海の闇、天の影?

 ラムセスは困っていた。
「どっかにユーリみたいな女いねーかなぁ〜」
 ラムセスはヒッタイトの方角の空に向かってため息をついた。
権力に溺れず、ユーリと同等の器量をもった王にふさわしい女性は、
エジプト・ヒッタイトを探してもなかなかみつからなかったのである。
「ユーリは異民族だよなぁ〜。黒い髪に象牙色の肌。ユーリの国の女なら
正妃にふさわしい女がいるかもしれない」
「ラムセス、そういうことなら協力しようじゃないか!」
 蜂蜜色の背中から元恋敵の声が聞こえた。振り向くとヒッタイト帝国の皇帝と
その妃の姿があった。
「ムリシリにユーリじゃないか。なんでお前らこんな所にいるんだ?」
「まあ、細かいことは気にするな。話が進まん。ユーリの里帰りのためにヒッタイトでは
極秘にタイムマシンを作らせたんだ。ついでにラムセスの正妃探しの旅に出るというのはどうだ?」
「ほんとか! ムルシリ!」
「そうそう。ラムセスがご正妃迎えてくれれば、迷惑メールならぬ迷惑書簡にハディが
頭を悩ますこともなくなるしね」
 ユーリが微笑んだ。
「そりゃあ、いい! 早速ユーリの国に行こうじゃないか!」
「通訳は私に任せてね!」
 ユーリがウインクした。
 ラムセスとヒッタイト皇帝夫妻はタイムマシンに乗り込んだ。


