***都筑の運転免許ものがたり***

闇末教習所にて都筑さんが運転免許をとるお話です。
教習過程など、本当の教習所とはかなり異なりますのでご了承下さい。


教官陣

巽征一郎 運転は大きな事故につながりかねない。厳しく教習して行きます!
黒崎密 チビだからってバカにするんじゃねぇぞ!
亘理温 さあ、今度はどんなふうに教習車を改造しようかな?
邑輝一貴 フフフ、私が手取り足取り教えてあげますよ。
伯爵 私のつ・づ・き♪ 教習が終わっても私に拘束されるのだよ。
ワトソン 3頭身でアクセルに足が届かないけど頑張って教えます。


教習過程

教習 内容 教官名
AT車 はじめての運転。車に慣れる。 邑輝一貴
MT車1 はじめてのMT車。クラッチ操作、発進停車。 巽征一郎
MT車2 発着点への停車。3速まで入れる、 黒崎密
坂道発進 半クラを使って坂道発進。踏切の通過など。 ワトソン
S字、クランク ハンドル操作。 亘理温
バック 縦列駐車、車庫入れをなど。 未定
仮免試験 未定 未定
路上1 未定 未定
路上2 未定 未定
10 卒業検定 未定 未定


注;ストーリーの構成上、教習内容は突然変わることがあります。


1はじめてのAT車

 都筑麻斗、普通自動車免許を取得するために閻魔庁にある教習所に通うひとりの青年である。
はじめての車。はじめての教習所。都筑の心は新たなことを始める希望と緊張でいっぱいであった。
「さあ、第一段階のカートレも済んだし、いよいよ今日から本物の車だ!」
 ドキドキしながら教習のはじまる時間を待合室で待つ。都筑の他にも、学生から社会人まで
様々な年齢の人が同じように教習の始まるのを待っている。
 都筑はマニュアル車での教習を申し込んでいた。まず車に慣れるために、ギア操作のいらない
簡単なオートマ車の教習だ。簡単とは言え、初めての車とあって都筑は緊張の頂点にいた。
 小さめのチャイムが鳴り、教習簿を持って支持された車に皆、向かって行った。
都筑の教習車は9番。教習車まで近づくと、ドアのところに教官が立っていた。
他の教官は地味な黒や紺系のスーツを着ているのに、都筑担当の教官だけは真っ白なスーツであった。
胸には薔薇の花が一輪刺さっている。
「やあ、はじめまして。教習簿をもらうよ。あなたの名前は……、都筑さんですか。
いい名前ですね。私は邑輝一貴といいます。手取り足取りよぉ〜く教えてあげますよ。
フフフフフ」
「よ、よろしくおねがいします。はじめての教習なんです!」
 緊張している都筑は、白のスーツの男に頭を下げた。
「そんなに緊張しなくていいんですよ。私の暖かいハートでやさしく包んであげますから。
さあ、車にお乗りなさい!」
 まるでお抱えの運転手のように教官自ら運転席のドアを開け、都筑を乗せた。
「あ、ありがとうございます」
 緊張のまだ解けない都筑はたどたどしい口どりであった。
「さあ、カートレ教習でも教わったと思いますが、右がアクセル、左がブレーキです。
おっと、ブレーキを左足で踏んではいけません。両方とも右足で踏むのですよ。フフフフフ」
 都筑は両足をつかってアクセルとブレーキを操作しようとしていた。
間違いを指摘され、少し顔を赤らめる。
「あらあら、頬が赤くってしまって、そのとれたてのイチゴのようなホッペを
食べてしまいたいくらいですよ」(←妖しすぎ…この教習…爆)
「す、すみません」
 教官に目を合わせないようにして謝る。
「さあ、次はギアをニュートラルにして……、ブレーキを外します」
 邑輝の言うとおりにすると、車はゆっくりと動き出した。
「ああ! 動いた!」
 車の動きだしたことに、紫の瞳は驚きの色を隠せない。
「フフフ、アクセルを踏まなくとも動くでしょう。これがオートマ車特性のクリープ現象です」
「クレープ現象?」
「クリープ現象。まったく、あなたは食いしん坊なのですから。フフフフフ」
 都筑の間違いも邑輝の妖しい微笑みに包まれる。
「クリープ現象。おしそうな名前だなぁ」
 ゆっくりと車は進む。銀髪教官はアクセルをゆっくり踏むように支持した。
車は加速し始めた。少しスピードが出た車にまたもや緊張を感じる都筑である。
「う、うわっ。早い!」
「さあ、ここでアクセルを踏んでいる足を外してブレーキをゆっくり踏んでみましょう。
一度に踏まずに何回かにわけて踏むのですよ」
 都筑は教官の言うとおり3,4回に分けて軽くブレーキを踏む。
スピードがゆるくなったら、完全に止まるようにギュットブレーキを踏み込んだ。
 車は止まったかすかな衝撃でカクンと揺れる。
「うーん、しびれるブレーキのかけかたですね。都筑さん、あなたには素質がありますよ。
フフフフフ」
「そ、そうですか?」
 初めて車に乗った都筑は妖しい教官だが、誉められたことが嬉しかった。
 少し自身がついた都筑の耳に教習終了のチャイムが響く。
「おや、もう終わりですか。楽しい時間は早く過ぎてしまうものですね」
 銀髪教官はそう言いながら教習簿のAT車の欄に「邑輝」の薔薇の捺印付きハンコを押してくれた。
「ありがとうございます!」
 カートレ教習でハンコは貰ったけど、実際に車に乗った講習でハンコを貰ったのは
はじめてだったのですごく嬉しかった。
「フフフ。名残惜しいです。お別れの記念に是非これを……」
 真っ白なスーツの胸ポケットに刺さっていた真紅の薔薇を都筑に差し出す。
「あ、ありがとうございます」
 真っ赤な薔薇をスミレ色の瞳で見つめながら言う。
「また、教習で縁があったらお会いしましょう! 楽しかったですよ。
次回はもっと手厚く教えてさしあげましょう! 手取り、足取り。フフフフフ」
 不気味な笑みを浮かべ変態教官は握手を交わす。
「あ……、はい」
 ちょっと変わった教官だったが、無事に教習は済んだ。しびれるブレーキだと言われ
誉められもした。これから楽しい教習がはじまりそうな予感のする都筑であった。


