顕太郎レストラン


「顕次郎、俺はレストランを開こうと思う!」
 人のいなくなった検査室で、顕太郎は突然声をあげた。
「ど、どうしたんですか? 急に。なんでレストランなんて開こうと思うんです?」
「顕次郎、今の検査部の状態をどう思う? どんどん外注化されていって、
検査点数は大幅に削減されてゆき、このままでは検査部はつぶされかねない。
検査部がつぶれたら俺たち顕微鏡もお払い箱だ。そこで副業を考えたんだ」
「副業ですか?」
「仕事の終わった検査室を利用して、レストランを作ろうと思う。名づけて『顕太郎レストラン』だ!」
「…………」
 顕次郎は言葉を失う。奇想天外な先輩顕微鏡の性格は今までで充分に理解しているつもりだったが、
今回も前途が多難そうなことを言い出したと思った。
「この検査室の中のものを使ってレストランを開くんだ。実験台はテーブルとして使う。
椅子もたくさんあるだろ。冷蔵庫は4℃、−20℃、−80℃と瞬間凍結までもってこいだ。
米は高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)で炊いて、乾熱滅菌器はオーブンまたは食器乾燥器と
しても使える。どうだ? バッチリだろう!」
「何がバッチリなんだかよくわかりません! 保険点数が下がるとどうしてレストランを
開くんですか!」
 真面目な顕次郎は先輩顕微鏡に聞く。
「使える場所と時間は有効に使わなければならん! それが商人魂というものだ!
検査が終わった検査室でレストランを開いて、小銭が稼げれば試薬代くらいには
なるじゃないか。俺は検査技師を助けるために働くのさ!」
 もっとものようでそうでない理屈をこねられた顕次郎は、もはや何も言い返す気はなかった。
探偵のときもそうだが、何をこの先輩顕微鏡に言っても無駄なのである。
「顕太郎アニキ、冷蔵庫やお釜の用意はいいとして、お料理はどうするんです?
メニューは決めたんですか?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた、顕次郎。メニューはもう用意してあるんだ。
これを見よ!」


お食事
ミトコンドリア チーズたっぷりのエネルギー(ATP)が
たくさん産生される栄養万点のドリア
ヘモグロビンサラダ ほうれんそうとレバーのサラダ
ナットカリクロールあえ
(Na K CL和え)
納豆と黒ゴマをカリカリにあげた珍味
コレステロールパン 焼きたてのロールパン
善玉ロールパン 玄米からできていてヘルシー
悪玉ロールパン バターがこってり
コントロールパン 小麦粉をきっちり100g使用して作ったパン
デザート
あんモニア あんこのモナカ
お飲み物
焼酎−γGTP γGTPがコントロールできる焼酎
アスコルビン酸ジュース  ビタミンCたっぷりのオレンジジュース
1.5−AG いちごアップルグレープジュース
カルシウムドリンク 真っ白な牛乳
ビールビン大・小 ビリルビン色のビール
ヘマトクリット48%ジュース 鉄分たっぷりのヘルシージュース
メタクロマジージュース 色の変化するおもしろジュース
(オレンジ味、サフラニン味、アミドブラック味
の3種からお選びください)



「な、なんですかこのメニューは……」
「素晴らしいだろう。名コック顕微鏡の顕太郎が、腕に亜硝酸塩をふるって
考えたメニューだ。どのメニューも健康にいいぞ!」
 顕太郎はえっへんというポーズをとった。得意げである。
「わかる人にしかわからなじゃないですか! こんなマニアックなメニュー……よく考えましたね」
「褒めてくれるのか? 顕次郎。臨床検査技師付きの顕微鏡ならではのメニューだろう!」
「いや、褒めているわけではないんですけれどね……」
 顕次郎はメニューを見ながらやはり呆然とする。
「メニューはこれからも随時追加していこうと思う。ちなみにジュースやビールを入れるコップは
ハルンカップを使用する。ストローは検体採取用のスポイトだ!」
「ハルンカップ?! ジュースやビールを尿コップに入れてお客さんに出すつもり
なんですか!」
 顕次郎はまたまた驚いて目を丸くする。
「ハルンカップといってもちゃんと未使用のものを使うから大丈夫だぞ!」
「未使用とか使用済みとかそういう問題ではないでしょう!
ハルンカップ、尿コップですよっ!」
「経費節減には仕方がないことさ!」
 顕太郎はサラリといった。
「伝票は検査伝票をそのまま使えばいいし、合理的だろう。顕太郎レストラン、
朝6時まで営業、どんどん稼ぐぞ!」
「はあ、顕太郎アニキ……がんばってください」
 顕次郎は深い溜息をつく。
「何言ってるんだ顕次郎、お前にはウエイトレス……いやウエイターをやってもらわないと
困る。あと皿洗いもだ。俺は料理を作るのに忙しいからな!」
「ええっ! 僕も働くんですか?」
「当たり前だろう。お前は俺の後輩だ。後輩とは先輩を助けるもの。たっぷり働いてもらうぞ!
わっはっはっ!」
 顕太郎は高らかに笑った。今回は探偵の助手ワトソンとして振り回されないと安心していたのも
束の間であった。顕次郎はがっくりとうなだれる。
「雑誌に載るようなオシャレなレストランにするぞ。若いオナゴがたくさんくるような……。
さあ、顕次郎! まずはアスコルビン酸ジュースで乾杯だ!」
 顕太郎レストラン、流行るかどうかは神のみぞ知るばかりである(爆)。


おわり



***
相変わらず、アホな話だなぁ。何なんだよこのメニュー。
明日から笑って検査伝票見れないじゃん!(爆)



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