もしも赤髪の白雪姫が学園モノだったら?
クラリネス学園
by nene's world

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3.白雪の妄想毎日


「白雪、体育館に行くよ」
 登校するとすぐに木々から体育館へ行こうと誘われた。
「体育館?」
「うん、月に一回体育館で朝礼があるんだ。今日はその朝礼の日なの」
「そうなんだ」
 白雪は納得する。
「そうか、白雪。体育館の朝礼は初めてなんだな」
「うん」
 白雪はゼンの顔を見て答える。
「じゃあ、遅れないようそろそろ体育館に行こう」
 一緒にいるミツヒデと共に体育館へ向かった。

 体育館に着くとゼンは溜息をつく。
「ああ、兄上の話って長いんだよなぁ〜」
 ゼンは面倒くさそうに呟く。
「イザナ生徒会長の話もあるの?」
「校長の話の後、兄上…生徒会長の話もあるんだよ。
話していることは最もだと思うんだけど、話が長いんだな……」
「ゼン、イザナ様のことをそんなふうに言うんじゃない」
 ミツヒデが注意する。
「まあ、そうなんだけどさ……」
「そう言えば、オビがまた来てないね。また寝坊かな?」
 木々があたりを見回す。もうすぐ朝礼が始まる時間なのにオビの姿はなかった。
「おふぁよう」
 背後から滑舌の悪い挨拶が聞こえた。振り向くと、オビがアンパンを食べながら手を振っていた。
「オビ、おはよう。遅刻じゃなかったんだね」
 白雪はオビに優しく挨拶をする。
「もちろんでふよ、おぢょうさん…」
「オビ、食べるか喋るかどちらかにしろ」
 ゼンが眉間に皺をよせ注意する。
「あるじもおふぁようございます。もうすぐ食べおはひますから…」
 オビは大きく口を開けて最後の一口を押し込む。
「木々嬢、ミツヒデの旦那もおはよう」
「おはよう、今日はなんとか遅刻じゃなかったんだね」
「おはよう、オビ。今ここでアンパン食ってるってことは寝坊だろ」
 木々とミツヒデも苦笑いする。
「そろそろ朝礼がはじまるな。白雪、兄上の話は長いから覚悟しておけよ。寝るなよ」
「大丈夫です」
 白雪はゼンに向かってニッコリと笑った。

 校長の話に続いて、生徒会長イザナの話になった。
 白雪はそっと目を閉じる。
 ――ああ、やっぱりエヴァのカヲル君の声にそっくり。
 寝るなんてとんでもない。この声を聞いていると二次元の世界にトリップしてしまう…。
カヲル君の声が体育館に響く。マイクを通して耳に入ってくる。この声に聞きほれてしまう……。
 白雪は胸に手を添えて、目を閉じたままゆっくり深呼吸する。
幸せな気分に浸りながらイザナ生徒会長の声に酔いしれる。
「白雪? 白雪……どうしたの? 胸に手当てて……気持ち悪いの?」
 木々の声にハッとし、二次元から三次元の世界に戻る。
「あ、何でもないです。大丈夫です」
「具合悪かったら保健室に行く?」
 木々が心配そうに白雪の顔を覗き込む。
「本当に大丈夫です。ちょっとぼーっとしちゃっただけなんで……」
 ――いけない、いけない。思わず二次元の世界に逃避行してしまった。
ここは学校。いくらイザナ生徒会長の声がエヴァのカヲル君にそっくりだからといって、
聞き惚れてはいけない。オタクだとばれないよう、普通にしなくっちゃ。
 白雪は軽く首を左右に振り姿勢を正した。


