***都筑と豆の木***
<ジャックと豆の木編>


 むかしむかしある所に、都筑と密という兄弟が住んでいました。
両親は早くに亡くなり、2人で力を合わせて、田を耕し、衣を織り、ときには
カサはりをして、日々の暮らしを営んでおりました。
 ある年、日照続きで農作物は不作、2人の兄弟の明日の食べるものもなくなってしまった日が
きました。
「仕方ない…、都筑兄さん、牛を市場に売りに行ってそれで、何か食べ物を買おう」
「そうだな、仕方ないな密…。我が愛牛、近衛牛を売るのも悲しいが…、
このままでは、俺達が死んでしまう」
 都筑は、町の市場に近衛牛を売りに行きました。
 途中、眼鏡をかけて白衣をきた亘理という男が、豆で、おはじきをしていました。
赤や黄色や緑…その他にも様々な美しい色のついた豆です。
 都筑は、その豆が欲しくて欲しくてどうしようもありませんでした。
「兄さん、兄さん、その豆ゆずってくれないか?」
「ダメだね。この豆は私が日々、研究を重ねて作った魔法の豆だ。タダでなんて譲れないね」
 都筑は、落ち込みました。余分なお金など持っていません。
「じゃあ、この近衛牛と交換してくれないか?」
「うーん、近衛牛か…、まあ、いいだろう」
 都筑は、近衛牛と魔法の豆を交換してもらいました。

「てめえ! ふざけるのもいいかげんにしやがれ! なんだってこんな豆と近衛牛を
交換してきたんだよ!」
 密が怒るのも無理もありません。明日の食べ物がなくって、仕方なく近衛牛を売りに出したのですから…。
「こんなもの!」
 密は、都筑から豆を奪い取り、窓の外に投げました。
「ああー! 俺のキレイな豆がー!」
 その夜、都筑は密にボコボコにされました。

 次の朝、窓の外を見てみると……。
 なんと、昨日投げた豆が芽を出し、天高く伸びているではありませんか!
「どうだ!密! すごいだろう。俺はこれからこの豆の木に登って宝物を取ってくる」
 都筑はそう言い、豆の木を登り始めました。
 豆の木は雲の上まで伸びており、下を見下ろすと、緑の大地が小さく小さく見えていました。
やっとのこと、豆の木の途切れるところまで来ました。すると、雲の上に浮かぶ大きなお城がありました。
(こんなところにお城が…)
 都筑は、お城の門を叩きました。
「なんだい?誰だい?」
 中から、眼鏡をかけた男が出てきました。男の名前は巽。肩幅の広い体によく似合った
スーツを着ており、眼鏡の奥の切れ長の瞳は、まっすぐ都筑のことを見つめていました。
「あ…えっと…、お腹が空き過ぎて死んでしまいそうです。どうかご飯を分けてください」
 都筑は捨てられた子犬のような、かわいらしい声をだして巽にすがりました。
「それはそれは、かわいそうに…。中にお入り、でも旦那が帰ってきたらすぐに
出て行くんだよ。あの人は、お前のような、かよわい男が大好きだからね」
 巽は、腕を振るった料理をご馳走しました。
『ズーン、ズーン』
 大きな足音がしまいした。
「いけない!旦那が…、邑輝が帰ってきた。はやく隠れて!」
 巽はとっさに都筑を茶だんすの中に隠しました。
「うーん、人間の匂いがするぞー。それも私好みのいたいけな男の匂いだー。
男はどこだー」
「あらあら、人間なんていませんよ。昨日食べた、ワトソンさんの残り香じゃありません?」
「そうかー、おい!巽、魔法の鶏を持って来いー」
 はいはい、と言いながら、巽は邑輝鬼の言うとおりに鶏を持ってきました。
「魔法の鶏よ。金のたまごを産め!」
 邑輝がそう命令すると、ポンポンと金の卵を産みました。
(おお!これはすごい!!!)
 茶だんすの隙間から覗いていた都筑は驚きました。
 邑輝鬼が、スースー寝息を立てて居眠りしたのを見計らって、都筑は金の卵を生む魔法の鶏を
密の待つ、下界に持って帰りました。
 都筑と密の暮らしは、魔法の鶏のおかげで豊かになりました。
「もう一度、天空のお城に行って、宝物を取ってくる」
 都筑は密が止めるのも聞かないで、再び豆の木を登り始めました。
天空のお城に付くと、巽にとりいって、城の中に入れてもらいました。
 都筑はまたもや、宝物を見つけました。今度は、何にでも変身できるひみつのあっこちゃんの魔法のコンパクトです。
 こっそり、コンパクトを盗もうとすると…、
「待て!そこのおいしそうな人間!私が食ってやる!」
 邑輝鬼に見つかってしまったのです。都筑はコンパクトを持って逃げ出し、
豆の木を下ろうとしました。巽が心配そうな顔で、見ています。
「都筑さん、おいしく私が料理してあげますから、お待ちなさいー」
 不気味な声で、邑輝鬼は向かってきます。
「ひいいいい、助けてー」
 都筑は必死で逃げました。
「待ちなさい!」
 凛々しい声が豆の木の伸びる空に響き渡りました。
「巽ィー助けてくれるんだね」
 都筑はホッとしまいした。
「待ちなさい!邑輝鬼!都筑さんは私のものです」
 何と巽は都筑を助けるどころか、邑輝より先に食べようとしたのです。
「なんだと!都筑さんは私がもらうのだ!巽さんは下がっていなさい」
「いえ、都筑さんは、私が腕によりをかけて料理します。邑輝鬼こそ、お下がりなさい」
 2人の都筑の奪い合いは収まりそうにありません。
「ひいいいいい、巽までー」
 都筑はショックで、盗んだ魔法のコンパクトを落としてしまいました。
 それから都筑は…
 かわいそうに…2人の鬼に捕まってしまったようです。

 そのころ地上の密には…
『コン!』
 空か、ら落ちてきたひみつのあっこちゃんの魔法のコンパクトが、密の頭に当たったようです。

♪おわり