***土用の丑の日***
BYたっしー


「もう土用の丑の日の頃だねー」
 突然ユーリが言った。
 また意味のわからないことだと、カイルは不安になった。
「それは一体どういうものだ?」
 カイルは不安を隠せぬまま尋ねた。
「えーっとねー。夏は暑くってばてちゃうから、ウナギを食べてスタミナをつけて
夏を乗り切ろうっていう日なの」
 カイルは少々ほっとした。このあいだのクリスマスと言うものよりは
まだよさそうだったからだ。
 そして穏やかに聞いた。
「ウナギってどんなものなんだ?」
 ユーリはちょっと困った。いつも蒲焼になった状態を見ているだけなので、
どんなものかうまくせつめいできない…。
「長くって、川をさかのぼってくる…、魚……」
 カイルは首を傾げた。だが、きっと……という期待を持ってある人物を呼んだ。
「おい、ミッタンナムワ! 今から歩兵部隊50名を引き連れて、赤い河に行き、
河を上ってくる長い魚を捕まえて来い!」
 ミッタンナムワは、ルサファよりもカッシュよりも、まず自分を選んでくれた陛下に
心から喜びだ。そして、歩兵隊を100名も連れて赤い河へと急いだ。
 ところが、この様子を見ていたものがいた。他ならぬウルヒである。
「うでっぷしと潜水にかけては私のほうが上だ! 皇太后陛下のおためにウナギとやらを
取り尽くしてやる!」
 こうしてウルヒも赤い河へと急いだ。

 赤い河についたミッタンナムワは、急ぎすぎて網も釣り道具も、持って帰るためのものも
ないことに気が付いた。どうすればよいのか考えたが、やっぱり潜るしかなかった。
 陛下とユーリさまのためを思えば、、とミッタンの心は熱く燃え、鼻息も荒かった。
 そして、総勢101名は潜り、悪戦苦闘しつつも計10ぴきの長い魚を捕まえた。
中には長さ4メートルもある大物もいた。ミッタンは大喜びでハットゥサへと急いだ。
 間に合わなかったウルヒは愕然とした。そして「このやろー!」とミッタンのお魚の中に
一匹の蛇を混ぜた。

「陛下! 取って参りました。」
 ミッタンはまさか蛇が混じっているとは思わずに取って来た魚を出した。
「ユーリ、ウナギとやらはどれか?」
 カイルはうれしそうに聞いた。
(……古代にはこんなに気味悪い魚ばかりいたのか……)
 とユーリは青ざめた。そして、一番ウナギらしく見えたのは、ウルヒの入れた蛇だった。
「これじゃない?」
 とユーリは言った。しかしミッタンはやばい!蛇だ!と気が付いた。
さっとユーリの指したものを隠したミッタンは、
「これは色艶が悪いので、他の魚になされませ」
 と言って、すっくと立ちあがり、いきなり走っていった。
 とめどなくあふれる涙は留まることがなく、陛下の御前に蛇を出しかけたという事実は
ミッタンに容赦なく襲いかかった。ミッタンは家に戻りベッドにうつぶせになって泣きじゃくった。
 さて、王宮では、
「わからないので全部焼いちゃいましょう」
 というハディにみんな動揺していた。
「早く焼かないと味が落ちますよー。」
 と張り切ったハディを止めることはできなかった。
「蒲焼だから…何枚かにおろして…タレをかけて焼いてねー」
 とユーリは投げやりに言って、ふとミッタンのことを思い出した。
「私ミッタンを探してくるー」
 と言ってユーリはカッシュと共に行った。
「あいつは悲しいときは、ベッドで泣きじゃくってますけどねー……」
 ということでまずミッタンの家に行った。
 ミッタンの部屋は確かにミッタンがいたという形跡が残っていた。
枕のあたりはびちょぬれで、ユーリとカッシュは顔を見合わせた。
「泣いてたんだねー。でもなんで??? 私なんか変な事でも言ったっけ?」
「ふられた女でも思い出したのでは?」
「えーでもアノ気味悪い長い魚見て……?」
「あいつはちょっと変わってますからね。」
「…………酒場にでも行ってみない?」
 酒場で、ユーリとカッシュは泥酔したミッタンを発見した。
「おい! ミッタンナムワ! なんでここにいるんだ?」
 カッシュはミッタンの様子にぶち切れた。
「俺は…陛下の……、御前に出した魚に…蛇を…蛇を入れてしまったんだ。陛下に頼まれて
とても嬉しくて頑張ったのに、まさか…こんなことをしてしまったなんて……」
 ミッタンは堰が切れたかのように泣いた。すこし間を置いてユーリは言った。
「ごめんね。私が急に言い出したことでこんなに傷つけちゃって。あんな長い魚取るのって
すごく大変だったでしょ。長い魚ばっかだったんだから、蛇が混ざってたって仕方ないし、
気が付いてなんでもないように取ったんだから、もう気にしなくていいよ。」
 ミッタンは感激した。そして、これまで以上に心から忠節を誓おうと決意した。
 かくしてユーリとカッシュは王宮へ戻った。
 王宮では、ハディの力作ができていた。普通のウナギとは違っていたが、
ミッタンナムワが頑張って取ってきてくれたことを思うと、それはとてもおいしかった。
みんな喜んで食べた。
「これでアナトリアの暑い夏を乗り切れるね」
 ユーリもみんなも本当に満足した。この幸せな日々が続くことを誰もが祈るのであった。

(終)


暑い夏 うなぎで繋がる 側近達 (字あまり BYねね)