「せっかく朝礼終わって戻ってきたのに、また体育館行かなきゃいけないなんて面倒だね」
「そうだね、木々さん」
 朝礼が終わって教室に戻ってきた。
 戻ってきたが、次の授業は体育なので着替えて再び体育館に行かなければならない。
 体操着に着替えて体育館へ行った。男子はバスケで女子はバトミントンをすることになっていた。
準備体操の後、木々とバトミントンの羽を往復させる。
「あっ、男子たちはバスケの試合をこれから始めるみたいだよ」
 木々が男子のいる方を指さす。
 ピーっという笛の音と共に試合が始まった。
「さすがはオビだね。オビのチームが圧倒してる」
 白雪は男子の中で一番目立っているオビの姿を追う。
運動神抜群のオビのいるチームが優勢であった。
「そんなことないよ、ゼン達も頑張ってるよ」
 木々がゼンを指さす。
 ゼンはオビとは別のチーム。オビからボールを奪おうと必死であった。
 白雪は男子の試合を見ながら思う。
 ――やっぱり、ゼンとオビを考えると、オビは攻めでゼンは受けっぽいよね。
オビ×ゼン確定だね。ミツヒデさんは……やっぱり受けキャラっぽいよね。
そうするとゼンとミツヒデさんで考えるとどうだろう。二人とも優しそうだしな……。どっちが攻めにふさわしいかな?
 白雪は難題に眉間に皺を寄せて考える。
「白雪、なんか表情が苦しそうだけど具合悪いの?」
 木々が白雪の顔を心配そうに覗き込む。
 白雪はハッとする。
「ううん、なんでもない。ちょっと考え事を……」
 白雪は苦笑いする。
 ――いけない、いけない。また二次元の世界に入ってしまった。
気を付けないと、オタクがばれてしまう。白雪は背筋を伸ばした。
「じゃあ木々さん。またバトミントンの練習しよう!」
「そうだね!」
 バトミントンのラケットを持ち、再び木々と羽を往復させた。

