***ファーストキッス***


「おい! ユーリ!」
 カイルの声を背中にしたユーリは振り向いた。
「なあに?」
「お前のファーストキッスの相手は誰だ? この私か?」
「え゛っ…」
 急にとんでもないことを言い出すカイル。ユーリは一瞬、フリーズしてしまった。
再起動できるまでには、しばし時間がかかった。
「その表情! さては私じゃないな! 何処のどいつだドイツ人!」
 ユーリの唇に触れたものが自分だけじゃないと思うと、下らないダジャレも出てしまうほど
カイルは怒っていた。
「ドイツ人じゃないよ…。その…私の国の…、に、日本人…だよ…」
 カイルに悪いなと思うユーリ。声もだんだん小さくなってきている。
「日本人! さては、コミックス1巻の最初の方で言っていた。ヒムロとかいう奴だな!」
 カイルの声もだんだん大きくなる。
「ちょっと怒らないでよ。怒るくらいなら聞かないでよ。それに自分はどうなの?
自分だって、私の前にもいーっぱい恋人いたじゃない! カイルのファーストキッスは誰なの!」
 少ない過去を掘り返されたユーリも少々起こり気味である。
「ちょっと! 誰なのよ! セルト姫? ギュゼル姫?」
 ヒッタイト皇帝夫婦、離婚の危機か?(あっユーリはまだ愛人か…)
 珍しく喧嘩をしている。
「いや、違う。私のファーストキッスは……」




〜カイル回想シーン〜

 それはまだ、カイルが国立ヒッタイト小学校に入学して1年ほど経った頃のことだった。
カイル7歳、キックリ7歳、イル7歳。3人揃ってよく学び、よく遊んでいた頃の話である。
「ヤバイぞ! キックリ!」
「カイルさま。ヤバイなんて汚らしい言葉を、皇族の者が使ってはいけません。
ヒンティ様にまた怒られますよ」
「言葉なんてどうでもいいんだ。大変だキックリ。将来皇帝となろうと言うものが…
算数のテストで0点をとってしまった!」
 カイルの顔は真っ青であった。小さな顔のわりには大きめのカイルの青い瞳が動揺のあまり泳いでいる。
「0点!? 今日返してもらったあのテストですか? あのテストはそんなに難しくありませんでしたよ。
私だって80点なんですから…」
 キックリはランドセルの中から算数の答案用紙をとりだした。
「だから、困っているんだ。これじゃあ、母さまに怒られる! キックリ、どうにかならないか?」
 真剣な表情でキックリを見つめるカイル。いくらカイルに仕えていると言ってもこればっかりは
どうにもならない。
「どうにかと言っても…。こればっかりは…。もう終わってしまったことですし、素直にヒンティ様に
言うしかありませんよ。カイルさま」
「いやだ! 絶対に言うものか! だったらこうしてやる!」
 カイルはキックリの80点の答案用紙を奪い、自分の0点の答案と一緒に、桜の木の下に
穴を掘って埋めてしまった。
「さあ! これで答案はなくなった。母さまに怒られることはないぞ!」
 カイルは今までとは打って変わった、すがすがしい表情をしていた。
「何てことをするのです。カイルさま。こんなこと許されません。ヒンティ様にいいます!」
 真面目なキックリにとって、カイルの行動は信じられないものだった。
「なんだと、チクルだと! そうはさせないぞ! キックリ! こうしてやるー!」
 カイルはキックリの口をぶちゅ〜と自分の口でふさいだ。
「ふがふがふが」
 もがくキックリ。それをカイルは負けずと口で覆う。
「こうして口を封じてやる〜」
 カイルはキックリを抱きしめ、離さない。熱い口付けをなおも続けている。
「口封じだ! 母さまに言うんじゃないぞ! キックリ!」
「ぱれぴれぽれ〜〜〜〜」
 あまりのことにキックリの頭はグルグル回っていた…。


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「……こんなわけで…、私のファーストキッスの相手はキックリだ。なっ! キックリ!」
 キックリの方を向いてにこやかに言うカイル。
「いえ、あの、その……」
 もちろんキックリにとってもカイルがファーストキッスのお相手。動揺のあまり、いつもより瞳が大きく見開いている。
「カ、カイルとキックリって……」
 ユーリがあっけに取られたのは言うまでもない。
 ―――もうひとつ
 リュイの視線がカイルに突き刺さっていたことも忘れてはならない……。

♪おわり