***ラムセスと薔薇の木***
                           (ジャックと豆の木編)

 むかしむかし、ある村に、ラムセスとネフェルトという兄妹が住んでいました。
 彼らの家は大変貧しく、金貨はとうの昔になくなり、家にあるテレビやビデオを売り、
日々の飢えをしのいでいました。一つ、一つ物がなくなり、とうとう、彼らが大切にしている、
愛牛の薔薇ウシも売りに出さなければいけなくなってしまいました。兄のラムセスは、仕方なく、
市場に薔薇ウシを売りに行きました。
 ラムセスの心の中には『ドナドナ』がリフレインしていました。
 市場へ行く途中、金色の長髪の男が、髪を振り乱し、カラフルな豆でお手玉をしていました。
そのお手玉のうまいことったら…。その男の名前はウルヒ。彼には、こんな特技もあったのです。
 ラムセスは、ウルヒのお手玉している豆が欲しくなってしまいました。
「ウルヒさん。毎日トリートメント大変だね。その豆、ゆずってくれないか?」
「ダメだね。この豆は滅多に手に入らない豆なんだ。タダではゆずれないよ」
 ウルヒは、首を横に振りました。
「じゃあ、この薔薇ウシと取り替えてくれないか?毎日、ローズティーを出すよ」
「うーん。ローズティーか…。まあ、いいとするか…」
 ウルヒは、お手玉をしている豆と薔薇ウシを交換してくれました。

「兄さん!どういうことなの!私達の愛する薔薇ウシを、どうしてこんな豆なんかと交換
してきたの!」
 ネフェルトは、大変怒りました。
「これだから!いつまでたっても、ファラオになれないのよ!」
 ネフェルトは、ウルヒからゆずってもらった豆を、窓の外に投げました。
「ネフェルト!なんということを…。お手玉芸人に、これからなろうとしたのに!」
 2人の喧嘩は、日が沈んでも収まることはありませんでした。
 次の日、窓の外を見てみると、昨日、ネフェルトの投げた豆が目を出し、天国に届くのではないか?
というくらい、空高く、茎が伸びていました。茎を見てみると、トゲがあります。
どうやら、薔薇の木のようです。所々に、真紅の薔薇の花が咲いていました。
「どうだ!ネフェルト!俺の見据えたものは、間違いないんだ!俺はこれから、
この薔薇の木に登って、天空の城ヒッタイトに行って来る」
 ラムセスはそう言い、薔薇のトゲに足をかけて、空高く伸びた薔薇の茎を登っていきました。
「気をつけてね。兄さん」
 ネフェルトの機嫌もすっかり良くなったようです。

 ラムセスは、かなりの間、薔薇の木を登りました。やっとのことで、薔薇の木の途切れるところまで
登ると、雲の上に浮かぶ、天空の城ヒッタイトがありました。
 ラムセスはヒッタイト王宮の門を叩きました。
「なんだい?一体だれだい?」
 王宮の門から、黒髪のラムセス好みの少女が顔を出しました。
「あ…えっと…。お腹が空いてどうしようもないんです。何か食べる者を分けてください」
 ラムセスはとっさに、そう言いました。
 少女の名前はユーリと言いました。この王宮の王妃のようです。
 やさしいユーリはラムセスに食べるものを与えました。
「いいかい、これを食べたら、出て行くんだよ。うちの人が帰ってきたら、お前など、
食われてしまうよ」
 ユーリという少女の旦那は、鬼のようです。ラムセスのような、オッドアイの美少年が大好物だと言うのです。
『ドス、ドス、ドス』
 大きな足音がしました。どうやら、ユーリの旦那、鬼カイルが帰ってきたようです。
 ユーリは、ラムセスを戸棚の陰に隠しました。
「おーい、人間のにおいがするぞー。人間がいるのかー」
「おかえりなさい、カイル。人間?それは昨日食べた、キックリの残り香じゃない?」
(ごめんよ!キックリ(T_T) BYねね)
「そうかぁ?ちょっと違う匂いがするような気がするがー。それよりも、魔法の鶏を持って来いー。」
 やれやれ…とユーリは言いながら、ユーリは納屋から鶏を持ってきました。
「それ!卵を産むのだ!魔法の鶏!」
 カイルがそう言うと、鶏はポンポンポンと薔薇の花を産みました。
「どうしたことだ!昨日までは百合の花を産んでいたのにー」
 カイルは怒りました。
「どうしたのかしらね。突然変異かしら…?」
 魔法の鶏…それは、卵の代わりに、百合の花…いや、今は薔薇の花を生む鶏だったのです。
(これは、スゴイ!)
 ラムセスは感心しました。カイルが居眠りをしたのを見計らって、ラムセスは薔薇を生む魔法の鶏を
持って、ネフェルトの待つ、地上へ降りました。
 ラムセスの家は、鶏の産んだ薔薇を売って、少し生活にゆとりが出ました。

