赤髪の白雪姫2次小説
白雪のダイエット


1.イチゴタルト 
2.誘惑 
3.犯人 
4.アップルパイ 
5.もう一つのアップルパイ(R18)


1. イチゴタルト

「いっただっきま〜す!」
 白雪は大きなイチゴが乗ったタルトに勢いよくフォークをさした。
「おいしーい! 仕事が終わった後のデザートは最高!」
 甘いタルトのしっとりした生地が口の中でとろける。甘酸っぱいイチゴとの組み合わせも絶妙である。白雪はおいしさに舌を鳴らす。
「仕事が終わった後のお茶はやめられないわよね、白雪君」
「はい、薬室長!」
 白雪は薬膳茶を一口飲む。ガラクの顔を見て笑顔になる。
隣では無言でリュウが薬膳茶を飲んでいた。タルトには手を付けていない。
「リュウ。タルト食べないの?」
「ええ、今日はお茶だけでいいです。もしよかったら、白雪さんどうぞ」
 リュウはイチゴのタルトを白雪の前に持ってくる。
「本当に? 本当にいいの?」
「ええ、どうぞ白雪さん召し上がってください」
「わあ! リュウありがとう!」
 白雪は自分の分のタルトをたいらげ、リュウから貰ったタルトのイチゴをパクリと食べた。
「うーん、やっぱりおいしい!」
 白雪はフォークを片手に舌鼓を打つ。
 ここ最近、仕事が終わってから薬室でお茶をすることが多かった。お疲れ様の意味を込めての小さなお茶会である。お茶は薬室ならではの薬膳茶。お菓子はクッキーやケーキを自分達で持ち寄ったり、頂きものがある時はそれを食べた。
 リュウの分のイチゴタルトを食べていると、ドアをノックする音が聞こえた。 白雪は扉の方に視線を向ける。
「白雪、いるか〜?」
 ノックの音に続きゼンが薬室へ入ってきた。
「おっ! 仕事が終わったんだな。今日もみんなで仲良くお茶してるのか?」
「あっ、ゼン! お疲れ様。ゼンもイチゴのタルト食べる? まだもう一切れあるよ」
「ゼン殿下。お疲れ様です」
 白雪以外のみんなが声を揃えて挨拶をする。
「お疲れ様。俺はいいよ。ちょっと顔を出しに来ただけだから」
 ゼンは白雪を見つめ、穏やかに笑った。
「そう? じゃあもう一個頂いちゃおうかな……なんちゃって!」
 タルトのおいしさにご機嫌な白雪は冗談めかせて言った。
「白雪君、いくらなんでもそれは食べ過ぎよ。リュウの分も食べたでしょう!」
「そうですよね。さすがに三つは食べませんよ」
 白雪と薬室長は二人で声を合わせて笑う。美味しいデザートを食べて二人は上機嫌である。
「白雪、リュウの分も食べたのか?」
「うん! リュウがいらないって言ったから」
 白雪は元気に頷く。
「そうか……」
 ゼンは白雪の顔をまじまじと見つめる。その視線に白雪も気づく。
「どうかした? ゼン。顔にタルトついてる?」
 白雪は口の周りにタルトがついていないか手で確認する。
「いや、そうじゃないけど。白雪、もしかして最近太った?」
「え?」
 白雪はタルトを食べているフォークを落とす。
 フォークは皿の上に落ちて、カシャーンと小さな音を立てた。
「ああ、そうだよ。最近、頬のあたりがふっくらしてきたな、白雪。うん」
 ゼンは白雪の顔を覗き込み、しっかりと頷く。
「そうですね。白雪さん、最近ふっくらされましたね」
 リュウが薬膳茶をすすりながら穏やかな笑顔で言った。
「そ、そんなことないと思うけど……」
 白雪の声が震える。リュウから貰った食べかけのイチゴタルトを見つめて呆然となる。
「白雪、やせているから、少しふっくらするぐらいがちょうどいいな。ハハハ」
「そうですね」
 ゼンとリュウがハハハと声をあげて笑っていたが、白雪の耳にその言葉は届かなかった。ただ目の前のイチゴタルトを見つめて呆然としていた。
 ガラクはそっと席を外し、その場から退散した。

