赤髪の白雪姫〜nene's world
みんなで忘年会


ちょっとイメージ違う?(笑)


前編  後編



前編

「今年も一年、お疲れさまでした! かんぱーい!」
「乾杯!」
 ゼンの掛け声で、皆がグラスを掲げた。
 クラリネス王国にも年の瀬がやってきた。
 一年の終わりを締めくくるため、ゼン、白雪、オビ、ミツヒデ、木々の5人は小さな忘年会を開いていた。
夜遅くまで薬室に詰めていたリュウも白雪が一緒に誘った。
 料理とお酒を持ち寄った身内だけの小さな忘年会。気兼ねすることなく、みんな楽しく過ごしていた。
 食事もお酒も程よく進み、ほろ酔い加減になった会の半ば。
オビはみんなで一緒に楽しめるゲームがしたいと考えた。
ここは王宮。ホンモノの王子もおり、家来もいる(その家来も充分に高貴な身分だが)。
飲み会で定番のあのゲームが最適だと考えた。
「はいはい。皆さん、人数もいることだしゲームしませんか?」
 オビがパンパンと拍手をしてみんなの注目を集める。
「ゲーム?」
 ゼンがワイングラスを片手に首をかしげる。
「クラリネスの王宮にいるからこそ面白いゲームです。
その名も『王様あなたにお仕えいたします』ゲームです!」
 オビは自信満々に言った。
「あっ! 面白そうだね、オビ!」
 白雪はうんうんと頷いた。
「王様あなたにお仕えいたしますゲーム???」
 ゼンと木々とミツヒデの3人は初めて聞くゲームの名に首をかしげる。
「ああ、主たちは庶民のゲームはご存じないですよね。この際だからやってみましょうよ。
『王様あなたにお仕えいたします』ゲーム!」
「うんうん、やろうやろう!」
 白雪は張り切り、乗り気であった。
「リュウ坊はやったことあるか?」
 オビがリュウを振り向く。
「知ってるけど……やったことない。僕、本読んでいたから……」
「そうか。でもルールは知っているよな。リュウもやるぞ!」
 オビはリュウの背中を強く叩く。
「じゃあ、お嬢さん。王様のくじと番号のくじをよろしくお願いします」
「了解! オビ!」
 白雪はくじ作りをはじめる。リュウも手伝った。
「主たち。ルールを説明しますね。『王様あなたにお仕えいたします』ゲームは、
くじで王様を決めて、その王様が好きな命令をするんです」
「ふんふん」
 ゼンとミツヒデと木々の3人は静かにオビの説明を聞く。
「くじで決めるので、誰でも王様になれる可能性があります」
「まあ、そうだな」
 ゼンが頷く。
「もう一つ、人数分の番号を書いたくじを作ります。今、お嬢さんとリュウが作ってるくじがそれです」
 白雪はできたよと言って、番号の書いたくじを見せる。
「王様が好きな命令を下します。例えば、2番のくじを引いた人が3回まわってワンと吠えるとか……」
 3人は素直に頷く。
「それで番号のくじを引きます。2番のくじを引いた人が3回まわってワンと言わなければなりません」
「ルールはわかった、オビ。でも、そのゲームのどこが面白いんだ?」
 ゼンはゲームの面白さがイマイチわからなかった。
「主、甘いですね。王様は何でも命令できるんです。今の例えは『3回まわってワン』ですけれど、
3番と4番がキスをするとか、1番の人が好きな人の名前を言うとか、どんな命令もいいんです」
 オビが薄ら笑いを浮かべる。
「ええっ! そ、そんな命令もありなのか……」
 ゼンは命令の内容に驚く。
「そうです。王様はどんな命令でもできるゲームなんです」
 オビは胸を張っていった。
「お、王様でも、そんな命令はしないぞ……。キスをするとか……」
 ゼンは顔を赤らめる。
「だから面白いんですよ、主! このゲームでは誰でも王様になれるんです! 
そしてどんな命令でも指名された家来は聞かなければなりません。さあ、始めましょう!」


