熱ペンの美子ちゃん



 私は熱ペン直記式心電計。人呼んで熱ペンの美子ちゃん。
毎日心電図ってものをとっているのよ!
 心電計の記録方法には、私のような熱ペン式の他に、
インク書き式や噴射式があるけど、熱ペン式が
今のところ広く使われているみたい。
 熱ペンは『熱』のとおり、400〜500度に熱せられていて、
この熱で感熱紙を溶かして記録しているの。
私は熱い女だからヤケドしないように気をつけてね。
それに私は、ペンが比較的軽いから、紙との接触抵抗も少ないし、
周波数特性も良いので、心臓から読み取った電気的信号を
忠実に記録することが出きるんだ。
 私の手となる四肢電極と胸部電極っていうものがあるんだけど、
ここから心臓のわずかな電気的信号を読みとって、
本体の増幅部で増幅して、記録部の熱ペンで感熱紙に波形を
描いているの。四肢には4つの大きなクリップみたいな電極、
胸部にはタコの吸盤みたいな6つの電極をつけて、
ゆったりした状態で心電図をとるのよ。
このとき、手足に力が入ると一緒に筋電図が入ってしまうから、
緊張しないでリラックスしてもらうと、とっても都合がいいんだ。
他にも呼吸の影響で基線が動揺することがあるから、
患者さんにはちょっと息を止めてもらったりして、
協力してもらうこともあるわね。たまに、胸部電極の吸盤が、
キスマークみたく残ってしまうことがあるけど、
これも私からの愛だと思って、記念に受け取ってね♪
 こんな私を使って、毎日、老若男女、色々な人の心電図を
とっているわけだけど、実習生が来ると大変なのよね。
実習生って慣れないから、T波とP波の間に入れる
キャリブレーションが上手く入らないため、あの高価な感熱紙を
ガンガン使うの。まあ、慣れないうちは仕方ないんだけどね。
みんな通る道ですもの。でも感熱紙はもったいないわね……。
 最後に私の妹、ホルター心電計のホル子を紹介しておくわね。
ホル子は我が妹ながらとっても働き者なのよっ! 
だって、24時間休みなしに心電図をとっているんですもの。
私のような普通の心電計で心電図を記録するのはせいぜい数十秒くらい。
その数十秒の間に異常波形が出るとは限らないから、24時間心電図を
記録できるホル子が活躍しているの! 
 私も妹に負けてはいられないわ!私に出来ることを
精一杯頑張らなくっちゃ!
 ……と、仕事に熱い女、熱ペンの美子は、
毎日リズミカルに、心電図をとっていた……。


         医学書院 検査と技術 2001年 3月号コーヒーブレイク掲載


***
これを読んだ感熱紙などの記録用紙を出庫(みたいなこと?)をしている方から
メールを頂きました。感熱紙がどのように使われているかよく
分かったとのこと……。こ、これでいいのかしら?(笑)







[BACK]