***くりすます***


「カイル、明日はクリスマスね」
 ユーリが、笑顔で話しかけた。
「そ、そうだな」
(く、くりすますって何だ?)
 カイルは、あいずちを打ちながらも、『くりすます』という言葉を知らなかった。
 それもそのはず。只今、紀元前十三世紀。西暦元年に産まれたキリストの
誕生日を祝う週間なんて、あるわけがない。
「楽しみにしてるからねー」
 ユーリは、そう言いカイルを残して行ってしまった。
(……どうしよう、くりすますとは何だ? 今更、ユーリに聞くわけにもいかないし…)
 カイルはとりあえず、自分の次にユーリのことを良く知っていると思われる
ハディにくりすますとは何か? と尋ねた。
 ハディも、眉をしかめ、困った顔をした。
 知力では負けない、イルにも聞いたが、そのまま固まってしまった。
(…くりすますって奴は、どうやらユーリの世界のものかもしれないな)
 カイルはそう、理解した。
 では? どうすればいいのか? 頭のいいカイル陛下は、すぐに良い方法を
思いついた。そうである。ユーリの世界の人間に聞けば言いのである。
「確か、ユーリがこっちに来たばっかりのとき、『ヒムロ』とかいう名前を
言っていたよな。そいつに聞きに行こう」
 カイルは王宮付き、ドラえもんを呼び寄せ、タイムマシーンで、二十世紀日本に行った。

 ところ変って、こちらは現代日本。デートの最中、突然いなくなったユーリを
氷室君は探していた。ユーリにトンずらされた氷室君は、かなりご立腹の様子。
「まったく…、ユーリの奴。マックかモスかどっちか決めてから、いなくなれよな」
 戻ってくる気配はないと思い、氷室君は、冬の寒さも身いしみて、
家に帰ろうと思った。と…そのとき…。
 公園の噴水が突然、大きく湧き上がった。
「な、なんだ? どうしたんだ?」
 驚く氷室君。だが次の瞬間、もっと驚いた。噴水の中から、走れメロスのような
格好をした男がでてきたのである。…この真冬の噴水から…。
「な、なんだ! お前は!」
 氷室が驚くのもそっちのけで、カイルは早速、本題に入った。
「おい、そこの平民。2,3聞きたいことがある」
 いつもの、偉そうな口調で、カイルは言った。女性好きのカイル君。
どうやら男性には、あまり優しくないようである。…いや、それとも本能的に氷室が
ライバルだと察したのだろうか?
「率直に聞こう、くりすますとはなんだ?」
 大パニック中の氷室君に、更にパニックを大きくさせる質問が下った。
「は?………」
 茫然自失。このくそ寒いのに、うっすら氷の張る噴水から、走れメロスの
コスプレをした人間が出てきたというだけでも驚きなのに、バガげた質問まで…。
(これは、危ない! はやく、こいつから逃げなくては!)
 氷室は、後ずさりをして、逃げの体制に入った。
「まて、お主はまだ質問に答えていない。皇族に背く者は極刑だ!」
 ますます、アヤシイ。氷室はさっさと、質問に答えてその場を去ろうと思った。
「なんだよ。クリスマスもしらないのか? クリスマスってやつはな。
ケーキとケンタッキーのパーティーバーレル食って、夜中にサンタさんが煙突から入ってきて
プレゼントをくれるんだよ」
「ほほう、ケーキにケンタッキーか。それはいいとして、『さんたさん』とはなんだ?」
「まったくしょうがねえなぁ。サンタさんってのはなぁ、真っ赤な帽子に真っ赤な服、
真っ白な髭をはやして、おおきなプレゼント袋もってるおっさんだよ」
「?????」
 ?マーク連続のカイル、言葉だけでは分からないようだ。
「仕方ねえなぁ」
 氷室は親切に鞄から、紙と筆記用具を出し、親切にも絵に描いて説明してあげた。
 ……が、その絵の幼稚なこと! 氷室君、キミは美術はあひるだね(笑)
「おお、良く分かったぞ! お礼に我が国の専売品、鉄くずをやろう」
 カイルは3kgほどある鉄くずを、氷室に渡し、もとの噴水へ帰って行った。
「な、なんだよ! このゴミ!」
 古代ヒッタイトでは稀だが、現代では鉄なんてありふれている。戦後の子供じゃないんだから
鉄くずなんて貰っても嬉しいわけがない。
「今のはなんだ…」
 ポツンと一人残された公園に、氷室の声は響いた。

 ヒッタイトに戻ってきたカイル。早速、ハディに、サンタの衣装を作ってもらい、
プレゼントも用意した。あとは、夜になるのを待って、煙突から忍び込むだけだ。
 カイルは、ユーリの喜ぶ顔が見れると思うと嬉しくてならなかった。
 夜もふけ、ヒッタイト王宮に沈黙が訪れた。暗闇の中、赤く動く影が一つ…。
そうである。カイルである。
「待っていろ! ユーリ!」
 カイルは、寝室に繋がる煙突にプレゼントを持って飛びこんだ。
「ゴホゴホゴホ」
 煙突の中は、すすやスミだらけで真っ黒だった。
 やっとのことで、寝室に着いたカイル。これで、ユーリが喜ぶぞ!
「きゃああああ、ラムセスがいるわー!」
 ユーリの声が、王宮中にこだました。
「ま、まて! ユーリ! 私だ!!!」
 カイルの言葉を聞く暇もなく、バタバタと衛兵達がかけつけてきた。
「大丈夫ですか? ユーリ様! ラムセスは何処に?」
「それよー! その黒いのよー」
「分かりました。お下がりを。このー! 敵国の王宮に忍び込むとはいい度胸だ!」
 カイルサンタは、自分の宮の衛兵にとらわれてしまった。
 すすだらけの真っ赤な服を着たサンタが、カイルだと気づくまでには
あともう少し時間がかかったようだ。

おわり♪

THANKS mamu