後編

「では、王様あなたにお仕えいたしますゲームを始めます。
『王様だーれだ』の掛け声でまず王様のくじを引きます!」
 オビがゲームの流れを説明する。
「じゃあ、行きますよ。ハイ、皆で声を合わせて……」
 オビが音頭をとり、皆が声を揃えて言った。
『王様だーれだ?』
 白雪が出したくじを一斉に引く。
「あっ! 最初の王様は俺ですね。うーん、命令は何にしようかな……。
そうだな、まず手始めに尻文字にしましょうか? 2番と4番のくじを引いた人が尻文字を書く!」
 王様になったオビが命令を下す。
「尻文字? 尻文字って何だ?」
 ゼンは初めて聞く言葉に首をかしげる。
「主、知らないんですか? お尻で書く文字のことですよ、ほらこうやって。あ・る・じってね!」
 オビはお尻をゼンに向けて「あるじ」の文字を書き、最後にウインクを送る。
「そ……それは恥ずかしいな……」
 ゼンがその後、無言になる。
「あんまり王子に下品な事、教えないで欲しいんだけど……」
 木々がぽそりと呟く。
「じゃあ、次! 家来を決めますよ。『家来はだーれだ!』の掛け声でくじを引きますよ! ハイっ!」
 オビが音頭を取る。
『家来はだーれだ!』
 オビ以外のみんなが一斉にくじをひく。
「さあ、2番と4番は誰かな?」
 オビが目を細くしてフフフと不気味に笑う。
「ああっ!」
「ええっ!」
 二人の声が同時に響く。声をあげた者同士、顔を見合わせる。
「僕が2番です」
「私が4番……」
 リュウと白雪がくじを持ったまま呆然とする。
「じゃあ、早速、尻文字を書いてもらいましょう! 文字は何でもいいよ。ハイ! リュウから!」
 王様であるオビが命令する。
「そ、そんなこと急に言われても……」
 リュウは顔を赤らめ困惑する。
「王様の命令は絶対です。さあ、好きな文字でいいから早く!」
 リュウはしぶしぶ立ち上がり、小さなお尻をみんなに向ける。
 恥ずかしいのか、尻文字なんて初めて書くせいか、お尻の振り方が小さくて何という文字か全く分からなかった。
「リュウ。全然わからないぞ。もっと大きく腰を降って、もう一度!」
 ゼンが掛け声をかける。
「でも、リュウかわいいね」
「うん、かわいい」
 白雪と木々が顔を見合わせて微笑む。
 リュウは王様の命令に従い、先ほどより大きくお尻を振って文字を書く。どうやら5文字のようである。
「うーん、わからないな。リュウ! 何かヒントをくれ! それでもう一回!」
 ミツヒデが手を上げる。
「や、薬草の名前です……」
 リュウは真っ赤な顔をしながら再びお尻を振って文字を書く。
「わかった! ユラシグレだ!」
 白雪が手を上げて答えを言った。
「せ、正解です。白雪さん」
 リュウは顔を赤らめながら答えが出たことにホッとする。
「じゃあ、次! お嬢さんの番です」
 王様オビが命令する。
「えー、やだなぁ〜。短い文字でもいいんだよね」
 白雪が恥ずかしそうに言う。
「いいですけれど1文字はダメです。2文字以上の好きな言葉でお願いします」
「わかった……」
 白雪は少し考え後ろを向く。腰に手を置いて、お尻を軽く突き出し、
恥ずかしそうに尻文字をみんなの前で書いた。
「ハイ! 書きました!」
 白雪は赤い顔でその場に座る。
「二文字だな」
「ああ、二文字だ」
 ミツヒデとゼンが頷く。
「最初の文字に濁点もついてたね」
 木々が推測する。
「お嬢さん、もう一回書いてもらってもいいですか?」
 王様オビの命令でしぶしぶ白雪は立ち上がる。
 再び白雪はお尻を振って文字を書く。
「わかった! 『ゼン』でしょ!」
 白雪が文字を書き終わった直後に木々が叫ぶ。
「当たりです! 木々さん!」
