***耐えられなくなったユーリ***

 

「もういや…、やっぱり、私にこの世界は…、この世界は耐えられない!」
 14巻で、カイルと一緒にこの世界で生きていくことを誓ったはずのユーリ。
だが彼女は…、何故か突然、元の世界に戻りたくなってしまったのだ。
「コーラが飲みたい! マックのテリヤキバーガーが食べたい! チョコレートパフェが
食べたい! プレステ2がやりたいわーっ!(あったか? ユーリがいたとき?)」
 一時的なホームシックか? それとも単なる気まぐれか? ユーリはもうすぐ21世紀を向かえる
という20世紀に、戻ることを心に決めた。カイルにも…誰にも内緒で…。
 元の世界にもどる3つの条件。そんなものが揃ってなくても、ドラエもんのタイムマシーンが
あれば簡単に20世紀に戻ることができる。実は、王宮のガラクタ置き場にタイムマシーンが
眠っているのを、以前ユーリは見つけていたのである。
「誰にも見られぬように…。抜き足、差し足、忍び足。
カイルに…ラムセスに…ハディに見つかりませんように…」
 ユーリはタイムマシーンの入ってる? のび太君の勉強机の前まで来た。引き出しを開くと
そこはもう、未来の世界へ繋がる時空間の世界。引き出しに脚をかけて、タイムマシーンに
乗り込んだ!
「さあ! 目指すは、20世紀の現代よー。コーラを1リットル一気飲みしてくるわっ!」

***
 光りのように過ぎ行く時空間を旅して、ユーリは20世紀の現代へ辿り着いた。
出口は同じく、勉強机の引出し。ユーリ自身の勉強机の引出しである。
「さあ! ついたっ! 久しぶりの我が家…。わたしの部屋! 嬉しいわ!現代の匂いがする〜」
 古代のほうが20世紀の大気汚染された空気よりもずっと綺麗だと思うが、
久々の我が家の匂いにユーリは感動した。15年間ずっと白沼にかいできた匂いが
こんなにも懐かしいものだと思いもしなかった。
「やっぱり我が家はいいわぁ〜。落ち着く〜」
 すると…、ユーリの背後からにゅっと白い手が…。その手はユーリの肩を、ガッ! とつかんだ!
「きゃああああ」
 後ろを向くと、勉強机の引出しから手が飛び出ていたのだった。ユーリは驚いて手を振り払い、後ずさった。
「ゆ〜りィ〜。私を置いて行くなぁ〜」
 カイルがまるで、幽霊のようにニュッと机から手を出し、ユーリのことを引き止めていた。
どうやら、ユーリが現代に戻ろうとしているのを見つけて、一緒にタイムマシーンにひっついて来たようだ。
「戻るぞ〜。ヒッタイトにィ〜」
 カイルはまるでオバケのように、ものを言った。いつもより表情が暗かった。
もともと古代の人間なので、現代の空気は合わないらしく、生気を失っているらしい。
「お願い! カイル! 私、どうしてもコーラが飲みたいの!」
 そう言ってユーリは、勢いよくガンっ! と机の引出しを閉めた。
「痛い!」
 引き出しの中からカイルの叫び声が聞こえた。
よく見ると引き出しにはカイルの指が挟まっていた…。
 すると次に、押し入れの襖がガラっと急に開いた。
「ユーリ、ムルシリとなんかより、俺と一緒にエジプトに帰ろうぜ!」
 全く生気を失っていない古代人…褐色の肌がまぶしいラムセスが元気にユーリに言った。
「いやああああ。こんなところまでついてこないでぇ〜」
 ユーリは部屋から逃げようとした。
 するとまた…、
「ユーリ様、あなたはヒッタイト帝国にとって大変、大切なお方。すぐにヒッタイトにお戻り下さい」
 部屋の土間にかけてある「温故知新」と書かれている掛け軸の後ろから、
(何故、掛け軸が…それも温故知新…)ハディがくの一の格好をして出てきた。
「ユーリ様。あなたなしでは生きて行けません。どうかお戻りを…」
 次は、部屋の天井にかけてあるシャンデリアのところにいたルサファがユーリに向かって言った。
(何故ユーリの部屋にシャンデリアが…。掛け軸と合わないぞ…)
「いっ、やあああああ! 一体何なのーっ!」
 ユーリはビックリして、部屋の外に出た。1階の居間に行こうと、
階段を駆け下りようとしたその瞬間…、ルサファのシャンデリアと同じように、頭上から声がした。
「ユーリさまぁ〜。戻ってくださーィ!」
 階段の裸電球の代わりにミッタンナムワの頭が、ぶら下がっていた。
「ひいいいいい。こわいー」
 ユーリは階段を踏み外し、すごいスピードで階段を落ちて行った。
 ボロボロな姿で、みんながいるはずの居間にいくと…。
 キックリが、新聞を読みながらタバコを吸っており、リュイがエプロンをかけて
テーブルを拭いていた、二人は声を揃えて…、
「ユーリ様。一緒に帰りましょう!」
 なんとキックリとリュイはあつかましくも鈴木家で新婚生活を営んでいたのであった。
「な、なんで! あなたたちまでここにいるのよー」
 今度は台所に逃げた。少し落ち着くためにコップに水を汲み、それを飲もうとしたとき…。
 コップの中のグラスがユラっと揺れ、水の中からたちまちナキアのろくろ首がニョキニョキと出てきた。
「お前は私の生贄じゃ〜。さっさとヒッタイトへ帰るぞー!」
「きゃああああああ!」
 ろくろ首ナキアを見た瞬間…さすがのユーリも気絶してしまった…。

***
(私はただ…コーラが飲みたかっただけなのに…。何故こんな目に…)
 ユーリは気絶している間、うなされた。パチっと目を開けると…
 カイル、ラムセス、ハディ、リュイ、シャラ、キックリ、ミッタンナムワ、カッシュ、ルサファ、
イル=バーニ、ナキア、ウルヒの12人の顔がユーリの目の前にあった。
「きやあああああ」
「大丈夫か? ユーリ。階段から落ちて、どこも打たなかったか?」
 カイルが心配そうにユーリに聞いた。ユーリは王宮の階段から足を滑らせて落ちたようだ。
 20世紀に帰ったことは、階段から落ちて気を失っている間に見た夢らしい。
「う…、うん。大丈夫……」
 ユーリは、口が裂けても20世紀に帰る夢を見た…。とは言えなかった。
言ったら正夢になりそうだからだ!

♪おわり