***

 ゼンが帰った後、白雪は薬室を飛び出した。
 王宮内に重さを図ることのできる計量器があった。大型の計量器で体重も図ることができるものだ。この計量器に乗ったのは半年前くらいであろうか? 白雪は脱げる限りの衣服を脱いで、ゆっくりと計量器に乗った。
「さ、三キロも太ってる……」
 白雪は青い顔で計量器からおりた。
 白雪は自身の体のあらゆる場所に素早く手で触る。
 二の腕がぷにぷにして、おへその下のお肉もタプタプしている。そういえば、最近、体が重く感じる。ゼンの言うとおり頬もふっくらしてきたような気がする……。
 ここ最近、仕事が終わってから毎日お茶をしていた。クッキーやケーキをいつも遠慮なく食べていたので、ゼンの言うとおり、太ってもおかしくはないのだ。
 白雪は青い顔で計量器の置いてある部屋から出る。
 目の前を若い女官が二人歩いてきた。軽く会釈をして通り過ぎたので、白雪も赤い頭を下げて挨拶した。
 女官たちは髪をきっちりとまとめ、ピタリとしたメイド服に身を包んでいる。ウエストがキュッとしまっており、膝下のスカートからは、ほっそりしたふくらはぎが覗いていた。
 今の白雪には、なんだか女官の姿が眩しかった。目の前を通り過ぎた女官がとても綺麗に見えたのだ。
「あら、白雪。こんなところでどうしたの?」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、目の前に木々が立っていた。
「木々さん……」
「白雪がこの時間にこんな場所にいるなんて珍しいね?」
 木々は計量器のある部屋をチラリと見た。
「ちょ、ちょっと用事が……ハハハ」
 なんとか笑って誤魔化そうとした。
 白雪は改めて木々を見つめる。
 いつもの剣士姿だが、ピタリとしたパンツ姿が決まっていて本当に格好良かった。木々がスリムであることは分かっていたが、今日は一段と木々の姿が眩しく、神々しい。オーラさえも感じる。
「き、木々さん。ちょっと急ぎの用事が……失礼します!」
「えっ? どうしたの、白雪?」
 白雪は深く頭を下げて逃げるようにその場を立ち去った。
「どうしよう、ダイエットしなきゃ! こんな体じゃゼンに嫌われちゃう!」
 白雪はそう呟きながら、王宮の長い廊下を全速力でかけていった。


2. 誘惑

 翌日の夕方。
「今日もお疲れ様です。お茶が入りました」
仕事が終わり、白雪はいつものようにみんなに薬膳茶をいれた。
「ありがとう、白雪君」
「ありがとうございます、白雪さん」
 ガラクとリュウが薬膳茶のカップに口をつける。
「ぶっー!」
 ガラクとリュウが薬膳茶を同時に吐き出す。
「ゴホッ、ゴホッ! ちょっと白雪君。何? このお茶? すごく苦いんだけど……」
 ガラクが眉間に深く皺を刻み、むせながらお茶と白雪を見た。
 リュウも無言でむせている。
「やせるお茶です」
 白雪はサラリと答える。
「やせるお茶!?」
 ガラクとリュウの声が裏返る。お茶を見ると黒い色をしていた。
「はい。代謝作用のある薬膳茶を濃い目に入れてみました。ちょっと苦いですけれど、効果はあるはずです!」
 白雪は黒い色をしたお茶を一気に飲み干す。苦さに顔を一瞬ゆがめる。
「別に白雪さん、太ってないからやせる必要なんてないのに……」
 リュウが静かに呟く。
「ううん、昨日、王宮にある計量器に乗ったら3kgも太ってたんです。やせないといけないんです!」
 白雪は真剣な表情で言い切った。
「じゃ、じゃあ……。さっきクッキー頂いたんだけど、白雪君は……」
「食べません!」
 白雪は即答する。その勢いにガラクは圧倒される。
「私、これから仕事が終わってからのお茶はしばらく控えるようにします。お菓子も食べません。今日はお先に失礼します!」
 白雪はお茶のセットを片付け、一礼して部屋から出て行った。
 白雪が去った後、ガラクとリュウはお互い顔を見合わせ、大きなため息をついた。