 白雪は拍手をして木々の正解を喜ぶ。
「好きな文字って……そういう意味じゃないんだけどな……」
 王様オビは少々不満そうであった。
「じゃあ、どんどん次行きましょう!」
「そうだね、どんどん行こう! みんな1回くらい王様したいよね」
 王様オビを見て白雪がにっこりと笑う。
『王様だーれだ!』
 くじを引く。
「おっ! 俺が王様だ。いつもゼンに命令ばかりされているからな。どんな命令にしようかな……」
「うるさいぞ、ミツヒデ!」
 ゼンが口を尖らす。
「じゃあ、こんなのはどうだ? 1番の人が初恋の人を言う!」
 ミツヒデが人差し指を立ててみんなに命令をする。
「えっ! それって知らない人でもいいってこと?」
 白雪がミツヒデに聞く。
「まあ、そうだな。初恋だからな」
 ミツヒデは頷いた。
「主、お嬢さんの初恋の人はどうやら俺たちの知らない人のようですよ」
 オビがゼンにこそっと耳打ちする。
「そ、そんなこと、どうでも……いい」
 ゼンはどうでもよくなさそうに不機嫌な顔になった。
「じゃあ、家来決めますよ! はいっ!」
『家来はだーれだ!』
 ミツヒデ以外のみんながくじをひく。
「お、俺だ……」
 ゼンが一番のくじを引き呆然とする。
「い、言わないとだめなのか?」
 ゼンの顔がこわばる。
「ダメですよ、主。ミツヒデ王の命令は絶対です。ねえ、旦那?」
「ああ、なかなかゼンに命令できる機会なんて、最初で最後かもしれないからな!」
 ミツヒデは大きく頷き満足そうであった。
「そうか、言わないとダメか。初恋……」
「ダメです。主!」
「ダメダメ!」
 オビとミツヒデは首を横に振る。
「そうか。言わないとダメか……」
 ゼンは大きく溜息をつき俯く。しばらくの沈黙の後、ぽそりと何か短く呟いた。
「ええ? 何ですか? 主、聞こえないですよ!」
「ゼン。もう少し大きな声で言って! 聞こえなかった」
 白雪たちもゼンの声が聞き取れず顔を見合わせた。
 ゼンが顔を上げてみんなを見つめる。頬がうっすらと赤かった。
「お、俺の初恋の人は……き、木々だ……木々だよっ!」
 やっと名前を言ったゼンはゆでだこのようになっていた。意を決して言ったのか少々息も切れている。
「でええええ! 木々嬢なんですか! 主の初恋の人!」
 オビがその場に尻もちをついて驚く。
「ああ……、前にイザナ陛下とゼンとのやり取りの手紙の中に書いてあったね」(16巻ドラマCD参照)
 木々が表情を変えずにさらりと言う。
「初恋相手の当の本人は意外とあっさりしてますね……」
 オビが冷静な木々を見つめる。
「そ、そうか……。ゼンの初恋の相手は木々なのか……」
 ミツヒデが青い顔になる。ゼンの初恋の相手を聞いてショックだったようだ。
「命令をした王様がショックを受けてどうするんですか。王様の意味ないでしょ、旦那!」
 オビがミツヒデの肩をポンっと叩く。
「ゼンの初恋の相手は木々さんかぁ〜。なるほど! うんうん、納得」
 白雪はその場で頷きニッコリと微笑む。
「お嬢さん! そこ、納得するところじゃないでしょう!」
 オビが突っ込む。
「まあ、旦那。これはゲームなんだから忘れましょ! さあ、飲んで飲んで! 
俺も飲みますから、ゲームの続き行きましょ!」
 オビはミツヒデのグラスに酒を注ぐ。
「じゃあ、次! 王様だーれだ!」
 くじを引く。
「私だ」
 木々が王様のくじを引く。
「女王様、ご命令を! 裸踊りでも女装でも何でも致します」
 オビが木々の目の前で即座に膝をつく。それを聞きが冷ややかな目で見つめる。
「オビのハダカも女装も見たくない! 命令はね、そうだな……。
3番が5番の良いところを3つ言うっていうのはどう?」
