***羅城門***


 ある、夕暮れの日のこと 1兵士が羅城門の下で雨が止むのを待っていた。
羅城門は エジプトの都の外れにあり 普段は誰もいない錆びれた所だ。
誰もいないことをいいことに 粗大ゴミを捨てる、廃車を捨てる、
そのうち引き取り手にない死体まで 捨てるようになり 普通では誰も
この羅城門には 近づかないようになっていた。
先程 1兵士が雨の止むのを待っていたと言ったが 待っていたというよりも
途方にくれていたと言ったほうがいいかもしれない。
1兵士の名はラムセス、エジプト軍の指揮官をしていたが 指揮官の座をいいことに
兵器、軍備、軍旗etc...を彼のトレードマークの薔薇に変えてしまったため
ホレムヘブに暇を出されてしまったのだ。軍を首になったのでは どうしようもない。
ラムセスは明日からの生活をどうしようか?・・・とシトシト降り続く雨を
見つめながら 途方に暮れていた。


「くそっ、ホレムヘブのやろう 俺様のルックスに嫉妬しやがって
首にするなんて今に見てろ 必ずエジプトを薔薇王国にして 俺様がファラオになってやる。
そうしたら ホレムヘブなんざ くそ食らえだ。」
 しかし、薔薇王国にするためには 敷金、礼金・・・じゃなかった。やはりそれなりの
資金は必要だ。軍人として もう一度手柄を立て 頂点に上りつめなければならない。


 どうにもならないことを どうにかするためには 手段を選んでいる場合ではない。
このまま 何もしないのでは いくらラムセス言えども 飢え死にしてしまう。
「こうなったら 盗人になるしかないのだろうか?しかし、盗人なんて 俺には
似合わない、俺のポリシーに欠ける。盗むのはユーリのハートだけで 十分だ。」
やはり盗人になるというのは 彼にもちょっと抵抗があるようだ。


 羅城門の中に ラムセスは足を踏み入れた。粗大ゴミやいくつあるか数えることのできない
無数の死体が彼の視野に入った。誰もいるはずがないと 鷹をくくっていたラムセスだが
そうではなかった。羅城門の奥の片隅で ほのかに赤い炎が灯っていた。
どうやら 誰かいるようだ。こんな雨の降る夜に羅城門にいるなんて どうせ只者ではない。
(あんたもBYねね)少し鼓動の早くなったラムセスは 赤い炎へと 近づいて行った。
 近づいてみると たいまつを持った女が死体を一つ一つ覗きこんでいた。
その女の顔を見ると、な、なんと ヒッタイト帝国のタワナアンナ、ナキア皇太后が
ゴージャスなドレスに ネックレス、額飾り、指輪etc...を付けてじぃっと死体を眺めているではないか!
ナキアは 今まで眺めていた死体の頭を持ったかと思うと 死体の髪を1本、1本
抜き出した。ナキアが髪を一本一本 抜いているのを見ていたラムセスの心には
よくわからないが ある勇気と憎悪が湧き上がってきた。
「おい、ナキア、死人に髪を抜いて 何をしてるんだ!?」ラムセスはナキアに話しかけた。

するとナキアはラムセスがいたことを驚きもしないでこう答えた。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、ウルヒのかつらを作ろうと思っているのじゃ。」
ナキアは 髪の長い女の死体の髪を抜きながら言った。
「ウルヒはズラだったのか?あのキューティクルの美しい毎日シャンプーを欠かしていないと
噂される ウルヒの髪はズラか!?」
ラムセスは驚愕の面持ちで驚いた。(ねねも驚いたけど)
「私とて、死人の髪を抜くことなど いいこととは思ってはおらぬ。だが仕方ないのじゃ。
紀元前13世紀には よいアデランスもないし育毛トニックも毛髪剤もない。
泥棒にも3分の利ということわざが あるじゃろ。 悪いこととて仕方の無いことが
あるものじゃ。」
ナキアはだいたいこんなようなことを言った。
ラムセスはナキアのこの言葉を聞いて 彼の中にはある勇気が沸いて生きた。この勇気とは
さっき羅城門の下で考えていた時に足りなかった勇気である。
「そうか、仕方のない悪は許されるのか。では、これから 俺が追いはぎをしようとも
文句はあるまいな。俺もホレムヘブに暇を出されて困っていた所なんだ。」
ラムセスはナキアのネックレス、指輪、額飾り、ドレス、下着まで剥ぎとって羅城門を後にした。
「これを売れば 薔薇王国再建の頭金ぐらいにはなる。よ〜し、俺は天下をとるぞ。
んっ?ナキアのブラまで取ってきてしまった。なんだAカップか・・・。」
単なる下着ドロと化したラムセスは 日暮れの夕闇に消えて行った。
 
 ラムセスの行方は誰も知らない。

〜つづく〜

参考;芥川龍之介 「羅生門」