 薬室を出ると様々な人から声をかけられた。
「白雪さん、パイが美味しく焼けたんだけど少し食べない?」
「これ、作り過ぎちゃったから、白雪ちゃんにおすそ分け!」
 部屋に帰るまでに、ダイエットの誘惑があちらこちらに存在した。今までこの誘惑にすべて乗っていた。そのせいで体重が増えてしまったのだ。
 極め付けがこれだ。
「白雪、仕事終わったか? 夕食まだだろう? 美味しいワインを貰ったんだ。これからみんなでワインを飲みながら宴会だ!」
 ゼンがワインボトルを片手に笑顔で立っていた。
「き、今日はちょっと遠慮しようかな……ははは」
 白雪は引きつり笑いで誤魔化そうとする。ゼンにダイエットしていることを知られたくなかった。
「まだ仕事が残ってるのか? オビもミツヒデも木々も来るぞ」
 ゼンが不思議そうな顔をしている。今まで宴会の誘いは断ったことがなかったので、不思議に思うのだろう。
「ううん、ちょっと都合というか体調が悪いというか……」
「そうなのか、残念だな。そういえばいつもより顔色が悪いような気がするな」
 ゼンが白雪の顔を覗き込む。
「別に具合が悪いってわけじゃないから……。それじゃあ、さよならっ!」
「さよなら……」
 白雪は急ぎ足でその場を離れる。これ以上一緒にいると、ダイエットしていることが、ばれてしまう。なんとしてでもやせなければならない。体重を3kg落とすまで、堂々とゼンに会うことはできない。
 明日の朝からはジョギングも始める予定だった。食事制限だけでは筋肉が落ちてしまい代謝が悪くなってしまう。きれいにやせるためには、筋肉量は減らさずに脂肪だけを上手く減らさなければならない。白雪はぷにぷにした二の腕をつまみながら、ダイエットの決意を固くした。


3.犯人

 最近、白雪の様子がおかしい。
 以前は夕食やお茶に誘うと必ず乗ってくれたのに、一切誘いに乗ってくれなくなった。二人きりでも、オビや木々みんなを誘ってもどちらも付き合ってくれない。他に好きな奴でもできたのだろうかと不安になったが、そうではないようだ。朝、仕事へ行って、夕方、部屋に帰ってきて、それからずっと部屋に籠っている。変わったといえば、朝ジョギングをはじめたくらいであろうか……。
「最近、白雪が構ってくれない……」
 ゼンは執務室でがっくりと肩を落とした。
「そうだな。白雪と食事すること全然なくなったもんな……」
「付き合い悪いよね。なんでだろう?」
 ミツヒデと木々が同時に首をかしげる。
 オビが顎に手を当てて考え込んでいる。
「お嬢さん、もしかしたらダイエットしてるんじゃないですかね」
「ダイエット!?」
 ゼン、木々、ミツヒデの3人が声を揃える。
「ええ、薬室でも代謝があがる薬膳茶をものすごく濃くして飲んでますし、最近、一切お茶菓子に手をつけないんです。朝、ジョギングも始めましたし、あれは多分ダイエットしているんだと思います」
 オビが3人に説明する。
「そういえば、少し前になるけど、白雪が計量器のある部屋の前にいたのを見たことがある。もしかして、体重を測りに来てたのかな?」
 木々は計量器のある部屋の前で会ったことを思い出す。
「白雪、充分やせてるから、ダイエットなんてすることないのに……」
「何かダイエットする原因があるのかな?」
 4人は顔を見合わせる。そして最後にその視線はゼンに辿り着く。
「な、なんだよ。どうしてみんな俺を見るんだよ」
 ゼンは側近たちの視線にたじろぐ。
「ゼン! 最近、白雪に太ったとか、やせた子がかわいいとか言わなかった?」
 木々が鋭い視線でゼンをにらむ。
「なっ! やせた子がいいなんて言わないぞ。あっ、でも……」
 ゼンは数週間前、薬室でリュウの分まで白雪がイチゴタルトを食べていたことを思い出す。その時に太ったと言ったような言わなかったような……。
「でもなに?」
 鬼のような形相をした木々がゼンに迫る。
「もしかしたら言ったかも……」
「何て言ったの? ゼン!」
「し、白雪。最近少し太ったな……って。でも白雪はやせているから、少しくらい太った方がいいと、その後言ったぞ!」
 木々とオビが呆れた目でゼンを見つめていた。ミツヒデは3人を見守っていた。
「女の子に太ったなんて言っていいわけないでしょ!」
「主、なんてひどい! お嬢さん、かわいそうに……」
「女心は難しいからな……」
 木々は怒り顔、オビは呆れ顔、ミツヒデは同情した顔で見つめられた。
「白雪のダイエットは俺が原因なのか……。だから食事に誘っても全然付き合ってくれないんだな……」
 ゼンは青ざめる。
 白雪が太っているなんて思ったことは一度もなかった。わざわざ食事制限をして、苦しい思いなんてして欲しくない。自分の言った一言が原因ならば、すぐにダイエットなんてやめさせなければならない。
 ゼンは責任を感じ、その場で深く深く落ち込んだ。


