ツリーを飾ろう!




 明日はクリスマス。紀元前だが、ヒッタイト王宮でもツリーを飾って
クリスマスのお祝いをすることになっていた。
 王宮の広間の吹きぬけには、森の中から切り倒してきた大きなモミの木が空高く
そびえていた。
「うわぁ、大きなモミの木! これに飾り付けをすればバッチリね」
 自分の背の何十倍も高いモミの木のてっぺんを見つめてユーリは言った。
「さあ、飾り付けをして楽しいクリスマスにしましょう!」
 ハディがはりきってみんなに声をかける。
「がんばるぞー!」
 巨大な木を前にして、側近達の心はひとつになった。
「輪飾りを作りましょう! 折り紙を八分の一の短冊きりにして、チョキチョキチョキ。
それを輪っかにして交互に糊付けすればできあがり」
 小学校の図画工作のように、ユーリはルサファと一緒にカラフルな輪飾りを作った。
 できあがった輪飾りをビヨーンと伸ばして、まあきれい!
「クリスマスにはご馳走がなくっちゃね。七面鳥の丸焼きにケーキにシャンパン。
本物は明日作るとして、ツリーにはケーキや七面鳥のアップリケを作りましょう!」
 ハディは双子達と一緒に、針と糸を使ってチクチクチク。柔らかいフェルトを縫って
かわいらしいケーキのアップリケを作っていた。
「ケーキと七面鳥ができたわ。あっ、ミッタンだめよ。せっかく作った飾りを
食べちゃ!」
 お腹の空いたミッタンはフェルトでできたケーキや七面鳥を口にくわえていた。
「まったくもう!」
 ’ゴン’とミッタンのスキンヘッドにハディはゲンコツをお見舞いした。
「わーん、お腹空いたよー」
 ミッタンはシクシクと大きなツリーを前にして泣いた。
「金や銀もモールを飾りましょう! キラキラ輝くながーいながーいモールです。
それカッシュ! そちらの端を持って!」
 キックリがカッシュと協力してツーリにモールを巻きつけていた。
深緑色のモミの木は、黄金や銀の光を放つモミの木になった。
「そうそう、靴下も飾らなくっちゃね! サンタさんにいっぱいプレゼント
入れてもらわなきゃ!」
 ユーリは自分の靴下をツリーにぶら下げた。
「うーん、私の小さな足の靴下じゃ、あんまりプレゼントはいらないなぁ」
 22cmの小さなユーリの足の靴下はかわいらしいものであった。
「ユーリ、私の靴下を貸してやろう! 私のなら大きいぞ!」
 逞しい体のヒッタイト皇帝は、ユーリに自分の靴下を渡した。
「本当だ! カイルの靴下大きい!」
 黒い瞳を大きくして喜んだ。だが、次の瞬間、黒い瞳の間にしわがより、
目を細くした。
「大きいけど……、この靴下クサイ! カイル足くさーい!」
「そうそう、カイル様は水虫もおありなんですわ! そんな靴下にプレゼントいれてもらったら
水虫がうつってしまいますわよ!」
 ハディが思い出したように言う。
「えっ、水虫? いらない!」
 ユーリは臭う靴下をカイルに投げつけた。
「そんな……」
 カイルの青い瞳はブルーであった。

「クリスマスにも薔薇だ! 薔薇がばくては華やかさに欠ける!」
 エジプトの薔薇将軍ラムセスも何故かモミの木の前にいた。
赤や黄色やピンクの花紙で、やわらかな薔薇の花を作っていたのだ。
「クリスマスはやっぱりホワイトクリスマスだよな。白いテッシュで花を作れば
ほーら、白薔薇のできあがり!」
 ラムセスは鼻紙用のテッシュを5枚重ねて、細く短冊に折って、真中を輪ゴムで止めて、
一枚づつきれいに花びらを開いた。
「クリスマスツリーに薔薇! 似合うぜ!」
 ラムセスは一人自己満足に浸っていた。
「ホワイトクリスマスなら私にまかせなさい。故郷のアラスカから雪をドーンと持ってまいりました」
 ウルヒはトラックの運ちゃんとなってドーンと雪を運んできたのだ。
いつも下ろしている金髪を輪ゴムで束ね、薄汚れた作業着を着ていた、顔には泥が
ついている。現場工事でよごれた4トントラックのにーちゃんを想像してもらおう。
「わー、ウルヒありがとー。これで本当にホワイトクリスマスね。
アラスカの白クマさんによろしくね」
 ユーリは喜んで言った。
 飾りつけもほぼ終わった。
 ヒッタイトの森の奥に生えていた1本のモミの木は、王宮にて、きらびやかなクリスマスツリーに
変身した。
「よし、飾り付けが終わったな、これで明日はよいクリスマスを迎えられそうだな」
 カイルが満足そうに言う。
「ちょっと待って、カイル。まだ終わってないよ。ツリーのてっぺんにつける
大きな☆がまだなの」
「☆か……。やはりてっぺんに☆がないとなぁ」
 カイルはツリーを見上げて、どこかで☆が手に入らないものかと考えた。
「あっ、いいこと思いついた!」
 ユーリは手をポンッと叩いて副近衛隊長の側によってコソコソと耳打した。
 ユーリとルサファが内緒話をしているのを見て、カイルは少しむっとする。
 ルサファはコクンと頷くと、ユーリがラムセスの方に歩いて行った。
「ねえ、ラムセス。せっかくエジプトから薔薇の飾りつけに来てくれたんだから、
一緒にクリスマスのお祝いしない? ヒッタイトーエジプトの友好のためにも仲良くしましょうよ!」
「そうかぁ?」
 やさしい言葉をかけられたラムセスはウハウハであった。
「うん。そうしましょ!」
 ユーリはギュットラムセスの右腕を握り抱きついた。それを見たカイルは切れる寸前であった。
 そこへ……
『ガツン』
 ラムセスの後頭部に鉄でできたハンマーが飛んできた。
ルサファがラムセスの死角から、ハンマーでおもいっきり殴ったのである。
「ハラヒレホレ〜。お星様がキラキラ〜(☆。☆)」
 ラムセスは頭を強打されたため、気を失ってしまった。
「今よっ!」
 ユーリは虫取りに使う網を持って、ラムセスを強打したときに出た、大きな☆を捕まえた。
「やった、大きな☆をGET!」
「やりましたね! ユーリさまっ!」
 ハンマーで殴ったルサファがガッツポーズをとった。
 ユーリとルサファが相談していたのは、このことだったのだ。ラムセスの頭を殴ることによって
出た星を、クリスマスのツリーのてっぺんに飾ろうとルサファに耳打していたのである。
ユーリがラムセスに抱きついたのは、ルサファが狙いやすくするようにさせるためだったのである。
「でかしたぞユーリ! ツリーの☆も手に入れられたし、邪魔者も片付いた。
さすがは私の見据えた女だ!」
 ラムセスに抱きついたことはむっとしたカイルであったが、ユーリのお手柄?に
機嫌をよくしていた。
「これで楽しいクリスマスになるわね」
 伸びたラムセスをよそに、ユーリは嬉しそうに言った。今年もヒッタイト王宮には
平和なクリスマスが迎えられたようである(苦笑)。

♪おわり






靴下くさーい(笑)