開封口があった。金色のシールが貼ってある。ゼンは爪でシールをはがそうとする。
「なんだろうな、最後に宝の地図とか出てくるといいな」
「それはないでしょ、ミツヒデの旦那。こんなインチキ福袋に!」
「だから、インチキ言うな! オビ!」
クラリネスの王子様は少々不機嫌となる。
袋のシールを開けて、白い封筒から中身を机の上に出した。
黒く平たい物体が、封筒から滑り落ちる。その物体を見つめ、一同硬直する。
「白子のり……」
ゼンが小さな声で呟いた。
みんな、どう反応したらよいかわからず、白子のりを見つめて黙っていた。
長い長い沈黙。
その沈黙を破ったのは白雪であった。
「ゼン、その白子のり、貰えるかな?」
「へ?」
ゼンが白子のりから顔を上げる。
「次にゼンがお休みの時、この白子のりでお握り作ってピクニックに行こう! だからのりが欲しいの。貰えるかな?」
白雪が優しく微笑む。その微笑みが、みんなにも伝染する。
「いいな、白雪。なんとかスケジュール調整して行こうか、ゼン」
「そうだね、せっかくの福袋に入っていたんだものね」
ミツヒデと木々がスケジュール帳を確認する。
「うん、行く! 白子のりでピクニックだ! ははは!」
ゼンが白子のりを手に取り、高く掲げ、かつ高らかに笑う。
「あんなガラクタばかりしか入っていなかったのに、なんて幸せな王子様なんだ……」
尊敬のまなざしでクラリネスの第二王子を見つめるオビであった。
♪おわり
(白子のりとおにぎりはクラリネスにはないだろうというツッコミはお控えください・笑)
令和ねねです。この作品を更新したのが、ちょうど改元の時でした。