4.アップルパイ

 ゼンから呼び出された。
 医療系の本を読んでいて、分からないところがあるので教えて欲しいというのだ。部屋に来るように言われたので、白雪はゼンの元へ向かった。
 ゼンの部屋に着くと、すぐに中へ案内された。
 パタリと、背後で扉が閉まった音がした。
「珍しいね、ゼンが医療の本を読むなんて。どこが分からないの?」
ゼンは何も言わない。顔を見ると少々難しそうな顔をしていた。そんなに難しい本を読んでいるのだろうか?
 部屋を見回しても本などなかった。
 代わりに目の前のテーブルに、淹れたての紅茶と美味しそうなアップルパイがあった。
「うっ!」
 こんがり焼き上がったアップルパイ。
 焼き色がきれいについていて、パイ生地はサクサクそうだ。生地からはみ出ている林檎の砂糖漬けもしっとりと甘そうである。白雪はゴクリと唾を飲み込む。
「白雪、アップルパイ好きだろう? 一緒に食べよう」
 白雪はアップルパイを見つめながら無言で首を振る。このアップルパイを食べてしまっては、今までの苦労がすべて水の泡である。
「い、いい。食べない……」
「白雪と一緒に食べたいんだ。一人で食べてもつまらん。一緒に食べてくれ」
 ゼンに手を引っ張られる。アップルパイの乗っているテーブルの前に無理やり連れて行かれる。
「いい、本当にいい。美味しそうだけど、本当に食べなくていいの……」
 ゼンが真剣な目でこちらを見つめている。その瞳が少し悲しそうに感じ、心臓をぎゅっと掴まれたような気持ちになる。
「白雪……ダイエットしてるんだってな……」
 ゼンが苦笑いしながら言った。
「え? 何で知ってるの?」
 ゼンには知られないようにダイエットしてるつもりだった。知らない間にやせたと思わせたかったからだ。
「ごめん、俺のせいだな。白雪に太ったなんて言ったから……。木々に怒られたよ」
 ゼンが大きく溜息をつく。悲しそうな表情だった。
「えっ! 木々さんに!? 太ったのは本当のことだし、ゼンに言われても当然だよ。だから私、やせなきゃいけないの!」
「いや、白雪。やせなくていい。そのままの白雪で十分だ。ダイエットなんてしなくていい」
「ううん、今、2kgやせたの。目標の3kgまであと1kgだから、ここで諦めるわけいかないの!」
 白雪の決意は固かった。目の前のアップルパイとゼンから必死に目を逸らす。
「だから! ダイエットなんてしなくていいって言ってるだろ! 太ったなんて殆どわからないし、そのままの白雪で十分だ」
 ゼンは逃げようとする白雪の腕を掴む。
「ううん、やせなきゃ……やせなきゃいけないの!」
「やせなくていい!」
「ううん、ダメ! アップルパイなんて食べられない!」
 ゼンから逃れようとして力が入り、思いっきり彼の手を払ってしまった。ピシャリと皮膚がぶつかる音がした。ゼンの腕に赤い跡がついた。
「あ……ごめんなさい……」
 白雪は勢い余ってゼンの手を強く払ってしまったことに気づき、謝った。
 ゼンは無言でぶたれた腕を見た。
 二人の間に沈黙が流れる。白雪はどうしたらいいかわからず、思わず後ずさりしてしまった。
 ――ゼンは怒っているだろうか? もう一度、謝った方がいいだろうか?
 迷っていると、ゼンが白雪の手首を掴んだ。
 次の瞬間、白雪は強く引き寄せられた。ゼンに抱きしめられ、彼の腕の中に収まった。抱きしめられる力が強すぎて、身動きができなかった。
「ちょっと……ゼン、苦しいよっ!」
「ダイエットなんてしなくていい。まだこんなに細いんだから……」
 ゼンの手が肩に移動する。さらにギュッと抱きしめられる。