2.はじめてのMT車

 AT教習が無事に? 終わり、今日からマニュアルの教習である。
「さあ、今日からいよいよマニュアル車だ。オートマと違ってクラッチ操作が
難しいっていうし、ちゃんとできるかな……」
 紫の瞳には不安が宿っていた。
 チャイムとともに教習の車へと向かう。
 今日の教官は眼鏡をかけ、茶色のスーツに身を包んだ真面目そうな人だ。
「はい、教習簿を頂きます。巽征一郎と申します。今日からマニュアル車なんですね。
ビシバシいきますよ!」
 言葉は厳しいが、眼鏡の奥のひとみにはやさしさが溢れていた。
「お願いします」
 都筑は深くおじぎをした。
「まずはクラッチが踏みやすいような位置に座席を調節して下さい。
それからエンジンをかけ、発車の練習をします」
「はい!」
 都筑はクラッチに足を置きながら座席を調節している。
「調節はできましたか? ではまずエンジンをかけてください。これはオートマ車でも一緒です」
 都筑はキーを回しエンジンをかけた。
「じゃあ次は右足でアクセルだけ踏んでください」
 巽の言うとおり、都筑はアクセルをそっと踏んだ。
『ブォォォ〜ン』
 エンジンの回転する音がした。その音を聞くや否や、
「あっ、動いたっ!」
 都筑はエンジンの少し大きくなった音を聞いて、感動した。
「……動いていませんけど。これはマニュアル車です。オートマ車のように
アクセル踏んだだけでは動きません。カートレで習ったはずですよね?
クラッチを踏まないと動きませんよ。そんなことも知らないんですか?」
 巽のお説教が始まった。キツイ言葉を都筑の鼓膜に打ちつける。
「あ…えっと、エンジンの音を聞いて感動してしまって……、動いたと錯覚しちゃったんです」
 都筑は顔を赤らめながら言う。
「まあ、いいでしょう。そうしたら、左足でクラッチを踏んでください。ギアを一速に入れて
右足でそうっとアクセルを踏みます。半クラッチの状態にします。
クラッチを少しずつ上げていくと車が前進しますのでやってみてください」
 都筑は巽の言うとおりにやった。だが、半クラッチがなかなか上手くいかずに
何度もエンストした。エンストする度に、都筑は恥ずかしそうに顔を赤らめ、
申し訳なさそうな顔を巽に向けた。巽もなかなか発車することのできない都筑に
イライラしたが、そんな都筑の表情を見るとなんだか憎めないのであった。
 しばらく練習しているうちに、半クラッチもできるようになり、すんなり発車できるようになった。
「できた! できたよ! 巽さん!」
 都筑はとても嬉しそうであった。巽も都筑の嬉しそうな表情につられて笑った。
「次は停車のやり方です。まずは加速しているアクセルを外し、右足で何回かにわけてブレーキを
踏みます。そのときに一緒にクラッチも踏んでください」
 都筑は巽のいうとおりにやった。発車よりも停車はすんなりとできた都筑であった。
「じゃあ、次はあの停止線のところで止まってください」
 10メートルほど先に停止線がある。都筑は停止線にぴったり止まろうと
ブレーキを踏んだつもりであった。
 ……が、
 ブレーキを早くかけすぎて、二メートルも手前で止まってしまったのだ!
「何をやっているのですか! 都筑さん! 停止線からこんなに離れているじゃ
ありませんか! 窓から顔をだして見てみなさい!」
 巽の雷が狭い車内に落ちた。
「はいっっ」
 都筑はビクっとして、すぐさま窓の外を見ようとした……のであるが、
 ―――ゴン!
 透明な窓に激しく頭をぶつけた。
 巽の声に驚くあまり、窓を開けるのを忘れて外を見ようとしてしまったのだ。
「…………」
 ドジな都筑に巽は呆然。
「いたぁ〜い」
 都筑はぶつけた頭を手でなでながら痛みをこらえる。
 
