もしも赤髪の白雪姫が学園モノだったら?
クラリネス学園
by nene's world

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2.白雪の秘密

「うちに来るなんて、冗談じゃないよ…」
 白雪はぶつぶつ独り言を言いながら、マンションの部屋に入る。
「おっと……」
 靴を脱ぎ、数歩部屋を歩いたところで躓く。
 足元を見ると少年ジャンプが床に落ちていた。
「こんなところにジャンプが……」
 白雪はジャンプを足でよけ、部屋の電気をつける。
 ジャンプ以外にも床に漫画の単行本や小説が数冊、床に落ちている。
 電気のついた部屋に踏み入れると、ひらりと一枚、紙が白雪の前に舞い降りる。
 漫画の原稿である。机の上には、他にも数枚の漫画の原稿が乗っていた。
「昨日、……修羅場だったからな。やっぱりこの部屋に招待なんてできないよ……」
 白雪はもう一度部屋を見回す。
「あとで部屋の掃除しなくちゃ……それよりも深夜アニメの録画でも見ますか!」
 白雪は床に散らばった本たちを軽やかに飛び越えてテレビとDVDのリモコンを手にする。
「帰ってこれを見るのが楽しみだったんだ!」
 白雪は今日一番の笑顔でテレビの画面に向かう。録画したアニメをうっとりして見入る。
 ちょうどアニメを見終わったところで、カバンの中のスマホが震えた。
 待受けには『鹿月』と表示されている。
「あ、鹿月。うん、うん。元気だよ。学校もなんだかいい感じ。上手くやっていけそう」
 タンバルン学園の後輩の鹿月からであった。
 家も近所だったため、小さい時からお互いを知り、白雪のことをよく理解している弟のような存在である。
「え? 鹿月、アニメイトに行きたいの? 私も行きたかったから一緒に行こうか。
え? 池袋じゃなくて秋葉原のアニメイトに行きたい? 
そっか……じゃあ両方行っちゃおうか。そんなに遠くないし。今度の日曜でいい?」
 鹿月と次の日曜日にアニメイトに行く約束をして電話を切った。
 スマホを改めてみる。いつもと違う青空の壁紙が白雪の目に映る。
「さっきはゼン達に危うくオタクな壁紙を見られるところだった……」
 白雪は軽く息を吐く。
 連絡先を教えてくれと言われ、すぐにスマホを出せなかったのは、待受けと壁紙がオタクなアニメの壁紙だったからだ。
「それよりもあのゼンのお兄さん……イザナ生徒会長の声は一体どういうこと? 
私の大好きなエヴァンゲリオンの渚カヲルの声とそっくりじゃない!」
 白雪はスマホを握りしめ興奮する。
「あの生徒会長、只者じゃないかもしれないな……」
 白雪はブツブツ呟く。
 「さて、昨日pixivに投稿したイラストの評判でも見ようかな? ブックマークは何個ついてるかな♪」 
 白雪は鼻歌を歌いながらパソコンの電源を入れる。
「おお、なかなかの評判でそこそこのブックマークに閲覧数。
あっ、フォローしてる人のシリーズものの続きの小説がUPされてる。読まなきゃ!」
 白雪は真剣にパソコンの画面に向かい、マウスをカチカチさせる。

 白雪が家に皆を呼べない理由――。

 そう……白雪は、オタク……腐女子だったのである。


 白雪はpixivの小説を読み終わったところで一息つく。
「そういえば、一人暮らしって話したらみんな驚いてたな……
やっぱり一人暮らしって寂しそうって印象があるのかな?」
 白雪は部屋を見回す。壁には限定グッズのアニメのポスターが飾ってある。
今は部屋が少々散らかっているけど、本棚には小説や漫画が作家ごとに綺麗に並んでいる。
漫画を描く事が好きだし、アニメを見ていると本当に心が落ち着く。
二次元の世界が私を満たしてくれる。だから一人暮らしでも寂しくない。
 白雪はワンルームの自分の城を見渡してそう思った。


