夢の雫、薔薇色の烏龍
(ゆめのしずく、ばらいろのウーロン)


2016年9月号サイドパロ

【あらすじ】

 エジプト総督アフメトが起こした反乱はイブラヒムにより鎮圧されました。
反逆者アフメトはモスクに追い詰められ、その後斬首。アフメトの首はイスタンブルのスレイマンの元へ送られます。
 イブラヒムの元へハディージェから書簡が届きます。
ヒュッレムの懐妊を知らせる書簡で、イブラヒムは今度こそ間違いなくスレイマンの子であると確信しました。
 イスタンブルにいるヒュッレムはギュルバハルの息子、ムスタファとも仲良くしていました。
ヒュッレムはムスタファを「おもしろい方」と言います。その理由は、ムスタファを図書館へ一緒に連れて行った時、
開口一番に「ヒュッレム様はわたしを殺すおつもりですか?」とたずねてきたからです。
幼いながらも後宮での自分の立場をわかっていたのです。


【サイドパロ】

 ラムセスにもヒュッレムが第二子を妊娠したという報が届いた。
イブラヒムはエジプトにいるのだから、今度こそ間違いなくスレイマン陛下の御子である。
それと同時に、ヒュッレムとムスタファ殿下が仲良くしているという便りも耳に入った。一緒に図書館へ行っているらしい。
ヒュッレムはムスタファ殿下に手をかけることはないようである。
 ラムセスはふと、ムスタファに剣の稽古をしていた時のことを思い出した。
 剣の稽古の合間に休憩をしていた時のことだ。

***

「殿下、剣の腕を上げるのも重要ですが、それと同時に様々な知識も増やしていかなければいけません」
「ちしき?」
 ムスタファは首をかしげる。
「はい、殿下はいずれオスマン帝国を治めるお方。国は剣の腕前……武力だけでは成り立ちません。
民や兵をどうやって治めていくか。暮らしてゆくか。他国に攻められないためにはどうしたらよいか。
殿下はこれからたくさんのことを学ばなければならないのです」
 幼い殿下には少し難しいかな? とラムセスは思いながら話し続ける。
「学ぶ? 勉強するってこと? 勉強ならお母さまの言いつけでしてるよ」
「もちろん。殿下は勉強なさっていると思います。ですが、できるだけ沢山の知識を身につけることです。
ギュルバハルさまのお言いつけの範囲だけでなく、地理も歴史も数学も様々な事を学ぶのです」
「歴史も数学も……そんなに勉強しないといけないの? どうしてそんなに勉強しないといけないの?
お母さまの言いつけの範囲だけではだめなの?」
 ムスタファはラムセスのオッドアイをまっすぐに見つめる。
 どうしてたくさん勉強しなければいけないかの問いにラムセスは少し考える。
「この国は……いえ、国と言うものは武力だけでは成り立ちません。国を維持するために
様々な勉学を積んだものが集まり、考えて造られたものなのです。知識が豊富で頭の良い高官たちと
対等に話が出来なければなりません。そうしないと騙されてしまうかもしれないからです。
今の殿下にとって無駄になる勉強はないと思われます」
「無題なる勉強はない……じゃあ女の人がやるお料理やお裁縫も?」
「うーん、そうですね。料理は……どんな食材をどのように調理しているかが分かれば
もし毒が盛られるようなことがあってもわかるかもしれませんね。それに毒となる植物もあれば
薬となる植物もある。そういう植物について学ぶのも殿下の身を守る為になるかもしれませんよ」
「なるほど、ラムセスはすごいね」
 ムスタファは感心したように頷く。かなり苦しい答えだったが、納得してくれたようだ。
「でもラムセス。僕はお母さまの言いつけ以外の勉強はできないんだ。
だから色々な事を学ぶのは無理かもしれない……」
 ムスタファは落ち込む。ギュルハバルの厳しい目があるため、勝手な勉強はできないらしい。
「うーん、それならお母さまにたくさん本を読みたいとお願いしてはどうでしょう? 
宮殿には大きな図書館があります。そこにはたくさんの本がありますよ。色々な種類の本を読むだけでも勉強になるはずです」
「ラムセスは図書館に行ったことあるの?」
「ええ、そこでヒュッレム様にもお会いしましたよ」
 ラムセスはヒュッレムに図書館で会った時のことを思い出す。サハルと会ったのも図書館が初めてだったなと思った。
「ヒュッレム様……」
 ムスタファは小さな声で呟く。
「機会があったら、スレイマン陛下に……お父様に図書館へ行ってみたいと頼んでみては?」
「うん、そうだね」
 ムスタファは笑顔で頷いた。

***
 ムスタファ殿下はヒュッレムに図書館へ連れてもらったという。たくさんの本を読むようにという
ラムセスの言葉を信じてくれたのだ。こんな遠く離れたエジプトの地で、その頼りを聞くことができて嬉しかった。
 イブラヒムやヒュッレムにとっては敵かもしれないムスタファ殿下だが、少しでも長く幸せになってほしい。
そう願うラムセスであった。

♪おわり


【感想】

 おお! ムスタファ殿下。これから活躍してくれそう。ラムセスと絡ませておいてよかった(笑)。
主要キャラが固まってきて面白くなりそうですね。次号の展開が楽しみです!






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