 この日はなんとかハンコをもらった都筑。巽は少々呆れ気味であったが、
都筑の教習はまだまだこれからである。


3.MT車2

「マニュアル車2日目。がんばるぞっ!」
 都筑は右手でこぶしを作ってえいっ! と気合を入れた。
「えっと、今日の教習の先生は……」
 教習簿を持って指定された車に向かって行く。都筑が乗るはずの教習車の前には
すでに教官が立っていた。先日の邑輝教官や巽教官と違って、小柄で線が細く
少年のような教官だった。
「お前が今日の生徒か。俺は黒崎密、グズグズしたらぶっ殺すからなっ!」
 都筑の顔を見るや否や、喧嘩越しに言葉を投げつける黒崎教官。
紫の瞳のかわいい生徒が怯えたのは言うまでもない。
 都筑は教習者に乗りこみ、続けて黒崎教官も助手席に座った。
「じゃ、まずは車を出してみろ」
「は、はい」
(今日の教官は怖いなぁ)
 と心の中で小さく思いながら、エンジンをかけサイドブレーキを降ろした。
次にクラッチを踏んでギアを1速に入れ、静かにゆっくりと半クラッチの状態にしようとした、
 ――が、
『ブオン、ズン』
 クラッチを早く放しすぎてエンストしてしまった。
「何やっているんだー! てめー! 発進からつまづいてどうするんだー!」
「す、すみません」
 自分より背丈の低い教官に怒鳴りつけられて都筑は怯えるネコのようであった。
 エンジンを入れなおし、もう一度発進をやり直す。
『ブオン、ブオン、キュー』
「何だ? またエンストかー!」
 密の雷が紫の瞳に再び落ちる。
「ち、違います。今のキューという音は、私のお腹がなった音です。
おやつ食べなかったからお腹が空いちゃって……」
 黒崎教官の緑色に瞳にえへへとテレ笑いを投げかける。
「くぉの〜、紛らわしいまねしやがってぇ、いいかんげんにしろー!」
 黒崎教官が起こるのも無理はない。