「おお、優等生的な質問ですね」
 家来になる可能性のある5人は普通な質問に安堵する。
「じゃあ、家来のくじ、いきましょう! 家来はだーれだ!」
 くじを引く。
「私、3番!」
「俺、5番!」
 白雪が3番、ゼンが5番であった。二人は顔を見合わせる。
「なんだ、すごく簡単な命令になったな」
「そうですね、主の一番良いところ知っている人になっちゃいましたからね」
 ミツヒデとオビは頷く。
「じゃあ、白雪とゼン、向き合ってお互い目を見つめながら言って!」
 木々王が更に命令する。
「は、はいっ!」
 白雪の声が裏返る。
「おお!」
 ゼンは嬉しそうに白雪の真正面に座る。
「なんか、恥ずかしいな……」
 白雪の頬はうっすら赤くなっていた。
「ええと、まずゼンの良いところ一つ目は、優しいところでしょ」
「うんうん」
 ゼンをはじめ皆が頷く。
「二つ目は……、ええと、うーんと、どうしよう。みんなのことをよく考えてくれている王子なところ?」
 更に白雪の顔が赤くなる。
「3つ目は、あの……ええと……」
「3つ目は何だ?」
 ゼンが笑顔でまっすぐに白雪を見つめる。見つめられた白雪は恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。
「そ、そんなに見つめられると恥ずかしい……」
 白雪は自身の赤い髪に負けないくらい顔を赤くする。
ゆでだこのようになった白雪は3つ目の良い所を言えずに俯いてしまった。
「じゃあ、白雪。もういいよ。3つ目は、後で二人きりになってから直接伝えて」
 王様木々から良いところ二つでいいとのお許しが出た。
「主、二つしかいいところないんですねぇ〜」
 オビがニヤニヤと意地悪そうに言う。
「うるさいぞ! オビ! さあ、次行こう!」
 ゼンが不機嫌そうに次に進めた。
『王様だーれだ!』
 くじを引く。
「あ、俺だ!」
 ゼンは王様のくじを皆に見せる。
「あるじぃ〜、王子が王様になってどうするんですか! まったく面白くない。空気読んでくださいよ」
「仕方ないだろ! くじなんだから!」
 オビに絡まれたゼンはむきになって言い返す。
「じゃあ、命令だよな。こういう命令したことないから緊張するな。どうしようかな……」
 ゼンは顎に手を当てて考える。
「あ、こんなのはどうだ? 2番が服を脱ぐ!」
 ゼンは閃いたのか、グーの手をパーの手に重ねてポンと打つ。
「なんですか、その命令。主……意外とむっつりなんですね」
 オビが軽蔑の視線をゼンに送る。
「うるさいぞ! どんな命令でもいいんだろう! 別に全裸になれってわけじゃないんだ。一枚脱げばいい!」
「はいはい、じゃあ家来決めますよ。家来はだーれだ!」
 くじをひく。
「私だ……」
 木々が2番のくじを見せる。
「!」
 他の5人の表情が固まる。よりによって一番ひいてはいけない人に当たってしまったと思い、みんな目を見開く。
「や、やっぱりくじを引きなおそうか。女性に服を脱げってのはよくなかったな……」
 王様ゼンが木々がくじをひいてしまったことに引け目を感じる。
「そ、そうだな」
「そうですね」
 ミツヒデとオビも頷く。
「いいよ、別に。一枚服を脱げばいいんでしょ。やるよ」
 木々は腰を上げ、一番上に羽織っている紫の上着を脱ぐ。ブラウス一枚の姿になった。
「……」
 一同無言になる。中央にある食べかけの食事とお酒を意味もなく見つめ続ける。
「寒い……」
 木々がポソリと呟いた。
「そ、そうですよね! 室内とはいえ、ブラウス一枚じゃ寒いですよね!」
 白雪が木々の上着を持つ。
「木々、服を着てくれ!」
 ゼンが命令する。
「木々嬢、王様から許しが出ました。すぐに着ましょう!」