「最近、白雪をお茶や食事に誘っても、いつも断られて寂しかった……。嫌われたんじゃないかと思った。ダイエットのせいで一緒にいる時間が無くなるのは嫌だ……」
 白雪はハッとする。
 食事制限をしていたため、ゼンからお茶や夕食に誘われても最近全部断っていた。ゼンのためにやせて綺麗になろうと思っていたのに、逆に彼を悲しませるような行動をしていたのである。確かに最近、ゼンとゆっくり話をすることはなかった。それはすべてダイエットのせいである。
「ごめんなさい……ゼンにそんな思いさせてると思わなかった。本当にごめんなさい」
 白雪は顔を上げる。優しい笑顔が目の前にあった。
「いや、こっちこそ『太った』なんて言って悪かった」
「ううん、私こそ周りが見えなくなっちゃってごめんなさい」
 白雪はダイエットが逆にゼンを悲しませていたことに気づき落ち込んだ。
「久しぶりに白雪とお茶がしたいんだが……どうしてもアップルパイを食べるのは嫌か?」
 白雪に遠慮がちに聞いた。
「ううん、食べる。せっかくゼンが用意してくれたんだもの。いただきます」
 白雪はテーブルの前に行き椅子に腰かける。目の前のアップルパイをじっと見つめる。ゼンも向かい合わせに座った。
「じゃあ、白雪。一緒に食べよう。いただきます」
「いただきます」
 アップルパイにフォークを刺すと、パイ生地がサクリと音を立てた。その小さな音とフォークから伝わるパイ生地の感覚に懐かしさを覚える。
 一口アップルパイを食べると、パイ生地のサクサクした食感と林檎のしっとりとした甘さが口の中に広がった。
 ゼンとこうして向かい合ってお茶をしたのは久しぶりだった。ダイエットに必死で周りが見えなくなり、ゼンに寂しい思いをさせてしまっていたことに本当に心が痛む。アップルパイのとろけるような甘さも身に染みて、涙が滲んできた。
「おいしい……」
 白雪は鼻をすする。
 久しぶりに食べたスイーツはなんておいしいのだろう――。
 脳がこの味を記憶していた。舌が、喉がこの甘さに満足していた。体が美味しいって喜んでいるようだった。
「泣くことないだろう、白雪。ほら、もっと食べていいぞ。俺の分も食べるか?」
 白雪は赤い頭を横に振る。
「人の分を食べるのはやめておく……」
「まあ、そうだな」
 ゼンが小さく笑った。
 二人でアップルパイを食べて、お茶も飲み終わった。久しぶりに二人で過ごすこともできて嬉しかった。白雪は落ち着いた気持ちになる。
「ゼン、ありがとう。気持ちもお腹も、久しぶりに落ち着いた」
「そうか、それは良かった」
 ゼンが笑顔で頷いていた。なんだか嬉しそうだ。
 ダイエットのせいで気まずくならなくて本当によかったと思う。
 ホッとした気持ちでいると、なんとなくゼンの視線を感じた。こちらをじっと見ていたのである。
「どうしたの? ゼン?」
 すごく真面目な表情でこちらを凝視している。
 ゼンはゆっくりと立ち上がり、白雪の方へ近づく。
「もう一つ……アップルパイを食べたいな」
「は?」
 テーブルの上にもうアップルパイはなかった。厨房からもう一つアップルパイのおかわりをもらってくるということだろうか?
「どこにアップルパイあるの? 厨房からもらってくるの?」
 ゼンはゆっくりと白雪の背後に回る。白雪はゼンを視線で追う。
「いや、アップルパイならここにある。これから、このアップルパイをいただく!」
「えっ!?」
 背中から強く抱きしめられた。背後から赤い髪に顔を埋めたゼンは、白雪の耳元でそう嬉しそうに言った。



5.もう一つのアップルパイ(R18)

