エレベーター
○袋某デパートでエレベーターに乗ったときのこと。
趣味が同類項の友達と、人に聞かれても構わない話を満員のエレベーターの中で
小鳥がさえずるくらいの声で話していた。
すると隣にいた若き母にだっこされた赤ちゃんが、一つの傷もない
黒曜石のように輝く瞳でじっと私の顔を見ている。
赤ちゃんの瞳ってまだ使用期間が短いせいか、潤いがあってキラキラ光っていて
とても綺麗。毎日パソコンの前で電磁波を浴び、知らぬ間に食品添加物を摂取し、
環境汚染物質を取り込んでいる私とは大違い。体中がみずみずしさに溢れている。
このくすみのない純粋な瞳にじっと見つめられたら、病んだ心を持った私も洗われるよう。
電磁波に犯された私は逆らえません。
輝く瞳に映るものすべてが珍しいのか、それとも私が珍しいのか、
どちらかわからないが、とにかくじーっと私のことを見ている。
仕方なく……、
「あらー、そんなにじっと見つめてくれちゃって……。私ってそんなに綺麗?
20年たったらお嫁にもらってね♪」
ちょうど降りたい階でエレベーターのドアが開き、私と友達は赤ちゃんに手を振りながら降りた。
閉まりかけるドアの向こうから笑い声が聞こえたが、その笑い声も分厚い扉に
遮断され鼓膜に響かなくなった。
「さあ、本屋さんに行こう!」
私と友達は元気に統一の趣味の広場に向かった。