 ***

 日曜日。
 秋葉原で鹿月と待ち合わせしてアニメイトに向かった。
「でね、クラリネス学園の生徒会長の声がエヴァのカヲルくんの声にそっくりなの!」
 白雪は興奮して鹿月に話す。
「エヴァのカヲルって……石田彰?」
「そう、石田彰さま!」
 白雪は目を輝かす。
「クラリネス学園は白雪のオタク心を満たしてくれる学園でよかったな…」
 半ば呆れて鹿月は答える。
 秋葉原のアニメイトで用事を済ませた二人は山手線に乗って池袋へ向かった。
 池袋駅のサンシャイン方面出口を出てアニメイトに向かう。
「鹿月、この後、ちょっとK−BOOKSにも寄っていい? 気になる同人誌があるんだ…」
「いいよ、女性ものの同人誌売り場は居づらいから、俺はBOOK OFFで立ち読みしてるよ。ゆっくりしてきていいよ」
「ありがとう、鹿月」
 白雪と鹿月は行動を別にした。
 ――30分後、鹿月の元に白雪が来た。
「鹿月、鹿月!」
「ああ、白雪。いい同人誌あったか?」
 白雪は立ち読みしていた鹿月の肩を背後から勢いよく叩く。
「そんなことより鹿月、執事喫茶に行くよっ!」
 白雪は鹿月の手を引っ張り出口へ向かおうとする。
「は? 執事喫茶?」
 鹿月の声が驚きで裏返る。
「うん、K−BOOKSの近くに執事喫茶があるんだけど、
キャンセルがあってちょうど二席あいてるんだって。今から行くよっ!」
 白雪は鹿月の腕をぐんぐん引っ張って進んでいく。
「ちょっと待った! なんで男の俺が執事喫茶になんていかなきゃいけないんだよっ!」
 鹿月は立ち止まる。白雪も足を止める。
「あ……やっぱりだめ?」
 白雪は鹿月をじっと見つめる。
「うっ……」
 白雪に見つめられた鹿月は言葉に詰まる。
「わかった。じゃあ一人で行くよ。執事さんがいるから大丈夫……」
 白雪は鹿月の手を放し、一人で歩いて行く。遠ざかる背中がなんとも寂しそうだ。
 鹿月は溜息をつく。
「わかったよ、白雪。一緒に行くよ」
「本当に?」
 白雪は振り返り笑顔になる。
「ああ、その執事喫茶は男が行ってもいいのか?」
「ありがとう、鹿月。男の人でも大丈夫だよ。女性はお嬢様って呼ばれて、
男性は旦那様かお坊ちゃまって呼ばれるから」
 白雪は笑顔になる。
「旦那様、お坊ちゃま……」
 鹿月の表情が暗くなる。旦那様と呼ばれる確率はほぼないであろう。
鹿月は深いため息をつきながら執事喫茶に向かった。

 執事喫茶は、女性好みの豪華な内装で、きらびやかなシャンデリアがまぶしかった。
木目調の古めかしい家具が雰囲気を醸し出し、まるで中世ヨーロッパの宮殿にタイムスリップしたような場所だった。
「お帰りなさいませ。お嬢様、お坊ちゃま。お席にご案内致します」
 白雪と鹿月は執事に誘導され席に案内される。
「やっぱりお坊ちゃまか……」
 鹿月がブツブツ言いながら席に着く。
「担当執事のサカキと申します。まずは当店利用のご説明から……」
 サカキという自分たちよりずっと年上の落ち着いた雰囲気の男が説明をしてくれた。
何か用があったらテーブルに置いてある鈴を鳴らさなければいけないようだ。
トイレも執事が案内してくれるらしい。これは本格的だと鹿月は思った。
「担当執事のサカキさん、落ち着いた大人の男って感じでいい雰囲気だね〜。さすが執事喫茶!」
 白雪は満足そうであった。
「あ、でも。クラリネスのミツヒデさんもここの執事できそうだな」
「ミツヒデ?」
 白雪の独り言に鹿月が聞き返す。
「うん、クラリネス学園のミツヒデさんっていう背の高い執事っぽい人がいるの」
「ふーん。そのミツヒデって奴はカッコいいのか?」
「うん、カッコいいけど、木々さんのほうがカッコいいよ!」
 白雪は木々の姿を思い出しうっとりした表情をする。
「キキさん? 男か?」
「ううん、女の人。ものすごく美人で成績も学年で一番なんだって、
容姿端麗、才色兼備っていうのは木々さんのためにある言葉なんだと思っちゃった」
「ふーん、クラリネスでもう友達はできたのか?」
「うん、初日に生徒会長の弟、ゼンに校内を丁寧に案内してもらったよ。みんな優しくていい人だよ」
 白雪は嬉しそうにほほ笑む。
「白雪は楽しそうでいいな……。ところで次のオンリーイベントは売り子手伝った方がいいのか?」
 鹿月が身を乗り出して白雪に尋ねる。
「そうだ! もうオンリーイベント来週だね。売り子よろしく! 
鹿月みたいな受けっぽい美少年が座ってると売り上げ伸びるんだ」
 白雪は鹿月に向かって両手を合わせる。
「なんだよ、受けっぽいって……仕方ないな。場所はいつもの流通センターか?」
「そう、いつもの流通センター。よろしくね」
「白雪はコスプレして売り子しないのか?」
「いやぁ〜私ももう若くありませんから……」
 白雪が顔の前で笑いながら手を振る。
「そんなことないだろ。またコスプレすれば?」
「そう……だね、考えとく。でも今回はやめとくよ」
 白雪と鹿月は執事のサカキが運んできた紅茶を飲みながら、執事喫茶で楽しく時を過ごした。



♪続く



【あとがき】
白雪を思いっきりオタクにしてみたかった……(笑)。
私自身、お話の中で出てくるアニメイトにもK‐BOOKSにもBOOKOFFにも行ったことありますが、
執事喫茶にはいったことありません。乙女ロードにあるスワロウテイルがモデルです。
行ったことのある友人の話を参考にしました。
前々から行ってみたいと思っているのですが、暇とチャンスが見つからない!
いつか絶対に行くぞ!




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