***ラムセス先生の秘密***



 私はあることに気づいた。
 外科の名医、ラムセス先生。先生は仕事が終わってもすぐには帰らない。
必ずと言っていいほど、ある場所に行くのだ。
 行き先は、用がなければまず近づくことはない地下の解剖室。
 死因が不明だったり、珍しい病気で死亡した場合、解剖するための部屋だ。
 その解剖室に……、ラムセス先生は仕事が終わると毎日行くのだ。
(一体何の用なんだろう?)
 そう思い、何度か跡をつけたことがあった。しかし、解剖室の前まで来るとなんだか怖くなって、
いつもラムセス先生の跡をつけるのは止めていた。だけど、一体ラムセス先生は何をしているのか?
不思議で不思議でどうしようもなかった。
 今日は意を決して、とことんラムセス先生のあとをつけてやると心に決めた。

「お疲れ様でしたー」
 今日のオペも終わり、ラムセス先生は帰宅するようだ。
 ラムセス先生は、いつものように白衣のまま地下に降りて行く。
私も先生の跡を気づかれないようにそっと追った。
 解剖室の前まで来た。
 ゴクリ。唾をのんだ。
 ギギギギギ。ラムセス先生は重たい解剖室のドアを開け中に入っていった。
私も恐る恐る、ドアに近づき少しだけドアを開けて、隙間から中の様子を伺った。
 ―――ラムセス先生の姿はなかった!
 ビックリして、勢い良くドアを開けた。解剖室を見渡しても、姿はない。
狭くて見とおしのよい解剖室。何処かに隠れるなど絶対に無理だ。すると……、
 ―――カタン。
 足元で音がした。ここは地下だ。これより下には何もないはず……。
 床を見渡すと、部屋の片隅に薔薇の花びらが落ちていた。
 よく見ると、花びらが落ちていた付近の床が少し浮き上がっていることに気づいた。
 もしや! と思い浮き上がった床に手をかけ、試しに持ち上げてみた。
 ギギギギギギ。
 床が浮き上がった。下を見ると、階段があった。コンクリートでできた、年季の入った階段である。
(ラムセス先生はここから消えたんだわ)
 少し怖かったが、勇気を出して階段を降りてみた。結構長い階段だった。ずっと下に続いている。
 暗闇の中、私は階段を下りつづけた。しばらくすると、一筋の光が見えてきた。
 明かりが嬉しくって、私はスピードを上げて階段を降りた。
 ―――眩しくて目を瞑った。
 さっきまでの地下の階段とは大違い! 明るくて暖かな光りが私を照らした。
地下室なので太陽光が届くわけないが、春の暖かい太陽のように、
包み込んでくれるような優しい光りが私を取り囲んだ。
 辺りを見渡すと、赤やピンク、黄色や白など色とりどりの薔薇が咲いていた。目の前には
薔薇のアーチがあり、まっすぐ続くアーチの向こうには薄いピンク色の建物が見えた。
 とりあえず、私は薔薇のアーチをくぐりながらピンク色の建物に向かった。
 薔薇アーチが終わったところで、ピンク色の建物が目の前にあった。
 その建物は病院だった。『国立ROSE病院』と書いてある。ここまで来たのだから、中に入ってみた。
 病院の壁紙はすべて薄いピンクが下地の薔薇模様だった。あちこちに薔薇の花も飾ってあった。
「うわあ! すごーい…。キレイ」
 思わず私は声に出して言ってしまった。
「そうだろう。天子君。キレイだろう」
 私は降りかえった。
 ラムセス先生が立っていた。だがいつものラムセス先生とは違う、白衣は着ているけど
その白衣は薔薇模様だったのだ。
「ら、ラムセス先生…、ここは一体…」
 怖いような、不思議なような…どうしたらいいか私は分からなかった。
「見つかってしまったものは仕方ないな。ここはROSE病院。薔薇療法を中心に、ケアする秘密の病院だ。
もう一つの天河病院と言っても過言ではないだろう。ここでは、この薔薇模様の白衣を着用するんだ。
天子君。君も着たまえ!」
 薔薇模様の白衣を渡された。言われるがままに着てしまった。
「ここは、薔薇菌を使って心の病を治療するROSE病院。入院患者は、毎日薔薇に囲まれ、
薔薇療法を受けて幸せな生活を送っている。私は薔薇菌の研究を中心にここで仕事しているんだ。
さあ、研究室に案内しよう」
 ラムセス先生は私を病院の奥の部屋に連れて行った。
 部屋には2人の女性がいた。なにやら試験管を振って実験をしているようだ。
ネームプレートには「ねね」「まゆねこ」とかいてあった。
「天子君。是非私の助手になってくれないかね? あの2人じゃ、どうしようもないんだ…。
いつもパロディの相談ばっかりしてて……」
 ラムセス先生は、私の方にポンっと手を置いた。
 
 ラムセス先生の助手にスカウトされてしまった……。
喜んでいいのかどうなのか? 今の私にはまだ分からない……。

♪おわり

(な、なんだか変な怪しげな病院になってしまった…ROSE病院)

THANKS あゆさん