君の名は二次小説
もしも三葉が腐女子だったら?




 宮水神社の豊穣祭で巫女の役目を終えた三葉は、四葉と一緒に社務所から出る。
 例の『口噛み酒』も儀式をクラスメイトに見られたことがショックで、やけくそに神社の石段を駆け上がる。
 喉いっぱいに夜気を吸い込み、胸の中のもやもやを思いっきり吐き出す。

「もうこんな町いやや〜! 

来世は東京のイケメン男子になってコミケに行きた〜い!」


 行きた〜い。行きた〜い。行きた〜い。
 自分の声が夜の山にこだまする。

「お姉ちゃん、コミケなんて大声で言って恥ずかしいわ……」
 四葉の呆れる声が隣から聞こえた。

***

 瀧は自分のベッドの上で目を覚ました。
 昨日は三葉の田舎生活だった。ということは、三葉はこっちの生活だったということだ。
一体三葉はどういう一日を過ごしたのだろう? 変なことしてないよな……。
 そう思いながらベッドから起き上がると、一冊の本が落ちた。
床に落ちた本を拾い上げる。B5サイズの1cmにも満たない薄い本である。
「なんだ? この本?」
 表紙をよく見ないでパラパラとページをめくる。
「うげっ! なんだこれ!」
 瀧は思わず本を落とす。
 本の中身は男同士が裸で絡み合っている漫画だった。
 ボーイズラブ(BL)という男には理解できないジャンルの本だ。
「ホ、ホモ本……」
 瀧は震えつつベッドの脇に置いてあったスマホを手に取る。
 あいつ、昨日、一体どんな一日を過ごしたんだ!


今日は池袋の乙女ロードに行ってきました。
アニメイトとK−BOOKSの同人誌売り場に行って、いっぱい買い物しちゃった。うーん、幸せ♪
 


「あいつ、どれだけ俺の金使ったんだ?」
 慌てて財布の中身を見ると、見慣れないポイントカードが目についた。

アニメイトオンラインショップ
アニメイトと書いてあった。

「あいつ! 勝手に俺の名前でポイントカード作りやがって!」
ポイントカードを片手に、続きを読む。

 


アニメイトのポイントカードも作っちゃいました。
昨日いっぱい買ったせいでポイントが溜まったから、瀧くん、ポイント使って買い物していいよ♪
 



「アニメイトなんかで買うものはなーい! 俺の名前で勝手なことするな!」
 瀧はスマホの画面に向かって叫んだ。

 
今日買った同人誌の中で一番お気に入りの同人誌を胸に抱いて寝ます。
さやちんにも読んでもらいたいから、どうか目が覚めても、私が同人誌を手にしてますように……。



「残念だな、三葉。同人誌は手にできなかったな……」
 起きたときに同人誌がベッドの下に落っこちたのは、三葉(俺)が胸に抱いて眠っていたからか。瀧は納得した。
「それにしても、紗耶香も三葉と同類なのか。あの二人、そんな仲で繋がっていたんだな……」
 女子二人の繋がりに瀧はがっくりと項垂れた。



***


瀧くんへ
今日一日の報告です。
学校が終わってから、高木くんと司くんと3人で秋葉原のメイド喫茶に行ってきました。
高木くんと司くんは「瀧にそんな趣味あったのか?」と驚いていたけれど、二人とも楽しんでくれたみたい。
本当は執事喫茶に行きたかったんだけど、この3人で執事喫茶はいくらなんでも行けないから、
かわいいメイドさんで我慢しました。私もちょっとメイドさんのコスプレには憧れがあるんだよね。
あ、もちろん自分の体でだよ。瀧くんの体でじゃないから安心して。
メイドさん、憧れだったから、今日も楽しかった!
 



「メイド喫茶……」
 学校に行って、二人の反応が恐ろしい……。
 瀧は大きく溜息をつく。
 しかし、三葉のコスプレ。メイド姿か……。
 似合うかも知れないな。
 頭の中でふりふりのエプロンをつけた三葉の姿を想像する。
「はっ! 何考えているんだ。俺! 三葉がかわいいなんて思ってないぞ!」
 瀧はブンブン頭を振って自分の気持ちを否定した。スマホの続きの文章を読む。


ねえ、瀧くん。バイト変えない?
イタリアンのレストランもいいんだけど、執事喫茶でバイトしてみない?
そうすれば私のBLゴコロも満たされるんだけど♪
 



「高校生がそんな場所でバイトできるわけないだろ!」
 スマホに向かって怒鳴る。少しでも三葉のことをかわいいと思った俺がバカだった。
でも、三葉がメイド喫茶でバイトするのは反対だ。
オタク男に三葉の姿が晒されるのはいい気がしない。
 俺も執事喫茶でバイトやらないけど、三葉もメイド喫茶でバイトしちゃダメだ。
メイドに憧れると言っていたから、これはちゃんと忠告しておかなければならない。
 瀧は強い意志で三葉宛てに文章を打ちこんだ。


***


 俺はベッドの上で、「瀧くんへ」から始まるスマホに書き綴ってある三葉の一日を読んでいた。

 メイド喫茶でバイトは禁止だと注意したら、

「田舎にメイド喫茶なんてないから、大丈夫!」

 という最もな返信があった。
 瀧はほっと胸を撫で下ろす。

 昨日は目立った変な行動はしていないようだ。瀧はホッと胸を撫で下ろす。
 一日の最後に「追伸」の文字があった。文章に目を落とす。


ところで瀧くんは、高木くんと司くんどっちが本命なの?