「もう一つアップルパイをいただこう……」
 背後から抱きしめられ、ゼンの手が肩に触れる。肩から鎖骨に沿って指が辿り、胸元にかけて触られる。
「ちょ、ちょっとゼン、どこ触って……」
 片腕で体を押さえられ、もう片方の手で胸を中心に上半身に触れられる。
 前ボタンに手がかかり、いくつかを外される。服の中へゼンの手が入ってきた。
「ひゃっ! こ、こんなところでやめてっ!」
 服を脱がされ、体に触れられる。片腕で肩をしっかりと抱かれ、身動きができない。ゼンは髪の中に顔を埋める。
「最近、白雪は全然相手をしてくれなかった。だから寂しかった……」
「あっ……」
 やせるまでゼンには会わないと勝手に誓ってしまった。体に触れられて、見られるなんてとんでもない。ここ最近、一緒に過ごすことはなかったので、避けているように見えたのかもしれない。それがゼンに寂しい思いをさせていたのだ。
「ご、ごめんね。やせるまでゼンに会えないって勝手に思い込んじゃって……」
「何度も言うが、白雪が太っているなんて、一度も思ったことないぞ。このままの白雪で十分だ」
 背中からギュッと強く抱きしめられる。腕の力の強さにゼンの想いが伝わってくるようで切なくなる。
「はい、ごめんなさい」
 白雪は素直に謝り、胸の上にあったゼンの手を握った。
首筋に軽くキスをされる。くすぐったくて思わず肩をすくませると、ゼンが耳元で囁いた。
「じゃあ久しぶりに寝台にいこうか……」
 白雪は少し考えた後、ゼンの腕の中で、ゆっくり頷いた。