「ああ、もう命令は果たしたもんな!」
 オビとミツヒデも木々に上着を着るようにすすめた。
「じゃあ、次の王様決めよう。王様だーれだ!」
 ゲームとはいえ、木々を脱がせてしまったことに気まずくなり、次のゲームに進んだ。
「俺だ! 2回目!」
 オビが王様のくじを引いた。
「じゃあ、命令はこれにしよう。4番が1番のほっぺにキスをする!」
「おお、ほっぺにキスかぁ〜」
 ゼンが嬉しそうに頷く。
「主、甘いですよ。お嬢さんか木々嬢にキスしてもらえるとは限りませんよ。
くじなんだから、ミツヒデの旦那やリュウにキスしてもらうことになるかもしれません。またはその逆とか」
「そ、それは嫌だなぁ〜」
 ゼンが眉間に皺を寄せる。
「俺も本当は木々嬢のほっぺにキスするか、されるかしたかったんですけれど、ここは王様なので見守ります」
「嫌! オビなんかのほっぺにキスしない!」
 木々はふんと言って横を向く。
「そんな、ひどい木々嬢……じゃあ、いきますよ。家来はだーれだ!」
「僕、1番です」
「私、4番!」
 リュウと白雪がくじを上げる。
「おお、尻文字に続き、また薬室師弟コンビ!」
 オビが拍手をする。
「そっか、リュウのほっぺにキスか……。いつもお世話になっていますというお礼の意味も込めて……」
 白雪がリュウに近づく。
「し、しらゆきさんっ!」
 リュウは顔を真っ赤にして逃げ腰になる。
「ダメダメ。リュウ逃げちゃダメだよ。恥ずかしかったら、はい、目を瞑って……」
 白雪がリュウのほっぺにチュッとキスをした。リュウは真っ赤になる。
「なんか微笑ましいね」
「うん、微笑ましいな」
木々とミツヒデが笑顔で頷く。
「全然、微笑ましくないぞ!」
 その傍ら、ゼンが頬を膨らませ、むくれていた。
「何怒ってるの、ゼン。ほっぺにキスくらいいいじゃない。ゼンはあとで白雪にキスしてもらえばいいでしょ」
 木々に慰められる。
「あ、後でって……」
ゼンと白雪は同時に顔を赤らめた。
「じゃあ、そろそろ酒もなくなってきたし、あと2回でゲーム終わりにしましょ!」
 オビが酒を注ぎながら叫んだ。
「お酒がなくなってきたのはオビが飲んじゃったからじゃない?」
 白雪が空になった酒瓶を見つめる。
「まあまあ、いいじゃないですか。忘年会なんだし。次、王様だーれだ!」
 くじをひく。
「俺だ!」
 ゼンが手を上げる。
「だから何で王子が2回も王様になるんです。空気読めって言ったじゃないですか、主!」
「うるさいぞ、オビ。お前だって今さっき2回目の王様やったばかりじゃないか!」
 ゼンがオビの首根っこを?まえる。
「はいはい、わかりましたよ、王様」
「じゃあ、命令だな。こんなのはどうだ? 1番が5番をお姫様抱っこする!」
 ゼンが命令を述べた。
「ちょっと待て、ゼン。白雪や木々が1番を引くと大変なことになるぞ。どうするんだ?」
 ミツヒデが女性二人を心配する。女性が男性をお姫様抱っこはいくらなんでもキツイ。
「そうか。白雪か木々が1番のくじをひいたら、引きなおしをしよう」
 ゼンが提案した。
「あ、あの……僕は……」
 リュウが恐る恐る手をあげる。
「そっか、リュウはどうする? リュウが1番だったら引きなおし?」
「ダメダメ、リュウは男だ。これからどんどん力も体力もつけていかなきゃならないんだから、
1番に当たったら、5番の人をお姫様抱っこするんだ!」
「そうだな」
 オビの提案にゼンも同意した。
「ええっ! そんな……」
 リュウは泣きそうな顔になる
「じゃあ、行きます。家来はだーれだ!」
 リュウを含め一斉にくじを引く。
「俺、1番」
「俺、5番」