***

「克之さんはあたしのものよ!」
「もう、流水やめて!」
「流風あんたなんか殺してやる!」
「やめるんだ流水!」
「放して、克之さん!」
 現代では双子と克之の激しいバトルが繰り広げられていた。
「どぉも〜お取り込み中失礼します!」
 ユーリが三人の中に割って入っていった。
「何?」
「何なのあんた?」
 双子が目を丸くする。
「あら、美人な双子さんたち! ねえ、ラムセス彼女たちなんてどう?
器量良しさんだし聡明そうな顔つきしてるし、なかなかいいんじゃない?」
 すっかりユーリはお見合いおばさんの気分である。
「ふむふむ、なかなかだな」
 ラムセスが頷く。
「リュイとシャラに負けないくらい二人ともそっくりだな」
 カイルが双子の顔をマジマジと見る。
「ちょっと君たち、何なんですか?」
 克之が奇妙な格好をした三人に向かって質問した。
「どうも、紹介が遅れまして。私は鈴木夕梨と申します。実は蜂蜜色の肌をした彼の
お嫁さんを探しているんです」
「はぁ?」
 現代組三人は理解の出来ない声をあげる。
「二人ともかわいいなぁ。よーし二人とも嫁さんにしちゃおうかなっ♪」
 ラムセスは双子の肩を抱いた」
「ちょっとアンタなにすんのよ!」
 ザシュッ!
 ラムセスの胸が流水に貫かれた。
「きゃあああ、やめて! 流水!!!……と、あれ?」
 蜂蜜色の貫かれた胸からは1滴の血も出ていない。もちろんラムセスの顔色も
全く変わってなかった。
「何で? あなたも物体が通り抜けられるの?」
 流風が震えた声でいう。
「もしかして…新たな能力者じゃないのか?」
 克之が流風をがばいながら言った。
「あー多分ですねぇ、今は想像で考えるしかないのですが、彼らは古代人なんで……。
現代ではもう死んでいることになってるから死なないんだと思います」
 ユーリが通訳した。
「こいつら何言ってるんだ? なんか困ってないか?」
 ラムセスがユーリにたずねた。
「私がいちいち通訳するのもめんどくさいね。あっ! いいこと思いついた。
ここはカイル協力してもらおう。私だってカイルのおかげで古代の言葉がわかるようになったんだし。
カイル、魔力キッスして。そうすればコミュニケーションが楽にとれるじゃない!」
「う〜ん、仕方ない。魔力を使うか……。男にキスするのはあまり気が進まないがな……」
 といいつつ、カイルは一番最初に克之の唇を奪った。次に流水、その次に流風。
「おーこれで言葉が通じるな」
 ラムセスは満足そうに笑った。
 次の瞬間、カイルが突然倒れた。そして皮膚の色がマリンブルーに変わっていったのである。
 海闇をよくご存知の方ならすぐにわかるであろう。カイルはキスをする順番を間違えたのである。
流水のウイルスに感染してしまったのである。
「おりょ? ムリシリ寝ちまったぞ。まあいいか。おい、二人のどちらか俺の正妃になる気はないか?」
 ラムセスは交渉しはじめた。
「はあ? 何言ってるの? 第一アンタ誰なのよ」
 流水が腕を組んで不機嫌そうにいった。
「こちらは古代エジプトのラムセス将軍です。今は将軍だけどいずれファラオになる方です」
 ユーリがラムセスを紹介した。
 そこで目を丸くしたのは克之だった。
「ラムセスって……アブシンベル神殿をはじめ数々のエジプトの遺跡を建築した偉大なる王ラムセスか?
おお! これはこれはラムセス様〜」
 克之は突然ラムセスの前にひれ伏して頭を下げた。
(う〜ん、彼はラムセス1世で建築したのは2世なんだけどそれを言うと話がまとまらないから
黙っておこう)
「そうです。彼はのちにファラオラムセスとなる方です」
 ユーリは丁重にラムセスを紹介した。
「おい、流風。ラムセスさまの嫁になれ!ファラオの妃だぞ!」
 実は克之。かなりの歴史オタク。大王ラムセスを前に理性がぶっとんでいた。
「な、何言ってるの克之……」
「はははっ! どっちかじゃなくて二人一緒でもいいぞぉ〜。王の女にしてやるからな」
 ラムセスは上機嫌であった。
「お、ここだここだ。カイルさま、ユーリさま、ラムセス将軍。やっと追いつきました。
たった三人での行動なんて危ないですよ」
 キックリが現れた。カイルの側近たちが彼らを追って現代に到着したのである。
「ここはどこじゃ? 奇妙な所じゃのう〜」
 扇を持ったナキアもどさくさまぎれにタイムマシンに乗り込んでいた。
「ナキアさま、足元にお気をつけくださいね」
 ナキアが地獄から呼び寄せたウルヒも同行していた。
 次の瞬間――
 ウルヒを見た現代3人組の表情が強張った。
「ジーン! あんた死んだんじゃなかったの!?」
「ジョンソンさん! なんで……」
「ジーン・ジョンソン! お前死んでなかったのか!」
 流水、流風、克之が動揺してウルヒに言った。
「はあ? 私はそのような名前の者ではありません。これを見ればわかるでしょう!!!」
 ウルヒは来ているマントを自ら剥いだ。
「私はこのとおり宦官ですから。ジーン・ジョンソンという者ではありません!」
「きゃああああ! 変態!!!」
 双子たちが悲鳴をあげた。
「ウルヒ……、自分を証明するのにわざわざ見せなくていいからね……」
 ユーリはウルヒのブツをマントで隠した。
「それより陛下は何でこんなところで寝てらっしゃるんですか?
なんだかお顔の色もちょっと青いような……」
 マリンブルーの色から元の色の皮膚に戻りつつあるカイルを見て忠臣のキックリが言った。
「陛下? 陛下っていうとこのぶっ倒れてる男も王なの?」
 流水が質問した。
「こちらはヒッタイト帝国皇帝のムリシリ二世陛下でございます」
「へえ〜」
 流水はカイルをじっと見つめた。
 むくり。カイルが起き上がった。肌の色もすっかり元通りになって意識を取り戻したのである。
「ねえ、あんた皇帝なんでしょ?」
「はい、流水さん」
 ガラス玉のような目をしたカイルがまっすぐ流水をみて言う。
「あたしさ、あんた結構好みなのよね。そっちの色黒男は流風にくれてやるから、
あたしを正妃にしてよ」
「はい、流水さん。あなたを正妃にします」
 流水のウイルスに感染したカイルはすべて彼女の言うなりであった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! どういうこと! 正妃は、タワナアンナは私。やっとなったのに……」
 ユーリが焦って二人の間に割って入った。
「ユーリ、お前はここに残れ。今日からは流水を我が国のタワナアンナとする」
「えええええ!?」
 ユーリはあまりの展開に呆然とする。
「じゃあ俺は流風をもらおうかな。さ、行こうか!」
 ラムセスは流風の肩を抱いてタイムマシンに乗った。
「流風! しっかりラムセスさまの正妃のお役目果たすんだぞ!」
 歴史オタクの克之が見送りの言葉をかける。
「ほほほっ! 面白い展開になってきたのう。やはり長生きはするものじゃ」
 ナキアが嬉しそうに笑った。


♪おわり




***
我ながら……アホな展開だ。
そんなことあるわけないだろ! とつっこみどころ満載ですみません。
まあ、一番あるわけないのはこのHPだと思うのでどうかご勘弁を。
ウルヒのマントを取るシーンを思いついたとき、顔がニヤケてしまうのを
こらえるのに必死でした。仕事中に思いついたもので……(笑)。

【BACK】

【TOP】