***

 寝台にいくと、ゆっくりとゼンが覆いかぶさってきた。目をつぶったゼンの顔が目の前に迫り、唇を塞がれる。上唇と下唇を交互にしばらく吸われたかと思うと、軽く開いた隙間からゼンの舌が入ってきた。息をするのも苦しいくらいに激しく口腔内を舐めまわされる。舌を絡めてゼンに応えるのがやっとだった。
 口づけをされながら、徐々に服も脱がされた。ブラウスのボタンがすべて外され、スカートも剥ぎ取られた。ゼンも服を脱ぎ、お互い生まれたままの姿になる。もうすこしやせてからこの姿になりたいと思っていたので、無駄な抵抗だとわかっていたが上半身を手で隠してしまった。
「やっぱり恥ずかしい」
「そんなことない……」
 嬉しそうに笑うゼンは手をどかし、そのまま胸の膨らみに触れた。舌で頂上の突起を何回か転がしたかと思うと、唇をつけて突起に吸い付いてきた。片手で膨らみの部分を揉まれ、舌で突起を弄ばれる。目を閉じて彼を感じていると、体の奥がどんどん熱くなるのを感じた。ゼンの手は、胸からお腹、下半身へと触れてゆく。ゆっくりと腰を撫でられたかと思うと、脚の付け根から股の中心部へと辿り着く。
「んんっ!」
 ゼンの指が白雪の大事な部分に触れる。クチュリといやらしい音がした。粘液を絡め、ゼンの指が白雪の茂みの奥に円を描く。
「やだっ……やめて……」
 彼の手から逃れようと身体をよじると、両脚を大きく開かされた。股の間にゼンの頭が入り込み、指で触れていた茂みの奥に勢いよく口で吸い付いてきた。
「あんっ……ゼンっ!」
 名前を呼んだが返事が帰って来ることはなかった。大事な部分をゼンの思うように舐めまわされる。秘部から溢れ出る粘液とゼンの唾液が混じるクチュクチュという卑猥な音が部屋に響く。白雪はギュッと目を閉じて、声が出ないようこらえた。ゼンに秘部を舐めまわされ、無意識に腰が動いてゆく。
「そろそろ限界になってきたな……」
 ゼンが顔を上げて身体を起こした。白雪はうっすら目をあけると、彼の中心で大きくそそり立ったモノが天井を向いていた。脚を抱えられ、膝を立てられたところで、ゼンの一瞬動きが止まった。
「そうだ……体重を測ろうかな……」
「体重?」
 白雪は軽く頭を起こした。白雪をニヤニヤ笑いながら見つめている。少々嫌な予感がした。
「な、なに?」
 白雪は裸のまま身体を起こす。無駄な抵抗だとわかったが、脚を閉じてゼンから遠ざかろうとした。
「だめだ、白雪。逃げるな!」
「きゃっ!」
 腕を引っ張られ、白雪は寝台の上に起こされて座らされる。次にゼンが寝台に仰向けになった。
「白雪、俺の体をまたいでくれ!」
「は?」
 仰向けでニコニコしながら寝ているゼンに、白雪はまたがされた。またいだ所は、ちょうどお互いの秘部が重なる場所であった。ゼンの大きくそそり立った肉棒が天井を向いていた。
「このまま、白雪に上からして欲しい」
 ゼンは白雪の腕を引っ張り、肉棒へ近づけようとする。
「そ、それはちょっと怖いし、恥ずかしい……」
「大丈夫だ。白雪のココはこんなに濡れているんだから怖いことなんてない。ゆっくりでいいから腰を降ろして……」
 ゼンは白雪の身体を引き寄せ、膣口に肉棒の先端を当てる。
 白雪は自分の中心が充分に潤っているのはわかっていた。大丈夫なのかもしれないが、目の前にある大きくて固いものが自分の中に入って行くなんて信じられない思いだった。淫らで恥ずかしくもある。
「うん……」
 ゼンが両手を差し伸べてくれたので、その上に手を乗せた。やさしく手を握られる。ゼンに言われた通り、目をつぶりゆっくりと腰を降ろした。
 ズブリと自分の身体がゼンの肉棒を飲み込んでゆく感覚がわかった。温かくて固いモノが身体の中心へ徐々に入ってゆく。不思議な感覚だった。
「ほら、心配することない。全部入ったぞ」
 ゼンの声に薄っすら目をあけると、目の前に嬉しそうな顔があった。
「う…ん」
 身体の最奥に突き刺さる感覚に返事をするのがやっとだった。
「ほら白雪、体重測定だ。全然重くなんてないぞ」
「は?」
 体重と言う言葉に白雪は目を開ける。確かに、ゼンの上に乗っかって、白雪は自分の全体重をかけている状態であった。
「えっ!? 何言ってるの? こんな体重測定恥ずかしいよ。あんっ……」
 白雪が言い終わらないうちにゼンが腰を揺さぶった。身体の中を固い肉棒が突き刺さる。白雪は何も言えなくなった。
「白雪の好きなように動いていいぞ」
「う、うん……」
 ゼンが満足そうな笑顔が自分の目線よりもずっと下にあった。
 そうは言われても、どうしたらよいかわからなかった。
 白雪はぎこちなく上下に動き、その動きに合わせてゼンが下からゆっくりと突き上げる。激しい動きではないが、体を串刺しにされ、自分の中を温かいゼンが蠢く不思議な感覚に意識が遠のきそうになる。
「んっ…ああっ!」
 ゼンの腕を握る手に力が入る。
「よし、体重測定おわりだ。今度は俺が上になる!」
 白雪の身体から肉棒を引き抜く。寝台から起き上がったかと思うと、白雪の腕を取り、少々乱暴に寝台に押し倒された。すぐにゼンが覆いかぶさってきた。
「ああっ!」
 肉棒がズルリと白雪の奥に入ってきた。充分に潤っているソコはすぐに彼を受け入れた。入口まで引き抜いては最奥まで何度も肉棒は往復した。
 ゼンの顔を見ると眉間に皺が寄り必死で真剣な表情だった。しっかりと太ももを抱えられ、こちらに向かって何度も大きく腰を振っている。最奥に、強く何度も肉棒を突き立てられたが、不思議と痛みはなかった。白雪は力を抜きゼンに身体を任せた。
「うっ! もう出るっ……」
 大きく最奥まで肉棒を突き立てられた。中で肉棒が蠢く感覚がして、ゼンの腰の動きがゆっくりになった。
 息を切らしたゼンが覆いかぶさり、しっかりと抱きしめられる。赤い髪をゆっくりとやさしく梳いてくれた。
「時々こうして体重測定しようか」
「ええっ!? こんな体重測定おかしいよ!」
 ゼンは白雪をからかうように言った。冗談だとわかっていても恥ずかしい思いがした。
「じゃあもうダイエットはしないこと。このままの白雪で十分だ!」
 ゼンは赤い髪に顔を埋め、白雪の身体をギュッと抱きしめる。その腕の強さと身体の温かさに想いが伝わってくるようだった。
「はい、もうダイエットはしません……」
 しっかりと抱きしめられた腕の中で答える。白雪はゼンの背中にそっと手を回した。
 ゼンが抱きしめてくれるのと同じくらいの力でギュッと彼の背中を抱きしめた。


♪おわり



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