 ミツヒデとオビが顔を見合わせる。ミツヒデが1番でオビが5番であった。
「オビをお姫様抱っこするのか……」
 ミツヒデはくじをみつめ溜息をついた。
「旦那! 抱っこしてください〜」
 オビは甘い声を出して、ミツヒデに向かって手を伸ばす。
「うっ、気持ち悪いなぁ〜」
 ミツヒデはしぶしぶオビに近寄り、オビの背中に手を添え、膝を抱えてお姫様抱っこをした。
「おおっ! お姫様抱っこだ!」
 大柄なミツヒデに抱っこされるオビ。何とも言えない光景にゼンは思わず拍手する。
「ミツヒデのだんなぁ〜」
 オビはミツヒデの首に手を回し、唇を尖らせてキスしようとする。
「う、うわっ! やめろオビ! 気持ち悪いぞ!」
 ミツヒデはオビの唇から逃れようと顔を反らす。
「わははは、オビいいぞ!〜!」
「きゃはははは! オビおかしい〜!」
 ゼンと白雪が声をあげて笑う。
「おかしいというか、気持ち悪い……」
 木々が気持ち悪そうに眉間に皺を寄せる。
「オビさん、楽しそうですけれど、だいぶお酒が入ってますねぇ〜」
「そうだね……」
 リュウの言葉に白雪は頷く。
「じゃあ、最後の王様ゲーム行きましょう!」
 オビがミツヒデから降りた。
「最後はみんなで声を合わせて、はい!」
『王様だーれだ!』
 皆で声を合わせてくじをひく。
「僕だ!」
 リュウが王様のくじを引いた。
「おっ! リュウ坊が最後の王様か。いいねぇ!」
 オビがうんうんと頷く。
「命令ですよね。3番が4番にキスをする」
 リュウがさらりと命令を述べた。
「意外と大胆だなぁ〜、リュウ坊の命令」
 オビをはじめ皆が驚く。
「ええ、僕やらないし」
 リュウが無表情で答えた。
「そういうことか……」
 一同納得した。
「じゃあ、最後の家来です。はいっ!」
『家来はだーれだ!』
 一斉にくじを引いた。
「俺、3番……」
「俺! 4番!」
 ゼンが憂鬱そうな顔で3番のくじを見つめる反面、4番のくじを持っているオビはニコニコと嬉しそうだった。
「オビとキスか……」
 はぁ〜と大きく溜息をつく。
「主とキッス♪」
 オビはルンルンである。
「オビの奴、だいぶ酒が回ってるな」
「そうだね」
 ミツヒデと木々が顔を見合わせる。
「じゃあ、ほれ! キスしていいぞ、オビ。早く終わらそう」
 ゼンはほっぺにキスしてもいいよう、オビに頬を向けた。
「ふふふっ! あ〜る〜じっ♪」
 オビはゼンの頬に顔を近づける。オビの唇がゼンの頬にあと少しで触れるという次の瞬間、
オビはゼンの頭を抱えた。
 頬ではなく唇にキスをした。
「んんっ!」
 ゼンは目を見開く。白雪がリュウにしたように、ほっぺにキスだと思ったのに、
思いっきり唇にキスされてしまった。それも濃厚なキスでなかなか唇を離してくれない。
「きゃー! ゼン!」
「オビ、何してるの!」
「オビっ!!!」
「オビさん?!」
 残された4人は、それぞれに叫んだ。
 オビはゼンから唇を離す。ゼンを見つめニヤリと笑う。
「ふふふ、主とキッス♪ やった……」
 オビはそのままゼンを押し倒す。
「オ、オビっ! やめろー!」
 押し倒されたゼンは手足をバタつかせる。ミツヒデと木々が慌ててゼンを助けに入った。
「あれ? オビ寝てる?」
 オビはゼンを押し倒したまま、スヤスヤと寝息を立てて眠っていた。
顔を見るとアルコールで顔が真っ赤で、かなり酔っていた様子がうかがえる。
「本当だ。オビ、相当酔っぱらってたんだね……」
「明日、ゼンにキスしたこと覚えてるかな?」
「この調子だと覚えてなさそうじゃない?」
 白雪と木々とミツヒデは床で寝ているオビを見て軽く溜息をつく。
「オ、オビにキスされた……」
 一方、ゼンはオビに唇を奪われ呆然としていた。