 数日後、ラムセスは再び、薔薇の茎を登りました。
 同じようにして、優しいユーリに取り入り、王宮の中に入れてもらいました。
 鬼カイルが、今度はハープを持っていました。これも魔法のハープです。人が演奏しなくても
勝手にハープが音を出してくれるのです。
 ラムセスは、また鬼カイルの目を盗み、魔法のハープを地上の家に持ちかえりました。
 地上で、魔法のハープを使ってみるとあら不思議!勝手に『ベル薔薇』の音楽を演奏してくれるハープでした。
 2人の家は、また裕福になりました。薔薇を産む鶏と、ベル薔薇を演奏するハープのおかげで、
ネフェルトとラムセスの『薔薇園』が出来ました。
「もう一度、天空の城ヒッタイトに行って来る」
 ラムセスは、もう一回、天空の城へ行こうと思いました。
「兄さん、もう危ないわ!家は裕福になったんだし、もう、天空の城になんか行く必要はないわ!」
 ネフェルトは、ラムセスを止めました。
「いや、もう一つ。持ってこなくてはならないものがあるんだ…」
 ラムセスは、ネフェルトが止めるのも聞かないで、また薔薇の茎を登って行きました。

「また、あんたかい?いいかげんに、カイルに食われるよ」
 やさしいユーリは、ラムセスのことを心配しました。
「いや…、どうしても欲しいものがあって…」
 ラムセスは照れくさそうにしています。
「欲しいもの…?なんだい?」
「それは……ユーリ!お前だ!!!」
 ラムセスはユーリを抱きかかえ、薔薇の茎を降りて行こうとしました。
「きゃああああ」
 ユーリの悲鳴を聞きつけ、鬼カイルが駆けつけました。
 最愛のユーリが奪われたとなって、鬼カイルは凄まじい勢いで追ってきます。
(捕まっては大変だ!)
 逃げるラムセス、追うカイル。2人の鬼ごっこは天高く伸びた薔薇の茎で繰り広げられていました。
 すると…
『ズーン、ズーン』
 薔薇の茎が揺れました。地上を見てみると、なんと!ネフェルトが薔薇の木を
斧で切り倒そうとしていたのです!
「兄さまの身勝手にはもう我慢できないわー!薔薇園の相続権は私のものよー」
 ネフェルトは、ラムセスに切れてしまい、薔薇の木もろとも、ラムセス、カイル、ユーリを
倒そうとしたのです。
「うわああああ」
「きゃああああ」
 薔薇の木にいた3人は、天空の城に戻りました。
『ズズーン』
 薔薇の木は倒れ、ラムセスは地上に戻れなくなってしまいました。
「おほほほほ! 最後に笑うのは私よ!」
 天まで届いた薔薇の木の変わりに、高笑いしているネフェルトの声が天空の城ヒッタイトに届きました。

 その後…ラムセスが、カイルとユーリの元でどうなったかは…、ご想像にお任せします。(笑)



♪おわり