 



「本命なんてあるわけないだろ。何考えているんだこのBL女!」
 スマホに向かって呟く。

 
私だったら司くんが好みかな。委員長風の眼鏡男子ってBL的要素てんこもりだよね。うふっ♪



「こいつ……な、なんて目で司のことを見てるんだ……」
 瀧は恐ろしくなり、思わずスマホから体を遠ざける。


 でも高木×司のカップリングもいいかもしれない。ちょっと応援したいよね。
この二人だと、司くんは受けって感じ♪



「……」
 もう言葉も出ない。どうやったら、そういう風に考えられるのだろう。
 三葉のBL的思考回路についていけない。ついて行けるわけがない!
 瀧は続きを読む。



最後にまとめると、瀧くんは絶対『受け』だよね!



 ガッシャン!
 手からスマホが滑り落ちる。
 どういうまとめなんだ! こ、こいつ。何てこと考えているんだ。
 お、俺、こいつに襲われたりしないよな。BLの世界に巻き込まれるようなことは……。
いや、ないはずだ。入れ替わるのはお互い同時だから、会うことはないから大丈夫だ。きっと大丈夫だ。
 瀧は落としたスマホを拾い、冷汗をかきながら自分に言い聞かせる。
 しかし……今まで高木と司を『そういう目』で見たことがなかった。司は受けっぽいか……。
でも俺も三葉からみれば『受け』なのだから、司と俺ではどうなるのだろう……。
「はっ! 何考えているんだ俺! どうでもいいじゃないかそんなこと!」
 瀧はブルブルと頭を振る。
 危ない。自分の体にオタク三葉が入っているせいで、俺も少しBL化が進んでいるのかもしれない。
 ああ、明日から高木と司を普通の目で見れないかもしれない……。
 瀧は青ざめ、スマホを片手にがっくりと項垂れた。


***


瀧くんへ

今日はコミケに行ってきました。コミケの日に『入れ替わり』があるよう、
ずっとずっと神様に祈っていました。コミケの日に瀧くんと入れ替わることができて本当に幸せです。
神様、瀧くん、ありがとう。瀧くんの体で、BLの本を買うのはちょっと恥ずかしかったけど、
田舎では絶対に買えない同人誌を買うことができて本当に幸せでした。
戦利品はベッドの下に隠しておいたから、捨てないでね。もう一度読み返したいの! 
瀧くんの体で購入した同人誌を持って帰ることができればいいんだけど、そうはいかないみたいだし……。
たくさんお金も使っちゃったから、バイトもいっぱい入れていいよ。
いつか瀧くんと会うことが出来たら、私が同人誌のために使ったお金は返します。
本当に瀧くんには感謝しています。
いつか出会えることを祈って……その日を楽しみにしています。 




 ベッドの下を覗くと、薄い本がかなりの高さで積み上がっていた。
まるでエロ本を隠しているようだ。なんで俺がこんなことしなくちゃいけなんだ。
溜息をつきながら、もう一度スマホの画面を見る。
 三葉の奴……、本当に楽しそうだな。
 文面から三葉の楽しさ、嬉しさが伝わってくる。
日常生活でこんなに感謝されることなんてそうそうないから、悪い気分はしない。
むしろ自分の好きなことを思う存分満喫している彼女を少し羨ましくも思う。
こんなに喜んでくれる三葉のことをかわいいとも思った。
 三葉の見た目からでは、中身がこんなBLオタク腐女子だって思いもつかない。
目鼻立ちの整ったかわいい顔しているのに、もったいないな……。いや、でもそんなギャップがいいのか。
中身と見た目のギャップが面白くて萌えしてしまうのかもしれない。

「はっ! これじゃあ、俺が三葉に恋してるみたいじゃないか!」

 なんだか顔が火照っているような気がする。頬に手を当てると、手よりもずっと頬が熱い。

 瀧はブルブルと頭を強く振った。
 対面して会ったことは一度もないが、三葉は身近で一番知っているというか知り尽くしている女子である。
 きっと、一番身近だから三葉のことが気になるのだ。考えてしまうのだ。 

 ――うん、きっとそうだ。

 瀧は大きく頷き、そう言い聞かせた。
 自分の気持ちを整理し、重い腰を上げて、三葉の買った同人誌の整理にも取り掛かった。

♪おわり





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