***

「白雪、今日の放課後ひまか?」
「うん、特に用事はないけど…」
 ゼンの声に白雪は即答する。
「じゃあ、今日俺たちの部活見に来ないか?」
「ゼン達の部活って馬術部ってこと?」
「ああ、馬に乗せてやるぞ」
 ゼンは満足げな笑顔である。
「本当に? 私でも馬に乗れるの?」
 白雪は目を輝かす。
「ああ、乗馬に使う道具はレンタルできるから大丈夫だ」
「そうなの?」
「ああ、じゃあ放課後、木々とミツヒデと一緒に乗馬の練習場に行こう」
「うん!」
 白雪は元気に返事をした。
 放課後。
 学校近くの乗馬の練習場に向かった。附属の大学の馬術部と共同の練習場であった。
時間が早いせいか数人しか練習場にはいなかった。
 白雪は乗馬用のヘルメットとプロテクターとブーツを借りた。着慣れない装具を身に着け、練習場に出る。
「乗馬なんかはじめてだし、プロテクターも変な感じ。まるで、コスッ……」
「なんだ? 白雪?」
「ううん。何でもない」
 白雪はニッコリゼンに笑顔を向ける。
 ――いけない、いけない。危うくコスプレって言ってしまうところだった。
 白雪は軽く深呼吸する。
「お、木々とミツヒデも準備ができたみたいだぞ」
 木々とミツヒデがプロテクターとヘルメットを身に着けて白雪の目の前に現れる。
「二人とも素敵! 似合ってる!」
 白雪は興奮する。
「特に木々さん、素敵……。まるで絵の中から飛び出てきたみたい……」
 白雪はうっとりして木々を見つめる。
 プロテクター姿がスラリとした木々の体型によく似合う。
木々はこれから乗るサラブレッドの前に立つと、それはもう中世の女騎士のように美しく、
白雪の目から見ると神々しくも感じた。
「ああ、スケブ持ってくればよかった……」
「すけぶ?」
 ゼンが白雪の独り言に反応する。
「ああ! 何でもないの」
 白雪は慌てて首を振る。
「すけぶって何だ? 何かの略称のようだが……」
 ゼンは白雪の独り言に興味を持ったようだ。白雪を不思議そうな表情でじっと見つめている。
これは答えないわけにはいかない。
「あ……まあ、スケブはスケッチブックの略かな…あはは」
 白雪は苦笑いをしながらしぶしぶ答える。
「白雪は絵を描くのか?」
「う、うん、ちょっとだけね。ねえ、それよりも早く馬に乗ってみたいな。どの馬に乗っていいの? ゼン!」
 白雪は話題を変えようと必死であった。
「ああ、白雪がこれから乗る馬はあっちだ。サラブレッドだぞ」
 ゼンは馬のいる方を指さす。二人は歩いて馬のそばまで行く。
「わあ、かわいい。目が大きくて綺麗……。なんか近くに来ただけで癒される……」
 白雪は初めて近くで見る馬に感動する。
「そっと撫でてもいいぞ」
 白雪はゼンに言われた通りそっと馬を撫でる。優しいぬくもりが伝わってきて心が和む。
「じゃあ、実際に乗ってみよう」
 ゼンから手綱の持ち方・鐙のはき方・騎乗姿勢を簡単に教わった。
サラブレッドは背が高いのせ踏み台を使って乗る。
「うわぁ! 高い!」
 白雪はまず視線の高さに驚く。いつもと違う視界が新鮮だった。
 ゼンに手綱を引いてもらい、ゆっくりと馬を動かす。馬の歩くスピードを早くしたり遅くしたり
調整しながら練習場をゼンと一緒に1周した。
「ありがとう。ゼン、楽しかったよ。なんか気分もスッキリ。ストレス解消にもなるね!」
 白雪は笑顔でゼンに礼を言う。
「白雪、どう? 楽しかった?」
 木々が乗馬体験の終わった白雪に声をかける。
「うん、すごく楽しかった。馬っていいね。
でも馬か……、私にも白馬に乗った王子様が現れないかなぁ〜」
 白雪は宙を見て何気なく呟く。
「何言ってるの白雪、いるでしょ。ここに」
 木々がゼンを指さす。
 ゼンはこれから自分の練習をするらしく馬を連れていた。
その馬が白馬だったのである。
「ホントだ! ゼンは王子だしそういえば白馬連れてる。気づかなかった!」
「え゛?」
 ゼンの表情が固まる。木々はそんなゼンを見てクスリと笑う。
「それよりも白雪。今、白馬に乗った王子様が現れないかなと言ったよな。
…ということは白雪は……彼氏とかいないのか?」
 ゼンは白雪の表情を伺いながら恐る恐る尋ねる。
「うん、いないよ!」
 白雪は即答する。心の中で『二次元の脳内彼氏はいっぱいいますけど』と付け加えた。
「い、いないのか! 何でだ?!」
 ゼンは声を裏返らせ、白雪の答えに目を丸くする。
「何でだって言われても……やっぱりモテないからかな? ははは」
 白雪は赤い頭に手を当てて冗談半分に笑う。
やっぱりとモテないの間には『オタクだから』という理由が入るのだが、そこは伏せなければならない。
「そ、そんなことないと思うぞ!」
 ゼンは白雪に向かって身を乗り出し反論する。
「そ、そうかな?」
 白雪はゼンの勢いにたじろぐ。
「白雪は休みの日、いつも忙しそうだから、てっきり彼氏とデートでもしているのかと思ってた……」
 休みの日に忙しそうというゼンの言葉に白雪はギクリとする。
休日はイベントや漫画の原稿を書いていて確かに忙しい。
オタクのせいで忙しいとは口が裂けても言えない。
「そ、そう? そうでもないと思うけど……ははは」
 今日はごまかしながら笑うことが多い日だなと思った。
「そうか、白雪は彼氏はいないのか……」
 ゼンが静かに呟く。
 そんな二人の姿を見て、木々とミツヒデは顔を見合わせ静かに笑っていた。


♪続く

【あとがき】
乗馬については乗馬体験のHPを参考にしました。
調べていたら、私も乗馬体験したくなってしまった。
執事喫茶の次に行くぞ!(笑)
馬術部のある高校は、都内にも1校だけあるみたいですね。練習場もあるみたい。
まだまだ続きます。4ページ目のネタのために今度はちゃんと取材に行ってきました(爆)。






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