***むらえもん(ホワイトデー編)***

 

「いけない! 忘れてた!」
 都筑は真っ青な顔をしていた。瞬きもせずに一点を見つめぼうっとしている。
「ホワイトデー…。今日は3月17日だ…。巽から、チョコレート貰ったのに…。ホワイトデーからもう3日も
経ってる…。どうしよう」
 3月14日ホワイトデー。都筑はこの日のことをすっかり忘れていた。何も言わないが、ホワイトデーに
お返しもしない自分に、巽は腹を立てているかもしれない…。
「やっぱり、14日の日におかえししないと意味ないかな…。今更、起こるよね。巽…」
 都筑はうつむいた。義理チョコかもしれないが、いつもお世話になっている巽だし、
その感謝の意味もこめてお返ししなければならない。
「ああ! 時間が戻ってくれれば! どうにかして3日戻りたい!」
 人生は不可逆反応。過ぎてしまった時間は二度と戻らない。だからこそ面白い人生なのかもしれないが…、
一秒一秒、後悔しないように生きて行かねばいけないのかもしれないが…。このときばかりは真剣に時間が戻らないかと願った。
「そうだ! 噂だけど、召喚課の物置にある机は、ドラえもんのタイムマシーンだとの噂を聞いたことあるな…。
いちかバチか…。行ってみようかな…」
 都筑は物置の前まで来た。殆ど人の出入りのない、古びた物置だ。ドアに手をかけると、何年も人は入っていないのだろうか?
埃が手についた。黒くなった手を気にしながら、そっとドアを明けた。
 思ったとうり中は薄暗く、埃まみれだ。空気もジメッしており、この空間だけ時間が止まっているようだった。
 物置の隅に古びた机がある。これだ! そう思い都筑は机に近づいた。
 すると―――何かがキラっと光った。都筑は驚いて立ち止まった。
「フフフ」
 笑い声が聞こえた。光ったものは眼鏡だった。
「私は、むらえもん。30世紀の未来から来た変態型ロボットさ! さあ都筑さんあなたの望みをかなえてあげよう!
この私の6次元ポケットで!」
 都筑の目の前には、眼鏡をかけた全身紫色のネコ型変態ロボットが立っていた。お腹には、半月型のポケットがついている。
「お願いします。むらえもんさん。俺を3日前に戻してください。大事な人に…プレゼントをあげるのを忘れたんです」
 むらえもんは都筑をじっと見つめていた。しばらくしてこう言った。
「いいでしょう、あなたの望みを叶えましょう。一緒にタイムマシーンに乗ってください。
あなたは私ののびたくん♪」
 都筑とむらえもんは、机の引き出しを開けてタイムマシーンに乗った。
行き先は3日前の3月14日。異次元の世界をとおり、無事に3日前に戻ることが出来た。
 どうやら3月14日の早朝の召喚課についたようだ。誰も人はいない。都筑は巽の机の前まで行き、 
そっと手作りのアップルパイをおいた。
「ありがとう。むらえもん。もう、戻っていいよ」
 都筑は目的を果たせたことにほっとしていた。これでとりあえず、嫌われることはないだろう。
「帰る…。そうですね。私達の未来へ…。30世紀の未来の私達の新居に帰りましょう」
 むらえもんは紫の体を振るわせながら、嬉しそうに言った。
「何をいってるんだよ、むらえもん。もう20世紀に帰るんじゃないの?」
「誰がタダで、タイムマシーンを使わせると言いました? ちゃんとお礼はしてもらいます。
あなたは、私の花嫁になるのです。さあ! 30世紀の未来で新しい家庭を築きましょう」
「い、いやだー!」
 都筑は抵抗した。だが無駄だった。もうタイムマシーンは30世紀の未来へ向かっていたのだ。
「花嫁がいやなら、私のどらやきでもいいですよ。都筑さん♪」
「うわあああああ!」
 都筑の悲痛な叫び声と、20世紀の現代では都筑のプレゼントしたアップルパイに当たった巽のうめき声が
時空を超え響き渡っていた。

♪終わり