ノーズクリップのハナ子さん



 私はノーズクリップのハナ子、熱線式スパイロメーターの
熱子さんとコンビを組んで呼吸機能検査をしているの。
鼻から息が漏れないように、しっかりと鼻をふさぐことが私の役目。
顕微鏡の顕太郎くんや遠心分離機の遠子さんと比べたら単純な
仕事で作りも簡単だけど、呼吸機能検査には欠かせないアイテムの一つなのよ。
鼻の脂にもファンデーションにも負けずいつもがんばっているわ。
 呼吸は、不随意と随意の両方をもつ運動。意識的に心臓を
止めることはできないけど、呼吸は止めることはもちろん、
早くすることもできる。この検査は、患者さんのがんばりしだいで
結果が左右される検査なの。患者さんの最大限の努力を、掛け声によって
引き出すことがとても重要ね。
 今日は私の仕事の一つ、努力性肺活量について実況中継するわね。
患者さんが来たらまずは身長と体重の測定。どうして身長と体重を
確認するのかって? 同じ年齢でも身長が180cmと150cmの人では
体格が違うから肺の大きさが違うのは想像できるわよね。
あとは性別と年齢の確認、予測値を求めるためにこれらのことは
必ず確認しなければならないの。
 次は検査の説明、努力性肺活量はその名のとおり、一気に
吐き出したときの肺活量。一気に吐き出すことによって気管支の
状態が反映されるから、事前によく説明することが大事。
ティッシュを吹き飛ばすような感じで一度練習するとコツが
つかめるわね。何度もやり直すと患者さんが疲れちゃうから、説明が
とても大事なのよ。
 さあ! では検査を始めましょう。
『2、3回楽に呼吸をして〜、はい、そこからたくさん吸って〜、
一気にふうううううううう! まだまだまだ、そこで止めずに
最後まで吐き続ける! もう一息、もうちょっと。おなかに力を入れて
がんばって! はい、これ以上吐けなくなったら吸いましょう』
 ん? 何、このカーブ? きゃあああ、閉塞性パターンじゃない!
何ですって、タバコを吸う? だめよ、今すぐやめなさ!
ハナ子からの忠告よ。
 こうやって毎日応援したり忠告したりしても、残念ながら
ハナ子の声は患者さんには届かないの。けれど、私の代わりに
技師が検査の説明や応援をしてくれているはず。病気を吹き飛ばすような
つもりでがんばってねっ!
 ……と、ノーズクリップのハナ子さんは、患者さんとほぼ同じ
目の高さで、いつも応援しているのでありました。


             検査と技術 2003年 12月号コーヒーブレイク掲載


少し文章足りなかったかなぁというのが今の感想。
なにせこれも1年以上前に書いたものだから、
当時は「これでよし!」と思って書いたものでも
後から読むと「うっ……」と思ってしまう。ま、いっか(笑)。



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