***

「ゼン大丈夫?」
 白雪がゼンの顔を覗き込む。
「ああ、少し立ち直った。まさかオビにあんな濃厚なキスされると思わなかったよ。あいつ酔っぱらっていたんだな」
「そうだね」
 ゼンと白雪は人気のない王宮の廊下を二人並んで歩いていた。
 『王様あなたにお仕えしますゲーム』が終わった後、忘年会もお開きとなった。
酔っぱらって眠ってしまったオビはミツヒデと木々が部屋まで送り届けることになった。
「そういえば白雪。一回もゲームで王様にならなかったな。俺とオビは2回もなったのに」
「……そうだね。家来は2回なったけどね」
 白雪はゼンに言われるまで自分が王様になっていなかったことに気づかなかった。
王様でなくとも十分にゲームは楽しめたので特に気にならなかった。
「じゃあ白雪。最後に二人で『王様あなたにお仕えしますゲーム』をしよう。
白雪が王様で俺が家来だ。何でも命令していいぞ」
 家来なのに随分と偉そうである。おかしくて白雪はクスリと笑う。
「くじ引いてないのに私が王様でいいの?」
「ああ、白雪は一度も王様にならなかったからな。何でもいいぞ! 
尻文字でも3回まわってワンでも何でもする!」
 白雪は考える。
ゼンに何かして欲しいことはあるかと考えを巡らす……。
王子の尻文字も面白いけれど、どうせならゼンにしかできないことをしてもらいたいと思った。
ゼンの側にいられるだけで充分に幸せであるが、欲を言えばもう少し触れて欲しいな…と思う時が
今年何度かあったような気がする。
「それじゃあ……今年最後にギュってして欲しいな」
「ぎゅ?」
「うん、少しの間だけでいいから、ギュって抱きしめて欲しい。だめ?」
 白雪が上目遣いにゼンを見つめる。
「だ、だめじゃないぞ。いいぞ、ギュってする!」
 王様ゲームの命令は、たいていは家来が嫌がる命令をするものだ。
白雪の命令は家来が大喜びしてしまう命令であった。
 ゼンと白雪は向かい合う。
「なんか……。こうやって改まると恥ずかしいな」
 ゼンは頭をかく。
「そうだね」
 白雪も肩をすくませて笑う。
「じゃあ、ちょっと恥ずかしいから、目を瞑って……」
「うん」
 白雪は目を閉じる。
 肩にゼンの手が触れた。背中に手が回ると同時にゼンの腕の中に包まれた。
厚い胸板に頬が押し付けられ、ゼンの温かさが伝わってくる。更に後頭部と背中に強く力がかかった。
温かさと心地よさに、とろけそうになる。このまま離れたくないと思った。白雪は額を強くゼンの胸に押し付ける。
 ゼンの手が緩み、腕の中から解放された。顔を上げると、ゼンの顔が目の前にあった。
こちらに向かってゼンの唇が近づいてきたので慌てて目を閉じる
「やっぱりやめた。今、キスすると、オビと白雪が間接キスすることになるもんな」
 ゼンの不機嫌そうな声に白雪は目を開ける。
「え?」
 白雪が顔を上げると、頬を膨らませたゼンの顔が目の前にあった。
「せっかく今年最後に白雪とキスできるかと思ったのにオビの奴め……」
 ゼンは白雪から顔を反らし、ぶつぶつと不満そうに呟く。
「そうだ!」
 白雪は突然声をあげる。
「どうした? 白雪?」
「ゼンの良いところを3つ言う命令の最後を言ってなかった!」
 木々が王様で、家来が白雪とゼンになったとき、ゼンの良いところ3つのうち二つしか伝えていなかった。
後で二人きりになった時、伝えるよう木々に言われたのだ。
「そういえば、そんなことあったな。オビのキスが強烈ですっかり忘れていたな……」
 ゼンも思い出してくれたようである。
「じゃあ、一つ目から言うね」
「ああ」
 白雪はまっすぐにゼンを見つめる。
「一つ目は優しいところ」
「うんうん」
 ゼンが嬉しそうに頷く。
「二つ目は、みんなのことをよく考えてくれている王子なところ」
「うんうん」
 ゼンは機嫌が良さそうに頷く。
「三つ目は……」
 白雪がそこで言葉を止める。ゼンから視線を反らし考え込む。数十秒だが沈黙が訪れた。
 ゼンは不安になった。まさか、あの時オビが言った通り、2つまでしか良いところはなのだろうか? 
 白雪は黙って俯いているままである。
「白雪、三つ目は?」
 ゼンは心配になり白雪の顔を覗き込む。少し屈んだその時だった。
白雪の満面の笑みが視界に飛び込んできた。
「三つ目はね! ギュっと抱きしめてくれてカッコいいところ!」
 胸のシャツを引っ張られたかと思うと、そのまま頬にキスをされた。
「あ……」
 突然のキスに驚き、ゼンは呆然とする。
「ほっぺにキスも後でってことになってたから……」
 白雪が恥ずかしそうに笑った。
「白雪っ!」
 白雪の笑顔が愛おしくて、今年最後にこの笑顔を見られたことが本当に幸せで、
ゼンは再び白雪を腕の中に収める。
「うわっ! ゼン、もうギュっはしなくていいよっ! もうゲームはおしまい!」
 腕の中で慌てる白雪を、ゼンは更に強く抱きしめた。