 しばらく練習していると、発進でエンストすることも減った。都筑はペースとコツをつかみ
運転に慣れてきた。
「だいぶ慣れてきたな。じゃあ今日のメインイベントにいきますか」
 黒崎教官ははりきっているのか? 腕まくりをして細く白い腕があらわになった。
「今までギアを2速までしか入れなかったけれど、今日は3速まで入れて30キロ以上
スピードを出してみろ」
 普通の道路で30キロなんて大変遅いスピードだが、教習所の中で30キロ以上のスピードを
出すことはレーサー並の早さといっても過言ではない。(笑)狭い教習所内でスピードを出すとは
教習生にとってはとても恐ろしいことなのである。
「じゃあ、まずは2速にまで入れてみろ。アクセルを踏んでスピードを上げて、
スラッチを踏んでゆっくりとギアを3速に入れるんだ」
 黒崎教官は真剣に、かつ丁寧に指導する。スピードを出して万が一のことが
あったら、隣に乗っている密の身も危ないからだ。
「はい」
 都筑は言われたとおりクラッチを踏みゆっくりギアを3速に入れた。
 すると――。
『ガタガタガタガタ』
(ひいいいい。く〜る〜ま〜が〜ぁ〜、い〜ま〜ま〜で〜に〜な〜く〜、
は〜げ〜し〜く〜ゆ〜れ〜て〜る〜ぅ〜ぅ〜)
 と都筑は心の中で叫び声を上げた。異常なゆれに驚き、声にならなったのである。
「先生ィ〜。こ〜れ〜は〜ぁ〜、な〜ん〜で〜す〜か〜ぁ〜???」
「ク〜ラ〜ッ〜チ〜を〜ぉ〜、ふ〜め〜ぇ〜〜〜!」
 都筑は言われたとおりクラッチを踏んだ。
『ブオン』
 揺れは収まった。
 なんと都筑は3速ではなく、5速にギアを入れてしまったのである。
5速なんて高速道路に乗ったときくらいしか使わない。黒崎教官から
「ばかやろう!」
 の誉め言葉を頂いたのは言うまでもない。

 今日の教習は起こられてばかり。シュンと落ち込む都筑であったが……。
「何もかも経験が大事だ」
 と黒崎教官は情を込めて都筑に言い、何度も怒鳴られはしたが、『ポンッ』と教習簿に
ハンコを押してくれたのであった。

 都筑の教習はまだまだこれからである。



4.坂道発進

 今日は坂道発進の教習。マニュアル車の難関の一つであろう。
クラッチ操作がものを言うのだ。
 都筑は初めての坂道発進に少々緊張していた。
 今回の教官はワトソンというゾンビみたいな人だ。
顔はゾンビだが、三頭身なので、怖いというイメージはない。
「よろしくおねがいします。ワトソン先生!」
「いーえー、こちらこそよろしくです」
 ワトソン先生は都筑に深々と頭を下げる。
 都筑は運転席に、ワトソン先生は助手席に乗りこんだ。
「では、都筑さん。坂道発進のやり方は知っていますか?」
 ワトソン先生と面と向かった都筑、ゾンビの顔に少しビビったが
気を大きく持って質問に答える。
「は、はい。半クラになったところでサイドブレーキを下ろすんです。
そうすると坂道を上がってゆきます」
 都筑は学科で習ったことを思い出しながら言う。
「はい、そうですね。半クラはできますか?」
「ええ、できます」
「じゃあ、やってみてください」
「はい」

『プププ』

 都筑はハンドル部分に付いているクラクションを指でそうっと鳴らしてた。
「……何をやっているんですか? 都筑さん?」
「え? だから半クラです。半分クラクション……」
 またもや都筑は『プププ』とクラクションを鳴らす。
「ちーがーいーまーすー! 半クラというのは左足のクラッチを半分上げることです!
発進するときと一緒ですよ! ふざけないでください」
「ひいいいいいい、ごめんなさいー」
 さすがはゾンビ、怒ると怖いらしい。都筑は怯えた。
「じゃあ、気を取り直して! そうっとクラッチを上げていって、半クラになったところで
サイドブレーキをおろしてみてください。さあ、やってみて!」
 都筑はワトソン先生に言われたとおりに、踏みこんでいるクラッチを徐々に
上げていった。都筑はクラッチが半分上がった所でサイドブレーキを下ろした……つもりであった。
 ――だが!
『シュルルルルル』
 半クラになる前にサイドブレーキを下ろしてしまい、車は重力によって坂道を下がり出したのだ!
「きゃあああああ!」
 都筑は悲鳴を上げる。
「うわわ! ブレーキブレーキ!」
 ワトソン先生も助手席にある教官用ブレーキを踏もうとした……が、
「ひー! ブレーキに足が届かないー! 私は三頭身ー!」
 ブレーキのかからない教習車は坂道を速度を増して下降してゆく。
『ズズーン!』
 教習所のフェンスに激突。都筑の教習は一時中断。
 どうやら、先生にも生徒にも問題があるようである。



 
 



 

 



つづく♪