♪おわり




王様ゲームの由来をネットで調べていたら、
中世ヨーロッパに『王様あなたにお仕えいたします』というそっくりな遊びがあることを発見! 
クラリネスは中世ヨーロッパっぽいし、今回はタイトルそのままを使いました。
中世ヨーロッパでも、王様はキスを命じたりしていたらしいです(笑)。

メールフォームで王様ゲームのネタを募集しました。送って下さった方、楽しいネタをありがとうございます。
私の考えと重なるものもあれば、全然思いつかないものもありました。
読んでいて楽しかったです。ありがとうございます。
送って下さったネタをご紹介!




白雪が、ゼンの良い所を言う。(白雪は恥ずかしくて何も言えなくて、ゼンが落ち込む)

ミツヒデが木々にハグを10秒する。 (勿論オビが言った)

白雪がリュウに膝枕をする。

オビが木々の可愛い所を3つ言う。

ゼンと白雪が皆の前で歌う。

ゼンが白雪にキスをする。そして結婚を申し込む。

白雪がゼンに愛の言葉を伝える(大きな声で)

ゼンが白雪にプロポーズする。

オビが白雪に膝枕してあげるなど!
 それを見てゼンがヤキモチというかドギマギしちゃう感じ、、、(^^)?

白雪が貴公子風にゼンにプロポーズする。

ミツヒデがオビをお姫様抱っこする!(それを木々が気持ち悪そうな顔で見る)

ミツヒデがオビに手作り弁当を作り、いってらっしゃいのキスをする!

白雪が木々さんにキスする、白雪が女中さんの服を着るとかどうでしょうか?

ミツヒデさんが王様。命令が木々さんの好きな人を言うか好きな人のタイプを言う。

オビが王様。ゼンの良いところや好きな所を白雪が言う。

オビが女装する。そして、ゼンとツーショット。

オビが王様。命令が木々さんと白雪が裸になって好きな人の名前を言う。

5番(白雪)が2番(ゼン)に冷たくなる……とか?

リュウが白雪のほっぺにキスをする。それで、ゼンが嫉妬する。

木々が、ゼンとハグをする。これはミツヒデが嫉妬しますね。

白雪がミツヒデにお姫様だっこ!

ミツヒデが木々に赤面で告白(マジで)するが、木々はイヤそうな顔でミツヒデの顔にビンタする。
 その場面をオビが笑いとばす。

ミツヒデと白雪がキスする

ゼンが王様で、オビに抱きしめられて激しいキスをする白雪


今回は、こちらの3つを使わせて頂きました!
白雪が、ゼンの良い所を言う(白雪は恥ずかしくて何も言えなくて、ゼンが落ち込む) 。
ミツヒデがオビをお姫様抱っこする!(それを木々が気持ち悪そうな顔で見る)
リュウが白雪のほっぺにキスをする。それで、ゼンが嫉妬する。(こちらは、話の都合上、リュウと白雪を逆にしました)


莉央さん、ゼン白雪大好きな婆さん、ことさん、亜沙子さん、Rena.さん、書道さん、
yuyuさん、おれの弟の本日のおねだりさん、かのんさん、ハルさん、セイルーンさん、
ハナさん、ゼン白大好きさん、あさみさん、十四松さん
ありがとうございます。

それでは、良いお年を!
2016年12月29日 ねね



【BACK】 【HOME】